義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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2章

31. 冬の間のこと ロイド

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 戦士ゴブリンの担いだ背負子に乗って村まで向かった有瓜は、翌日の昼前に帰ってきた。どうせには一晩しっぽりかけたのだろうから、朝帰りなのは当然だ。
 懸念は、同道したゴブリンたちが村人に怖がられていないかだけど、そちらもあまり心配はしていなかった。
 冬に入ってからの駆け込みラッシュみたいな山賊増加現象は、発見と駆除に追われる毎日を送らされる羽目になったのだけど、そのおかげで村人からのゴブリンに対する信頼度は目に見えて上がっていた。

 ちなみに、俺たちの山賊討伐が虚偽でないことを証明するために、山賊の塒を攻めるときには村から監査役を一人、出してもらっていた。
 この監査役に名乗りを上げたのはギルバートという若い猟師だ。俺と同い年くらいで、若手一番の猟師だということだった。
 忍者ゴブリンたちは、木々の葉が落ちて見通しの良くなった森の中を、流れる影のように駆け抜ける。俺ではとてもついていけず、忍者たちに先行してもらって後から追いつくのがやっとなのだけど、ギルバートは辛うじて忍者たちと一緒に駆けることができていた。
 もっとも、音も立てずに動く忍者たちと違って、ギルバートが走ると踏み砕かれた落ち葉が音を立てて飛び散るし、走った後には深く踏み込まれた足跡がはっきりと残る。忍者たちについてくのが精一杯で、忍んで動けるほどではなかった。

 ――というわけで、これから襲うつもりの山賊たちに物音でばれたら意味がないため、ギルバートは結局、俺と一緒に忍者たちの後をゆっくり追いかけることになったのだけど……これがまあ、気まずいったらなかった。
 ギルバートは俺たちが気に入らないみたいで、挨拶しても無視されるし、そのくせ、ふと気がつくとこちらを睨んできているし……で、居心地が悪いったらなかった。それでも、ギルバートは俺たちの活動を邪魔しなかったし、村長らへの報告はきちんとやっていたから、俺から苦情を申し立てることもなかった。それに、あからさまに俺たちを猜疑しているギルバートの報告だからこそ、呆れるほど何度も山賊を討っている報告でも、水増しのための虚偽報告ではないと信用してもらえていたのだと思う。

 現代日本の感覚からすれば、山賊がいるというだけで驚きものだけど、それにしたって山賊集団の流れてくる頻度は多すぎだと思えた。村長も、「冬場は食いっぱぐれた破落戸ならずものが徒党を組んで暴れる時季だが、それにしても今年は多いな」と険しい顔をしていた。
 あまりにも山賊の発生率が高すぎるので、殺す前に「おまえたちは何者だ。どこから来たんだ」と訊問してみたことがある。幸いにも言葉は通じた相手から返ってきたのは、山向こうで大きな戦闘があったということだ。
 山賊のほとんどは、食い詰めた農家の次男坊以下が募兵に応じた挙げ句に逃走兵や敗残兵になって山賊に身を窶すことになった、という者ばかりで、自分たちがどんな戦いに参加していたのかを知らない者も多かった。でも、何人もの山賊に訊問した結果、山向こうの情勢をそれなりに仕入れることができた。
 いずれ人里に下りてみたいと思っている以上、森の外の情報は手に入れられたことは運が良かった。

 ともかく――そうした情報も含めて、ギルバート経由で村長には報告してある。俺自身も何度か村に顔を出して、俺たちが真面目に山賊退治していることが村人たちにも知れ渡っていることは確認していた。
 だからこそ、屈強な戦士ゴブリンたちが村に行っても、忌避の目を向けられることはそうそう無いだろうと踏んでいたのだった。

 村で一泊して帰ってきた有瓜たちは、俺が頼んでいた漁具を無事に貰い受けてきてくれた。その他に、蜂蜜酢というのも目算で一リットルほどの土瓶で貰ってきていた。

「さすがだな、有瓜は」

 苦笑と一緒に少しの皮肉も混ざってしまったかもしれないが、九割以上は本心での言葉だ。

「いえ……なんか、わたしよりゴブさんたちのほうが尊敬されていた感じでした……」

 有瓜は嬉しさ半分、悔しさ半分といった感じで苦笑した。その上で、「それに」と苦笑を深めて続けた。

「それに……してないんですよね、。一晩、普通に泊まってきただけなんですよね」
「……ん?」

 俺は思わず聞き返してしまった。

「あっ、もしかして……調子の悪い日とか、だったか?」
「生理なら、わたし、こっち来てから止まったきりですが?」
「あ……なんか、すまん」
「いえいえ。それで、話を戻すとですね……わたし的にはやる気満々だったんですよ、交渉セックス。でも、後生だから大人しくしていてください、ってお願いされちゃいまして……」
「えぇ……」

 ぽかんとした顔の俺に、有瓜はもう少し詳しく話してくれた。

「なんか、わたしとエッチした村人さんたちが奥さんや恋人さんに変態なことを要求するようになって、それが原因で村が男と女に別れて微妙に対立しちゃったんですって。ようやく、そのギスギスもなくなりかけているところだから、消えかけている火を煽るようなことはしないでください後生ですーって」
「……おまえ、どんな変態プレイしたんだよ」
「それが聞いてくださいよ! わたしも、わたしってばどんな変態しちゃったの!? って、びっくりして聞きましたよ。そしたら――フェラだって」
「ん……?」
「あそこの村の女性陣はフェラしないんだそうですよ! 恋人や旦那がち○ぽを咥えさせようとしてきて、そんな汚らしいことできるかーって大喧嘩になったんですって! しかも、その喧嘩の最中に、ゴブリンと一緒に来た女はやってくれたのに、って旦那のほうが言って、それでわたしが“旦那に変態なことを教えた諸悪の根源”ってことにささえられていたってわけですよ。酷くないですか!?」
「ああ、うん。ひどいなー」
「棒読み!」
「他にどんな返事をしろってんだよ……」

 だいたい、村の男衆を誑かした張本人という意味では、当にじゃないか……。

「何はともあれ、こっちの欲しいものを貰ってきてくれたんだ。お疲れ、有瓜」
「露骨に話題を換えましたね。まあ、いいですけどっ」

 有瓜はわざとらしく、ぷくっと頬を膨らませてそっぽを向く。でも、すぐにこちらへ向き直ると、もう普通の顔に戻っていた。

「じゃあ、わたしはみんなに網とか罠とかの使い方を教えてきますね」
「あ、俺も覚えたい」
「じゃあ、義兄さんも一緒に行きますか」

 俺と有瓜は、他に数名のゴブリンたちを伴って河原へと向かった。
 春先の川はまだまだ水が冷たく、魚影も少なかった。たも網(虫取り網の大型版みたいな柄付きの網)での漁はさっぱりだったけれど、網を使った筒みたいな罠を仕掛けておいたら、翌日には一人分なら十分な数の魚が獲れていた。
 これから水温が上がっていけば魚も獲れやすくなるだろうし、アンのためのタンパク質はこれで確保できるだろう。

 ところが、事態は水温が上がるまで待つことなしに次へと推移した。
 アンとシャーリーのお腹はみるみる大きくなって、妊娠発覚から三十日を待たずに、二人は赤ん坊を出産したのだった。

 男の子と、女の子の――人間でもゴブリンでもない、小さな赤ん坊だった。
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