ヴァンパイア狂想曲

水無月

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第1話

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1988年6月。

梅雨真っ盛りの雨天だった。
学校帰りに一雨降ってきたせいで、仕方なくお化け屋敷として有名な廃屋で雨宿りしていた。
俺は学校では浮いた存在だ。
何せ自分でも分かるくらいの無表情。
笑い話を見ても聞いてもクスリとも笑わない。

単純に面白いとは思ってないからなのだが。
大人びていると言えば聞こえは良いが、要はある意味ひねくれたガキな訳だ。

そんなおかしなガキが学校で馴染めるはずもない。
今のように高校生にもなればある程度の個性として受け入れられる余地はあるんだろうが、7,8歳の子供にそんな度量があるはずもない。

俺は当然の結果として孤立した。
正直言って困ることが無かった。
特にイジメに遭うこともなく、最低限度の会話もあった。
担任教師にも恵まれていたと思う。

そんな俺なので、友達の家に避難するなんて事は不可能だった。
そもそも屋敷は町外れにあって最初から民家なんて殆ど無かったが。
それに・・・大人びたとは言っても所詮は子供。

外は結構な雨が降っているし、ただ雨が止むのを待っていても仕方ない。
探検してみようと思い立った。

幸いにもまだ明るいし、恐怖感はない。
無造作に扉を開け放ち、中を覗き込んでは次の部屋へと繰り返していった。


いくつの部屋を覗いただろうか。
ふと、違和感を覚えた部屋があった。
他の部屋は例外なくホコリがタップリと積もっていたのに、その部屋は一部だけがホコリの存在を拒否したかのように綺麗な状態だった。

床には赤い絨毯が敷かれており、そこだけがよく目立つ。
よく見れば足跡っぽいのが点々と入り口から続いている。

本棚だった。
難しそうな本が詰まった本棚。
その横に綺麗な領域がある。
ゲームなんかで見たことがあったので理由は分かった。

この本棚は動かせる。
ただし、非力な子供には不可能だと子供ながらにも理解できた。

何か仕掛けがあるはずと思い、調べていく。
本棚の中の本は外れない。
どうやらダミーの本らしい。
ならばと、俺は片っ端から抜き出せる本を探した。
何十冊目かで簡単に抜き出せた本は・・・辞典だった。


本棚は滑るように横にずれていき、秘された入り口を開示した。
内部には階段が地下へと向かっており、壁には弱々しい

そんな明らかに不自然な電球にすら気が付かなかったのは、やはり俺もオトコノコだったからだろう。
正直に言えば、ワクワクしていたのだ。
多分誰も見つけていない地下への入り口を見つけたことに。

今の俺ならそんな電球を見つけた時点で逃げていたと思う。
当然だ。
電球が浮かんでいるとか、明らかに異常だろう。
当時の俺はおバカだったのだ。

何段の階段を下ったのか分からない。
しかし終点は当たり前に訪れた。
終点には重厚な扉だけが存在しており、他には何もない。

俺は迷わず扉に手をかけた。
瞬間、何か理解できない感覚を覚えた。
本能に訴えてくるような感覚。

今の俺なら理解できる。
『恐怖』

理解出来なくても、身体は反応する。
目の前にあるモノを目にして、動きが取りにくい。
フラフラと吸い寄せられるように、夢遊病者のような足取りでソレに近づいていき・・・。

蓋を開けた。

その時の衝撃は今でも忘れない。
というか忘れさせてくれない。

きっと女神様を人間の限界まで落とし込んだらこうなるんじゃないかって位に整った容貌の・・・というか美貌を持った少女が眠っていたのだ。
誰だって衝撃を受けるに決まっている。

その後の反応は大抵が腰を抜かして逃げる一択だろうが・・・。
俺は違った。
触ってみた。・・・冷たい。
でも柔らかな頬は指先を優しく押し返してくる。
荒れとは無縁そうな肌、それに負けないくらいに瑞々しい唇も柔らかかった。

俺は何を思ったのか、唇を割り、指先をその中に沈めていき・・・。



カプッ
と、擬音がつきそうな感じで噛まれた。
反射的に指を引き抜こうとして気付いた。

動けない。
指どころじゃない。


この時、少女が目を開けているのにやっと気付いた。
こちらを見つめながら指から出てくる血を舐めている。
唇に血をなすりつけて、指に吸い付いき、舌で舐め回していた。
子供でも男だし、仕方ないのだがその光景はなにやら淫靡で俺のスボンはテントを張っていた。

それに、気持ちよかった。
俺の血が、こんな可愛い女の子の中にー
そう考えただけでもゾクゾクした。

彼女の様子もおかしかった。
目は潤み、息が荒くなっていて肌がしっとりと汗ばんでいるのがハッキリ分かった。
それを確認したところで俺は快楽に意識を明け渡した。

何分くらいそうしていたのか、気がつけば俺は彼女に膝枕されて横になっていた。
尋常ではない快感で意識が飛んでいたらしい。

「せっかく今まで我慢してたのに・・・君のせいで台無しよ」

鈴を転がすような聞いているだけで脳が蕩けそうな声で言われた。
苦情を言っているはずなのに微笑んでいる。
おもむろに顔を近づけてきて無造作に俺の唇を自分の唇で塞ぐ。
わけがわからない。
俺のファーストキスが・・・。

「初めての吸血に、初めてのキス・・・これは責任とってもらわないと」

そんな事を宣っているがキスは自分からしてきたのに・・・。

「こういう時は男らしく責任とるのよ。それにもう君の血じゃないとダメみたい・・・これまで頑張って血を我慢してきたのに・・・」

泣きそうな顔で言われると弱いのはこの時でも今でも変わらない。
俺はこの時点でこの少女に恋をしているのに気づいている。
だからその顔は俺にとっては特効だ。

でも責任とかどうしろと・・・。

「考えがあるから大丈夫よ」

まるでハートマークがついていそうな甘い声で囁かれて俺はもうホントにいっぱいいっぱいだった。

その後すぐに「準備しなくちゃ」とか言って俺を外に送り出し、「また後でね」と言って扉を閉められた。

もはやあれは夢だったのではと思いながら帰宅した。
家は父子家庭で、父親は時々しか帰ってこない。
仕事が忙しいとか言っているが、大方女の家にでも入り浸っているのだろう。
母親が出ていったのも父親の浮気グセにキレたからだった。

思えば、俺がこんな無感動なガキになったのもあのあたりからだったように思う。
今となってはかえって好都合だが。
子供をほったらかして女遊びを繰り返すダメ親父だろうが生活費さえ入れてくれればどうでも良い。

朝に炊いておいた白米とインスタントの味噌汁。加えて納豆と鮭の切り身が晩餐。
ウマイ。

食事が済めばあとは風呂に入って寝るのみ。
手早く入浴を済ませ、ベッドに潜り込んで目を閉じればあの少女の事しか考えられない。悶々とした夜を過ごした俺が、驚きすぎて悲鳴を上げるのは翌朝のことだった。
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