小説に書かれた日、

立坂雪花

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小説に書かれた日、

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『幸せになってほしいから、ささやかですが、プレゼントを贈ります』




***小説に書かれた日、***



 クリスマスまであと一週間。

 街は踊っている。
 キラキラと輝いている。

 この時期は、イベントなどで周りが盛り上がっている。でも私の生活は、何一つ変わる事はなく。

 仕事の帰り道、カラフルなイルミネーションやツリーをぼんやりと眺めながら歩いていた。


 家に帰り、部屋を明るくすると、すぐにある物を手に取った。それは表紙が黒くてシンプルな表紙の本。

 今朝、うちの郵便受けの中に“ 倉持あやか様 ”  と、私の名前だけが書かれているA4サイズのあやしい茶封筒が入っていた。気になったので、すぐに封を切り中を覗くと、一冊の本が入っていた。朝、時間が無かったから、急いでそれを部屋に置くとすぐに職場へ向かった。


 今、その本を部屋のテーブルに置き、ずっと眺めている。


 ――本当に不思議。この本は何なのだろう。


 その本を両手で持ち、さらに眺めた。
 本を開くと、こんな事が書いてあった。


   “ 今年のクリスマス。
      
      僕達は、十七時ちょうどに駅前で待ち合わせをして、喫茶ボヌールへ向かう。”

 それだけしか書いていない。
 次のページからは真っ白。

「えっ? これだけ? 意味がわからない」

 ちなみに“ 喫茶ボヌール ”  は、実際に存在している場所だった。



 怪しさもあり、当日まで、行こうかとても迷ったけれど、好奇心が勝ち、行ってみる事にした。

 バスで駅まで移動した。約十分ぐらいで着いた。
 私が住んでいる町の駅は、築何十年ぐらいなのかな? とても古びた木造の小さな建物。

 バスから降りて少し歩くと、そこには懐かしい人達が三人立っていた。

 高校時代、いつも一緒に過ごしていた同級生達。

 学生時代いつも一緒にいてくれた、りか。
 私とは正反対で派手な見た目で長い髪の毛を明るく染めている。そして、とても目がぱっちりとしていて、可愛い。彼女はいつも笑顔で明るくて、引っ込み思案な私を引っ張ってくれていた。

 黒髪サラサラヘアーで目がキリッとしている男の子は、物静かで考える事が好きな、つきちゃん。観察力が凄い。痒いところに手が届くというか、私がやろうとした事をいつも先回りしてやってくれていた。彼は、とても頭が良いと思う。

 茶色の髪の毛が少しふわってしていて、ハッキリした顔立ちをしている男の子は、思った事をすぐ行動に移す、ようちゃん。同じ歳だけど、頼れるお兄さんって感じがする。

 ふたりは似ていないけれど、二卵性双生児。
 ようちゃんがお兄さん。
 


 高校を卒業してからも四人で遊んでいた。

 ――なんで遊ばなくなったんだっけ?

 思い出せない……。遊ばなくなった理由の部分が真っ黒いペンでぐしゃぐしゃに塗りつぶされているような。なんかでも、今は思い出せなくてもいいや! そんな気がした。

「あやか! 久しぶりー!」

 りかが満面の笑みで、私に向かって手を振ってくれた。相変わらず明るくて可愛い。大人になって可愛さに綺麗も加わった感じかな?

 私はちょっと人見知りをしてしまい、はにかみながら控えめに手を振り返す。

「えー? 会えたの、何年ぶり?」

 りかが、はしゃぎながら質問してきた。

 えっと、いつまで集まってたかなぁ。確か二十二歳ぐらいまでで、今二十八歳だから……

「五年ぶり、かな?」
私が答えようとすると、ようちゃんが少し自信なさそうに呟いた。

「いや、六年ぶりだ」
つきちゃんは自信満々に訂正する。

「あはは、つき、細かーい!」
りかが大きな声で笑う。

 それから、少しだけ他愛のない話をして「寒いから車に早く乗るぞ!」というつきちゃんの言葉をきっかけに、四人は車に乗り込んだ。

 運転席にはようちゃん、助手席にはつきちゃん。私とりかは後ろの席に座った。

 久しぶりだけど、普通に会話が出来て良かった。高校生の時に戻ったみたい。楽しい!

「そういえば、今日駅に来たの、家によく分からない本が届いていたからなんだよね……」

りかが眉間に皺を寄せながら言った。

「えっ? 私の所にも来てたよ!」

「まじで?」

「うん。十七時に駅前って。りかの所にも来てたんだね……」

「そうそう。不思議だね。てか、これからどこ行くんだっけ?」

「喫茶ボヌールだよ!」
ようちゃんが後ろを振り向き答えた。
 

「そうそう!   それ! えっ? よう達の所にも本が来たの?」

 りかは少し身を乗り出す。

「うん。来たよ! 今そこに向かっているからね!」
 ようちゃんが微笑みながら答えた。


 駅から車で、約二十分ぐらい走ると目的地の喫茶ボヌールがある。峠を超えた場所にあり、周りはあまり人が住んでいない。冬は営業していない様子。雪が積もっている。けれど、通り道と入口付近は綺麗に除雪されていて歩きやすかった。

 ドアを開けるとカランコロンと鐘の音が鳴る。
 店の中はオレンジ色の明かりの効果と暖房のお陰で暖かかった。ほのかに食べ物の良い香りもする。

 そして、部屋の壁に金色のキラキラな星が貼られていた。窓の前には私の腰くらいの高さの緑色のツリーも飾られている。そのツリーは、赤や黄色や……色んな色のライトがチカチカ瞬きしていた。

「荷物、そっちの部屋に置いといて!」

ようちゃんがドアの閉まっている部屋を指さす。

「うん!」

りかが返事をする。

「置きに行こっか」

 私はそう言って、りかと一緒にその部屋へ荷物を置きに行き、何か手伝わないと!って思い、すぐにようちゃんの元へ戻った。


「待っててね。すぐに出来るから」
 ようちゃんがキッチンに向かう。

「よう、これ、テーブルに持って行って!」
 すでにキッチンでつきちゃんが作業をしていた。

 ふたりは、テキパキと料理の準備をしている。

「私も何かやるよ!」って言ったけれど「座っていて? もうほとんど準備出来てて、すぐにテーブル持っていくだけだから」って返されたので、ふたりばかりにやらせてしまって申し訳ない気持ちもあったけれど、お言葉に甘えて四人がけの席に座り、りかと並び、ふたりの様子をじっと眺めていた。

「ねぇ、あやか、ふたりのテキパキ感、相変わらず凄くない?」
「ねっ、本当に。息ぴったりだしね!」

 こういう感じ、昔から変わらない。
 時がたち、周りはどんどん変わってゆくのだけど、こういうあの時のままな風景が見られるのも、良い。


 すぐに料理が運ばれてきた。

 チキン、サンドイッチ、オレンジジュース、クッキー、ピザ……。そしてつきちゃんの字で“ メリークリスマス  ” と書いてある手作りケーキ! 他にも色々な食べ物が出てきた。

 そして、私が昔から大好きな、いちごオレも。

 ――覚えてくれていたんだ。私の好きな飲み物。

 学生時代、いつもいちごオレを飲んでいた。覚えてくれていたのが、嬉しい。選んでくれたの、つきちゃんかな?

「ここで働いている人みたい」
りかがにこにこしながら言う。

「ここ、おじさんの店だから手伝ったりしてるんだ。冬は閉まってるから、いつでも自由に使っていいって」

「へぇ、てか集まれて良かった。楽しいね!」

 ようちゃんと、りかが話をしている。

 りかは全く気にしていない様子だけど 、 ようちゃんの所にも謎の本が来たって話を彼もしていた。でも、なんで彼らは私達をここまで連れてきて、準備もあらかじめしていたの? それは聞いてはいけない気がして、その考えは心の奥に閉まっておいた。


 ようちゃんとつきちゃんも席につき、それぞれのお皿に料理を取り分ける。すぐに話は弾みだし、みんな仲の良かった時のような気持ちに戻っていた。
 
 笑いが絶えなかった。

 こんなに仲が良かったのに、本当になんで何年も会わなくなっちゃったんだろう。四人で集まると、こんなにも楽しいのに。会わなかった期間がもったいない。

 みんなずっと楽しそうで、幸せそうな雰囲気だった。途中つきちゃんが、やらないといけない仕事の書類があるからって寂しそうな顔をしてちょっとだけ席を外したけれど。

 とてもとても幸せな時間を過ごした。
 この時間が、ずっと続けば良いのに。


 
 けれども、続かなかった。

 私は、そろそろお開きの時間かなと思い、壁掛け時計を確認した。ちょうど零時。
 
 その時、突然店が真っ暗になった。

 停電かな?と思い、とりあえず下手に動くと怪我とかしそうなので、座ったままじっとしていた。

 一分ぐらいたつと明かりはついた。

「わぁ、びっくりしたー!」

 りかが大きな声で叫ぶ。


 ……あれ? つきちゃんがいない。

 目の前のテーブルの上に視線をやると、謎の本が置いてあった。

 私は驚いた。

「なんで? 鞄に入れて置いたのに!」

 りかも物凄く驚いている。

「りかのも? 私のもあるの」

 私の本だけではなかった。ようの目の前にも。それぞれの目の前に、それぞれが持ってきた本が!

 手に取り、パラパラとめくってみる。

「何…これ……」

 さっきまで真っ白だったページに、まるで小説のような、縦書きの文章がびっしり追加されていた。

『……車に乗る前、三人は久しぶりに会ったからか、すぐに話は盛り上がり、寒いのに話はなかなか終わらない。だから僕は「寒いから早く車に乗るぞ」と声を掛けた。三人が笑顔で良かった。僕のせいで心が苦しんでいるのかもしれないと思っていたから、今だけはせめて、あの時の出来事を思い出さずに笑っていて欲しい』


 あの時の出来事……。

 忘れていた記憶が一気に波のように押し寄せてきた。

「あのね、私、思い出したんだけど……」
「あやかも? 私も……」


 

 押し寄せてきたのは、六年前の記憶。

 つきちゃんは事故で亡くなった。
 クリスマスの日だった。

 クリスマスは毎年集まっていたから、今年も四人でクリスマスパーティーをしようって約束をしていた。「集まる前に、伝えたい事があるから、ふたりで会いたい」とつきちゃんに言われて。先にりかと買い物に行く約束をしていたから、それが終わってから会う約束をした。買い物が予定よりも長引き、すでに待ち合わせ場所にいたつきちゃんが、こっちに来てくれる事に。こっちに向かってくる途中、つきちゃんは……。

 それ以来、集まる事はなくなった。
 りかも私も、自分を責め続けていた。

 それを責める必要なんてない。という事も、その本には書いてあった。


「つき、夢に出てきたんだ」

 ようちゃんが目を細め、静かに語り出す。

「今日のパーティーをする為に、待ち合わせ場所とかを伝えてきて、それを本に書いて、ふたりに届けて欲しいって頼まれた。クリスマスの日だけ、こっちに来れる事になったからってさ」


「ってか、つきちゃん、離れてからも私達のこと、分かりすぎだよ……」

 りかは目を潤ませながら呟く。

「うん。本でめちゃくちゃ私の分析されてる」

 私はすでに涙が止まらない。
 パラパラと最後までページをめくった。


「……つきちゃん、今日は、ありがとう」

 姿は見えないけれど、まだ近くにいてくれている気がして、私は心をこめてお礼を言った。

 その時、勢いよくドアが開いた。

 三人は急いで外に向かう。

 雪が空からふわりと落ちてきている。
 一瞬その雪が、映像を巻き戻すかのように空に昇っていったような気がした。

 あ、これって……。
 きっと、つきちゃんだ。

 
 ――離れていても、ずっと、一緒だからね。



 私達は寒さを忘れて、三人でじっと空を見続けていた。




 後日、三人で集まり、ようちゃんが、クリスマスの日の計画について詳しく教えてくれた。

 私達がクリスマスの日だけ忘れていた記憶についても。

「つき、結局周りの事しかしてなかったな。辛い時とか、これ見たら元気出そうだわ」

 それぞれが、つきちゃんが書いてくれた、本を抱きしめた。こっちにいられるのはたった一日だけだったのに。その貴重な時間を全て私達の為に。

 三人は同時に

「ありがとう」

と呟いた。




 つきちゃんが考えてくれた計画は無駄がなくて完璧だった。
 やっぱり彼は凄い。一番尊敬している人。


 彼の夢は『誰かを幸せにする、小説家』だった。

 もしも、今も生きていたら、きっと彼なら夢を叶えていたと思う。ううん、もう叶ってる。

 私達が、つきちゃんの書いた小説を読んで、幸せになったからね。

 つきちゃん、私はね、つきちゃんは気にするなって書いてくれていたけれど、一生つきちゃんが事故にあった日の事を、私のせいだと後悔し続けると思う。でもね、それ以上につきちゃんがくれたプレゼントを、幸せを、思い出を。大切に胸にしまって、もう、本当に大切にして、これからは生きていくからね!






***幸せを届けに。***


 僕は、事故にあってからずっと、成仏出来ずに、空をさまよっている。

 六年間ずっと……。

 大切な人達が、僕のせいで心が苦しくなっているのではないかと思い……。

 その僕の姿を見て、心配してくれた神様が
「クリスマスの日だけ、地上に戻っても良いよ!」
と、言ってくれた。


 どうしようかな…クリスマスの日、地上に戻れる。
 
 一日だけ……。

 とにかく考えた。

 クリスマスは、あっという間に近づいてきた。

 僕は、動き出した。

 まずは、寝ている双子の兄、ようの夢の意識に入り、お願いをした。


「よう、久しぶり」
 僕は少しはにかんだ。
「お、つきだ!」
 ようが優しく微笑んでくれた。

「よう、元気か?」
「おう」
「……良かった! 突然だけど、ようにお願いがあるんだ」

 話したい事は沢山あったけれど、余計な事を言ってしまいそうになったから、とりあえず伝えたい事だけを伝えた。

 まずは、僕の部屋に入り、本棚にある表紙が黒くて、中が真っ白で何も書かれていない本を、三冊探してくれと頼んだ。

 それから『2021年、クリスマス。僕達は、17時ちょうどに駅前で待ち合わせをして、喫茶ボヌールへ向かう』と、最初のページに書いて、こっちの名前は書かずに、宛名だけを書いた封筒に入れて、そっと、あやかとりかの家のポストに入れ、あとの一冊はようが持っていて欲しい。と伝えた。

 それから、おじさんが経営している喫茶店を貸して貰えるようにお願いしといて欲しい事、そしてクリスマスパーティーをする約束をして、夢の中から出ていった。





#よう

 
 真夜中、俺は一瞬だけ目を覚ました。

 つきが今、俺が見ていた夢の中に出てきてくれた気がした。ぼんやりとした意識の中、お礼を言うと再び眠りにつく。 



 朝。

「夢の中につきが出てきたけれど、妙にリアルだったなぁ。多分、夢の話だから、本、ないと思うけど……。一応、つきの部屋を調べてみるかな」

 隣にある、つきの部屋に入る。

 つきの部屋、久しぶりに入ったけど何も変わってなくて、今もまだここで過ごしている感じがする……。

 つきは事故に会い、もうこの世にはいない。俺たちは双子で、生まれた時から隣にいるのが当たり前だったから、いない事に完全に慣れる事がなく、彼を思い出すたびに心が痛い。今もまだ心が締め付けられている。

「はぁ」

 俺は大きなため息をついた。

「よし、探してみるか」

 部屋の中には大きな本棚がある。六畳の部屋、一面の壁、三分の二ぐらいを占めている大きさ。

 本がいっぱいあるなぁ。
 真面目な本ばっかり。

 いつも難しそうな本ばかりを読んでいたつき。その姿が鮮明に頭の中に浮かんでくる。

 ちなみに俺の部屋は、漫画の本ばかりある。
 双子なのに正反対。性格も。不思議だなぁ。

 本棚をあさってみた。

「ほんとにあった!!」

 驚きすぎて、思わず叫んだ。

 夢の中で頼まれた、表紙の黒い本が三冊並んであった。

 それらを手に取ると、部屋に戻り、頼まれた文章を書いた。封筒に宛名も書き、本を入れて封をする。

 よし、出来た。これをふたりの家のポストに入れればいいんだな。

 明るい時に行動すると、バレてしまいそうな気がしたから、夜中こっそり、ポストに入れた。





#つき


 クリスマスの日。


 まず僕は、あやかとりかが眠っている時間、彼女達の意識に入り込み、僕が事故にあって亡くなった日の記憶の全てを今日一日だけ、忘れてもらう事にした。


 朝が来た。

「本当に地上に来れた!」

 僕は空より遥か上にある所から降りてきた。
 目の前に光り輝くトンネルの入口が現れて、中に入りトンネルを抜けると、一瞬でようの部屋に。

「いきなり登場かよ!」

 ようは物凄く驚いていた。
 僕もこんなに早く着くとは思っていなくて驚いた。

「つき……。久しぶり!」
 ずっと一緒にいたから、ようの事がよく分かる。彼は今、物凄く嬉しそうだ。

「久しぶりだな」
 僕はようみたく、感情を上手に表に出す事は出来ないけれど、ように負けないくらい、リアルで再会できた事が嬉しい。

「つき、変わってないな!」
「幽霊だからな。ようは、少し老けたな」
「はははっ!」

 六年ぶりに会ったけれど、昨日まで一緒にいたように感じた。だって、生まれてからずっと一緒にいて、凄く仲が良かったから。会えなかった期間が長くても、一瞬で元通りになれるんだ。

「今日、仕事休みもらえてよかったわ」
「よう、色々ありがとな」
「何でも頼んでや」
「おう、そしてごめんな」
「いや、あやまる意味、分からないから!」
「……ずっと謝りたかったんだ。急にいなくなったりして……」
「つきは、悪くない!」
「……父さんは元気?」
「うん。今日も元気に仕事行ったわ。あれから俺の健康とか、めちゃくちゃ気にしてくれるようになって、バランス良い飯も作ってくれてる」
「あの父さんが?」

 僕がいなくなった後、母さんは心が病み、僕を追って亡くなったらしい。ようは今、父さんと二人暮しをしている。

「ほんと、ごめんな」
「あやまるな!」
 ようがムッとする。

「お、おぅ」
 これ以上謝ると、本気で彼はキレるからもう謝るのはやめよう。

 僕が生きている頃、父さんは、仕事の事で頭がいっぱいで、僕達とはあまり関わっていなかった。風邪を引いても興味がない感じだったから、ようの健康を気にかけるなんて……。

 色々変わったんだな。
 少し物思いにふける。

 ようが支度を終えると、すぐに彼の車に乗る。

「あのふたり、来るかな?」

 ようが少し不安そうな表情で尋ねてきた。

「来るわ。自信ある」
「仕事とかで来れないとかないかな?」
「あのふたりなら、来る」

 僕には自信があった。あのふたりは好奇心が旺盛。仕事だとしても、何か理由をつけて早退したりして来るだろうと考えていた。

「つきがそう言うなら、来るわ」

 ようは、僕が自信満々に言う事は何でも信じてくれる。その事が小さな頃から、すごく嬉しかった。

「あのふたり、今日だけ、僕が亡くなった記憶が消えているから、よろしく!」
「えっ? そうなの? なんで?」
「あの日、僕のせいでクリスマスパーティーが出来なかったから、まずはそれをやりたいんだ。記憶が残ったままだと、あの日やるはずだった楽しいクリスマスパーティーは出来ない。」

 ようは黙って頷き、真剣に話を聞いてくれている。

「あやかとりかはきっと、僕が事故にあったのは自分のせいだとそれぞれ思っていそうだから、幽霊姿の僕を見ると余計に罪悪感がいっぱいになる。そして、その気持ちのまま、きっとクリスマスパーティーは終わってしまう。そうなったら、誰も楽しめない」

「……そっか。分かった!」
「あと、あの本、真っ白のページばっかりだけど、なんか書かないの?」
「ふふっ」
「秘密か」

 僕には考えがあった。
 まだようには内緒だ。


 大型スーパーに寄る。

 昔、よく家族でここに来てたなぁ。かあさんが「好きなお菓子持っておいで」と言い、僕達はお菓子コーナーに。それぞれ好きなお菓子を買うんだけど、お互いに相手のお菓子も美味しそうに見えてきて、結局最後は半分ずつにして一緒にふたつのお菓子を分け合うんだ。

 そんな事を考えているうちに、ようがカートにカゴを乗せて、それを押す。

「えっと、ケーキの材料と、肉と、とりあえず、俺が食べたい物をカゴに入れるわ」

 次々にようの好きな食べ物でカゴの中が、埋められていく。

 僕も選ぼう。

 僕は、一番初めに飲み物コーナーへ向かう。小さな紙パックのいちごオレを手に取り、ようの場所へ行き、カゴに入れた。

「え? つき、甘いの飲むっけ?」
「いや、あやか、これが好きだから」
「そうだっけ?」
「高校の時から、いちごオレ、ほぼ毎日飲んでたんだ」

 そう、あやかはこのいちごオレが大好きで、特にひとくち飲んだ瞬間、幸せそうな表情をしていた。
 その表情を見るのが好きで、毎回見逃さないように気をつけていた。

「ふっ」

 ようが切ない表情をして微笑み、質問してきた。

「あやかの事、まだ好き?」

 僕は迷わず答える。

「うん」

 好きだけど、一緒にいられるのは今日一日だけだから、どうしようもないんだけどな。気持ちが沈みそうになりかけたから、切り替えた。

 今日はみんなに楽しんでもらいたいんだ!
 
 「100円ショップとか寄る? パーティーの飾り付けグッズも買わないと!」
「あ、それ、車の中にあるわ。あの時の……」

 あの時の……。あの時とは、僕が事故に会い、クリスマスパーティーが結局出来たかった日の事だ。

「じゃあ、それ使おう」

 買い物を終えると再び車に乗る。


「もう、まっすぐボヌール行ってもいいか?」
「うん」

 僕達は今夜クリスマスパーティーが行われる喫茶ボヌールへ向かった。


 昼になった。

「冬は店閉めてるから、やっぱり雪積もってるなぁ。」
「除雪して、昼ご飯食べたら準備開始だな」

 
 スーパーで買ってきた昆布のおにぎりを食べる。久しぶりのお米。懐かしくて、美味しい。

 ようはお惣菜のカツ丼。
 ご飯をお店で食べる時も、お惣菜も、彼が選ぶのはいつも丼物。ようの変わってない部分を見つけると、ほっとする。

 食べ終えるとすぐに作業に取り掛かる。

 ケーキを作り、チキンを焼く。あとはだいたいレンジでチンしたりする感じだ。

 部屋の飾り付けもする。
 早く準備が進んだから、後半まったりと座りながら話をしていた。

 僕は窓から外を眺めた。

「もう暗くなってきた。時間あっという間だな」
 
 日が沈んでいくのを確認するたびに、こっち側にいられる限られた時間を意識する。
 

「そろそろ待ち合わせ場所に行こうか」
 ようが立ち上がる。


 待ち合わせ場所の駅に着いた。
 まだ誰も来ていなかった。五分ぐらいしたらりかが来た。


「えっ? なんでふたりがいるの?」

 りかが物凄く驚いていた。

「久しぶり!」

 ようが手のひらを上げりかに言う。

「元気か?」

 続けて僕も話しかけた。

「うん、元気……それよりも、なんでふたりがここにいるの? 今日って……」

 あやかが来た。
 ようはりかの言葉を遮るように大きめな声を出す。

「あ、あやか来たぞ!」

「あ、あやかー! 久しぶりー!」

 りかが大きく手を振る。

 四人が揃う。
 昔と変わらない空気が流れていた。

「怪しい人達がいたらこっそり帰ろうかなって思っていたんだけど、みんながいて良かった。ちょっとドキドキして、楽しかった!」

 あやかは僕達と久しぶりに会ったからか、少し緊張しながら微笑んだ。

「私なんて、ワクワクしすぎてお腹痛いって言って、仕事早退しちゃった」

 りかが笑いながら言った。


 ふたりとも、来てくれた。


 四人は車に乗り、喫茶ボヌールへ。

 着くとそれぞれ荷物を置いたり、僕達は出来上がった食べ物をテーブルに運んだりした。

 パーティーの間、三人は沢山笑ってくれた。
 僕も、とても久しぶりに、心から笑う事が出来た。そしてあやかが、僕が選んだいちごオレを飲んでいた。

 あの頃と変わらずに好きなんだな。良かった。
 この、幸せそうな姿がもう一度見られた。

 僕は途中、やらないといけない仕事があるからと嘘ついて、荷物がまとめられている部屋に入った。

 ちなみに誰かこっちに来そうになったら来ないように止めておいて!と、ようにお願いしてある。

 鞄の中、失礼します。

 いけない事だけど、鞄を勝手にあさった。
 そして、本を見つけた。

 当日、本を持参してって書いといた方が良いかなぁと一瞬迷ったけれど、書かなくてもきっと持ってきてくれそうだなと予想して、特に触れなかった。

 あとから少し不安になったけど、持ってきてくれていて良かった。

 まずは三冊まとめて床に置いた。
  
 
 一時間に書ける文字数、僕だと千八百文字くらいだから、今日の思い出の話と、それぞれが喜びそうなフィクションの物語も書きたいから、一冊十万文字として……。幽霊だから疲れなくて速度が落ちないとしても、三十万文字書くの間に合いそうもないな。と考えた結果、これを前からこの時に使おうと決めていた。

「当日地上で、好きな事に一回だけ使っても良いよ!」と神様に言われた魔法。

 自分の為に使いなと言われたけれど、これは自分の為でもある。

 まずはようのノートを手に取り、魔法を唱えると、一瞬で頭の中に蓄積されていた文章が書けた。

 最後の一ページは直接書いた。

 それをあやかとりかの本でも繰り返す。

 全て終えると、時間を確認する。

「よし、間に合った」

 残り僅かな時間、大切なみんなと過ごすか。

 ちなみに、ようには戦国時代の熱い話、りかには胸キュンラブストーリーを、そしてあやかには、ふわふわ系ファンタジーの物語を書いた。

 再びみんながいる場所に向かうと「おかえり」って笑顔で迎えてくれた。

 幸せだ。
 幸せだ。
 幸せだ。

 同じ言葉を心の中で繰り返すと同時に、寂しい気持ちも込み上げてきて、表情が崩れそうになる。歯を食いしばり、ぐっと我慢した。

 一分早く進んでいる、ここにある壁掛け時計がちょうど零時の時、そっと電気を消した。

 それから、みんなの目の前に、それぞれ本を置いた。

 電気をつけると同時に、僕の姿は……消えた。

 三人がそれぞれ、僕について語ってくれている。

「……」

 僕はただそれを黙って見ている事しか出来ない。

「今日はありがとう」

 あやかが、お礼を言ってくれた。

「こちらこそ」

 僕は誰にも届かない言葉をそっと、呟いた。

 ひとりひとりの顔をじっくり見つめてからドアを開け、外に出た。

 しんしんと静かに振り続ける雪。
 空の方からかあさんの気配がした。
 
 僕は地上に、三人にサヨナラを告げた。
 心の中で。

 サヨナラを告げたけれど、また三人と、いつか会いたい。いつか……。

 僕にしか見えない、光り輝くトンネルが目の前に現れた。
 そのトンネルをくぐると、一気に空の方へ飛んでいく感覚がした。 




 ちなみに手書きで書いた文字は

『ようが、
 あやかが、
 りかが、

 幸せになってほしいから
 ささやかですが
 プレゼントを贈ります。


 辛くなった時とか、僕の書いた小説を読んで、幸せな気持ちになってくれたら、良いな』

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隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

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