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16.私を呼んだのは
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自分の名前を呼ばれて、咄嗟に振り向く。
「こんな所にいたのか! 探したぞ」
(え……誰?)
近づいてきたのは、また知らない男の人だった。
彼は掴まれている私の腕を見て、男を睨みつけながら聞いた。
「この娘が貴方に何かしたんですか?」
「い……いやっ……怪我してたみたいだから、手当てしようかと……」
威圧されてひるんだのか掴まれていた手の力が緩む。その隙に手を振り払って彼の傍にかけ寄ると、膝を一瞥してから私の頭を軽く小突く。
「あぁ! ほんとだ」
そして、男から庇うように目の前に立って言葉を続けた。
「この娘はドジだから、いつもヒヤヒヤさせられるんですよ。でも、後は大丈夫ですので、お気になさらずに」
「そっ、そうですか? じゃあ、俺は……」
背中に守られていて見えなかったけれど、遠ざかる足音が聞こえてほっとした途端、涙があふれてきた。
(あのまま連れていかれてたら……)
想像するだけで怖くてたまらなくて身体が震える。
(どうしよう……涙が止まらない)
放っておくことも出来たのに、彼はその場から一歩も動こうとせず、自身の服が涙で濡れても何も言わずにただ黙って背中を貸してくれた。
どれくらい経ったのだろうか。涙が止まって落ち着いた私は、目の前の人にすごく迷惑をかけていることを今さらながら自覚する。
「あの……すみま──」
「馬鹿野郎!」
慌てて距離をとって頭を下げると、彼は振り向くと同時に大声をあげた。
「あんな得体の知れねぇ男について行って、タダでは済まないことぐらい、わからねぇ歳でもないだろう!」
声を荒げて怒鳴り続ける。
「おまけに俺も疑わねぇ! 助けてくれた奴だって、それを餌に要求してきたらどうする!? 自分の身は自分で守れ! 警戒心をもて! わかったな!?」
瞬きをするのも忘れるぐらい怒鳴り捲られて呆然としていると。
「いたいた、りょーすけ! こんなところで何してんのー?」
遠くで女性の声がした。
「おう、今行く! そうだ、これやる。それからこれも。落ちてたぞ。じゃあな」
頭上にポンと何かを乗せられ、落ちる前に手に取ると『りょうすけ』と呼ばれた彼は、何事もなかったかのように去って行った。
渡された物はハートがいっぱい描かれた絆創膏と定期入れだった。
(そっか、それで私の名前……)
見知らぬ人が何故自分の名前を知っていたのか納得した。
定期入れを落としていた自分に心底呆れ果てるが、そのお陰で助かったと考えるとなんともいえない気持ちになる。
(って忘れてた! 学校行かなきゃ!)
もらった絆創膏を膝に貼り、学校へ急ぎ向かう途中『りょうすけ』のことを思い出す。
(……怒鳴られてつい言葉を失っちゃったけど、お礼言うべきだったよね)
彼は泣き止むまで黙って待っていてくれた上に、私のことを本当に心配して怒ってくれてとても優しい人なのだと思う。
(もう一度会えるかわからないけれど、もし会えたらちゃんとお礼を言おう)
——そう思っていたはずなのに、どうして今まで忘れていたんだろう。
(あー……そういえばあの日、連絡なく遅刻したことで澤口先生にめちゃくちゃ怒られたんだったー……)
忘れていた理由がはっきりしたけれど、同時に思い出したくないことまで思い出してしまった。
(史上最悪な日だったから、記憶を封印してたんだな……)
あの人はまだこの街にいるのだろうか。
今度こそお礼を言いたいけれど、あの人の手がかりは『りょうすけ』という名前だけだ。
(あれ?)
ふと、違和感を覚える。
(『りょうすけ』って先生と同じ名前なんてすごい偶然……いや、まさかね)
そう思い直すも、当時のことをよくよく思い返してみれば、言葉遣いなんかは今の先生とそっくりで、なんとなく顔も先生に似ていた気がする。
(こんな偶然なかなかないけれど、あの人は先生だとしか思えないかも)
そう確信した私は、二年前の先生が今と変わっていないことに、なんだか笑ってしまった。
「こんな所にいたのか! 探したぞ」
(え……誰?)
近づいてきたのは、また知らない男の人だった。
彼は掴まれている私の腕を見て、男を睨みつけながら聞いた。
「この娘が貴方に何かしたんですか?」
「い……いやっ……怪我してたみたいだから、手当てしようかと……」
威圧されてひるんだのか掴まれていた手の力が緩む。その隙に手を振り払って彼の傍にかけ寄ると、膝を一瞥してから私の頭を軽く小突く。
「あぁ! ほんとだ」
そして、男から庇うように目の前に立って言葉を続けた。
「この娘はドジだから、いつもヒヤヒヤさせられるんですよ。でも、後は大丈夫ですので、お気になさらずに」
「そっ、そうですか? じゃあ、俺は……」
背中に守られていて見えなかったけれど、遠ざかる足音が聞こえてほっとした途端、涙があふれてきた。
(あのまま連れていかれてたら……)
想像するだけで怖くてたまらなくて身体が震える。
(どうしよう……涙が止まらない)
放っておくことも出来たのに、彼はその場から一歩も動こうとせず、自身の服が涙で濡れても何も言わずにただ黙って背中を貸してくれた。
どれくらい経ったのだろうか。涙が止まって落ち着いた私は、目の前の人にすごく迷惑をかけていることを今さらながら自覚する。
「あの……すみま──」
「馬鹿野郎!」
慌てて距離をとって頭を下げると、彼は振り向くと同時に大声をあげた。
「あんな得体の知れねぇ男について行って、タダでは済まないことぐらい、わからねぇ歳でもないだろう!」
声を荒げて怒鳴り続ける。
「おまけに俺も疑わねぇ! 助けてくれた奴だって、それを餌に要求してきたらどうする!? 自分の身は自分で守れ! 警戒心をもて! わかったな!?」
瞬きをするのも忘れるぐらい怒鳴り捲られて呆然としていると。
「いたいた、りょーすけ! こんなところで何してんのー?」
遠くで女性の声がした。
「おう、今行く! そうだ、これやる。それからこれも。落ちてたぞ。じゃあな」
頭上にポンと何かを乗せられ、落ちる前に手に取ると『りょうすけ』と呼ばれた彼は、何事もなかったかのように去って行った。
渡された物はハートがいっぱい描かれた絆創膏と定期入れだった。
(そっか、それで私の名前……)
見知らぬ人が何故自分の名前を知っていたのか納得した。
定期入れを落としていた自分に心底呆れ果てるが、そのお陰で助かったと考えるとなんともいえない気持ちになる。
(って忘れてた! 学校行かなきゃ!)
もらった絆創膏を膝に貼り、学校へ急ぎ向かう途中『りょうすけ』のことを思い出す。
(……怒鳴られてつい言葉を失っちゃったけど、お礼言うべきだったよね)
彼は泣き止むまで黙って待っていてくれた上に、私のことを本当に心配して怒ってくれてとても優しい人なのだと思う。
(もう一度会えるかわからないけれど、もし会えたらちゃんとお礼を言おう)
——そう思っていたはずなのに、どうして今まで忘れていたんだろう。
(あー……そういえばあの日、連絡なく遅刻したことで澤口先生にめちゃくちゃ怒られたんだったー……)
忘れていた理由がはっきりしたけれど、同時に思い出したくないことまで思い出してしまった。
(史上最悪な日だったから、記憶を封印してたんだな……)
あの人はまだこの街にいるのだろうか。
今度こそお礼を言いたいけれど、あの人の手がかりは『りょうすけ』という名前だけだ。
(あれ?)
ふと、違和感を覚える。
(『りょうすけ』って先生と同じ名前なんてすごい偶然……いや、まさかね)
そう思い直すも、当時のことをよくよく思い返してみれば、言葉遣いなんかは今の先生とそっくりで、なんとなく顔も先生に似ていた気がする。
(こんな偶然なかなかないけれど、あの人は先生だとしか思えないかも)
そう確信した私は、二年前の先生が今と変わっていないことに、なんだか笑ってしまった。
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