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痺れを切らした神の裁き
そんなふうに季節は通りすぎて、三学年になる春前。冬に誕生日を祝ってもらってからしばらく平和に過ごしていた俺は、卒業式と次の生徒会長を決める投票が行われた。今回も公爵家はいないため誰が生徒会長になるか話はもちっきりだったが、俺は知っている。ライズになる。
原作からしてそうなのだ。学園の仲間たちから支持を得たライズは生徒会長に上りつめ、皆から一目置かれる存在になる。原作イベントと同じだ。それに実際のライズが性格いいってわかってしまったら、納得である。だから俺はみんなに話を合わせて知らないふりをした。
「えー、投票の結果だが。生徒会長にはうちのクラスからライズ=ファブル。お前が選ばれることになった」
「はい。……みんな、ありがとう。生徒会長として職務を全うしたいと思う
ライズが立ち上がってクラスメイトを見回してから礼をすると割れんばかりの拍手があがった。俺は拍手を送っていたが、ここは原作どおりなんだ……。とか不純なことを思っていた。伯爵家の人間が生徒会長とは前代未聞だと話題になり、ライズはさらに人気になっていくんだよな……。嫉妬も気にしないし。
ライズが席につくと、担任が目頭を押さえていた。
「ライズ、お前が生徒会長になってくれて先生は嬉しい。うちのクラスからは犯罪者も出て、こんな名誉なことが起きるなんて思っていなかったから……」
「先生、悲観的すぎます」
「そうですよ! 僕たちはライズだから投票したんですから!」
「そうか、そうだよな。ライズはしっかりしているから」
先生はハンカチを持って眼鏡を上げて目元を拭うと、ハンカチをスラックスのポケットに戻した。確かこのあと、女神が現れて託宣を……。……あれ。来ない?
現れるはずの女神が現れなかった。シナリオをめちゃくちゃにした弊害だろうか、それかこの世界に神は存在しないのだろうか。今まで派手にシナリオ崩壊させてきたもんな、女神様もそりゃ怒るさ。まあ出てきてくれないほうが、俺としては断罪回避できたと確信できて安心なんだけど。
その後短い休みの間、俺はもう大丈夫だからとライズとは一緒に寝ない選択をした。なにかあったらすぐそっちに行くから、と言い添えて。ライズもすっかり元気になった俺を見て大丈夫だと思ったのか頷いて、その日から一人で寝るようになった。
一人分の体温は寂しいけれど、今までが異常だっただけだ。そう自分に言い聞かせて毛布を頭まで被って寝た。
そして俺たちは三学年に進み、卒業に関する授業が増えてきた。社会の成り立ち、貴族としての嗜み、貴族は民なしでは生活できないなどなど、各家庭では教えないようなことを教えていく。当たり前のことなんだけど、勘違いしてる輩もいるからな。
もちろん通常の授業もあるわけで、さらに難解になった公式に俺が頭を悩ませていると、ライズが羊皮紙の端をちぎってなにか書きこんで渡してくる。公式について詳しく書いた切れ端だ。ライズのほうを見ても、ライズは前しか向いていない。そんな優しさに感謝するばかりだった。
「まったく、ライズはルーイに甘すぎるのよ。バカップル発動してるんじゃないわ」
「エリーゼ、お前にだけは言われたくない」
「はあ? エリックは私のために鍛えてくれてるし学園卒業したら絶対迎えにいくからってプロポーズしてくれたとってもかっこいい男なのよ? ねー」
「え、エリーゼ、生徒会長煽っちゃだめだよ」
「放課後書類仕事をしているのは偉いけど生徒会長って座ってること多いじゃない。私たち生徒が大きなお痛をしなければすっ飛んでこないものね。ふふ、エリック、結婚式はどうしよっか」
もう花嫁気分のエリーゼに男女恋愛はいいなあ……とコンプレックスを抱きながらも、ライズの顔を見る。ばっちり目が合って恥ずかしくて目を逸らすと、両手を両頬に添えられて顔の位置を元に戻される。そしてにっこり笑って、放課後はまた一緒にな、と言われた。
それを聞きとがめたエリーゼとエリックが食いついてくる。だから目を合わせたくなかったのにいいい!
「なに、あなたたち放課後までいちゃこらしてるの? はー、いいなあ。エリックは伯爵家だから子爵家の私がお邪魔するわけにはいかないもん。このバカップル」
「なっ! これはライズの罠だ! 俺はなにもしてない!」
「あー、はいはい。痴話話なら放課後のちょっとの間なら聞きましてよ?」
「エリーゼええええ!」
なんか最近、というかライズと付き合って距離が近くなってからエリーゼの対応が雑だ。俺たち親友じゃないか。困ったときは助け合うべきだろ。どうしてそんな冷たいこと言うんだ。
そう文句を言いたいけど俺の顔を見てうっとりしてるライズが離してくれないから文句を言いたいにも間抜けすぎる気がして言えない。おのれライズ、今日の放課後は絶対優しくなんてしてやらないんだからな。そう思った瞬間だった。
『時空がねじ曲げられていますね。あなたのせいですか?』
「え……」
「どうしたのよバカップルの片割れ」
「さすがにひどくない!?」
いい加減ライズに付き合うのも嫌になってライズの手からエリーゼのほうを見る。ふふん、と勝ち誇るエリーゼにおろおろするエリック。うーん、尻に敷かれる未来しか見えない。
でも、今の声なんだったんだろう。男性とも女性ともつかないような不思議な声だった。もう一度話を聞きたいと思っても、もう聞こえない。
「ルーイ?」
「……っ。い、いや、なんでもないよ。それよりエリーゼ! 絶対許さないからな!」
「きゃー! ライズの奥さんがなにか言ってるー!」
「こいつ……!」
「やめろ。エリーゼにはお前じゃ口で勝てない」
「ライズまで……!」
エリーゼは口が達者だ。それはもう、男性陣なんか相手にならないほどに。そうじゃないと女性貴族はやっていけないって転生してからわかったし、仕方のないことだとわかっていても。でも、クラスメイトでライズの奥さんなんて大声で言ったら微笑ましい視線が送られてくるのわかってるだろ! エリーゼ! またおねしょの話してやろうか!
その後も久しぶりにニコルとのお昼が終わって午後の授業も終わり放課後になると、俺は案の定生徒会室に連行されていた。なぜ。副会長も書記も会計も決まっているのに。俺がどれだけ気まずい思いをしているのかわかっているんだろうか、この男は。活動が一時間程度で終わるからいいものの、その一時間は俺にとって地獄なんだ。
生徒会室に入ると、副会長と書記と会計が机に突っ伏していた。俺は驚いてライズの手から逃れるとそれぞれを揺すって起こす。
「どうしたんだ! なあ、おい!」
『無駄です』
あのときの、中性的な声……! 声がしたほうを見て、俺はビビるどころの話じゃなかった。原作ゲームの中盤で出てくる絶対神、フォウトゥナがそこにいたからだ。女子と見まがうような美貌。しかししっかり筋肉はついていて、しかし太すぎず細すぎないその容姿。見間違えるはずがない。
ライズが一度道を踏み外しそうになるときがあった。その時に現れて、忠言をして去っていく。卒業後の存在がなぜここに?
『なぜここに? それは、女神では到底およばないほど時空がねじ曲げられているからです。ルーイ=イヴァリス。断罪から逃れようとしても運命は変わりません。ならば今ここで、ライズ=ファブルに裁かせるのみ』
「お前は誰だ。なぜ俺の名前を知っている。神ならば、なぜ俺が愛するルーイを裁けなどと言う」
『聖剣エクスカリバーです。これでルーイ=イヴァリスを討ちなさい。この男は自分が断罪されるのを恐れてあなたに近づいたのですよ』
フォウトゥナ神の体からエクスカリバーが生み出される。それはライズの目の前に浮遊して、主人に握られるのを待っている。
「ルーイ、待ってろ。今先生を……!」
『無駄ですよ。この学園のすべての人間の機能を落としました。今動けるのはルーイ=イヴァリスに勇者ライズ、あなただけです』
「卑怯者……!」
『はて。あなたのご両親は神に背くように教えた覚えはないはずですが。さあ、その手でエクスカリバーを……』
「断る!」
怒声が部屋に響く。こんなに怒ったライズを見るのは初めてで、俺はどうなるのか見守ることしかできない。
『忠実なる神のしもべ、勇者。仕方ありませんね』
「……!? 体が、勝手に……っ」
『ふふふ。これでライズ=ファブルを勇者たらしめることができました。さあ、ルーイ=イヴァリスを殺すのです。生きていても、あなたの障害にしかならない』
「ルーイ、逃げろ……!」
俺は一連の様子を見ていて、ああ、と思っていた。
断罪は回避できるものじゃない。卒業後だと思って甘く見ていたけど、眠りに落ちるときに聞いた中性的な声はフォウトゥナのものだったんだ。すべて、神にはお見通しだということか。
エクスカリバーを握りしめて、引きずりながらライズが近づいてくる。いろんな思い出が蘇っていた。楽しかった。予定より早く死ぬことになったけど。もう満足だ。
「俺はここだよ、ライズ。早く、お前の手で裁いてくれ」
「バカなことを……言うな……! 逃げろ……!」
必死に抵抗してるんだろうが、絶対神の強制力は絶大だ。それをここまで抑えられるだけ、ライズには勇者の器がある。俺ごときが独占していい存在じゃなかった。さよなら、ライズ。楽しかったよ。
「……ずっと一緒に生きていたかったな」
その時だった。もう一つの美しい女性が光の粒子によってかたどられていき、ライズからエクスカリバーを取り上げたのは。ライズはよほど体に力をこめていたのか膝をついて荒い息をついている。この女神、卒業式のときに現れてライズにエクスカリバーを渡すはずだった……!
女神はライズの背中を優しく撫で、うろたえるフォウトゥナに向かって睨みつける。
『我が親愛なる父よ。なぜこのようなことをしたのです。勇者たりえる存在は他にもいるのだから、あとは二人に任せましょうと話したばかりではありませんか』
『しかしだな娘よ。運命とは定められたもの。勇者は勇者だ。決められた運命を変えることは到底許されるはずが……』
『親愛なる父よ、もうこのルーイがルーイではないことはご存じでしょう? 罪のない人間を裁くのはあなたであっても重罪ですよ。わたしが間に合ったからよかったものの……。あなたは神の座を失い他の勇者を導けなくなるところでした』
「ルーイがルーイじゃない? どういうことだ?」
『それは話せませんが……。もうあなたは勇者ではない。普通の、どこにでもいる貴族になったのです。自由なのです。我が親愛なる父の横暴を許してやってください』
話を聞いている限り、こうか。ライズは俺を裁く運命からは外れて、一人の貴族となっていた。それを強硬派のフォウトゥナがライズを勇者にするために俺を裁かせようとして、娘である女神に叱られている。……なんだか、間抜けだな。原作ゲームで見せた神々しさとか、吹き飛んじゃってどういう目でみていいのかわからない。
あのライズに殺される夢も、たぶんフォウトゥナが見せていたんだろう。警告の意味を込めて。俺がまったくそれに気付かないものだから、怒ってだいぶ早く出てきてしまったと。
……家族喧嘩に俺たちを巻き込むな! 俺は、断罪の瞬間が来たと思って相当覚悟決めてたのに! だから本音まで最後まで言ったのに! どうしてくれるんだよこれ!
ライズにじろりと見られたフォウトゥナがびくっと震える。勇者じゃないただの人間に怯えてどうするんだよ。あんたは確かに罪を犯したけどさ。
「神々であろうと、運命がどうであろうと、俺はルーイを愛すると誓った。どんな夢を見せようとも、それは変わらない。ルーイを怯えさせたこと、謝罪できるんだろう?」
『なっ、絶対神になんてことを……!』
『我が親愛なる父よ。あなたの負けです。閉鎖空間を解いて、帰りましょう』
『汝らには茨の道が待っている。それでもいいのか?』
「いいに決まっている。それも覚悟の上で俺はルーイと結婚するつもりだからだ」
『人間が……。まあいい。次の勇者の元に向かうぞ、我が娘よ』
『はい。親愛なる父よ』
そう言って、二人は光の粒子になって消えていった。止まっていた時計が動き始めて、その場に突っ伏していた三人が起き上がり始める。ライズに対応を任せて、俺は先生を呼びに行った。
その後、変な夢や声が聞こえるということはなく、断罪は回避されたのだと、実感した。
原作からしてそうなのだ。学園の仲間たちから支持を得たライズは生徒会長に上りつめ、皆から一目置かれる存在になる。原作イベントと同じだ。それに実際のライズが性格いいってわかってしまったら、納得である。だから俺はみんなに話を合わせて知らないふりをした。
「えー、投票の結果だが。生徒会長にはうちのクラスからライズ=ファブル。お前が選ばれることになった」
「はい。……みんな、ありがとう。生徒会長として職務を全うしたいと思う
ライズが立ち上がってクラスメイトを見回してから礼をすると割れんばかりの拍手があがった。俺は拍手を送っていたが、ここは原作どおりなんだ……。とか不純なことを思っていた。伯爵家の人間が生徒会長とは前代未聞だと話題になり、ライズはさらに人気になっていくんだよな……。嫉妬も気にしないし。
ライズが席につくと、担任が目頭を押さえていた。
「ライズ、お前が生徒会長になってくれて先生は嬉しい。うちのクラスからは犯罪者も出て、こんな名誉なことが起きるなんて思っていなかったから……」
「先生、悲観的すぎます」
「そうですよ! 僕たちはライズだから投票したんですから!」
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現れるはずの女神が現れなかった。シナリオをめちゃくちゃにした弊害だろうか、それかこの世界に神は存在しないのだろうか。今まで派手にシナリオ崩壊させてきたもんな、女神様もそりゃ怒るさ。まあ出てきてくれないほうが、俺としては断罪回避できたと確信できて安心なんだけど。
その後短い休みの間、俺はもう大丈夫だからとライズとは一緒に寝ない選択をした。なにかあったらすぐそっちに行くから、と言い添えて。ライズもすっかり元気になった俺を見て大丈夫だと思ったのか頷いて、その日から一人で寝るようになった。
一人分の体温は寂しいけれど、今までが異常だっただけだ。そう自分に言い聞かせて毛布を頭まで被って寝た。
そして俺たちは三学年に進み、卒業に関する授業が増えてきた。社会の成り立ち、貴族としての嗜み、貴族は民なしでは生活できないなどなど、各家庭では教えないようなことを教えていく。当たり前のことなんだけど、勘違いしてる輩もいるからな。
もちろん通常の授業もあるわけで、さらに難解になった公式に俺が頭を悩ませていると、ライズが羊皮紙の端をちぎってなにか書きこんで渡してくる。公式について詳しく書いた切れ端だ。ライズのほうを見ても、ライズは前しか向いていない。そんな優しさに感謝するばかりだった。
「まったく、ライズはルーイに甘すぎるのよ。バカップル発動してるんじゃないわ」
「エリーゼ、お前にだけは言われたくない」
「はあ? エリックは私のために鍛えてくれてるし学園卒業したら絶対迎えにいくからってプロポーズしてくれたとってもかっこいい男なのよ? ねー」
「え、エリーゼ、生徒会長煽っちゃだめだよ」
「放課後書類仕事をしているのは偉いけど生徒会長って座ってること多いじゃない。私たち生徒が大きなお痛をしなければすっ飛んでこないものね。ふふ、エリック、結婚式はどうしよっか」
もう花嫁気分のエリーゼに男女恋愛はいいなあ……とコンプレックスを抱きながらも、ライズの顔を見る。ばっちり目が合って恥ずかしくて目を逸らすと、両手を両頬に添えられて顔の位置を元に戻される。そしてにっこり笑って、放課後はまた一緒にな、と言われた。
それを聞きとがめたエリーゼとエリックが食いついてくる。だから目を合わせたくなかったのにいいい!
「なに、あなたたち放課後までいちゃこらしてるの? はー、いいなあ。エリックは伯爵家だから子爵家の私がお邪魔するわけにはいかないもん。このバカップル」
「なっ! これはライズの罠だ! 俺はなにもしてない!」
「あー、はいはい。痴話話なら放課後のちょっとの間なら聞きましてよ?」
「エリーゼええええ!」
なんか最近、というかライズと付き合って距離が近くなってからエリーゼの対応が雑だ。俺たち親友じゃないか。困ったときは助け合うべきだろ。どうしてそんな冷たいこと言うんだ。
そう文句を言いたいけど俺の顔を見てうっとりしてるライズが離してくれないから文句を言いたいにも間抜けすぎる気がして言えない。おのれライズ、今日の放課後は絶対優しくなんてしてやらないんだからな。そう思った瞬間だった。
『時空がねじ曲げられていますね。あなたのせいですか?』
「え……」
「どうしたのよバカップルの片割れ」
「さすがにひどくない!?」
いい加減ライズに付き合うのも嫌になってライズの手からエリーゼのほうを見る。ふふん、と勝ち誇るエリーゼにおろおろするエリック。うーん、尻に敷かれる未来しか見えない。
でも、今の声なんだったんだろう。男性とも女性ともつかないような不思議な声だった。もう一度話を聞きたいと思っても、もう聞こえない。
「ルーイ?」
「……っ。い、いや、なんでもないよ。それよりエリーゼ! 絶対許さないからな!」
「きゃー! ライズの奥さんがなにか言ってるー!」
「こいつ……!」
「やめろ。エリーゼにはお前じゃ口で勝てない」
「ライズまで……!」
エリーゼは口が達者だ。それはもう、男性陣なんか相手にならないほどに。そうじゃないと女性貴族はやっていけないって転生してからわかったし、仕方のないことだとわかっていても。でも、クラスメイトでライズの奥さんなんて大声で言ったら微笑ましい視線が送られてくるのわかってるだろ! エリーゼ! またおねしょの話してやろうか!
その後も久しぶりにニコルとのお昼が終わって午後の授業も終わり放課後になると、俺は案の定生徒会室に連行されていた。なぜ。副会長も書記も会計も決まっているのに。俺がどれだけ気まずい思いをしているのかわかっているんだろうか、この男は。活動が一時間程度で終わるからいいものの、その一時間は俺にとって地獄なんだ。
生徒会室に入ると、副会長と書記と会計が机に突っ伏していた。俺は驚いてライズの手から逃れるとそれぞれを揺すって起こす。
「どうしたんだ! なあ、おい!」
『無駄です』
あのときの、中性的な声……! 声がしたほうを見て、俺はビビるどころの話じゃなかった。原作ゲームの中盤で出てくる絶対神、フォウトゥナがそこにいたからだ。女子と見まがうような美貌。しかししっかり筋肉はついていて、しかし太すぎず細すぎないその容姿。見間違えるはずがない。
ライズが一度道を踏み外しそうになるときがあった。その時に現れて、忠言をして去っていく。卒業後の存在がなぜここに?
『なぜここに? それは、女神では到底およばないほど時空がねじ曲げられているからです。ルーイ=イヴァリス。断罪から逃れようとしても運命は変わりません。ならば今ここで、ライズ=ファブルに裁かせるのみ』
「お前は誰だ。なぜ俺の名前を知っている。神ならば、なぜ俺が愛するルーイを裁けなどと言う」
『聖剣エクスカリバーです。これでルーイ=イヴァリスを討ちなさい。この男は自分が断罪されるのを恐れてあなたに近づいたのですよ』
フォウトゥナ神の体からエクスカリバーが生み出される。それはライズの目の前に浮遊して、主人に握られるのを待っている。
「ルーイ、待ってろ。今先生を……!」
『無駄ですよ。この学園のすべての人間の機能を落としました。今動けるのはルーイ=イヴァリスに勇者ライズ、あなただけです』
「卑怯者……!」
『はて。あなたのご両親は神に背くように教えた覚えはないはずですが。さあ、その手でエクスカリバーを……』
「断る!」
怒声が部屋に響く。こんなに怒ったライズを見るのは初めてで、俺はどうなるのか見守ることしかできない。
『忠実なる神のしもべ、勇者。仕方ありませんね』
「……!? 体が、勝手に……っ」
『ふふふ。これでライズ=ファブルを勇者たらしめることができました。さあ、ルーイ=イヴァリスを殺すのです。生きていても、あなたの障害にしかならない』
「ルーイ、逃げろ……!」
俺は一連の様子を見ていて、ああ、と思っていた。
断罪は回避できるものじゃない。卒業後だと思って甘く見ていたけど、眠りに落ちるときに聞いた中性的な声はフォウトゥナのものだったんだ。すべて、神にはお見通しだということか。
エクスカリバーを握りしめて、引きずりながらライズが近づいてくる。いろんな思い出が蘇っていた。楽しかった。予定より早く死ぬことになったけど。もう満足だ。
「俺はここだよ、ライズ。早く、お前の手で裁いてくれ」
「バカなことを……言うな……! 逃げろ……!」
必死に抵抗してるんだろうが、絶対神の強制力は絶大だ。それをここまで抑えられるだけ、ライズには勇者の器がある。俺ごときが独占していい存在じゃなかった。さよなら、ライズ。楽しかったよ。
「……ずっと一緒に生きていたかったな」
その時だった。もう一つの美しい女性が光の粒子によってかたどられていき、ライズからエクスカリバーを取り上げたのは。ライズはよほど体に力をこめていたのか膝をついて荒い息をついている。この女神、卒業式のときに現れてライズにエクスカリバーを渡すはずだった……!
女神はライズの背中を優しく撫で、うろたえるフォウトゥナに向かって睨みつける。
『我が親愛なる父よ。なぜこのようなことをしたのです。勇者たりえる存在は他にもいるのだから、あとは二人に任せましょうと話したばかりではありませんか』
『しかしだな娘よ。運命とは定められたもの。勇者は勇者だ。決められた運命を変えることは到底許されるはずが……』
『親愛なる父よ、もうこのルーイがルーイではないことはご存じでしょう? 罪のない人間を裁くのはあなたであっても重罪ですよ。わたしが間に合ったからよかったものの……。あなたは神の座を失い他の勇者を導けなくなるところでした』
「ルーイがルーイじゃない? どういうことだ?」
『それは話せませんが……。もうあなたは勇者ではない。普通の、どこにでもいる貴族になったのです。自由なのです。我が親愛なる父の横暴を許してやってください』
話を聞いている限り、こうか。ライズは俺を裁く運命からは外れて、一人の貴族となっていた。それを強硬派のフォウトゥナがライズを勇者にするために俺を裁かせようとして、娘である女神に叱られている。……なんだか、間抜けだな。原作ゲームで見せた神々しさとか、吹き飛んじゃってどういう目でみていいのかわからない。
あのライズに殺される夢も、たぶんフォウトゥナが見せていたんだろう。警告の意味を込めて。俺がまったくそれに気付かないものだから、怒ってだいぶ早く出てきてしまったと。
……家族喧嘩に俺たちを巻き込むな! 俺は、断罪の瞬間が来たと思って相当覚悟決めてたのに! だから本音まで最後まで言ったのに! どうしてくれるんだよこれ!
ライズにじろりと見られたフォウトゥナがびくっと震える。勇者じゃないただの人間に怯えてどうするんだよ。あんたは確かに罪を犯したけどさ。
「神々であろうと、運命がどうであろうと、俺はルーイを愛すると誓った。どんな夢を見せようとも、それは変わらない。ルーイを怯えさせたこと、謝罪できるんだろう?」
『なっ、絶対神になんてことを……!』
『我が親愛なる父よ。あなたの負けです。閉鎖空間を解いて、帰りましょう』
『汝らには茨の道が待っている。それでもいいのか?』
「いいに決まっている。それも覚悟の上で俺はルーイと結婚するつもりだからだ」
『人間が……。まあいい。次の勇者の元に向かうぞ、我が娘よ』
『はい。親愛なる父よ』
そう言って、二人は光の粒子になって消えていった。止まっていた時計が動き始めて、その場に突っ伏していた三人が起き上がり始める。ライズに対応を任せて、俺は先生を呼びに行った。
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