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11.外出
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翌朝。前日の夜からずっと外出を楽しみにしていた子らは、いつもこのぐらい真剣に食べてほしいなと思えるぐらいに早く朝食を食べ終え、準備も順調に進んだ。子らはテンション高めで俺も笑顔が溢れてくる。
外に出ると、先頭は俺と魔王、最後尾には執事。ギルバードは魔王に抱かれ、赤ん坊のホワイトは執事に抱かれる。そして大人の間に、子らが大きい子と小さい子、それぞれ二名ずつ手を繋いでゆっくりと店や人で賑わっている街を歩いた。おそらく村人などに扮した暗殺集団もついてきているだろう。
魔王は今、長い漆黒の髪を後ろに纏め、細かく綺麗な模様の入った銀色のハーフマスクを装着していた。さらにいつもの黒い装いではなく、白いローブを身に纏いフードを深く被っている。あきらかに変装をしている様子だ。
魔王にとって、今の生活は居心地が悪いのではないか? ふと、魔王がもっと過ごしやすく生きられるようになるアイディアはないかと考えてしまう。
――魔王のために?
そこまでする必要はないのか。
魔王に向けていた視線を、後ろを歩く子らに移した。全員で出かける機会はないらしく、新鮮な空気を浴びながら楽しそうに歩いていた。だが、この平和な雰囲気は秋の空のように、すぐに崩れるだろう。チートの力を使えば余裕で乗り越えられるとは思うが。
しばらくすると、予想通りに「疲れた」とチラホラ聞こえ始めた。とりあえず休憩のために道端にある草むらに誘導し、並んで腰を下ろす。辺りには飲食店が多いからか、腹のすくような香りが漂ってくる。目の前に菓子を手に持つ母と幼い子が通り過ぎた。なんとなく子らをチラリ見る。
「お菓子、食べたい……」
予想通り、幼い子らはその親子を眺めながら羨ましがっているようだ。
「どこかの店の中でひとやすみしようか。どこかでデザートでも食べようか?」
「やったー!」
「食べたーい!」
俺がそう言うと、曇っていた子らの瞳が輝き出す。外観が可愛らしい、屋根がイチゴケーキのようで壁がウッド調の大きな店の中に入った。広々とした店内は老若男女で賑わっていた。
混みあっているし、ゆっくりと食べることは出来なさそうだな。すぐに小さい子ら中心に飽きだし、動き回りそうだから、目的を果たしたら迷惑をかける前にさっさと帰ろう。と思っていたのだが、女の若い店員が「おもちゃがある個室にご案内いたしますか?」と提案してくれた。俺は迷うことなく頷いた。
準備のために少し待たされる。階段を上がると、全員入っても余裕な広さのある個室に案内された。白い壁にある大きなレインボーの模様がぱっと目に入る。
円形のテーブルが三卓並べられ、大人用の椅子に混ざり子供用の椅子も人数分きちんと準備してくれていた。魔力で浮いている小さな雲の乗り物やロッキング木馬、飛び出す絵本もある。それぞれ席につき、メニュー表を眺める。ランチも充実していた。
「ついでに、昼飯もここで食べていくか?」
「その提案、良いかと思われます。リュオン様はいかがでしょうか?」
ハーフマスクを外した魔王は、楽しそうに遊んでいる子らに視線を向けていた。そして僅かに口角を上げながら「あぁ、良いと思う」と返事をした。その表情に吸い込まれそうになる。普段ツンケンなイメージなのに、子らに対しての眼差しは怒りが込み上げている時以外は本当に優しい。俺も優しい眼差しで魔王に見られたいなと、ふと思う――。
しばらく魔王を眺めていると、魔王と視線が交わった。このタイミングで俺は気になっていた質問を魔王にさりげなくぶつけた。
「魔王は人間たちにバレないためにその格好をしているのか?」
「あぁ、そうだ」
「いつまでバレないようにするんだ?」
「分からない……」
魔王似顔絵事件の時以来、なんだか気まずい空気がふたりの間を流れている。無視されずに返事をしてくれただけで、そっと胸を撫で下ろした。
育児のこともあるし、今後のために絵の訓練を受けるべきか。そもそも訓練で魔王の顔を上手く描けるようになるのだろうか?
魔王との会話は途切れた。もっと深い話をしたいが、魔王との会話を弾ませる技術はない。というか、魔王が誰かと話を弾ませるところなんて想像すらできない。
メニューを真剣に眺めているふりをしながら魔王の顔をそっと見つめた。
「魔王はこれからもずっと姿を隠して歩かないとならないのか?」
やはり気になり魔王に再び尋ねるが、返事はない。
「はい。リュオン様のお姿は世間で公開されており、リュオン様を一目見るだけで皆様は怯え、お逃げになってしまうのです」
魔王を凝視していると近くで幼子らの相手をしていた執事が代わりにそう答えた。
噂の内容の一部を執事から最近聞いたが、実際俺も直接聞いたことがある。『目が合うだけで焼き尽くされる』『すれ違うだけでズタズタに引き裂かれる』『出会ってしまうと秒で粉々になる』……魔王の噂はあちこちで聞き、内容は散々だった。だけど実際は全く違う。世間の噂はデタラメがひとり歩きをすることも多いから、実際自分の目で見て感じることが大切だなとあらためて思う。
「そうなのか……大変だな。今は人間に危害を加えず、むしろ未来ある子らを育てているのにな」
「大変ではない。それに、ただ……自業自得なだけだ。全て我が悪い。そう、因果応報のようなものだ」
魔王はボソリと呟いた。気のせいか、その言葉を放つと魔王の顔の陰が濃くなった。
「全て魔王が悪いわけではないと思うけれど……」
騒がしい環境の中、ふたりの間だけ沈黙が流れていた。
「お待たせいたしました~」
少し経つと店主である気品ある老人が自ら個室を訪れ、テーブルにランチとデザートを並べていく。そして魔法を全体にふりかける。お子様ランチのうさぎや花の形をしたソーセージがおもちゃのように踊りだし、さらに食べ物全体から「食べて」と可愛い声が聞こえるようにしてくれた。
「サービスすごいな……」と俺が呟くと「元々わたくしは旅をしていた魔法使いでして、魔力が有り余っていますから魔力を活かし子供たちに楽しみを提供できればと思いましてこうしております」と店主が語った。
このような能力の使い方もあるのか。
まだまだ、知らないことだらけだな。
楽しそうに食べている子ら以外には、外での食事だからか、おすまししていつもより行儀よく食べる子、ゆっくりのままマイペースにいつも通りの子……個性を楽しむ余裕すらある程に揉め事は起きずに平和だ。
初めての全員での外出、そして食事。まだまだ油断は禁物だが、予想以上に平和に過ごせて安堵している。
ランチとデザートを食べ終えると店を出た。
「揉め事もなく外食できて、良かったな」
「そうですね。それもあのお店の方々のお気遣いのお陰でございます」
「勇者、抱っこ~」
「おんぶして~」
小さいふたりが足に巻きついてきた。俺はピンクを抱きかかえ、イエローをおんぶした。
それから少し歩くと大工道具を取り揃えてある店に着く。
ふたりを地面に着地させるとレザーのベルトポーチから壁の欠片を取り出す。女の若い店員に軽く説明して素材と修正方法について尋ねてみた。店員はその欠片を太陽の光に当てたり、顔を近くに寄せてみたりしてマジマジと見つめていたが、分からなかったらしく店主と思われるお爺さんを呼びに行った。
「壁の欠片ですか……これは特殊な魔法で加工されている細かなダイヤモンドが内部に散りばめられている壁ですので、ここでは取り扱ってはいませんね~」と言われ、結局は仕方なく似たような色と材質の、隙間に埋めて固めるタイプの液が入った瓶を買うとその場を去った。
そういえばいつも魔王が魔法で修理していたと言っていたな。
「魔王城は特殊な壁でできていたのか……」
ギルバードを抱きながら無言の魔王の横でひとり呟くと、すぐ後ろを歩いていたスカイをおんぶしたグリーンが「何か貼り付けたりしたらどうかな?」と提案してきた。
「いいかもな。どんなの貼るか、そして必要な材料があれば途中で買おうか」
外に出ると、先頭は俺と魔王、最後尾には執事。ギルバードは魔王に抱かれ、赤ん坊のホワイトは執事に抱かれる。そして大人の間に、子らが大きい子と小さい子、それぞれ二名ずつ手を繋いでゆっくりと店や人で賑わっている街を歩いた。おそらく村人などに扮した暗殺集団もついてきているだろう。
魔王は今、長い漆黒の髪を後ろに纏め、細かく綺麗な模様の入った銀色のハーフマスクを装着していた。さらにいつもの黒い装いではなく、白いローブを身に纏いフードを深く被っている。あきらかに変装をしている様子だ。
魔王にとって、今の生活は居心地が悪いのではないか? ふと、魔王がもっと過ごしやすく生きられるようになるアイディアはないかと考えてしまう。
――魔王のために?
そこまでする必要はないのか。
魔王に向けていた視線を、後ろを歩く子らに移した。全員で出かける機会はないらしく、新鮮な空気を浴びながら楽しそうに歩いていた。だが、この平和な雰囲気は秋の空のように、すぐに崩れるだろう。チートの力を使えば余裕で乗り越えられるとは思うが。
しばらくすると、予想通りに「疲れた」とチラホラ聞こえ始めた。とりあえず休憩のために道端にある草むらに誘導し、並んで腰を下ろす。辺りには飲食店が多いからか、腹のすくような香りが漂ってくる。目の前に菓子を手に持つ母と幼い子が通り過ぎた。なんとなく子らをチラリ見る。
「お菓子、食べたい……」
予想通り、幼い子らはその親子を眺めながら羨ましがっているようだ。
「どこかの店の中でひとやすみしようか。どこかでデザートでも食べようか?」
「やったー!」
「食べたーい!」
俺がそう言うと、曇っていた子らの瞳が輝き出す。外観が可愛らしい、屋根がイチゴケーキのようで壁がウッド調の大きな店の中に入った。広々とした店内は老若男女で賑わっていた。
混みあっているし、ゆっくりと食べることは出来なさそうだな。すぐに小さい子ら中心に飽きだし、動き回りそうだから、目的を果たしたら迷惑をかける前にさっさと帰ろう。と思っていたのだが、女の若い店員が「おもちゃがある個室にご案内いたしますか?」と提案してくれた。俺は迷うことなく頷いた。
準備のために少し待たされる。階段を上がると、全員入っても余裕な広さのある個室に案内された。白い壁にある大きなレインボーの模様がぱっと目に入る。
円形のテーブルが三卓並べられ、大人用の椅子に混ざり子供用の椅子も人数分きちんと準備してくれていた。魔力で浮いている小さな雲の乗り物やロッキング木馬、飛び出す絵本もある。それぞれ席につき、メニュー表を眺める。ランチも充実していた。
「ついでに、昼飯もここで食べていくか?」
「その提案、良いかと思われます。リュオン様はいかがでしょうか?」
ハーフマスクを外した魔王は、楽しそうに遊んでいる子らに視線を向けていた。そして僅かに口角を上げながら「あぁ、良いと思う」と返事をした。その表情に吸い込まれそうになる。普段ツンケンなイメージなのに、子らに対しての眼差しは怒りが込み上げている時以外は本当に優しい。俺も優しい眼差しで魔王に見られたいなと、ふと思う――。
しばらく魔王を眺めていると、魔王と視線が交わった。このタイミングで俺は気になっていた質問を魔王にさりげなくぶつけた。
「魔王は人間たちにバレないためにその格好をしているのか?」
「あぁ、そうだ」
「いつまでバレないようにするんだ?」
「分からない……」
魔王似顔絵事件の時以来、なんだか気まずい空気がふたりの間を流れている。無視されずに返事をしてくれただけで、そっと胸を撫で下ろした。
育児のこともあるし、今後のために絵の訓練を受けるべきか。そもそも訓練で魔王の顔を上手く描けるようになるのだろうか?
魔王との会話は途切れた。もっと深い話をしたいが、魔王との会話を弾ませる技術はない。というか、魔王が誰かと話を弾ませるところなんて想像すらできない。
メニューを真剣に眺めているふりをしながら魔王の顔をそっと見つめた。
「魔王はこれからもずっと姿を隠して歩かないとならないのか?」
やはり気になり魔王に再び尋ねるが、返事はない。
「はい。リュオン様のお姿は世間で公開されており、リュオン様を一目見るだけで皆様は怯え、お逃げになってしまうのです」
魔王を凝視していると近くで幼子らの相手をしていた執事が代わりにそう答えた。
噂の内容の一部を執事から最近聞いたが、実際俺も直接聞いたことがある。『目が合うだけで焼き尽くされる』『すれ違うだけでズタズタに引き裂かれる』『出会ってしまうと秒で粉々になる』……魔王の噂はあちこちで聞き、内容は散々だった。だけど実際は全く違う。世間の噂はデタラメがひとり歩きをすることも多いから、実際自分の目で見て感じることが大切だなとあらためて思う。
「そうなのか……大変だな。今は人間に危害を加えず、むしろ未来ある子らを育てているのにな」
「大変ではない。それに、ただ……自業自得なだけだ。全て我が悪い。そう、因果応報のようなものだ」
魔王はボソリと呟いた。気のせいか、その言葉を放つと魔王の顔の陰が濃くなった。
「全て魔王が悪いわけではないと思うけれど……」
騒がしい環境の中、ふたりの間だけ沈黙が流れていた。
「お待たせいたしました~」
少し経つと店主である気品ある老人が自ら個室を訪れ、テーブルにランチとデザートを並べていく。そして魔法を全体にふりかける。お子様ランチのうさぎや花の形をしたソーセージがおもちゃのように踊りだし、さらに食べ物全体から「食べて」と可愛い声が聞こえるようにしてくれた。
「サービスすごいな……」と俺が呟くと「元々わたくしは旅をしていた魔法使いでして、魔力が有り余っていますから魔力を活かし子供たちに楽しみを提供できればと思いましてこうしております」と店主が語った。
このような能力の使い方もあるのか。
まだまだ、知らないことだらけだな。
楽しそうに食べている子ら以外には、外での食事だからか、おすまししていつもより行儀よく食べる子、ゆっくりのままマイペースにいつも通りの子……個性を楽しむ余裕すらある程に揉め事は起きずに平和だ。
初めての全員での外出、そして食事。まだまだ油断は禁物だが、予想以上に平和に過ごせて安堵している。
ランチとデザートを食べ終えると店を出た。
「揉め事もなく外食できて、良かったな」
「そうですね。それもあのお店の方々のお気遣いのお陰でございます」
「勇者、抱っこ~」
「おんぶして~」
小さいふたりが足に巻きついてきた。俺はピンクを抱きかかえ、イエローをおんぶした。
それから少し歩くと大工道具を取り揃えてある店に着く。
ふたりを地面に着地させるとレザーのベルトポーチから壁の欠片を取り出す。女の若い店員に軽く説明して素材と修正方法について尋ねてみた。店員はその欠片を太陽の光に当てたり、顔を近くに寄せてみたりしてマジマジと見つめていたが、分からなかったらしく店主と思われるお爺さんを呼びに行った。
「壁の欠片ですか……これは特殊な魔法で加工されている細かなダイヤモンドが内部に散りばめられている壁ですので、ここでは取り扱ってはいませんね~」と言われ、結局は仕方なく似たような色と材質の、隙間に埋めて固めるタイプの液が入った瓶を買うとその場を去った。
そういえばいつも魔王が魔法で修理していたと言っていたな。
「魔王城は特殊な壁でできていたのか……」
ギルバードを抱きながら無言の魔王の横でひとり呟くと、すぐ後ろを歩いていたスカイをおんぶしたグリーンが「何か貼り付けたりしたらどうかな?」と提案してきた。
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