人欲

茎わかめ

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五章

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店内に入るとやけにテンションが高く
笑顔で話してくる店員さんと目が合った。

「いらっしゃいませー!」

いきなり話しかけられ少し驚いたが
受付の前まで行き

「二人、2時間でお願いします。」

とだけ告げた。

「ドリンクバーはいかがなさいますか?」

学校に持って行くお弁当と一緒に
飲み物も持っていったが
店員さんの明るい笑顔の前に断ることも出来ず

「お願いします…」

小さくそう答えた。

店員さんに案内され二階の203号室に入った。

個室に入ると胸が高鳴り二人で
個室にあるソファーに寄りかかり
歌を歌う事にした。

梨沙は前に何度か来た様子で
慣れた手つきで歌を入れ始めた。

教室で見る彼女の雰囲気とは
とても似ても似つかぬはっきりとした口調で
歌い始めた。

梨沙の美声に酔いしれ気がつくと
梨沙は歌い終わっていた。

「悠さんも何か歌ったら?」

不意に私も何か入れなくてはという
衝動に駆られ最近流行りの歌を歌い
あっという間に二時間が過ぎた。

一階の受け付けに行き会計を済ませ
店内を出ると
妙な静けさでどこか切ない気分になった。

不意に梨沙が

「楽しかったね!」

確かに楽しかった。
友達と行くカラオケがこんなに楽しいのかと
私は初めて思った。
私は梨沙に

「楽しかった!梨沙歌上手いね!」

そう言うと梨沙は少し照れた様子で

「そ、そんなことないよ…!」
「私もあまり来たこと無かったし…」

と歌を歌っていた時とは全く違う声量で
私に話しかける。

これはこれでギャップがあり面白い。

私は咄嗟にスマホを取り出し現在の時刻を
見ると
時刻は八時を刺していた。

「もうこんな時間だ!」
「梨沙ごめんね!私もう帰らなきゃお母さんが心配する!」

私は少し焦ったように梨沙に言葉を投げかける。

「わたしもそろそろ帰るね…」

梨沙もカラオケ同じようだった。

「じゃあまた明日ね!」
「今日は楽しかったよ!また行こうね!」

「うん…またね!」

そこで二人の会話は途切れた。

カラオケから二人の家は逆方向で
お互いに背中を向けながら帰路に着く。

十歩ほど歩き一目梨沙の姿を見ようと
振り返るとほぼ同じタイミングで
梨沙も私の方を振り返った。

二人で微笑し、大きく手を振り今度こそ
帰路に着く。

十分程で家に着き玄関のドアを開けると
リビングのほうで

「おかえりー今日遅かったね?」
「なんかあった?」

と長年聞き慣れた母親の声が響いた。

私は

「うん!今日友達と初めてカラオケに行ってきた!」

母親は驚いた様子だったがどこか嬉しそうに

「悠にもやっと心を通わせる友達が出来たんだね…」

と言い私に背を向け料理を続けた。
母親の肩は少し震えていた。

私は二階の自室へ行き制服を脱ぎ
部屋着の半袖のTシャツとジャージのズボンに
着替えベットでゴロゴロしていると
私のスマホから

トゥルン!

と明るい音が流れた。

私のスマホからいきなり音がし
驚きながら通知を見ると梨沙からだった。
そこには

「今日ありがと!とても楽しかったよ!」
「悠さんは今度どこに行きたい?」

そう言った文面が綴られていた。

私は
「服とか見にいきたい!」

とだけ送信し疲れからか私は
ベットと睡魔に吸い込まれていった。
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