君はぼくの婚約者

まめだだ

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「さくらちゃん、なんか調子悪そうじゃない?」

「んー?平気平気。抑制剤弱いのに変えたからちょっとホルモン乱れてるだけ」

「え、大丈夫なの?」


画面越しに心配そうな顔を見せる親友にへらりと笑う。

親友とはあのパーティー以来だった。
あの日の無礼を謝るオレを笑顔で許してくれる。


「いいの、気にしないで。あのときも言ったけど、はじめからオレの出る幕じゃなかったんだから。婚約者と仲直りできたならよかったね」

「オレ、直孝とケンカしてないよ」

「そうなの?さくらちゃん、婚約者くんに負い目あるみたいだったから、ずっと仲違いしてるんだと思ってた」


オレは少し考えて「そうかも」と頷いた。


「長い間、直孝は周りに言われて仕方なくオレと婚約したと思ってたんだ。直孝の意思じゃないって。でも、それもオレの勘違いだったんだ」


そこから自分の気持ちを話す。

学生のときからずっと親友でいてくれた相手は、オレの長い話をうんうんと聞いてくれた。そして最後にまた「よかったね」と言ってくれる。


「さくらちゃんが幸せならよかった。オレもいまだから言うけど、一目惚れだったんだよね」

「えっ?」

「とってもいい匂いがしたから、さくらちゃんがオメガってことはすぐにわかったんだけど、もしさくらちゃんがベータかアルファだったらすぐさま婚約者くんから奪いとってたかも~」

「えっ!」

「えへへ、役得だったなあ。寮も隣だったし、発情期のお手伝いもしあったもんね。お互いオメガでよかったね!」

「えっ!?」

「これからも親友としてよろしくね」

「え、あ、うん。それはもちろん!」


ちょっと予想外の告白もあったが、オレの方こそ感謝している。ずっと彼に救われてきたから。

オンラインの通信を切った後もほこほこした心地で浮わついていると、帰ってきた直孝がオレの自室に顔を出した。


「おかえり、直孝」

「ただいま」


直孝はいまオレの家に間借りして住んでいる。

元々オレがいないときからこの家に泊まることの多かった直孝は客間を一室与えられていたが、お互いの番行動が顕著になってきた最近は、ほぼオレの部屋で過ごしている。オレもその方が安心するし。


「なんか楽しそうだな」

「まあね。そういう直孝はここに皺が寄ってるけど」


近付いてぐいぐい眉間を押せば、そのまま抱き締められてキスをされた。


「…今日、オトモダチと約束してたんだろ?」


相変わらず直孝は親友のことを敵視している。
お互いオメガとはいえ、過去あったことを思えば仕方がない。オレだって直孝にそんな相手がいたら嫉妬する。嫉妬しまくる。


「うん。でも大丈夫、もう直孝一筋だから」

「当たり前」

「だろ?」


背伸びして、ちゅうとオレから直孝の唇を吸う。
一度強く抱き締めてから腕をほどいた。


「さあて、今晩のミヨさんのご飯はなにかなー」

「待って」


背を向けたところで再び腕を取られた。


「なんか智史、甘い匂いがする」

「ん?ホルモンのせいかな?」


くんくんと自分の匂いを確かめるが、よくわからない。


「ていうより……」


首筋に顔を寄せた直孝がちゅうとうなじにキスをした。

その瞬間、びりびりっと電気のような刺激が駆け抜ける。


「ほらやっぱり、花の蜜みたいな匂いがする。もしかして発情期きそう?」

「お、まえな~~!!」


オレはうなじに手を当てて真っ赤な顔で振り返った。『発情期きそう?』じゃない。いまので完全に誘発された。


「え?智史?」


ぶわりと広がる甘い匂い。今度はさすがに自分でもわかった。体温が上がる。呼吸が早くなって、腹の奥がきゅうとなる。


「責任、とれよ」


腕を回して、直孝の広い胸に顔を擦りつける。
やさしい匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。


「智史!!」


興奮したアルファにベッドへと連れ込まれる。
そのままなし崩しかと思いきや、直孝はスマホを手にオレに発情期がきたことを各所へ連絡していた。

くそ、案外余裕で腹が立つ。頼りになるのが滾る。


「直孝」


番の胸ぐらを掴み寄せ、噛みつくみたいにキスをした。


「――はやくオレのこと番にして」


君はオレの婚約者。そして、大切な片割れ。



おしまい
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