義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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3章

48-1. ラヴィニエ・ミ・アーメイ ラヴィニエ

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 私の名は、ラヴィニエ・ミ・アーメイ。アルゴーネ侯爵家を宗主に仰ぐ巫覡テールゴスの家系、アーメイ家の次女だ。
 今年で十七歳になることもあって、おまえは結婚しないのか、と周囲が煩いのだが、わたしは終生を一巫覡として、一騎士として過ごすつもりだ。他家に嫁いで家庭おくに入っている暇などないのだ。
 アーメイ家の巫覡は代々、女のほうにその力が発現しやすい。男性巫覡である父上のほうが例外なのだ。私の姉も巫覡で、次期アーメイ家当主は姉が継ぐだろう。
 その姉上と父上は、御屋形様――当代のアルゴーネ家御当主パスト様に随行して、中央に滞在している最中だ。
 私は騎士団の一員として領地に残り、御屋形様の継嗣であり、いまは城代、すなわち領主の全権代理人を任じられたジョンディ子爵エミリオ様の隷下に属している。
 エミリオ様は未だ二十歳を迎えていない若者だが、その英邁な質は幼少のみぎりから示されていた。

「当代様も次代様も才徳兼ね備えたるお方であらせられる。我ら家臣一同、皆、恵まれているな」

 父上はそう仰っていた。私もその通りだと思った。
 当代のパスト様は大らかなお方だ。何かと忌避されることの多い私たちアーメイ家の者にも目をかけてくださる。
 我が家は巫覡の家系だが、使える巫術は過去視という微妙なものだ。たった二日前までしか視ることができないのでは、失せ物探しでも微妙だ。失せ物に気づいたのが無くしてから三日後以降では役に立たないし、二日以内に気づくものなら、過去視がなくとも見つけられることがほとんどだ。
 その一方で、皆は我が家を忌避する。私たちアーメイ家の者は、主君であるアルゴーネ侯の命令下でなければ過去視の巫術を行使することはない。それに前述の通り、私たちは二日以内の過去しか視られないから、誰かが過去に犯した罪を暴くというようなことはまず不可能だ。
 そのことは公にしているというのに、大抵の者は私たちを忌避する。
 でも、それは仕方のないことだと理解している。アーメイ家の人間は、忌避されることを甘受するように言い含められながら育てられているからだ。

「よいか、ラヴィニエ。この世に、後ろめたいことのひとつもない者などいない。仮に、本当に何一つ罪を犯したことのない者がいたとしても、それでも我らを前にすれば、その者は自問するだろう。自分は本当に罪なき者なのだろうか、と」

 父上はそう仰っていた。私もその通りだと思った。
 世の中にひとつも罪を犯したことのない者はいるかもしれない。でも、自分にひとつも罪はないと胸を張れる者はいないのだ。だから、罪を視ることのできる私たちは、誰からも忌まれてしまうのだ。

「よいか、ラヴィニエ。それは仕方のないことだ。だからこそ、我らは我らを忌避せず重用してくれる御屋形様への忠節を忘れてはならぬのだ」

 父上はそう仰っていた。私もその通りだと思った。
 また、父上はこうも仰った。

「よいか、ラヴィニエ。次代様が御屋形様の跡目を継いだ暁には、おまえは近衛として取り立てられよう。そうなれば、見合い相手を見つけることも叶うかもしれぬ。当家としては、おまえの姉の婿を探すので手一杯だが、私個人としてはおまえの結婚も諦めてはおらぬのだからな」

 父上はそう仰っていた。けれど残念ながら、その通りだとは思えなかった。
 私たちアーメイ家は数少ない巫覡の家系として珍重されると同時に、近づかれることを誰もが忌避する家柄だ。継嗣の嫁探し、入り婿探しで難儀するのは先祖代々、脈々と受け継がれてきた悩みである。
 継嗣でそれなのだから、その他の子が結婚することの難しさは火を見るよりも明らかだ。事実、私は男所帯の騎士団に所属しているというのに、これまで色恋沙汰ロマンスのひとつも始まった例しがない。
 だが、いいのだ。私は一騎士として、一巫覡として終生を過ごすと決めているから、いいのだ。数少ない同性の友人が全員とっくに結婚していても、もう既に子供がいる子さえいても、悔しくも羨ましくもないったらないのだ。

「よいか、ラヴィニエ。次代様の近衛に取り立てられたとしても、分不相応な夢は見るでないぞ。次代様には相応しい家格の伴侶を迎えていただかなくてはならぬのだ。いくら、おまえが次代様と幼馴染みで、次代様とは互いに悪しからぬ気持ちを向け合っていた間柄だと言っても、主従の礼節は弁えねばならぬ。せめて、次代様が正妻を娶られるまでは大人しくしておれよ」

 父上はまた、そうも仰った。私もその通りだと思った。
 ……思っていた。

 次代様――エミリオ様は五年前、中央の学院に入った。私はこの地に留まって剣術や巫術の研鑽に努めた。それから五年後のいま、エミリオ様は領地に戻ってきた。
 学院の修学期間はまだ満了していないのだけど、領境を接した隣国での内乱による影響に備えなくてはいけないときに、我が国でも王が危篤に陥ったことで領主は中央へ参じなければならなくなった。そのことを知ったエミリオ様は、ご自身の判断で学院に休学届を出して領地に戻ってきたのだった。

「よいか、ラヴィニエ。次代様が戻ってこられたので、御屋形様が中央へ伺候している間の城代を勤めることになった。当初の予定では古参の側近が勤めるはずだったが、その者もこちらに留まるゆえ、何も問題はなかろう。私は当初の予定通り、御屋形様に付いて中央へ参るが……ラヴィニエ、おまえもこちらに残るからには、次代様と上手くやるのだぞ。……念のために言っておくが、上手くやりすぎるでないぞ。御屋形様に似た顔の孫を見るのは、もうしばらく後でよいからな」

 父上はそう仰っていた。私もその通りだと思った。

「はい、父上。よしんばエミリオ様と褥を共にすることがあっても、子種が芽吹くようなことはないように趣向を凝らします」
「趣向……そ、そうか」
「はい!」

 父上はそう仰って、私を応援してくださった。私もその期待に応えようと思った。
 ……けれども、五年振りに再会したエミリオ様は、五年前のエミリオ様とは別人になっていた。

「やあ、ラヴィニエか。久しぶりだね。五年振りだから見違えることもあるかと期待していたんだけど、期待外れだったよ。五年も経ったというのに、きみも、この土地も、じつに変わり映えしていない。まったく呑気なものだよ、田舎というのは」

 エミリオ様が隠すこともせずに私と、私たちの住むこの土地を悪し様に言ってせせら笑った瞬間、私は悟った。私が五年間ずっと心待ちにしていた、再会の喜びを噛み締める瞬間は、もう永遠に訪れることがないのだ――と。
 エミリオ様と再会した日、私の五年越しの初恋と少女時代が終わったのだった。

 御屋形様と私の父上を含めた側近の方々がエミリオ様と入れ違うようにして中央へと発った後、エミリオ様がまず真っ先にしたのが、補佐として残った古参の騎士を排斥することだった。

「私に、父上の猿真似をするだけの年寄りの補佐は要らない。遠からず、わたしは父上の後を継ぐが、古きものまで継ぐつもりはない。時代は常に新しきものを求めている。新しきに手を伸す者にだけ、未来は与えられる。――私と共に新しきアルゴーネを創らんとする者は手を挙げよ。私はその手を取ろう。私と共に強きアルゴーネを創らんとする者は剣を掲げよ。私はその剣を捧げられよう!」

 その演説に表立って反対した者はいなかった。
 エミリオ様がご自身で仰ったように、エミリオ様が次期領主になるのは確定的だ。誰だって、そのようなお方の反感は買いたくない。時期領主様の反感を恐れない古参の方々がいなかったことも、皆が挙ってエミリオ様に阿る空気を助長した。
 僅かに残っていた古参の騎士や気骨ある騎士は、中央に移動中である御屋形様へ万が一にも連絡されないように軟禁された。
 エミリオ様がそこまで断固として手段を執ったことで、日和見していた騎士たちも腹を括り、エミリオ様に対して改めて首を垂れた。私もそうしたの一人だった。
 エミリオ様の側には、阿諛と追従をもっていち早く取り入ったがべったり侍っている。エミリオ様の目には私たち遅参組が、その他大勢、としか映っていないようだった。
 ……幼馴染みとして育った私のことも、顔の無いその他大勢にしか見えていなかった。幸いにも既に初恋は終わっていたので、私は傷つかないで済んだ。
 領内の実権を完全掌握したエミリオ様が次いで発したのは、国境沿いへの出兵命令だった。

「父上は旧態依然とした事なかれ主義の人であったから、領の境をひとつ跨いだ先で起きている戦火に無関心でいられた。――だが、私は違う。私は隣国の戦火を、対岸の火事とは思わない。火は風向き次第で、どこにでも燃え移るものだ。そして、燃えたものは、元には戻らぬのだ。なればこそ、火の粉が飛んでくる前に、火元を叩き消さねばならない。そのための領主であり、そのための騎士である! ゆえに、私はここに宣言する。我らは護領護国の騎士として、我が愛すべき領土に火の粉を飛ばさんとする隣国への犀利にして果断なる対処を断行すると――宣言する!」

 それは要するに、火事場泥棒に行くぞ、という意味の命令だった。
 エミリオ様に従うことを決めた私たちだったが、さすがにこの命令には従いかねた。
 御屋形様が領境の監視を強化するだけに留めていたのは、隣国の内乱に関与するつもりがないことを周囲に知らしめるためだった。
 国全体で糾合して攻め込むのならいざ知らず、一領地の独断で隣国に攻め入るというのは有り得ない。それは戦力的に可能か不可能かという話ではなく、やってしまったが最後、それは侵略戦争の端を開いたことになるからだ。
 かりに侵攻作戦が上手くいって、内乱で疲弊中の隣国から領土を切り取ることができたとしよう。奪われた側がいつまでも黙っていることはないし、国内の他領からも突き上げを食らうのは目に見えている。中央王家が守ってくれればいいが、辺境の一領地が悪戯に力を持つことを中央が是としてくれるとは思えない。適当な理由を付けて、奪い取った分と同じだけの領土を中央に差し出さなければいけなくなるだろう。
 エミリオ様はその際に条件を付けて利益を確保しようとしているのだろうが、いまは状況が良くないと私は考えている。

 御屋形様がこの時期に領地を空けざるをえなかった理由――それは国王が危篤状態になったから、だけではない。
 国王は世継ぎを正式に決めないまま、意識不明になってしまったのだ。そのため、二人の王子――兄と弟がそれぞれの派閥シンパに担がれて、一色触発の間柄になっていた。
 もしも王が意識を取り戻すことのないまま逝かれたら、次の王は貴族による合議で決定される。議決は多数決になるので、会議に出席できる頭数がそのまま派閥の戦力になる。また、王を決める会議には貴族本人しか参加できないという決まりがある。だからこそ、御屋形様も隣国との関所に目を光らせていなければならないこの時期に、領地を空けざるをえなかったのだ。

 中央がそうした緊張状態にある中で、一領地が他国に対して軍事行動を起こす。それがどのような結果になって返ってくるのか、私には漠然とした絵図でしか想像しかできなかった。けれど、私の想像が暗い絵具で描かれているのに対して、エミリオ様が視ている絵は極彩色をしていらっしゃるのだろう。
 遅参組の私たちは、エミリオ様に意見を述べることもできない。最早、出兵の流れを止めることは不可能だ。そうである以上、私たちにできるのはエミリオ様の視ている未来が訪れるのを願うことだけだった。

 そのようなときに椿事が起きる。
 我らの領地に竜が飛来したのだった。
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