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それからオレと柘榴は龍の里を出て人の街に降り立ち、二人で暮らしている。
出会ったときはそう変わらなかった身長も、成長期を迎えた柘榴はにょきにょきと伸びて、一年もたたない間に見上げるようになってしまった。細かった身体にはしっかりと筋肉がついて、もう立派な青年だ。
龍族である柘榴は、知能も身体能力も感覚も、なにもかも人間より優れている。
右も左もわからないのは同じだったはずなのに、いつのまにか柘榴は人の世に溶け込み、オレの手を逞しく引っ張ってくれている。
なんて頼りになる番なんだ。
「あたりまえだよ、輝のためだもの」
感心していると、うれしそうな様子の柘榴が近づいてくる。
番の儀、つまり心も身体も繋がった二人は特別な縁で結ばれるらしく、柘榴は何を言わなくてもオレの感情を読むことができる。
これも龍族の能力のひとつだそうで、人間のオレは柘榴の心が読めないのだから不公平だ。
文句を言っても、柘榴はその真っ赤な瞳を甘く染めて「輝と同じことしか考えてないから」と喜ぶばかり。
心を読まれた恥ずかしさから、白い髪をでたらめに撫で回してやると、柘榴は声をあげて楽しそうに笑った。
身体が大きくなっても、オレにとっては出会った頃と変わらない、少年のようにみずみずしく美しい最愛だ。乱れた髪を手櫛で整えて、正面からぎゅっと抱き締めてやる。
「大好きだよ、柘榴」
「えへへ。オレも輝が大好き!」
「心が読めるってわかってても、つい言っちゃうんだよなあ」
言葉にすれば柘榴も同じように返してくれるから、ますますうれしくなって、オレの心を読んだ柘榴もさらに喜んでいる。番って幸せだな。
「ん?言葉にしてくれた方がうれしいよ。オレたちが読めるのは番の感情だから」
「感情?」
「番だから大体はなに考えてるかわかるけど、読めるのは、うれしそうだなーとか、怒ってるなーとか、そういう感情だけ」
「そうなんだ!」
「口に出すのもいいよね。好きって気持ちは伝わってても、オレだって輝に言ってあげたいし、喜んでるのを見たらもっとうれしくなる」
やさしく微笑む柘榴を見上げて、オレも「えへへ」と笑った。
そして、ふと思う。
菫青は番だったから、当然石英の気持ちは見えていただろうけど、石英はどうだったのかな。菫青はきちんと言葉にして伝えてあげていたのかな。
「輝」
呼ばれて顔をあげると、ちゅっと唇を重ねられた。
「菫青のことなんてどうでもいいって。過ぎたことだろ」
「……それもそっか」
石英はとうの昔に儚くなった人だし、オレは柘榴と番になって、菫青とはもう関わりがない。考えても仕方ないや、とオレはぎゅっと柘榴に抱きついた。
***
「…石英、石英…」
青に包まれた神殿で、青い龍が蹲っている。
この龍は二度も番を失ったことで、ほとんど気が狂いかけていた。
「石英、石英……」
ところが力が強すぎて、神殿に隔離されてもなお狂いきれずに生きている。
龍の一族はこの青い龍を長にしようと考えていたが、こうなってはもうだめだ。むしろ強大すぎる力が仇となって危険視されていた。
そして、先般里を出た白い龍を次期族長に推してはどうか、という意見が出はじめる。
「柘榴は元々菫青の対になるほどの力を持ち、以前は小さかった体躯も、成体となりすっかり立派になった。それにあそこは番との関係が良好だ。菫青の対抗馬としては申し分ないと思うが」
「たしかに、若くて力のある龍といったら、菫青の次点は柘榴しかない」
「では、次期族長候補筆頭には白龍を」
「賛成」
「賛成」
神殿の奥では青い龍が蜷局を巻いている。
「…石英、石英…」
ゆらりともたげた頭の頂で、きらりと金の瞳が光った。
「……ああ、輝」
遠く離れた人の世で、柘榴は最愛の耳に触れないよう、ひっそりと小さく吐き捨てる。
「――この、狂い損ないが」
血のように赤い瞳を烈々と燃え上がらせて。
「輝はオレの番。誰にも渡さない」
出会ったときはそう変わらなかった身長も、成長期を迎えた柘榴はにょきにょきと伸びて、一年もたたない間に見上げるようになってしまった。細かった身体にはしっかりと筋肉がついて、もう立派な青年だ。
龍族である柘榴は、知能も身体能力も感覚も、なにもかも人間より優れている。
右も左もわからないのは同じだったはずなのに、いつのまにか柘榴は人の世に溶け込み、オレの手を逞しく引っ張ってくれている。
なんて頼りになる番なんだ。
「あたりまえだよ、輝のためだもの」
感心していると、うれしそうな様子の柘榴が近づいてくる。
番の儀、つまり心も身体も繋がった二人は特別な縁で結ばれるらしく、柘榴は何を言わなくてもオレの感情を読むことができる。
これも龍族の能力のひとつだそうで、人間のオレは柘榴の心が読めないのだから不公平だ。
文句を言っても、柘榴はその真っ赤な瞳を甘く染めて「輝と同じことしか考えてないから」と喜ぶばかり。
心を読まれた恥ずかしさから、白い髪をでたらめに撫で回してやると、柘榴は声をあげて楽しそうに笑った。
身体が大きくなっても、オレにとっては出会った頃と変わらない、少年のようにみずみずしく美しい最愛だ。乱れた髪を手櫛で整えて、正面からぎゅっと抱き締めてやる。
「大好きだよ、柘榴」
「えへへ。オレも輝が大好き!」
「心が読めるってわかってても、つい言っちゃうんだよなあ」
言葉にすれば柘榴も同じように返してくれるから、ますますうれしくなって、オレの心を読んだ柘榴もさらに喜んでいる。番って幸せだな。
「ん?言葉にしてくれた方がうれしいよ。オレたちが読めるのは番の感情だから」
「感情?」
「番だから大体はなに考えてるかわかるけど、読めるのは、うれしそうだなーとか、怒ってるなーとか、そういう感情だけ」
「そうなんだ!」
「口に出すのもいいよね。好きって気持ちは伝わってても、オレだって輝に言ってあげたいし、喜んでるのを見たらもっとうれしくなる」
やさしく微笑む柘榴を見上げて、オレも「えへへ」と笑った。
そして、ふと思う。
菫青は番だったから、当然石英の気持ちは見えていただろうけど、石英はどうだったのかな。菫青はきちんと言葉にして伝えてあげていたのかな。
「輝」
呼ばれて顔をあげると、ちゅっと唇を重ねられた。
「菫青のことなんてどうでもいいって。過ぎたことだろ」
「……それもそっか」
石英はとうの昔に儚くなった人だし、オレは柘榴と番になって、菫青とはもう関わりがない。考えても仕方ないや、とオレはぎゅっと柘榴に抱きついた。
***
「…石英、石英…」
青に包まれた神殿で、青い龍が蹲っている。
この龍は二度も番を失ったことで、ほとんど気が狂いかけていた。
「石英、石英……」
ところが力が強すぎて、神殿に隔離されてもなお狂いきれずに生きている。
龍の一族はこの青い龍を長にしようと考えていたが、こうなってはもうだめだ。むしろ強大すぎる力が仇となって危険視されていた。
そして、先般里を出た白い龍を次期族長に推してはどうか、という意見が出はじめる。
「柘榴は元々菫青の対になるほどの力を持ち、以前は小さかった体躯も、成体となりすっかり立派になった。それにあそこは番との関係が良好だ。菫青の対抗馬としては申し分ないと思うが」
「たしかに、若くて力のある龍といったら、菫青の次点は柘榴しかない」
「では、次期族長候補筆頭には白龍を」
「賛成」
「賛成」
神殿の奥では青い龍が蜷局を巻いている。
「…石英、石英…」
ゆらりともたげた頭の頂で、きらりと金の瞳が光った。
「……ああ、輝」
遠く離れた人の世で、柘榴は最愛の耳に触れないよう、ひっそりと小さく吐き捨てる。
「――この、狂い損ないが」
血のように赤い瞳を烈々と燃え上がらせて。
「輝はオレの番。誰にも渡さない」
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