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第4話 「白き秩序官」
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風は冷たく、鋭かった。
無名は丘の上で立ち止まり、見下ろした先の都市を見据えた。灰色の高層ビル群、その間を縫うように走る光の筋――秩序システムの監視ドローンの群れが、夜の闇に赤い点を灯していた。
マリアが背後から声をかける。
「……まだ、間に合ううちに別ルートを行ったほうがいい」
「そうかもな。でも、あそこにいる」
無名は短く答えた。声には確信があった。
丘を下りる途中、リクが小走りで追いついてくる。
「“あそこにいる”って、誰が?」
無名は返事をしなかった。代わりに、風に乗って微かに聞こえる靴音――硬質で、迷いのない足取りが近づいてくる。
そして、彼女は現れた。
白い外套に包まれ、銀糸のような髪が風に舞う。瞳は氷のように透き通り、しかし温度を感じさせない。
「――UNQUALIA、無名。拘束命令を執行します」
その声は澄んでいて、同時に告別の鐘のようでもあった。
マリアが即座に一歩前に出る。
「待って、彼は――」
「話し合いの余地はありません」
シエルと名乗った白の秩序官は、片手を上げた。
空気が裂ける。彼女の手元に、光の剣が生まれた。秩序システムが認定した「資格者」だけが扱える武装だ。
無名は深く息を吸い、リクをマリアに押しやる。
「ここからは、俺の領分だ」
次の瞬間、シエルが踏み込み、光の軌跡が夜を裂いた。
無名はそれを紙一重でかわし、逆に懐へと潜り込む――しかし、衝撃波のような反撃が全身を打ち抜く。背後の壁が砕け、土煙が舞った。
「……力を持ちながら、それを使わない理由は?」
シエルの問いは、責めるというより観察する色を帯びていた。
「使えば、壊れる。俺も、この世界も」
「その理屈は、資格の外に立つ者には通用しません」
再び光が奔る。無名は自分のコード外能力――世界の一部を書き換える力――を使うべきか迷った。
だが、リクの怯えた顔が、最後の一線を引き留める。
「……今は退く」
無名は地面を蹴り、煙幕のように土埃を巻き上げた。視界が塞がれた刹那、三人の姿はもうそこになかった。
丘の上に取り残されたシエルは、静かに剣を消す。
「……興味深い。秩序外が、秩序を守ろうとするなんて」
その呟きは、風にさらわれて闇に消えた。
だが、この邂逅が、世界を揺るがす歯車を回し始めていたことを、まだ誰も知らない。
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