【完結】悪役令息に生まれて断罪される上に嫌われてるらしいので罪を償おうとしたら主人公の様子がおかしい

神崎ロクス

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夜の月に誓う

 おかしい。クラスメイトにいるっていうから牽制したはずなのにおとなしくなるどころかひどくなってる。ルーイは本当に変わったし、だから友達だと認めた。それがいつの間にかいなくなっていて、戻ってきたらズタボロだったなんて、怒りでどうにかなりそうだった。
 そんな面を見せたらルーイは怯えてしまうかもしれない。だから見送るだけにしたが、犯人が男なら殴り飛ばしているところだ。もう帰らなきゃいけない。そう思って馬車に乗ろうとしたとき、女子数人が顔を赤らめてこっちに向かってくるのが見えた。あれはクラスの……。そう思った瞬間、俺は警戒した。ルーイはクラスメイトにやられたと言っていた。
 女子たちは俺の姿を見て走り寄ってくると、校舎裏の小さな原っぱで摘んできたのだろう小さな花々をこちらに向けてきた。

「あの、ライズくん。これ……」
「俺に?」
「う、うん。その……ライズくんのこと、素敵だなってわたしたち思ってて……。わたしはメディア。グランディア侯爵家令嬢よ。わたしたち、きっといいパートナーになると……ああ、抜け駆けはいけないわね。彼女たちも貴方を慕っているのよ」

 メディアが振り返ると、数人の女子がはにかんだ笑顔を俺に向けている。俺は拍子抜けして、警戒を少し解いた。女子たちの手から花を受け取っていると、メディアの細い指先に指が少し触れた。きゃ、とメディアは声をあげて顔を赤くする。

「ご、ごめんなさい、わたしったら……」
「いや、そこまで意識することじゃ……」
「だって、わたし貴方のことが好きなのよ? 指先が触れただけでも嬉しいわ……」

 その物言いに底知れないものを感じて、俺は警戒を引き上げる。この女、怪しい。なにがとは言えないが、なんとなく怪しく感じてしまった。女子からもらった花だが、申し訳ないけどあとで捨てよう。なにか薬でも盛ってあるかもしれない。
 そんなことを考えていると、メディアは体をますます寄せてきてひっついた。侯爵家令嬢というわりには、教養がない。恋に目がくらんでのことかもしれないが、ここはまだ学び舎の敷地の中だ。

「はあ……。しあわせ……」
「メディアさん、ずるいわ。私も……」
「次はあなたたちにも譲るわ、大丈夫」
「すまない。俺は物じゃないんだが」
「わたしは侯爵家令嬢よ? 伯爵家の男子が言い寄られたら、嬉しいものだと思うけど?」
「気持ちは嬉しい。だけどそういうことを言ってるんじゃない。俺には俺個人の意思がある。誰を選ぶかは俺の意思も介在しなきゃならない」

 ふふふ、とメディアが花のように笑う。その笑顔がなんでか気持ち悪くて、ぞぞぞ、と背中をなにかが駆け上がっていく。この女は危険だ。すぐに帰って母さんに聞かなくては。

「俺は家に帰って勉強もしなくちゃいけない。そろそろ帰らせてもらう」
「ねえライズくん。わたしの家に寄っていかない?」
「せっかくのお誘い嬉しいが、女性の家に、ましてや伯爵家の男子が侯爵家の女子の家にあがりこめるほど偉くないんでね。君たちも早く帰ったほうがいい」
「紳士的ね。ますます、気に入ったわ……」

 ぺろりと唇を舐めたメディアを見て、俺は馬車に乗りこむ。御者に馬車を出すように言って、校舎を後にした。
 ……怪しい。だが、証拠がない。ルーイが頑なに口を割らないなら、聞きに行くまでだ。俺の予測が正しければ、あの女たちは──。

「ライズ様、人気でございますなあ」

 御者がのんびりと話しかけてくる。そうだな、と答えて、俺はとあることを思いついて、前の席に移ると御者に耳打ちした。
 母さんに聞けば、ビンゴ。グランディア家は今婚約者がいない。だから学園に半分出会いを求めている。付き合っている家が違うから社交界で会ったのは幼少期の一回だけらしいが、そこで目をつけられたんじゃないかと母さんは言っていた。

 ルーイが危ない。まだあのメディアとかいう女たちがやったと決めつけるには早いが、本人に吐かせるしかない。それには学校ではだめだ。家に赴いて、守衛の目をかいくぐって部屋に行かなければ。
 俺は夜闇に溶ける黒の服を身にまとって、父さん母さんを説得して、御者に話した計画を実行した。
 御者が道に迷ったふりをして守衛に話しかけ、対応されているうちにルーイの部屋を探し出す。ルーイの部屋自体にも守衛がいたら諦めるしかないが、学校という場所が安心できない以上そうするしかない。

「すまないが、この付近を案内してほしいのです。平民でありながら、方向音痴ゆえに貴族街に迷い込んでしまって右も左もわからないのです……」
「じいさん、俺たちはこの家の守衛だ。そうは言われてもなあ」

 計画はうまくいった。守衛がわらわらと門に集まっていくのを見て、俺は柵を軽々と飛び越えた。そして窓を片っ端から覗いていると、ルーイが一人で勉強をしている姿が見えた。俺は大きな音を立てないように木枠を叩く。
 ルーイはすぐに振り返って、信じられないものを見たような顔をして立ち上がった。すぐに窓まで走ってきて、窓を開けて小声で話しかけてくる。

「ライズ!? どうして家に……」
「だって、お前の父さん母さんは誰も招き入れないだろ?」
「……そんなことはないと思うよ」

 ライズが暗い顔をしたのを見て、なにかあったなこれは、と察する。

「不仲なのか?」
「……うん」

 どうりで、ルーイ自身が走ってきたわけだ。侯爵家長男クラスになれば、不審者の対応のために扉の向こうに守衛がいてもおかしくないからだ。あのプライドが高くて傲慢だったルーイと両親が息子だけ変わったとなれば、なにかあってもおかしくはない。
 だが、好都合だ。御者が注意を引いている間に、手短に聞いてしまおう。

「お前、メディアとかいう女となにかあったか?」
「……いや」

 その目にはなにもない。暗闇をそのまま入れたような、暗い目をしていた。感情が読めない。

「お前が痛い目にあわされたなら俺はあの女に復讐する。お前ができないなら、俺がやる」
「なんでもないよ、大丈夫。友達になってくれただけで、嬉しいから」

 そう笑うルーイは儚げで、手を掴んだらそのままボロボロと崩れ落ちてしまいそうで、心配だった。こんな顔をあの女がさせているのなら、俺は──自分の地位が落ちてでも、あの女を止める。

「ルーイ」

 俺が一年ぶりに名前を呼ぶと、ルーイはまるで初めて名前で呼ばれたような顔をした。それにひっかかりつつも、声を抑えて言う。

「俺は、お前が大事だ。大事になってしまった」
「ライズ……?」
「友達にこんな顔をさせるやつは許せない。お前の笑顔を奪うようなやつは、俺が絶対に止める。だから、安心して、俺に任せてくれないか」
「危ないよ、だって……!」
「だって、なんだ?」
「あ……」

 ルーイは失言をしたような、そんな顔をした。やっぱり、あの女が。怒りの炎がはらわたを焼いてぐつぐつと煮えたぎる。なにが恋だ。そんなものは恋じゃない。お前がやったことは、ただの犯罪だ!

「大丈夫、大丈夫だ、ルーイ」
「ライズ、危ないから」
「俺がお前を守る。せっかく優しい人間になれたんだから、元に戻ってほしくない。俺はお前を買ってるんだ」
「ライズ……」
「待ってろよ。必ず、お前を助けてやる」

 俺はそう言い残して、そろそろ時間がないから柵のほうに走っていった。ルーイはなにか言っていたが、俺は暴力には決して屈しない。友達を守るためなら、策を練ってルーイを必ず助けると月夜に誓った。
 その後守衛たちによって貴族街の入り口まで案内されていた御者の手を取って、屋敷に帰りながら考える。相手は位が上だ。ただ勝負を挑んだだけではゴリ押されて負けてしまう。それならば、証拠を掴めばいいだけの話だ。ルーイが狙われているなら、俺は目を光らせているだけでいい。

「メディア=グランディア……。許さない」

 友達を傷つけられた。心までも殺されて、あんなに傷をつけられて怯えて──。必ず、この報いは受けさせる。その醜いプライドと恋心とやらを粉々にして。
 屋敷に帰って寝る前に鏡を見る。そのときの俺の顔は、悪魔に魅入られたような顔をしていた。
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