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脅しじゃなくてお願いです!
しおりを挟む「お前なぁ、なにもそんなに……」
「次は、ミオとレイジの、せ、セックスシーンがあるんだ。でも、俺、セックスなんてした事もないし……っ」
「あーーー、まぁでも、適当にインターネットに転がってるAVでも観てみればいいじゃねぇか」
「観たよ! 観た、けど……どうしても感情移入、出来なくて……あ、あんな、あんなの……」
顔色を赤くしたり青くしたりしながら、歩夢は押し黙る。もっと気楽に観て楽しむはずのコンテンツに、感情移入できなかっただなんて、相当なイロモノを選んでしまったのでは? と小田原が別の部分で心配を始める。
思いつく限りのことは全て試した。自分なりに努力はしたつもりなのに、それでも思ったような成果が出ない事に、歩夢は焦っているのだろう。前回のように収録を止めるわけにはいかないという、プレッシャーのようなものもあるのかもしれない。
「このままじゃ、またアフレコ失敗しちゃう……っ! もしかしたらミオ役も降ろされちゃうかもしれないっ」
そこまで追い込まれても、自分でなんとかしなければという考えにしか及ばず、誰かに頼ってもいいのだという発想は生まれない。
最悪の事態を想像して、歩夢が泣きそうな声を出すと、普段二人きりの時には不遜な態度を崩さない小田原が、わずかに動揺した様子を見せた。
「泣くなよ」
「泣いてない……っ」
「……はぁ。そんな風に自分で自分を追い込まなくても、もっと周りを上手く使えって」
「周りを……上手く……」
だからさっさと頼ってこい。
小田原は言外にそう示唆したつもりだった。
「……小田原さん、俺のマネージャーだよね?」
「あ? まぁ、な……?」
「前に『タレントが円滑に仕事を行えるように、環境を整えるのが俺の仕事』って言ってたよね?」
「た、たしかに言ったな……」
こうして一つ一つ言質をとられていく様は、まるで脅されているような気分になる。ただ一言お願いと、助けて欲しいと、そう言えばいいだけなのに、頼り方を知らないにも程があると苦笑いを浮かべる。それは会話のほとんどが口喧嘩に変わるような関係を作っていた、これまでの弊害なのかもしれない。しかし歩夢が自分に素をさらけ出すには、それが一番手っ取り早いと小田原は考えていた。
「歩夢、あのな」
そんな風に睨み付けなくとも、大御所の先輩には少なからず顔見知りがいるのだから、いくらでも繋いでやる。次の言葉が出ないように固まってしまった歩夢に、はじめくらいは譲歩してやるかと小田原がそう口を開きかけた時。被されるように発せられた歩夢の言葉は思ってもみない内容だった。
「だったら……! 俺の練習、付き合ってよ……!」
「は……はぁ……?!」
他に人気のない地下駐車場。その入り口に立ったままで、言葉の応酬を交わしていた二人は、小田原の素っ頓狂な叫びを最後にピタリと会話を止めた。
今までに見せたことのない反応をする小田原に、自分がどんなに突拍子のない提案をしているのかを実感して、歩夢はじわじわと頬を染めていく。
「……俺、頭で考えるだけじゃ分からないんだ。この前もそうだったけど、どうやって声を出したらいいのか、全然、分からない」
視線を彷徨わせながら、どうしてそういう結論に至ったのかを語り始める。
「小田原さんも言ってたでしょ。分からないなら、実際に経験するしかないって」
覚えてないのか、と睨まれれば、小田原もたしかに言ったと記憶していた。あの時は荒治療とはいえ、流石にやりすぎだったと反省したのだ。どうとでも口で教えることだって出来たはずなのに、自分の一挙手一投足に過敏なほど反応を示す歩夢が面白くて、可愛くて、どうしても止められなかった。完全な自分の感情に任せた行為だったから。
普段は毛を逆立てた猫のように、警戒心丸出しで反発してくるくせに。嫌だと言いながらも縋り付いてくる様は、小田原の心を大いに揺さぶっていた。ただの生意気なクソガキだと、そう思っていただけのはずなのに、あのままでは無理やりにでも手篭めにしてしまいそうで、なんとか理性を総動員して部屋を後にしたのだ。
それなのにあれ以上のことを、本人から望まれるだなんて。小田原は変わらない表情の下で、ぐるぐると思考が混乱を極めていた。
その心中とは裏腹に、まったく反応を見せない小田原にやはりダメかと肩を落とした歩夢は、ついと視線を逸らす。
「……小田原さんが無理なら、他の人に頼むから良いよ」
そんなことを言って背を向けようとする歩夢の腕を、小田原は反射的に掴んでいた。
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