龍の番の生まれ変わり

まめだだ

文字の大きさ
4 / 4

4

しおりを挟む
それからオレと柘榴は龍の里を出て人の街に降り立ち、二人で暮らしている。

出会ったときはそう変わらなかった身長も、成長期を迎えた柘榴はにょきにょきと伸びて、一年もたたない間に見上げるようになってしまった。細かった身体にはしっかりと筋肉がついて、もう立派な青年だ。

龍族である柘榴は、知能も身体能力も感覚も、なにもかも人間より優れている。

右も左もわからないのは同じだったはずなのに、いつのまにか柘榴は人の世に溶け込み、オレの手を逞しく引っ張ってくれている。

なんて頼りになる番なんだ。


「あたりまえだよ、輝のためだもの」


感心していると、うれしそうな様子の柘榴が近づいてくる。


番の儀、つまり心も身体も繋がった二人は特別な縁で結ばれるらしく、柘榴は何を言わなくてもオレの感情を読むことができる。
これも龍族の能力のひとつだそうで、人間のオレは柘榴の心が読めないのだから不公平だ。

文句を言っても、柘榴はその真っ赤な瞳を甘く染めて「輝と同じことしか考えてないから」と喜ぶばかり。


心を読まれた恥ずかしさから、白い髪をでたらめに撫で回してやると、柘榴は声をあげて楽しそうに笑った。

身体が大きくなっても、オレにとっては出会った頃と変わらない、少年のようにみずみずしく美しい最愛だ。乱れた髪を手櫛で整えて、正面からぎゅっと抱き締めてやる。


「大好きだよ、柘榴」

「えへへ。オレも輝が大好き!」

「心が読めるってわかってても、つい言っちゃうんだよなあ」


言葉にすれば柘榴も同じように返してくれるから、ますますうれしくなって、オレの心を読んだ柘榴もさらに喜んでいる。番って幸せだな。


「ん?言葉にしてくれた方がうれしいよ。オレたちが読めるのは番の感情だから」

「感情?」

「番だから大体はなに考えてるかわかるけど、読めるのは、うれしそうだなーとか、怒ってるなーとか、そういう感情だけ」

「そうなんだ!」


「口に出すのもいいよね。好きって気持ちは伝わってても、オレだって輝に言ってあげたいし、喜んでるのを見たらもっとうれしくなる」


やさしく微笑む柘榴を見上げて、オレも「えへへ」と笑った。


そして、ふと思う。

菫青は番だったから、当然石英の気持ちは見えていただろうけど、石英はどうだったのかな。菫青はきちんと言葉にして伝えてあげていたのかな。


「輝」


呼ばれて顔をあげると、ちゅっと唇を重ねられた。


「菫青のことなんてどうでもいいって。過ぎたことだろ」

「……それもそっか」


石英はとうの昔に儚くなった人だし、オレは柘榴と番になって、菫青とはもう関わりがない。考えても仕方ないや、とオレはぎゅっと柘榴に抱きついた。



***
「…石英、石英…」


青に包まれた神殿で、青い龍が蹲っている。

この龍は二度も番を失ったことで、ほとんど気が狂いかけていた。


「石英、石英……」


ところが力が強すぎて、神殿に隔離されてもなお狂いきれずに生きている。

龍の一族はこの青い龍を長にしようと考えていたが、こうなってはもうだめだ。むしろ強大すぎる力が仇となって危険視されていた。

そして、先般里を出た白い龍を次期族長に推してはどうか、という意見が出はじめる。


「柘榴は元々菫青の対になるほどの力を持ち、以前は小さかった体躯も、成体となりすっかり立派になった。それにあそこは番との関係が良好だ。菫青の対抗馬としては申し分ないと思うが」

「たしかに、若くて力のある龍といったら、菫青の次点は柘榴しかない」

「では、次期族長候補筆頭には白龍を」

「賛成」

「賛成」


神殿の奥では青い龍が蜷局を巻いている。


「…石英、石英…」


ゆらりともたげた頭の頂で、きらりと金の瞳が光った。


「……ああ、輝」


遠く離れた人の世で、柘榴は最愛の耳に触れないよう、ひっそりと小さく吐き捨てる。


「――この、狂い損ないが」


血のように赤い瞳を烈々と燃え上がらせて。


「輝はオレの番。誰にも渡さない」
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

a_m
2022.06.23 a_m

タイトルに惹かれて読みました!
めっちゃ続きが気になる作品なので、続き読みたいです‼︎

解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。