彼女と二人の妖怪暮らし

水無月

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鬼編

12話 鬼3 守

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僕はとても弱い。

家族の勧めで入った道場では同門の先輩や同期達に勝った試しが無い。
…この道場の開祖もそうらしいが、僕の家はそもそも相当な昔に京の都から移住してきた。
かつてはあの有名な陰陽師、安倍晴明の弟子だったらしいが…真実は分からない。

そんな家系に産まれたのに、僕はとても弱い。

それでも僕は思う。
男に生まれついたなら、好きな女の子の一人くらいは命を賭けてでも守れなきゃ。
だから僕は今日も道場で転がる。


なんてことはないんだ。
万一、律を奪われた時の痛みに比べればこんな痛みは無視できる。
だから今日も無様に打ち倒される。
少しでも強くなるために。




「そこまでッ!!!」

師範の声で我に返った。
情けなくも、妹弟子に負けて一瞬気絶していたらしい。
息が整わない…彼女の方は息すら乱してないのになぁ…。

「先輩、ありがとうございましたっ。…大丈夫ですか?」
「大丈夫。強くなったね…もう僕じゃ鍛錬にもならないかな?」
「いえいえ、感謝ですよ先輩。私と組手してくれるのって先輩だけですもん」

彼女は一年後輩だが、僕をあっという間に追い抜いて道場でも片手で数えるべき遣い手に成長していた。
あぁ、情けない。
後輩に負けて、あまつさえ気遣われるとか。
まぁ武術の稽古では年齢はあんまり関係無いんだろうけど、オトコとしてのちっぽけなプライドとかそういうのがやっぱりね…。

「ふん、柊は大分力の使い方が分かってきたな。その調子で精進しなさい」
「ハイ、師範!」
「安倍は…まあ護身程度の役には立つんじゃないか?相手を制圧するだけが技ではないからな」
「ありがとうございます」

師範は慰めるように言ってくれたけど、それって才能ナシ的な意味なんじゃ…?
分かってるんだけどね。

僕の目的としてはせめて佐藤を圧倒出来たらいいなー、位の気持ちだし身が入ってないのかな…?
正直、師範や兄弟子みたいな気迫というか威圧感みたいなのを全く感じない時点でそこまでの物理的脅威ではないと思うんだけど、律の安全が掛かっている以上は完全を目指したいし。
そうやったらもっと強くなれるんだろうか。

「安倍、お前何かあったのか?いつもよりも気合が入っているようだが」
「いえ、もしかしたらアホなチンピラみたいのに襲われるかも知れないので少しでも鍛えようかと」
「ふむ?…言っておくが、みだりに我々の技を人間には使うなよ?」
「はい。大丈夫ですよ師範」

師範にはこう言ったが、相手は多分鬼の一族だ。
戦う以上は手加減は出来ないと思うし、完膚なきまでに叩き潰すつもりでいる。

潰すなら徹底的に、後々に遺恨を残さない為にも全力で。

これは僕の信条だ。
勝てても恨まれて逆襲されちゃたまらないからね。

「さてと…今日はもう帰ろうかな。タマにご飯あげないと」
「えーっ、先輩もう少しだけ組手を!」
「ゴメンね、やっぱり生き物を飼ってるとそこはルーズには出来ないからさ、勘弁して」
「うぅ…分かりましたぁ…」

後輩ちゃんはそういってうなだれて…あ、兄弟子の一人に絡んでるな。
スイマセン先輩、後輩ちゃんをよろしくお願いします!
脱出!






守の後ろ姿を見送っていた師範がポツリと呟いた。

「どこの誰だか知らんが…哀れな者が居たものだ。よりにもよって安倍と敵対するとはな…」
「おー?守がだれかとやるんスか?」
「む?いや分からんが、そんなような事を言っていたんだ」
「無謀なアホっスねー」
「あぁ、全くだ。安倍は自分がどれだけ強いのか分かっていないからな…やりすぎなければ良いんだが」
「イヤー、それって師範のせいなんじゃないっスかねぇ?」



守は弱い。
同門の兄弟弟子達には全く勝てない。
勝てないが…。


守は知らない。
自分が既に佐藤程度の未熟な鬼になら楽に勝てるほどの実力を手に入れている事を。


自分の力が通じると良いな…なんぞと暢気な事を思いながら帰途に着くのであった。
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