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9・なにせ頑固者ぞろいですから。
しおりを挟むマリが作業台の上に大き目の皿を並べます。
更に小さめのキャセロール型を用意しました。そのままラビちゃんの横に寄り添い、スプーンでカスレを掬って、頬を膨らませて息を吹きかけ冷ますと、ラビちゃんの口に差し入れました。
ラビちゃんウットリです。
マリはその顔を見ると、満面の笑みで、
『ラビ、モレ!』
と言って、キャセロール型を指差しました。
『はい!』
ラビちゃんは返事をすると、手際よくカスレをキャセロール型によそいます。
マリはすぐさまウルちゃんに、
『ウル、ヤケ!』
と言って、焼き網を指差すと、
『っス!』
ウルちゃんが弾かれたように、トングでコンフィを摘まみ上げて、次々に焼き網に乗せ始めます。
熱せられ、赤くなった焼き網に乗せられたコンフィから、”ジュッ” と、小気味よい音と共に、芳ばしい香りが立ち昇ります。ウルちゃん今にもかじりつきそうです。
ラビちゃんが皿の上にキャセロール型を置いて行くと、ウルちゃんが焼き上がったコンフィを皿に並べていきます。正に阿吽の呼吸です。
『ラビトウルモ、セキニツイテ、クライヤガレ!』
マリが満面の笑みで言うと、ラビちゃんとウルちゃんが、いそいそと皿を運んできてくれます。
『イタダキマス!』
日本式食事に関わる総てに対する感謝の言葉を、総料理長を含め全員で唱和しました。
勇者が真っ先に手掴みで、もの凄い勢いでかじりつきましたが、皆さん、疑いの目を向けています。
『カトラリーは用意してあるのに、使わないのが正解なの?』
と、その目が言っています。まあ、ここは勇者を立ててあげましょう。やはり骨付き肉は、歯で骨から肉をこそげ落として食べるのが醍醐味です。私も手掴みでかじりつくと、皆さん安心した様子で、揃って手掴みでコンフィを口します。
美味すぎます!
こそげ落とすどころか、歯を立てた途端に骨から身肉がホロリと剥がれ落ちて来ました。香草の香りが鼻腔を抜けたかと思うと、岩塩のまろやかな塩気と、ラードと鴨本来の濃厚な風味が絡み、引き立て合いながら、口の中で膨れ上がります。そこでカスレをスプーンでひと口、う~ん、柔らかく煮込まれたお豆が優しい味わいなのですが、辛みが良いアクセントになって引き締めて、これまた鴨と合う事といったら堪りません。日本料理でいうところの「出会いもの」ですね。
『ふんス!』
ウルちゃん乙女にあるまじき鼻息です。尻尾ブンブンです。
勇者とウルちゃんは、無我夢中でコンフィにかじり付いていますし、ラビちゃんはカスレを食べて放心状態になっていますので、さて置いて、何故か皆さん妙に深刻な表情です。理由を聞こうとすると、
『ロキエル様! この「コンフィ」を是非「ピザ」実験店舗のサイドメニューに取り入れさせて頂けますか!?』
おー! 意外です。てっきり給仕長は、どの酒をマリアージュさせるか悩んでいるかと思いきや。
『ん? 何でしょう。「ピザ」実験店舗とは?』
耳ざとく聞きつけ、尋ねて来たのは総料理長です。事のあらましをお話しすると、
『それは、なりません! この「コンフィ」はレストランの方でメニューに取り入れますので』
断固とした口調です。こうなると総料理長は縦の物を横にもしません。
『何を仰います。昨晩迄マリ様の事を歯牙にもかけていなかったではありませんか。それを急に掌返しですか?』
給仕長も負けてはいません。焜炉の前に立つマリに向かって、
「マリサマ、コンフィ、ピザノミセノ、サイドメニューニ、シテイイカ?」
「いいよー!」
『お聞きなされました!? マリ様の御了解を頂きましたので、ざーんねん、ざーんねんでした!』
『な!?』
総料理長が絶句するのも無理かなぬ事です。給仕長は鼻高々で言いますが、早い者勝ちだとでも言いたいのでしょうか? まるで子供の言い様です。
何やら不穏な雲行きになって来ました。
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