77 / 150
3章
42-4. 幼馴染みは見ていた ギルバート ★
しおりを挟む
「あっ♥ あぁっ♥ ロイドさんっ、そこっ……きゃふっ♥ っふぁ、あ、あっ♥ あぁっ♥」
アンだった。
……男の腰に後ろ向きで跨がって、尺取り虫みたいに腰をへこへこさせている全裸の少女が、アンだった。俺の幼馴染みで、俺が「将来、こいつを嫁にするんだろうな」と思っていた相手の、アンだった。
そして、アンの背中を見上げる体勢で跨がられている全裸の男は、ロイドだった。
「ロイドさんっ、っ、あぁ! そこっ♥ お腹のそこっ、もっとぉ……おぁ! んうぁっ♥」
「っ、っ……お腹の、ここ、か?」
「あっ、違う! もっと下のっ、入り口のほぉ……っふあぁ♥ そぉ、そこっ! そこぉ♥」
二人は――二人だけでなく他の奴らもだけど――俺に茂みから覗かれているとも知らずに、裸の腰を上から下から押しつけ合うようにして、その……性交している。
あ、よく見たら、二人の傍にはやっぱり全裸のシャーリーが突っ伏している。たぶん、アンの前にロイドと性交していて、いまは休んでいるんだろう。
「……っ」
とても近くで誰かが唸った、と思って驚きに身を竦めたら、それは俺自身の唾を飲み込む音だった。
俺はいつの間にか、口を半開きにして見入っていた。
恥ずかしながら――いや、恥ずかしがることでもない気はするけど、とにかく、俺はこういうのを見るのが初めてだった。
いやいや、普通は他人が性交しているところを見るなんてこと、普通はないぞ。というか普通じゃないのは、こいつらだ。
なんで昼間から、野外で、大勢で、性交しているんだ!? 一から十まで普通じゃないだろ!!
……いや、分かっている。こいつらがこういう生活をしているのだということは、冬の間に聞いていた。だけど、実際に見たのはこれが初めてだった。たぶん冬の間は、俺に気を遣って、俺が来るときはやらないようにしていたんだと思う。
余計な気遣いをされるのは子供扱いされているみたいで不愉快に思っていたけれど――というか、俺は全然分かっていなかったんだ。
「俺たちはよく乱交しているんだ」と本人の口から言われたところで、俺にとってそれは「王様は毎日に五回食事をするんだって」みたいな、嘘でも本当でもどうでもいい別世界の話でしかなかった。だから、きちんと想像してこなかったんだ。乱交というのがどういうものなのかを。
「ロイドさんっ、あっ、やっ! あっ、あぁ♥ もう、少しでっ、あっ、っ……!」
「ああ、いいぞ。いつでもっ、っ、好きに、イってしまえ……っ! ん、んんっ!」
「ふぅああっ♥ ……あっ、あっ! いっ、いぃ……くぅ! イくっイく……っくっふううぅ――ッ♥♥」
俺が見つめる視線の先で、アンが顎の裏側をロイドに見せつけるみたく仰け反って、全裸の背中をびくっと震わせた。
たぶん、あれがイくってやつなんだろう。
いくら経験がなくたって、俺にもそれくらいは分かる。だいたい毎日、自分で自分のものを扱いてすっきりさせているんだし。
けど、女は男と違って精液が飛んだりするわけじゃないから、遠目で見ているだけだと分かりづらい。いまのだって、アンが「イく、イく!」と大声を上げていたから、そうなのだろうな、と想像できただけだ。いや、もしかしたらアンはべつにイってないのかもしれない。というか、女も本当にイくのか? 精液が出るわけじゃないから、イく意味がないと思うんだけど、それなのにイくのか?
――俺が初めての光景に圧倒されて、ぐるぐる悩んでいると、しばらく動かないでいたロイドが手を伸ばし、アンの腰を撫でた。
「ふっ……ぅ……アン、お疲れ。自分で腰を振るの、気持よかったか?」
「はい……でも、けっこう疲れますね……ちょっと、わたしも休憩を――」
「いや、俺がまだイってないんが」
「……お姉ちゃんに」
「あたいはまだ休憩中」
話を振られたシャーリーが突っ伏したまま、気怠げに頭を振ったのが見えた。
「えっ、十分休んだでしょお!?」
「アン……あんただって、さっき、あたいが三回イくまでロイドに腰を振らせたよね」
「あ……あれはお姉ちゃんが遠慮しぃだから、わたしが心を鬼にして無理強いしてあげないと、って思ったの! 思いやりなの!」
「じゃあ、あたいもそれで。思いやってやるから、存分に無理強いしてもらえよ……ってことで、ロイド。好きにやっちゃってくれ」
「そういうことなら了解だ」
「ロイドさん!?」
「というか、この生殺し状態がもう辛いんで……動くぞ、アン」
「あっ、待っ――ああぁっ!? あっ、あぁ、あぅああっ♥」
ロイドがアンの腰を両手で抱えて、下から腰を上下に振り始めると、アンの小さな身体がいちいち跳ね上がる。
「あっ、ひゃうわっ……あっ、これっ、怖ぁ、あっ……落ちそっ、んぉあ♥ ああぁっ♥」
「ん、角度こうか……んっ、っ……浅めのお腹側、Gスポットだな。ここがっ、っ……いいんだ、ろっ! おりゃっ!」
「はっんぁあっ♥ ……やっ、落ちっ……あわっ!?」
下から大きく揺さぶられて喘ぎながら慌てるアンを、身体を起こしたロイドが背中から抱き竦めた。
「落とさないから、慌てるな」
「……は、はい」
――というやり取りをしたかどうかは、俺のいるところからでは聞き取れなかった。
でも、アンの腰に両手をまわしたロイドが肩口に顎を載せるようにして唇を動かすと、アンが前を向いたまま照れた様子で頷いたのは見えていた。
そんな二人の姿を見ていたら、混乱していた気持ちが一気に醒めていった。
なんで俺、こんなところで好きだった女が他の男としているとこを覗き見しているんだ……ああ、そういや、こいつらの様子を見に来たんだった。
とりあえず、酒池肉林で盛り上がっているってことは、なんの問題もないってことだよな。とすると、なんの問題もなさ過ぎて、村に報告する必要があるとは考えもしなかった……なんてところだろう。
「……帰るか?」
自問するけど、答えはない。
ゴブリンたちが呑気に酒池肉林しているってことは、いま慌てて話しかける必要もないってことだ。なら、いまは村に戻って問題ないことを伝えた上で、また改めて来ることにしたっていい。
それでいいはずなのに、俺の両足は靴底から根が生えたように、動こうとしてくれなかった。
いや、足だけじゃない。目も、だ。
アンがロイドに犯られて善がり顔している光景を、俺は踵を返すことも瞼を閉じることもせずに、じっと眺めていた。
「――っはぅあ♥ っあ……こっ、の……格好、恥ずかしっ……ぃ……っひぃいいッ♥」
ロイドは、アンの背中を抱いたまま、仰向けに寝転がる。ロイドの上にアンも寝そべる体勢だ。
「あっあぁ!? この角度ぉ、おぁ……ッ♥ おぁ! あっ、しゅごっ……うぅうあッ♥」
ロイドのものはアンのあそこに入ったままらしい。あんな体勢じゃ肉棒がしっかり入らないようにも思えるのに、アンは爪先をぴんと張った両足で宙を掻いて善がっている。
どうも竿の当たる角度がいいようだけど、角度とかそういうのがあるのか。性交ってただ入れて動くだけだと思っていたけれど、じつは意外と奥が深いのか?
あ……そういえば、村の女たちが言っていたな。ゴブリンたちの女頭目は、男のものを口に含んでしゃぶるんだとか。そんな変態なことをする女の兄なんだったら、ロイドだって性交に関する変態的な技術を持っていて当然だ。アンにあんな獣みたいな声を上げさせているのも、その技術によるものだろう。
きっと、あいつら兄妹の家はそういうことを代々生業にしてきた家柄なんだ。そんな奴らがどうして、こんなド田舎にいるのか?
――きっと、あれだ。御家騒動とか陰謀とかだ。
行商人が最近持ってくるようになった紙芝居の中に、都会を舞台にしたそういう話があった。アルカとはあまり話したことがないからなんとも言えないけれど、ロイドはあれで都会人っぽいところがあるから、この想像はあながち間違っていないんじゃないかと思う。
そうすると、都会では女が男のあれをしゃぶるのが普通という可能性もあるのか? ……いや待て、そうだとすると、御家騒動も陰謀も前提がなくなってしまう。あいつら兄妹がこんなところに流れてきた理由が分からなくなる。
……まあ、分からんなくて当然かもな。あいつらは、ゴブリンたちを手下にしてしまうような奴らだ。そんなぶっ飛んだ兄妹の過去が、ぶっ飛んだものでないわけがないんだから。
「ふあぁ♥ あっ、あっ、あ、あぁっ……ふぅああぁ――ッ♥♥」
妄想の世界に飛んでいた思考が、アンの遠吠えみたいな善がり声で無理やり身体に引き戻された。
見ると、アンはさっきと同じくロイドの腹に寝そべるような姿勢で性交したまま、背中を思いきり弓形にして、膝を丸めた両足をひくひく痙攣させながら……漏らしていた。ちょろ、ではなく、じょば、だった。もっと近くで見ていたら、虹が架かるのまで見えていただろう。
「あっ……あ、あぁ……や、っだあぁ……ッ」
「ああ、気にすんな。漏らしたわけじゃない。これは潮吹きってやつだ」
ロイドがそんなことを言っているのが、小さく聞こえてくる。
シオフキ? お漏らしじゃなくてシオフキ? それとも、お漏らしのことを、あいつの故郷じゃシオフキと呼ぶのか?
「しおふき……お漏らしじゃない……?」
「そう、全然違う別物。膣の浅いところを攻めると、よく出てくるんだ。有瓜もたぶんよく出してるから、後で聞いてみればいい」
「アルカさんも? じゃあ……わたし、アルカさんと一緒なんですね……えへへ♥」
アンは恥ずかしがっていたのも忘れて、嬉しそうに笑っている。
シオフキとお漏らしの違いは結局分からなかったけれど、アンがいいなら、まあいいか……。
「――おい、アン。交代だ」
寝転んでいたシャーリーがいつの間にか身体を起こして、ロイドの身体の上からアンを退かそうとしていた。
「わわっ、お姉ちゃん!? わっ、落ちるって……はっあぁッ♥」
アンはこてんっと横に半回転しながら、ロイドの隣に落っこちる。そのときにロイドのあれが股座から変な感じに引っこ抜けたらしくて、アンは毛皮の敷物に突っ伏して、尻を突き上げた格好で身震いしていた。
「ははっ、面白いぞ、アン」
「うぅ……お姉ちゃんのばかぁ……!」
ぐったり寝そべるアンが睨んでいるようだったけれど、シャーリーは気にせずロイドに跨がろうとしている。
「シャーリー、いまのはちょっと酷いと思うぞ」
だが、ロイドがそう言ってシャーリーの肩を掴み、押し返す。
「え……」
「だからシャーリー、お仕置きな」
「えっ……きゃっ!?」
ロイドがシャーリーを突き飛ばすように押し倒した。それだけでなく、仰向けになったシャーリーの腰を抱えて上向きにさせる。
「あっ、やっ、ロイド? この格好、けっこう恥ずかしいっつか……あっ、アン、見てないで、なんとかしてくれ!」
「え? なんで?」
「なっ、なんでって――」
「わたし、見たいなぁ。その格好でロイドさんのおちんちんを真上から打ち込まれちゃうお姉ちゃん、見たいなぁ」
「なっなな!?」
シャーリーが口をあんぐり開けて固まっていると、ロイドが会話に入っていく。
「そういえば、アンは屈曲位――この格好で俺とエッチしてるのをシャーリーに見られたことがあったよな」
「はい。聖誕祭のときですね。あのときのお姉ちゃんは、わたしがロイドさんにされているのを見ながらオナニー……じゃなくてお祈りしてたんだよね」
「オナニーでいいよ! お祈りって言われるほうが恥ずかしいから! っつか、そんなこと覚えてんな!」
「あははっ」
シャーリーが何事か喚いて、アンに笑われている。ロイドも苦笑している。よく分からないけれど、俺の知らない思い出話のようだ。あと、オナニーって言葉もよく分からない。
俺が知らない言葉や想い出で盛り上がっている三人が、急に遠ざかっていくようだった。たぶん、いま茂みから踏み出して近づいていったとしても、この遠ざかっていく速さには追いつけないんだろう。
「……あぁ」
それは理解の溜め息だった。
明るい日差しの下、裸で絡み合いながら笑ったり拗ねたりしているシャーリーとアン。
一人は同じ猟師見習いとして、一人はいつか嫁に貰うつもりでいた相手として、俺の背がいまの半分以下だった頃からずっと連んできた幼馴染みの二人。
でも、もう違うんだ。
あそこにいるのは、幼馴染みだった二人だ。いまは俺の知らない暮らしをしている二人だ。俺じゃない男と性交していて、その男には俺に見せたことのない顔をしている二人だ。
「いっそ、他人だったら……」
口を衝いた独り言は、この期に及んで地面から離れようともしてくれない足の甲へと落ちて跳ね、どこかに転がっていった。
「んぁ、あぁ! ロイドっ、っ、んぁ! この格好、深すぎっ……いっ、いぃ♥ んっ、んぁッ♥ ぅああッ♥」
離れたところから盗み見している俺のことなんてお構いなしに、シャーリーは仰向けから尻を抱え上げられた体勢でロイドにのし掛かられて、ずんずんと重たい音がしそうな勢いで腰を打ちつけられている。そして、その腰の上下に合わせて、切れ切れの悲鳴を張り上げている。それが喜びの悲鳴なのは、茂みからだと表情がよく見えなくても丸分かりだ。
「その体位、けっこう腰にくるよねぇ」
「あ、あっ♥ はっくふッ♥ んっ、んぅッ♥」
「でも、繋がってるところが自分で見えちゃうの、興奮するよね」
「んんっ、んっ……んうぁッ♥ ああっ♥」
二人の傍で寝そべっているアンが、何か世間話みたいなことを言っているけれど、シャーリーは聞いちゃいない。
「んっ、っ……アン、ちょっと、気が散るから……」
ロイドが上からものを押し込むように腰を使いながら、嫌そうな顔をアンに向けている。
「はぁい、黙ってます……んぁ♥」
アンの手が股間に伸びていく。俺のところからはアンの背中しか見えないけれど、その背中がごそごそ揺れ始める。たぶん、自分で自分のあそこを弄っているんだ。
ロイドが言っていた。あいつの故郷じゃ、女も当たり前のように、男みたいに自分の股間を自分で触って気持よくなるんだそうだ。アンもその風習を覚えてしまったんだろう。
ああ……本当にもう、アンは俺の知らない女になったんだな……。
俺が小さい頃から一緒に育ってきたアンは、自分で自分のあそこを弄るような女じゃなかった。良い悪いじゃなく、そんなこと思いつきもしない――何も知らない子供だった。
でもいま、遠く離れたところで姉の性交を見ながら股間を弄っている後ろ姿は、子供のものじゃない。小さいけれど、女の背中だ。
「ひっ、い、っく……! ろい、どっ、おぉ……っ、くうぅ……ッ……♥」
いつの間にかシャーリーの善がり声が、悲鳴から啜り泣きに変わっている。
「イくのか? 俺もっ、っ……一緒にっ、くっ……! んっ、っ!」
ロイドの腰使いが少し変わって、叩きつけるようなのから、押しつけて震わせるようなのになる。俺も男だから分かるが、たぶんもう射精するんだろう。
というか、俺も……!
「あっ、あ、ぅあ! あっ! っ……くっ、うぅ! ロイドっ、っくうぅ!」
「シャーリー……ッ! うっ……っ、イ……く――ぞッ!!」
「んあっ♥ あっ、っ……ふぅああああッ♥♥」
ロイドが動きを止めて、シャーリーの腰にのし掛かったまま尻だけを弾ませると、シャーリーも宙ぶらりんになっている両足を虫みたいに藻掻かせてから、全身をぐったりさせた。
……俺も、ぐったりきていた。ズボンの中でぶちまけてしまった気持ち悪さと情けなさとで叫びたくなるのを、どうにか堪えていた。
不自然な体勢で脱力したせいか、ロイドが少し身動ぎしただけで、シャーリーの尻はずるずると下がっていってしまった。そのせいでロイドのものがずるんっと抜け落ちて、シャーリーは高い声で鳴く。
「はっふッ♥ ふっ……んふぅ……んうぁ、ぁ……♥」
シャーリーは尻を敷物に下ろしてただの仰向けに戻る。その隣では、立て膝になったロイドが息を切らしている。
「ん……っは……シャーリー……身体、痛くないか?」
「平気……でも、ちょっと、疲れた……」
「お姉ちゃんは体力ないなぁ」
アンが横から冗談めかすと、シャーリーは持ち上げた手で鬱陶しそうにアンの膝を叩く。
「これは体力とは別問題の疲れなの。分かんだろっ」
「分かるけどね」
「ほらぁ!」
「でも――」
アンはからかい顔でさらに何か言おうとしたけれど、突然の泣き声がそれを遮った。
途端に、アンたち三人は素早く動き出す。
「ダイチ、起きたか。なんだ、腹減ったか? それとも襁褓か?」
「わぁ、ミソラも起きたんだね。ええと……ああ、襁褓だね。はいはい、ちょっと待っててね」
「あ、替えの襁褓は俺が持ってくるよ」
三人が動き始めたことで、俺はそれまでずっと目に入っていなかった大きな籠の存在に気がつく。細い枝を編んで作った籠で、きっとそれが赤ん坊二人の寝床になっているんだろう。
二人に赤ん坊が生まれたことは、産婆をしたという婆様の口から女衆に伝わって、俺も聞いていた。あの子らが生んだのは角の生えた魔物の子だった、と声を低くしながら村中で話しまくっていたから、嫌でも耳に入ってきていた。
実際にこの目で見た赤ん坊二人は、片一方が少し色白すぎじゃないかなという気がして、もう片方は逆に少し色黒すぎだよな……と思ったくらいで、あとは普通だった。少なくとも遠目に見た限りでは、普通に人間の赤ん坊だった。
離れていても煩いくらいの大声で泣くのは……赤ん坊なら普通だろう、たぶん。
「あぁ、ダイチも襁褓か……はい、よしよし。いま、ロイドが替えの襁褓を持ってきてくれるからな。ちょっとの辛抱だぞ」
「あ、ミソラが微妙に泣き止んだ……え? この子、ダイチが泣いてるのを見て喜んでる?」
「そっかぁ、ミソラは母親にかぁ」
「お姉ちゃん!」
シャーリーとアンは楽しげに言い合っているけれど、両手は別の生き物みたいにてきぱき動いて、赤ん坊から襁褓を外していく。
「持ってきたぞ」
「ありがとよ」
「助かります」
姉妹二人は赤ん坊の股をロイドが持ってきた桶の水と布で手早く洗って、新しい襁褓をくるくると着付ける。
魔法のような手さばきは、二人がとっくに母親なのだと語っていた。
「こっちの脱ぎたては……俺がいま、ぱっぱっと洗ってくるか」
「本当、助かります」
「ロイドはいい夫になるぜ」
どうやらロイドが、汚れた襁褓を抱えて河原まで行くようだ。
男がそんなことするのか――と一瞬思ったけれど、ここの頭目は女だし、力仕事はでかいゴブリンたちがやるんだろうから、あいつが雑用を買って出るのは間違いってわけでもないのか。まあ、ここにはここの掟があるんだろうし、俺が気にすることじゃないな。
なんにしても……さっきまで漂っていた男と女の空気はどこかに吹き飛んでいた。
……視線をちょっと向こうにやると、アルカに群がっている尻丸出しのゴブリンたちが見えているし、アルカの善がり声やゴブリンたちの野太い吐息や呻きは聞こえてきているのだけど、ロイドたち三人は全く気にしていなかった。襁褓を替えってもらって泣き止んだ赤ん坊二人も、向こうの乱痴気騒ぎを気にせず、きゃっきゃと笑っている。
「……あいつら、すごいな」
ゴブリンたちを全く気にせず赤ん坊をあやしている姉妹の姿に、俺はまたしても思い知らされる。
あいつらはもう俺の知らない時間を生きているんだな、と。
結局、この日はロイドたちに気づかれる前に帰った。足を動かすたびに股間がべちゃついて、無性に泣けた。
村の連中には「ゴブリンたちは元気にしていた。竜のことは問題ない。今度、改めて村に顔を出すから、そのときに詳しく話すと言ってたぞ」と伝えておいた。全くの作り話だけど、明日にでもまた連中のところに行って、話を合わせるように言えば問題ないだろう。
そして翌日――。
俺はもう一度ゴブリンたちの塒を訪ねて、村の連中が竜のことでやきもきしているからロイドあたりが顔を見せに来い、と伝えた。
「あ……すまん、そっちのことは完璧に考えから抜けていた。悪かった、明日にでも行かせてもらうよ」
ロイドはすぐに応じてくれた。というか本当に、ただ普通に村のことを忘れていただけだったようだ。
ほら、やっぱりな。みんな心配しすぎなんだよ――などと俺が内心で笑っていると、ロイドが何でもないことのように言った。
「そういえば、昨日も来てたんだってな。なら、この話も昨日してくれればよかったのに」
「なっ……ばっ、馬鹿野郎!」
俺が盗み見していたのに気づいていたのかよ!? あの中に割って入っていけるわけないだろ! ――とか、一瞬で色々な思考が弾けたけれど、口を衝いたのは馬鹿野郎の一言だけだった。
「ああ、やっぱりおまえだったんだ」
ロイドはそう言って、口元をにやつかせる。その顔を見て、俺は失言させられたことに気づいた。
「あっ……!」
「まあ、誘導尋問するまでもなく分かってたんだけどな。忍者たちが気づいていたからさ」
「忍者……ちびゴブリンのほうか。俺は気づかれているのに気づかなかったってのに……くそ!」
「おまえもべつに気配を殺していたわけじゃなかったんだろ。なら、気づくさ。あいつら、すごいからな」
「……そうだな。すごいな。じゃあ、話すことは話したし、帰るわ。明日、忘れんなよ」
俺は覗きがばれていた気恥ずかしさを仏頂面で誤魔化して、とっとと帰ることにした。ロイドは引き留めてこなかった。
「アンもシャーリーも、元気にやってる。心配ないぞ」
「……みたいだな」
俺は背中を向けたまま答えると、落ち着いているふうを装えるぎりぎりの早足でその場を離れた。そうしないと、あいつらを泣かせんじゃねえぞ、とか余計なことを口走ってしまいそうだった。
「っつうか、結婚相手どうすっかな……」
俺が心配すべきは、女の幸せを手に入れているあいつらじゃない。俺自身の将来のほうなのだから。
アンだった。
……男の腰に後ろ向きで跨がって、尺取り虫みたいに腰をへこへこさせている全裸の少女が、アンだった。俺の幼馴染みで、俺が「将来、こいつを嫁にするんだろうな」と思っていた相手の、アンだった。
そして、アンの背中を見上げる体勢で跨がられている全裸の男は、ロイドだった。
「ロイドさんっ、っ、あぁ! そこっ♥ お腹のそこっ、もっとぉ……おぁ! んうぁっ♥」
「っ、っ……お腹の、ここ、か?」
「あっ、違う! もっと下のっ、入り口のほぉ……っふあぁ♥ そぉ、そこっ! そこぉ♥」
二人は――二人だけでなく他の奴らもだけど――俺に茂みから覗かれているとも知らずに、裸の腰を上から下から押しつけ合うようにして、その……性交している。
あ、よく見たら、二人の傍にはやっぱり全裸のシャーリーが突っ伏している。たぶん、アンの前にロイドと性交していて、いまは休んでいるんだろう。
「……っ」
とても近くで誰かが唸った、と思って驚きに身を竦めたら、それは俺自身の唾を飲み込む音だった。
俺はいつの間にか、口を半開きにして見入っていた。
恥ずかしながら――いや、恥ずかしがることでもない気はするけど、とにかく、俺はこういうのを見るのが初めてだった。
いやいや、普通は他人が性交しているところを見るなんてこと、普通はないぞ。というか普通じゃないのは、こいつらだ。
なんで昼間から、野外で、大勢で、性交しているんだ!? 一から十まで普通じゃないだろ!!
……いや、分かっている。こいつらがこういう生活をしているのだということは、冬の間に聞いていた。だけど、実際に見たのはこれが初めてだった。たぶん冬の間は、俺に気を遣って、俺が来るときはやらないようにしていたんだと思う。
余計な気遣いをされるのは子供扱いされているみたいで不愉快に思っていたけれど――というか、俺は全然分かっていなかったんだ。
「俺たちはよく乱交しているんだ」と本人の口から言われたところで、俺にとってそれは「王様は毎日に五回食事をするんだって」みたいな、嘘でも本当でもどうでもいい別世界の話でしかなかった。だから、きちんと想像してこなかったんだ。乱交というのがどういうものなのかを。
「ロイドさんっ、あっ、やっ! あっ、あぁ♥ もう、少しでっ、あっ、っ……!」
「ああ、いいぞ。いつでもっ、っ、好きに、イってしまえ……っ! ん、んんっ!」
「ふぅああっ♥ ……あっ、あっ! いっ、いぃ……くぅ! イくっイく……っくっふううぅ――ッ♥♥」
俺が見つめる視線の先で、アンが顎の裏側をロイドに見せつけるみたく仰け反って、全裸の背中をびくっと震わせた。
たぶん、あれがイくってやつなんだろう。
いくら経験がなくたって、俺にもそれくらいは分かる。だいたい毎日、自分で自分のものを扱いてすっきりさせているんだし。
けど、女は男と違って精液が飛んだりするわけじゃないから、遠目で見ているだけだと分かりづらい。いまのだって、アンが「イく、イく!」と大声を上げていたから、そうなのだろうな、と想像できただけだ。いや、もしかしたらアンはべつにイってないのかもしれない。というか、女も本当にイくのか? 精液が出るわけじゃないから、イく意味がないと思うんだけど、それなのにイくのか?
――俺が初めての光景に圧倒されて、ぐるぐる悩んでいると、しばらく動かないでいたロイドが手を伸ばし、アンの腰を撫でた。
「ふっ……ぅ……アン、お疲れ。自分で腰を振るの、気持よかったか?」
「はい……でも、けっこう疲れますね……ちょっと、わたしも休憩を――」
「いや、俺がまだイってないんが」
「……お姉ちゃんに」
「あたいはまだ休憩中」
話を振られたシャーリーが突っ伏したまま、気怠げに頭を振ったのが見えた。
「えっ、十分休んだでしょお!?」
「アン……あんただって、さっき、あたいが三回イくまでロイドに腰を振らせたよね」
「あ……あれはお姉ちゃんが遠慮しぃだから、わたしが心を鬼にして無理強いしてあげないと、って思ったの! 思いやりなの!」
「じゃあ、あたいもそれで。思いやってやるから、存分に無理強いしてもらえよ……ってことで、ロイド。好きにやっちゃってくれ」
「そういうことなら了解だ」
「ロイドさん!?」
「というか、この生殺し状態がもう辛いんで……動くぞ、アン」
「あっ、待っ――ああぁっ!? あっ、あぁ、あぅああっ♥」
ロイドがアンの腰を両手で抱えて、下から腰を上下に振り始めると、アンの小さな身体がいちいち跳ね上がる。
「あっ、ひゃうわっ……あっ、これっ、怖ぁ、あっ……落ちそっ、んぉあ♥ ああぁっ♥」
「ん、角度こうか……んっ、っ……浅めのお腹側、Gスポットだな。ここがっ、っ……いいんだ、ろっ! おりゃっ!」
「はっんぁあっ♥ ……やっ、落ちっ……あわっ!?」
下から大きく揺さぶられて喘ぎながら慌てるアンを、身体を起こしたロイドが背中から抱き竦めた。
「落とさないから、慌てるな」
「……は、はい」
――というやり取りをしたかどうかは、俺のいるところからでは聞き取れなかった。
でも、アンの腰に両手をまわしたロイドが肩口に顎を載せるようにして唇を動かすと、アンが前を向いたまま照れた様子で頷いたのは見えていた。
そんな二人の姿を見ていたら、混乱していた気持ちが一気に醒めていった。
なんで俺、こんなところで好きだった女が他の男としているとこを覗き見しているんだ……ああ、そういや、こいつらの様子を見に来たんだった。
とりあえず、酒池肉林で盛り上がっているってことは、なんの問題もないってことだよな。とすると、なんの問題もなさ過ぎて、村に報告する必要があるとは考えもしなかった……なんてところだろう。
「……帰るか?」
自問するけど、答えはない。
ゴブリンたちが呑気に酒池肉林しているってことは、いま慌てて話しかける必要もないってことだ。なら、いまは村に戻って問題ないことを伝えた上で、また改めて来ることにしたっていい。
それでいいはずなのに、俺の両足は靴底から根が生えたように、動こうとしてくれなかった。
いや、足だけじゃない。目も、だ。
アンがロイドに犯られて善がり顔している光景を、俺は踵を返すことも瞼を閉じることもせずに、じっと眺めていた。
「――っはぅあ♥ っあ……こっ、の……格好、恥ずかしっ……ぃ……っひぃいいッ♥」
ロイドは、アンの背中を抱いたまま、仰向けに寝転がる。ロイドの上にアンも寝そべる体勢だ。
「あっあぁ!? この角度ぉ、おぁ……ッ♥ おぁ! あっ、しゅごっ……うぅうあッ♥」
ロイドのものはアンのあそこに入ったままらしい。あんな体勢じゃ肉棒がしっかり入らないようにも思えるのに、アンは爪先をぴんと張った両足で宙を掻いて善がっている。
どうも竿の当たる角度がいいようだけど、角度とかそういうのがあるのか。性交ってただ入れて動くだけだと思っていたけれど、じつは意外と奥が深いのか?
あ……そういえば、村の女たちが言っていたな。ゴブリンたちの女頭目は、男のものを口に含んでしゃぶるんだとか。そんな変態なことをする女の兄なんだったら、ロイドだって性交に関する変態的な技術を持っていて当然だ。アンにあんな獣みたいな声を上げさせているのも、その技術によるものだろう。
きっと、あいつら兄妹の家はそういうことを代々生業にしてきた家柄なんだ。そんな奴らがどうして、こんなド田舎にいるのか?
――きっと、あれだ。御家騒動とか陰謀とかだ。
行商人が最近持ってくるようになった紙芝居の中に、都会を舞台にしたそういう話があった。アルカとはあまり話したことがないからなんとも言えないけれど、ロイドはあれで都会人っぽいところがあるから、この想像はあながち間違っていないんじゃないかと思う。
そうすると、都会では女が男のあれをしゃぶるのが普通という可能性もあるのか? ……いや待て、そうだとすると、御家騒動も陰謀も前提がなくなってしまう。あいつら兄妹がこんなところに流れてきた理由が分からなくなる。
……まあ、分からんなくて当然かもな。あいつらは、ゴブリンたちを手下にしてしまうような奴らだ。そんなぶっ飛んだ兄妹の過去が、ぶっ飛んだものでないわけがないんだから。
「ふあぁ♥ あっ、あっ、あ、あぁっ……ふぅああぁ――ッ♥♥」
妄想の世界に飛んでいた思考が、アンの遠吠えみたいな善がり声で無理やり身体に引き戻された。
見ると、アンはさっきと同じくロイドの腹に寝そべるような姿勢で性交したまま、背中を思いきり弓形にして、膝を丸めた両足をひくひく痙攣させながら……漏らしていた。ちょろ、ではなく、じょば、だった。もっと近くで見ていたら、虹が架かるのまで見えていただろう。
「あっ……あ、あぁ……や、っだあぁ……ッ」
「ああ、気にすんな。漏らしたわけじゃない。これは潮吹きってやつだ」
ロイドがそんなことを言っているのが、小さく聞こえてくる。
シオフキ? お漏らしじゃなくてシオフキ? それとも、お漏らしのことを、あいつの故郷じゃシオフキと呼ぶのか?
「しおふき……お漏らしじゃない……?」
「そう、全然違う別物。膣の浅いところを攻めると、よく出てくるんだ。有瓜もたぶんよく出してるから、後で聞いてみればいい」
「アルカさんも? じゃあ……わたし、アルカさんと一緒なんですね……えへへ♥」
アンは恥ずかしがっていたのも忘れて、嬉しそうに笑っている。
シオフキとお漏らしの違いは結局分からなかったけれど、アンがいいなら、まあいいか……。
「――おい、アン。交代だ」
寝転んでいたシャーリーがいつの間にか身体を起こして、ロイドの身体の上からアンを退かそうとしていた。
「わわっ、お姉ちゃん!? わっ、落ちるって……はっあぁッ♥」
アンはこてんっと横に半回転しながら、ロイドの隣に落っこちる。そのときにロイドのあれが股座から変な感じに引っこ抜けたらしくて、アンは毛皮の敷物に突っ伏して、尻を突き上げた格好で身震いしていた。
「ははっ、面白いぞ、アン」
「うぅ……お姉ちゃんのばかぁ……!」
ぐったり寝そべるアンが睨んでいるようだったけれど、シャーリーは気にせずロイドに跨がろうとしている。
「シャーリー、いまのはちょっと酷いと思うぞ」
だが、ロイドがそう言ってシャーリーの肩を掴み、押し返す。
「え……」
「だからシャーリー、お仕置きな」
「えっ……きゃっ!?」
ロイドがシャーリーを突き飛ばすように押し倒した。それだけでなく、仰向けになったシャーリーの腰を抱えて上向きにさせる。
「あっ、やっ、ロイド? この格好、けっこう恥ずかしいっつか……あっ、アン、見てないで、なんとかしてくれ!」
「え? なんで?」
「なっ、なんでって――」
「わたし、見たいなぁ。その格好でロイドさんのおちんちんを真上から打ち込まれちゃうお姉ちゃん、見たいなぁ」
「なっなな!?」
シャーリーが口をあんぐり開けて固まっていると、ロイドが会話に入っていく。
「そういえば、アンは屈曲位――この格好で俺とエッチしてるのをシャーリーに見られたことがあったよな」
「はい。聖誕祭のときですね。あのときのお姉ちゃんは、わたしがロイドさんにされているのを見ながらオナニー……じゃなくてお祈りしてたんだよね」
「オナニーでいいよ! お祈りって言われるほうが恥ずかしいから! っつか、そんなこと覚えてんな!」
「あははっ」
シャーリーが何事か喚いて、アンに笑われている。ロイドも苦笑している。よく分からないけれど、俺の知らない思い出話のようだ。あと、オナニーって言葉もよく分からない。
俺が知らない言葉や想い出で盛り上がっている三人が、急に遠ざかっていくようだった。たぶん、いま茂みから踏み出して近づいていったとしても、この遠ざかっていく速さには追いつけないんだろう。
「……あぁ」
それは理解の溜め息だった。
明るい日差しの下、裸で絡み合いながら笑ったり拗ねたりしているシャーリーとアン。
一人は同じ猟師見習いとして、一人はいつか嫁に貰うつもりでいた相手として、俺の背がいまの半分以下だった頃からずっと連んできた幼馴染みの二人。
でも、もう違うんだ。
あそこにいるのは、幼馴染みだった二人だ。いまは俺の知らない暮らしをしている二人だ。俺じゃない男と性交していて、その男には俺に見せたことのない顔をしている二人だ。
「いっそ、他人だったら……」
口を衝いた独り言は、この期に及んで地面から離れようともしてくれない足の甲へと落ちて跳ね、どこかに転がっていった。
「んぁ、あぁ! ロイドっ、っ、んぁ! この格好、深すぎっ……いっ、いぃ♥ んっ、んぁッ♥ ぅああッ♥」
離れたところから盗み見している俺のことなんてお構いなしに、シャーリーは仰向けから尻を抱え上げられた体勢でロイドにのし掛かられて、ずんずんと重たい音がしそうな勢いで腰を打ちつけられている。そして、その腰の上下に合わせて、切れ切れの悲鳴を張り上げている。それが喜びの悲鳴なのは、茂みからだと表情がよく見えなくても丸分かりだ。
「その体位、けっこう腰にくるよねぇ」
「あ、あっ♥ はっくふッ♥ んっ、んぅッ♥」
「でも、繋がってるところが自分で見えちゃうの、興奮するよね」
「んんっ、んっ……んうぁッ♥ ああっ♥」
二人の傍で寝そべっているアンが、何か世間話みたいなことを言っているけれど、シャーリーは聞いちゃいない。
「んっ、っ……アン、ちょっと、気が散るから……」
ロイドが上からものを押し込むように腰を使いながら、嫌そうな顔をアンに向けている。
「はぁい、黙ってます……んぁ♥」
アンの手が股間に伸びていく。俺のところからはアンの背中しか見えないけれど、その背中がごそごそ揺れ始める。たぶん、自分で自分のあそこを弄っているんだ。
ロイドが言っていた。あいつの故郷じゃ、女も当たり前のように、男みたいに自分の股間を自分で触って気持よくなるんだそうだ。アンもその風習を覚えてしまったんだろう。
ああ……本当にもう、アンは俺の知らない女になったんだな……。
俺が小さい頃から一緒に育ってきたアンは、自分で自分のあそこを弄るような女じゃなかった。良い悪いじゃなく、そんなこと思いつきもしない――何も知らない子供だった。
でもいま、遠く離れたところで姉の性交を見ながら股間を弄っている後ろ姿は、子供のものじゃない。小さいけれど、女の背中だ。
「ひっ、い、っく……! ろい、どっ、おぉ……っ、くうぅ……ッ……♥」
いつの間にかシャーリーの善がり声が、悲鳴から啜り泣きに変わっている。
「イくのか? 俺もっ、っ……一緒にっ、くっ……! んっ、っ!」
ロイドの腰使いが少し変わって、叩きつけるようなのから、押しつけて震わせるようなのになる。俺も男だから分かるが、たぶんもう射精するんだろう。
というか、俺も……!
「あっ、あ、ぅあ! あっ! っ……くっ、うぅ! ロイドっ、っくうぅ!」
「シャーリー……ッ! うっ……っ、イ……く――ぞッ!!」
「んあっ♥ あっ、っ……ふぅああああッ♥♥」
ロイドが動きを止めて、シャーリーの腰にのし掛かったまま尻だけを弾ませると、シャーリーも宙ぶらりんになっている両足を虫みたいに藻掻かせてから、全身をぐったりさせた。
……俺も、ぐったりきていた。ズボンの中でぶちまけてしまった気持ち悪さと情けなさとで叫びたくなるのを、どうにか堪えていた。
不自然な体勢で脱力したせいか、ロイドが少し身動ぎしただけで、シャーリーの尻はずるずると下がっていってしまった。そのせいでロイドのものがずるんっと抜け落ちて、シャーリーは高い声で鳴く。
「はっふッ♥ ふっ……んふぅ……んうぁ、ぁ……♥」
シャーリーは尻を敷物に下ろしてただの仰向けに戻る。その隣では、立て膝になったロイドが息を切らしている。
「ん……っは……シャーリー……身体、痛くないか?」
「平気……でも、ちょっと、疲れた……」
「お姉ちゃんは体力ないなぁ」
アンが横から冗談めかすと、シャーリーは持ち上げた手で鬱陶しそうにアンの膝を叩く。
「これは体力とは別問題の疲れなの。分かんだろっ」
「分かるけどね」
「ほらぁ!」
「でも――」
アンはからかい顔でさらに何か言おうとしたけれど、突然の泣き声がそれを遮った。
途端に、アンたち三人は素早く動き出す。
「ダイチ、起きたか。なんだ、腹減ったか? それとも襁褓か?」
「わぁ、ミソラも起きたんだね。ええと……ああ、襁褓だね。はいはい、ちょっと待っててね」
「あ、替えの襁褓は俺が持ってくるよ」
三人が動き始めたことで、俺はそれまでずっと目に入っていなかった大きな籠の存在に気がつく。細い枝を編んで作った籠で、きっとそれが赤ん坊二人の寝床になっているんだろう。
二人に赤ん坊が生まれたことは、産婆をしたという婆様の口から女衆に伝わって、俺も聞いていた。あの子らが生んだのは角の生えた魔物の子だった、と声を低くしながら村中で話しまくっていたから、嫌でも耳に入ってきていた。
実際にこの目で見た赤ん坊二人は、片一方が少し色白すぎじゃないかなという気がして、もう片方は逆に少し色黒すぎだよな……と思ったくらいで、あとは普通だった。少なくとも遠目に見た限りでは、普通に人間の赤ん坊だった。
離れていても煩いくらいの大声で泣くのは……赤ん坊なら普通だろう、たぶん。
「あぁ、ダイチも襁褓か……はい、よしよし。いま、ロイドが替えの襁褓を持ってきてくれるからな。ちょっとの辛抱だぞ」
「あ、ミソラが微妙に泣き止んだ……え? この子、ダイチが泣いてるのを見て喜んでる?」
「そっかぁ、ミソラは母親にかぁ」
「お姉ちゃん!」
シャーリーとアンは楽しげに言い合っているけれど、両手は別の生き物みたいにてきぱき動いて、赤ん坊から襁褓を外していく。
「持ってきたぞ」
「ありがとよ」
「助かります」
姉妹二人は赤ん坊の股をロイドが持ってきた桶の水と布で手早く洗って、新しい襁褓をくるくると着付ける。
魔法のような手さばきは、二人がとっくに母親なのだと語っていた。
「こっちの脱ぎたては……俺がいま、ぱっぱっと洗ってくるか」
「本当、助かります」
「ロイドはいい夫になるぜ」
どうやらロイドが、汚れた襁褓を抱えて河原まで行くようだ。
男がそんなことするのか――と一瞬思ったけれど、ここの頭目は女だし、力仕事はでかいゴブリンたちがやるんだろうから、あいつが雑用を買って出るのは間違いってわけでもないのか。まあ、ここにはここの掟があるんだろうし、俺が気にすることじゃないな。
なんにしても……さっきまで漂っていた男と女の空気はどこかに吹き飛んでいた。
……視線をちょっと向こうにやると、アルカに群がっている尻丸出しのゴブリンたちが見えているし、アルカの善がり声やゴブリンたちの野太い吐息や呻きは聞こえてきているのだけど、ロイドたち三人は全く気にしていなかった。襁褓を替えってもらって泣き止んだ赤ん坊二人も、向こうの乱痴気騒ぎを気にせず、きゃっきゃと笑っている。
「……あいつら、すごいな」
ゴブリンたちを全く気にせず赤ん坊をあやしている姉妹の姿に、俺はまたしても思い知らされる。
あいつらはもう俺の知らない時間を生きているんだな、と。
結局、この日はロイドたちに気づかれる前に帰った。足を動かすたびに股間がべちゃついて、無性に泣けた。
村の連中には「ゴブリンたちは元気にしていた。竜のことは問題ない。今度、改めて村に顔を出すから、そのときに詳しく話すと言ってたぞ」と伝えておいた。全くの作り話だけど、明日にでもまた連中のところに行って、話を合わせるように言えば問題ないだろう。
そして翌日――。
俺はもう一度ゴブリンたちの塒を訪ねて、村の連中が竜のことでやきもきしているからロイドあたりが顔を見せに来い、と伝えた。
「あ……すまん、そっちのことは完璧に考えから抜けていた。悪かった、明日にでも行かせてもらうよ」
ロイドはすぐに応じてくれた。というか本当に、ただ普通に村のことを忘れていただけだったようだ。
ほら、やっぱりな。みんな心配しすぎなんだよ――などと俺が内心で笑っていると、ロイドが何でもないことのように言った。
「そういえば、昨日も来てたんだってな。なら、この話も昨日してくれればよかったのに」
「なっ……ばっ、馬鹿野郎!」
俺が盗み見していたのに気づいていたのかよ!? あの中に割って入っていけるわけないだろ! ――とか、一瞬で色々な思考が弾けたけれど、口を衝いたのは馬鹿野郎の一言だけだった。
「ああ、やっぱりおまえだったんだ」
ロイドはそう言って、口元をにやつかせる。その顔を見て、俺は失言させられたことに気づいた。
「あっ……!」
「まあ、誘導尋問するまでもなく分かってたんだけどな。忍者たちが気づいていたからさ」
「忍者……ちびゴブリンのほうか。俺は気づかれているのに気づかなかったってのに……くそ!」
「おまえもべつに気配を殺していたわけじゃなかったんだろ。なら、気づくさ。あいつら、すごいからな」
「……そうだな。すごいな。じゃあ、話すことは話したし、帰るわ。明日、忘れんなよ」
俺は覗きがばれていた気恥ずかしさを仏頂面で誤魔化して、とっとと帰ることにした。ロイドは引き留めてこなかった。
「アンもシャーリーも、元気にやってる。心配ないぞ」
「……みたいだな」
俺は背中を向けたまま答えると、落ち着いているふうを装えるぎりぎりの早足でその場を離れた。そうしないと、あいつらを泣かせんじゃねえぞ、とか余計なことを口走ってしまいそうだった。
「っつうか、結婚相手どうすっかな……」
俺が心配すべきは、女の幸せを手に入れているあいつらじゃない。俺自身の将来のほうなのだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる