32 / 40
第31話 赤
しおりを挟む
シアンは岩場の陰から中を覗き込んだ。
そこには、薄緑色の光にぼんやりと照らされた空間が広がっている――――
その光がバケモノから発せられていると知らなければ、美しいと感じていたかもしれない。
シアンは目を凝らした。
何やらそこら中に物が散乱しているようだ。
そして…
(あの壁に張り付いているのが全て、例のバケモノ…)
大きさは様々だ。丸々と膨らんだ奴から細長い奴まで。
とにかく数が多い。
だが、幸いな事に動いている様子は見られ無かった。
シアンはバケモノを観察し終えると、後ろに控えていたハロルドとアロイの元へと戻る。
「中の奴等に動きは無い…あれを眠っている状態と考えるなら、いけるはず…」
「よし…まずはオレが中に入る。大丈夫そうだったら合図を送るが…ダメな時はわかってるな?」
それは、ギリギリ聞き取れる声量での会話であった。
その言葉に二人が小さく頷く。
『アロイが時間を稼いでる間に、シアンがハロルドを連れて逃げる。』
事前に何度も言い聞かされていた事だ。
そう言い終えると、アロイは何とも堂々とした足取りでバケモノの巣穴へと入って行くのだった。
その様子を固唾を飲んで見守るハロルド。
彼の精神は今、ギリギリのところで何とか踏み止まっている状態である。
アロイとシアンの二人には強がって見せたが、小さいバケモノとの度重なる戦闘で最早彼の心は疲弊しきっていた。
何度もこみ上げる吐き気のせいで、喉が焼けるように痛む。
トラウマの原因に再び脅かされる恐怖――――
覚悟していたとはいえ、それは想像以上に耐え難いものであった。
そして、本番はこれからなのだ。
巣穴から兵士達の亡骸、もしくは遺品を探し出さねばならない。
あのバケモノ達に囲まれながら――――
それでようやく目的が達成される。悪夢から逃れるための、根拠の無い弔いが。
(大丈夫…僕はやれる…やれる…)
ハロルドは両手を合わせ祈るように自分に言い聞かせながら、アロイの合図を待った。
アロイが巣穴の中央まで進んだところで止まった。
どうやらバケモノが襲ってくる気配は無い。
――アロイが手を上げる
合図だ。
シアンが頷き、ハロルドに目線を送る。
そして二人は、アロイを追いかけるように歩き出した。
血の力によって、周囲がハッキリと見えている彼女の足取りは軽い。
それとは対照的に、ハロルドの歩みは慎重だ。
一歩一歩、踏み締めるように進む。
(なんだか…息苦しい…目眩…か…?)
それは極度の恐怖に晒された、ストレスによるものだった。
ハロルドはガクンッと体制を崩す――――
――まずい!
その拍子に、倒れまいと横へ力強く踏み込んだのがまずかった…
――ガシャアンッ!――カランッカランッカランッ…
周辺に散乱していた、何か金属製の物を蹴り飛ばしてしまったのだ…
(終わった…)
ハロルドは絶望すると同時に、全身の力が抜けてしまった。
その場にヘタリ込む。
今にバケモノ共が群がってくるに違いない――――
ハロルドはギュッと目を瞑った。
(二人ともすまない…!)
心でシアンとアロイに謝罪の言葉を叫びながら、その時を待つ――――
だが…何も起きない…
(あれ…?)
ハロルドは目を開けた。
前を歩くシアンがこちらを振り向き、ジトーっとした冷ややかな視線を向けてくる。
「小せぇのと違ってデカイのは寝付きが良いらしいな。」
二人を待っているアロイが、ハロルドに聞こえる程の声で話し出す。
(おぃいっ!)
ハロルドは叫び出しそうになるのを必死で抑え、目で訴えた。
しかし、これまた何も起こらない…
(これは…本当に大丈夫なのでは…?)
ハロルドは胸を撫で下ろした。
急に馬鹿馬鹿しくなって笑いがこみ上げる。
(は、ハハッ…何をあんなにビクビクしていたんだか…さっさと遺品を探して帰ろう…もうすぐ僕は、あの悪夢から開放されるんだ…)
気が早いとは思うが、ハロルドの心は少しだけ軽くなった――――
(そもそも薄暗いのがいけない…タイマツがまだあるじゃないか…)
バケモノ達の発する光があるのだから勿体無いと、使用するのを控えていた。
彼はその場に屈み込み、新しいタイマツを懐から取り出す。
続けて取り出したのは、これまた小さな棒状の何か。
タイマツ担当の彼は、その予備と火起しの道具を預かっていた。
その道具とは、黒い金属の棒を刃で削るだけで大げさな火花が散る。
ハロルドでも簡単に火が起こせる便利な代物だ。
ギュリッ――ギュリッ――――ボッ――
タイマツに火が灯される。
(やはり、タイマツがあったほうが見やすいな。心無しか周囲も明るくなった気が…)
――明るい?――いや…赤い?――――
ハロルドは、ようやく気付いた…
先ほどまで薄緑色の光を放っていた壁が、真っ赤に染まっていることに…
「「ギュヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!」」
鳥の群れでも湧いたかのような、耳障りな音が響き渡る――――
奴等が、目覚めたのだ――――
そこには、薄緑色の光にぼんやりと照らされた空間が広がっている――――
その光がバケモノから発せられていると知らなければ、美しいと感じていたかもしれない。
シアンは目を凝らした。
何やらそこら中に物が散乱しているようだ。
そして…
(あの壁に張り付いているのが全て、例のバケモノ…)
大きさは様々だ。丸々と膨らんだ奴から細長い奴まで。
とにかく数が多い。
だが、幸いな事に動いている様子は見られ無かった。
シアンはバケモノを観察し終えると、後ろに控えていたハロルドとアロイの元へと戻る。
「中の奴等に動きは無い…あれを眠っている状態と考えるなら、いけるはず…」
「よし…まずはオレが中に入る。大丈夫そうだったら合図を送るが…ダメな時はわかってるな?」
それは、ギリギリ聞き取れる声量での会話であった。
その言葉に二人が小さく頷く。
『アロイが時間を稼いでる間に、シアンがハロルドを連れて逃げる。』
事前に何度も言い聞かされていた事だ。
そう言い終えると、アロイは何とも堂々とした足取りでバケモノの巣穴へと入って行くのだった。
その様子を固唾を飲んで見守るハロルド。
彼の精神は今、ギリギリのところで何とか踏み止まっている状態である。
アロイとシアンの二人には強がって見せたが、小さいバケモノとの度重なる戦闘で最早彼の心は疲弊しきっていた。
何度もこみ上げる吐き気のせいで、喉が焼けるように痛む。
トラウマの原因に再び脅かされる恐怖――――
覚悟していたとはいえ、それは想像以上に耐え難いものであった。
そして、本番はこれからなのだ。
巣穴から兵士達の亡骸、もしくは遺品を探し出さねばならない。
あのバケモノ達に囲まれながら――――
それでようやく目的が達成される。悪夢から逃れるための、根拠の無い弔いが。
(大丈夫…僕はやれる…やれる…)
ハロルドは両手を合わせ祈るように自分に言い聞かせながら、アロイの合図を待った。
アロイが巣穴の中央まで進んだところで止まった。
どうやらバケモノが襲ってくる気配は無い。
――アロイが手を上げる
合図だ。
シアンが頷き、ハロルドに目線を送る。
そして二人は、アロイを追いかけるように歩き出した。
血の力によって、周囲がハッキリと見えている彼女の足取りは軽い。
それとは対照的に、ハロルドの歩みは慎重だ。
一歩一歩、踏み締めるように進む。
(なんだか…息苦しい…目眩…か…?)
それは極度の恐怖に晒された、ストレスによるものだった。
ハロルドはガクンッと体制を崩す――――
――まずい!
その拍子に、倒れまいと横へ力強く踏み込んだのがまずかった…
――ガシャアンッ!――カランッカランッカランッ…
周辺に散乱していた、何か金属製の物を蹴り飛ばしてしまったのだ…
(終わった…)
ハロルドは絶望すると同時に、全身の力が抜けてしまった。
その場にヘタリ込む。
今にバケモノ共が群がってくるに違いない――――
ハロルドはギュッと目を瞑った。
(二人ともすまない…!)
心でシアンとアロイに謝罪の言葉を叫びながら、その時を待つ――――
だが…何も起きない…
(あれ…?)
ハロルドは目を開けた。
前を歩くシアンがこちらを振り向き、ジトーっとした冷ややかな視線を向けてくる。
「小せぇのと違ってデカイのは寝付きが良いらしいな。」
二人を待っているアロイが、ハロルドに聞こえる程の声で話し出す。
(おぃいっ!)
ハロルドは叫び出しそうになるのを必死で抑え、目で訴えた。
しかし、これまた何も起こらない…
(これは…本当に大丈夫なのでは…?)
ハロルドは胸を撫で下ろした。
急に馬鹿馬鹿しくなって笑いがこみ上げる。
(は、ハハッ…何をあんなにビクビクしていたんだか…さっさと遺品を探して帰ろう…もうすぐ僕は、あの悪夢から開放されるんだ…)
気が早いとは思うが、ハロルドの心は少しだけ軽くなった――――
(そもそも薄暗いのがいけない…タイマツがまだあるじゃないか…)
バケモノ達の発する光があるのだから勿体無いと、使用するのを控えていた。
彼はその場に屈み込み、新しいタイマツを懐から取り出す。
続けて取り出したのは、これまた小さな棒状の何か。
タイマツ担当の彼は、その予備と火起しの道具を預かっていた。
その道具とは、黒い金属の棒を刃で削るだけで大げさな火花が散る。
ハロルドでも簡単に火が起こせる便利な代物だ。
ギュリッ――ギュリッ――――ボッ――
タイマツに火が灯される。
(やはり、タイマツがあったほうが見やすいな。心無しか周囲も明るくなった気が…)
――明るい?――いや…赤い?――――
ハロルドは、ようやく気付いた…
先ほどまで薄緑色の光を放っていた壁が、真っ赤に染まっていることに…
「「ギュヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!」」
鳥の群れでも湧いたかのような、耳障りな音が響き渡る――――
奴等が、目覚めたのだ――――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる