捨てられた令嬢と錬金術とミイラ

炭田おと

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18_頭痛の種

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 その日、私は早朝から、ルシヨン家の別宅のリビングルームで、叔父であるブラウリオ・ド・ルシヨンと向かい合っていた。

 裁判所に訴えたものの、裁判所が取り扱うようなことではないという理由で、訴状は突き返されていた。

 そして、当事者である私達だけで、話し合うことになったのだ。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 狭い部屋で睨み合う。


「訴えを取り下げろ」


 そして叔父が沈黙を破った。

 開口一番にそれなのか、と私もムッとする。

「ルシヨンの正当な後継者は、俺だ。文句があるのか?」

「・・・・・・・・」

 叔父は父の兄で、順調にいけば、次の領主になっていた人だった。

 だけど素行の悪さや、金遣いの荒さが直らなかったことから、後継者の候補から外されてしまったそうだ。

 そういった経緯があるから、私の父が自分から財産を奪ったという被害意識が強いらしい。

 こんなことをしたのも、本来、自分が得るはずだったものを取り返している、という意識を持っているからなのだろう。


 だから、罪悪感がない。むしろ、正義感すら感じている可能性もある。


「話はこれで終わりだ」

 まだ話し合いがはじまって数分なのに、叔父は席を立とうとしていた。

「待ってください、まだ話は・・・・!」

「俺がルシヨンの後継者だ! 遺言書にはそう書いてあった!」

「それは本物の遺言書ではありません!」

「何を根拠に・・・・嘘を言いふらしやがったら、ただじゃおかないからな!」

「あなたが、屋敷から持ち出した棚を返してください!」

 叔父が一瞬、怯んだのがわかった。

「父は、あの棚に遺言書を入れたと言っていました。あの棚を返してくれれば、すべてがはっきりします!」

 私は叔父と睨み合う。殺意すら感じる目付きだったけれど、そらしたら負けだと思い、奥歯を噛みしめた。


「・・・・馬鹿馬鹿しい」


 長い睨み合いの末、叔父のほうが先に、視線をそらす。


 そして身を翻して、リビングルームから出ていった。


「・・・・はあ」

 こちらの意見を聞くつもりがない人と、話し合いなんてできない。

 これからどうすればいいのだろうと、私は頭を抱えた。



     ※  ※  ※



「はあ・・・・」

 その日も私は気づかないうちに、ため息ばかりついてしまっていた。


 ――――あの日以来、ベンジャミンとアデレードは、毎日のようにマテオおじさんの屋敷に押しかけてきていた。


 渋々ながら一緒に食事をしていると、二人はさりげなくを装って、話題を陛下のことに誘導しようとする。


 ――――下心が見えるたびに、不快感を覚えていた。


 とても面倒な状況だ。毎日押しかけられるから、家主であるマテオおじさんとポーリンさんにも、迷惑をかけてしまっている。

 ここは、私の家じゃない。居候させてもらっているだけだから、もう来ないでほしいと、はっきり言ったこともある。でも二人は、迷惑にならないようにするの一点張りで、こちらの意見を聞こうとしない。

 そこで、私とマテオおじさんとポーリンさんの三人で、対応策を話し合うことになった。

 ここまできたらもう、来ないでほしいとはっきり言うべきだと、私とポーリンさんは主張したけれど、マテオおじさんはいい顔をしなかった。

 そして、追い返して逆恨みをされたら面倒なことになるから、彼らが諦めるのを待とう、と言った。

 ベンジャミンやアデレードの父親は、マテオおじさんの仕事仲間で、邪険にしにくいという裏事情がある。


 思うところはあったものの、私は、マテオおじさんの決定に従うことにした。


 私が抱えている問題は、それだけじゃない。


 最初の話し合い以降、叔父は話し合いの場に現われなくなっていた。


 埒が明かないと、叔父の家に何度も押しかけたものの、叔父は出てこようとせず、対応してくれた奥さんは、夫は不在ですの一点張りで、叔父とは会うことすらできていない。


 問題は山積みなのに、解決の兆しがまったく見えず、気が重くなるばかりだった。


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