上 下
21 / 77

21・驚いてばかりなのですが、質が違います。

しおりを挟む
  
 どうでも良くなりました。

 同じ席に座って珈琲を飲みながら、3人娘が笑い声を交えて、あーだこーだ言い合いながら食べている姿を見ているだけで、とても幸せな気分です。

「何だろう、この竹包みを開ける時のワクワク感は! ん~良い香りだ!」「煮汁が、また、良いお味を出していますわ」「うめー!」「魚と野菜の火の通り加減のバランスが絶妙だ」「水が違うのですわ、この洗い。水道水のカルキ臭がしませんもの。余分な脂が抜けて、しっかりと旨味だけを残して梅肉と抜群に合いますわ」「うめ、うめー!」「マリは将来ラッパーですわね」「魚だけではなくて肉も新鮮なのだな、このヒレカツ臭みがまったく無い。最近、長期熟成が流行りで、あれはあれで素晴らしいが、熟成臭がするのも確かだからな」「からしが、つよい!」「マリ、東坡肉に辛子つけ過ぎだ」「辛子は必需品ですわ! ん~! たまりません、この東坡肉。口の中で蕩けていきますわ」「小鉢が良い箸休めになるな」「薄味でお上品な味付けですわ」「うめー!」

 ふと、よぎった感情が自分でも良く分かりませんが『ここにさきちゃんが居ればもっと楽しいだろうにな』と……そうですね、残念というか寂しいというか、咲ちゃんにも喜んでもらいたいというか、色々と複雑なのですが、料理は大勢で食べた方が楽しいですもの。

 そんな事を考えていたら、マリがお箸を止めて私を見詰めていました。
 もう、お替わりかと思いきや、まだお茶碗にはご飯は残っています。
 
 あぁ、分かりました。
 食事の時は何時でもにこやかなマリの顔に、微かに不安の色が浮かんでいます。
 私のほんの小さな感情の芽生えが、表情に映し出されていたのを、敏感に察したのに違いありません。

「マリはしっていますね。咲がいないの」

 マリの呟く一言に、コーヒーカップを取り落とし、派手な音を立て、飛沫が上がりました。

 昨日から驚くことの連続ですが、こんなに驚いたのは生まれて初めてです。

 勘が鋭いなどで済まされる話ではありません。
 
 私の心を読んだとしか思えません。

「日向、どうした?」
「どうかなされまして?」

 リコがやけに豪華なハンカチを差し出してくれるのを制して、動揺を隠すように俯いて、エプロンで直ぐにテーブルを拭きます。

「大丈夫、何でも無いの」

 3人娘の視線を感じます。

「マリの一言か」
「ですわね」

 ハルとリコが溜め息混じりに呟きました。

「咲とは、ツミレ汁を作ってくれた娘の事か」
「日向がどういう想いをその娘に抱いたのかは知りませんが、感情の揺らぎ、特に負の感情の揺らぎは、マリは敏感に察知しますから驚くようなことでは無いですわ」

 いや、驚く事でしょ!


 アンタら一体、何者!
   
しおりを挟む

処理中です...