異世界グルメ紀行~魔王城のレストラン~商品開発部

ペンギン饅頭

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 8・困ったものです。

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『しかし、恐ろしい、お料理ですね。ただの野菜が、お酒無しで食べられないとは』

 それはアンタだけですよ。
 何の事はありません。魔王様は、ただ、お酒が飲みたくて呻いていただけでした。まあ、私も嫌いではありませんので、さっそく、このピクルスに合うこと間違いなしの白ワインを用意しました。

『試食は、お仕事ですから、皆さんも遠慮なく』

 魔王様、さっきは『私的に伺っただけ』って、言っていませんでした? 

『忠実に職務を遂行させて頂きます!』

 給仕長は、そう言ってピクルスをひと摘まみすると、白ワインを一気飲みです。口元からわずかに、したたり落ちた雫を拭う仕草が、色っぽすぎます。

 私も、ひと摘まみ。ん~美味しい。甘味と酸味と塩味のバランスが絶妙のうえ、ほのかに香る香草が良いアクセントになって、野菜本来の味を最大限に引き出しています。口の中がスッキリしたところで、白ワインを一口含むと、く~、豊かな味わいが広がります。

『何故、マリさんは、急にピクルスとジャムをお出しになったのでしょう?』

 魔王様が、お尋ねになりました。私はナンの上に、これでもかとジャムを乗せて、夢中になって、ガジガジしているラビちゃんを横目で見ながら、

『ラビちゃんが、野菜と果物が好きだというのもありますが、カレーに馴染んでしまった舌を、いったん休ませる「お口直し」のお料理が、ピクルスなのです』

『う~ん、贅沢というか、奥が深いですね。野菜ごとに微妙に漬け汁の味を変えてあって、それがまた、それぞれの野菜の味を引き立てています』

『確かに、このピクルスだけでも、十二分に主菜に成りえます』

 と、言って、給仕長はピクルスを頬張りながら、グラスに白ワインを、なみなみと注いでいます。

『ところで、ロキエルさん。日本には、北インド地方風カレーに合うお酒があるのですか?』

『そ~ですねぇ、ある事はありますが、カレーとお酒は、切り離して考えた方が無難ですね』

『ある事はある?』

『ロキエル様、それは、どのような?』

 給仕長が、凄い勢いで食いついてきました。

『ちょっと、専門的になってしまうのですが、異世界こちらでは、まだ見かけない下面発酵という製法で作られたラガービールですね、こちらのコクと香りのある、上面発酵のエールビールと違って、ホップを効かせた、軽い苦みのある、スッキリとした口当たりで、のど越しを楽しみながら、ゴクゴクと飲めます。このピクルスにも抜群に合いますよ』

 給仕長の、生つばを飲み込む、喉の音が聞こえてきそうです。

『なるほど、検討の余地ありですね』

 妙に真剣に頷く魔王様が、可笑しくて仕方ありません。

 無駄話をしながら試食をしていると、あっという間に完食です。と、いっても、一晩寝かせたのも食べてみたいですから、私の分だけ内緒でコッソリ小鍋に取り分けてあります。

 最後のお楽しみに野苺のジャムを、ひと口。あ~香辛料に蹂躙された口の中が優しい甘さと程よい酸味で、癒されます。ラビちゃんはナンに乗せていましたけど、そのままが正解ですね。プレーンヨーグルトがあればもっといいです。マリは作り方を知っているでしょうか? 是非、作ってもらいたいです。

 試食の感想を聞こうとしましたが、ラビちゃんとウルちゃんは、マリを挟んで、キャッキャウフフと、頬ずりをし合って、デザート代わりの杏のジャムを食べています。仲良くなって、なによりです。この娘たちが大喜びで食べているのは、一目瞭然ですし、嗜好が極端なので、さておいて、給仕長に感想をうかがうと、

『ロキエル様、お言葉を返す様ですが、感想というのは、私自身が理解できる範疇の事柄に対してのみ、述べる事ができる、と、思っております。今日頂いた、お料理、総て、私の常識では、いえ、この世界の常識では計れない最高峰の物である、という事だけは断言させて頂きます』

 給仕長、カッケ―!
 その給仕長の言葉を聞くなり、魔王様が立ち上がり、

『ロキエルさん、給仕長の仰る通りです。私から申し上げる事は何もありません。くれぐれもマリさんの守護をお願いします。マリさんの料理は、この世界を変える力が、間違いなく、あります』
『肝に銘じまして』
 
 私は答えました。

『給仕長、ラビさんとウルさんにはマリさんの事、極力、気を使って頂く様にして下さい』

『承知しました』

 給仕長は、ピッカピカの笑顔で頷きました。素敵すぎます。

「マリさん、ちょっと宜しいですか?」

「はーい!」

 魔王様に呼ばれたマリは、椅子から飛び跳ねて駆け寄ります。魔王様は片膝ついて、マリの頭を撫でながら、

「マリさん、とても素晴らしいお料理でした。また是非、試食に呼んで頂けますか?」

『ガッテンデェ。マカセテ、オクレヤス』

 だから、一体、誰なんだ! マリに言葉教えているトンチキ野郎は。
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