世界が平和になり、子育て最強チートを手に入れた俺はモフモフっ子らにタジタジしている魔王と一緒に子育てします。

立坂雪花

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20.帰る場所

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 魔王は酒を飲み眠ると数日起きなかった。次に目覚めたのは、魔王城に帰る日の朝だった。

 魔王がゆっくり眠っていられるように隣の部屋も借りた。そして魔王が安心安全でいられるように俺は護衛となり、同じ部屋に約九割の時間いた。今もその部屋でふたりきりでいる。

 眠っている魔王の枕元で天井を眺めながら、ぼんやり木の板の数を数えていると、ガサガサと布団が擦れる音がした。魔王を見ると、魔王の目が開いていた。

「おっ、魔王目覚めたか? たくさん寝たな。もう魔王城に帰る日だぞ」

 魔王は頭を抱えながら何か考えている様子だ。

「そうだった、酒を飲むと睡魔が襲ってきて。そんなに眠っていたのか。子供たちはどこだ?」
「朝食を食べている。そろそろ食べ終わる頃だろう」
「そうか、子供たちの世話を任せきりにしてすまなかった……」

 魔王の部屋を別にしても、結局わらわらと昼夜問わず魔王の周りを子らが囲んでいた。だけど魔王を休ませてあげたい話をすると、声を小さくしたりそっと歩いたりして魔王の近くにいる時は静かにしてくれていた。時には魔王が寂しくないようにと、宝物のぬいぐるみを魔王の横に置いていく子もいた。

「子らに関しては、言うことをきちんと聞いてくれたし、余裕だ。それよりも魔王、調子はどうだ?」
「調子はとても良い。疲れも取れた。魔力もなんだかみなぎっている気がする」
「疲れがとれたのか、良かったな魔王」

 目の下のクマは完全に消え、肌はつやつや、オーラは以前のように溢れているようだった。

「魔王、子らが戻ってくる前に伝えなければならないことがある」
「なんだ?」
「魔王の魔力が完全にもどったんだ」
「なんだと?」
「エウリュが、封印が解かれていることを確認した。そしてエウリュは魔王に魔力を全て返した……」

 魔王は手のひらを見つめたあと、壁に向かって軽く光の魔法を放った。

「本当だ。我の魔力が戻っている」
「魔王の魔力が戻ったことはめでたいことだ。だが、問題がある。もしも封印が解けたことが国に知られたら、魔王に何か被害が及ぶのではないかと考えた。国側からしたら勝手に封印を解いたようなものだから、魔王が何か企んでいるだろうと疑われる可能性もある」
「たしかに可能性はあるな」
「だからしばらくバレないように――」

 話の途中で、執事が走って部屋の中に入ってきた。

「勇者様、大変です!」
「執事、どうした?」
「えっ、リュオン様がお目覚めに? リュオン様~、お目覚めになられて良かったです~。ずっとお眠りになられていて、わたくしはずっと心配しておりました~」
「執事には心配をかけてしまったな。すまない」
「良いのです! もっと迷惑をかけてください! 何でも受け止めますので!」
 
 涙目の執事は大興奮していた。

「執事、今、急いで来たが、何かあったのか?」
「あっ、勇者様。あの、今、人間界のトップの方がいらっしゃって」
「王がここに? とりあえず、魔王たちはここから動かないでくれ」

 外に出ると、王と王女が立派な馬車から降りてきたところだった。そして何故か、おまつりで屋台を運営していた者らを含めた十人が、まるで只者ではないように、瞬時に馬車の前で扉を挟んで二列に整列した。王は馬車を降りるとその間を堂々と歩き、俺と目が合うと立ち止まった。俺は急いで跪く。

「ラレスよ、久しぶりだな。調子はどうだ?」

 王が話しかけてきた時、子らがわらわらとやって来た。何故このタイミングでここに来るのか。何か王たちを怒らせるようなことをしなければよいのだが。 

「子供たちが我らのところに来た」
「まぁ、可愛い~! 噂のモフモフちゃんだわ!」

 王と王女は子らに釘付けになった。ピンクが王女に抱き上げられモフモフされていた。

 ピンク、可愛がられて良かったな――いや、それどころではない。この宿には今、王と魔力が完全に復活した魔王がいるのだ。もしも鉢合わせてしまったら緊迫した雰囲気になり、周りがその空気に押しつぶされるに違いない。もしかしたら激しい闘いも勃発するかもしれない。俺は警戒を強めた。

 まさにその時だった。突然どこからか分からないが、なにか大きなものが崩れる音がした。宿の中だ!

――もしかして、魔王に何かが?

 俺は音のする方に急いで向かった。
 王たちも俺の後をついてくる。

 宿の中に入ると唖然とした。
 崩れた壁の前にいたのは、戦士ゼロスに抱かれたギルバードだったからだ。

 なんとなく、今何が起きたか理解した。

 魔王城の壁を壊した時以来、ギルバードは魔力を調整する方法を魔王から学び、同じ事件が起こることは二度となかった。しっかりと反省もして後悔もしていた。なのに――何故子供は、今かい!と叫びたくなるようなタイミングで予想していなかったことをするのか。

 ギルバードの近くによると「ごめんなさい」と声を震わせ泣きながら謝ってきた。

「これは、どういうことだ?」

 王は怒りを含ませた威圧的な表情でギルバードの方を見ていた。

 最悪な状況になった――下手な発言をすれば今まで積み上げてきたもの全てが一瞬で崩れてしまう。

 緊迫した雰囲気。子らも集まってきて、いつもと違う圧力を感じているのか、怯えていた。

 その時だった。魔王が奥の方から現れた。
 
 おい、魔王。何故お前までこのタイミングで現れる。部屋にいろって言っただろうが――もう、お終いだ!

「ギルバード」

 魔王は冷静にギルバードを呼んだ。ギルバードはゼロスから飛び降り「魔王パパ!」と走って魔王に飛びついた。魔王はいつものようにギルバードを優しく抱き上げる。そして「大丈夫だ」と、ギルバードの頭を撫で左手で抱くと、右手から何か半透明な魔法が出てきた。

「魔王よ、その子は魔王の子か? というか何故封印したはずの魔法を? まさか我らを消そうと――」

 王の話を全く聞いていない様子の魔王。手から出てくる謎の魔法は大きくなってくる。

「今すぐふたりを捕らえろ!」

 おまつりの屋台にいた者たちは変装を解いた。すると真っ黒な格好になる。なんと、暗殺集団だったのだ。王の命令に対し躊躇った様子も見せたが、彼らは剣を手に取り攻撃する体制になった。

「やめろ! 何もせずにふたりが捕えられるのをただ眺めているぐらいなら、俺はふたりを守るために、お前たちと戦う!」

 ナイフを握りしめた時だった。

 魔王から遂に魔法が放たれた。すると半透明だった魔法は数え切れないほどの虹色の美しい花に変わった。そしてギルバードが壊した壁に花が集まり、壁を包み込む。しばらくすると花は壁から離れて扉から出ていき、空高く飛んでいった。

 壁が元通りになっていた! そして全員が花に見惚れて、空から完全に消えるまで花を目で追っていた――。

「まさに、コングラッチュレーション……」

 王が呟くと全員拍手した。そしてしばらく盛り上がっていた。

 俺は魔王に駆け寄る。

「魔王、今のは?」
「この花の風景も子供たちに見せるために、魔法が再び使えるようになったら使いたいと思っていた」
「すごいな魔王。魔王は最強だ!」

 子らが魔王に巻きついてきた。そして以前と同じように、魔王が冬のモフモフなコートを着ているような光景になった。ただし今回は、和服のカラフルなバージョンで。
 
「魔王、我はとても感動した。魔王の子育ての様子は暗殺集団から詳しく聞いていた。子供たちの魔王への態度を見ていてもよく分かる。子供たちを大切に育てていることが。魔王の魔力はもう封印しない。これからも子供たちのために存分に使うがよい!」

――よかったな、魔王。

 俺は暗殺集団に近づいた。
 リーダーっぽい若い男に話しかける。

「直接合った時にお礼を言いたいと思っていた。朝食の件や壁の穴を直してくれたこと、そして屋台で俺らを楽しませてくれたこと。本当にありがとな!」
「お礼なんていらない。ただ助けたいと純粋に思い、勝手にやったことだ。こちらこそありがとう」
「何に対してのお礼だ?」
「ブラックを幸せにしてくれて、だ」

 ブラックはどこだと騒がしい中を探す。珍しくブラックも魔王に巻きついていた。

 少し経つと帰る時間がやってきた。

「帰る時間が来たぞ! 荷物を持って集まれ!」

 魔王を見ると、宿の者と何かを話していた。話終えると玄関の近くにある部屋の中に入っていった。俺も魔王について行き、中に入る。魔王は壁に両手をかざし、魔法を出した。

「この部屋は物置になっているようだな。魔王は今、何をしているんだ?」
「今後使うか分からないが、この壁と魔王城の壁を繋げる」
「いつでも温泉に来れるのか?」
「あぁ、そうだ。子供たちが帰りたくないって騒いでいたからな」
「もしかして、さっきギルバードがああなってしまったのも、帰りたくなくて怒ったからか?」
「あぁ、そうらしい」

 魔王城と繋がる壁を眺めた。これで、また全員でここの星空を見上げられる可能性は高くなったのか。

「魔王、勇者、遅いよ! 早く並んで!」

 レッドが外から叫んできた。

「ごめんな、今行く! 魔王、家に帰ろうか」

 魔王は微笑みながら頷いた。
 俺たちは手を繋ぐと外に向かった。
 

☆。.:*・゜
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