義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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4章

60-1. 清蒸燻魚・迷子風 アルカ

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 ラヴィニエさんと義兄さんが、なんだかギクシャクです。何かあったようです。
 例えば食事中だとか、ふと目が合ったとき、二人して気まずげに目を逸らすのです。本人たちは普通にしているつもりらしいのですけど、ものすごくあからさまです。わたしだけでなく、シャーリーさんとアンちゃんも気づいているくらいです。

「姐さん、姐さん。ロイドと騎士様、なんかあったんすか?」
「さあ……? アンちゃんは何か知ってます?」
「……分かんないです」
「ん? いまの微妙な間は?」
「なんでもないですね」
「……ですか」
「はい」

 にっこり頬笑むアンちゃんに、それ以上の追求はしませんでした。
 アンちゃんが静観している以上、きっとしばらく放っておいても問題ない感じのお話なのでしょう。ということで、この話題をこれ以上穿り返すのは止めておくことにしました。下手に首を突っ込んで藪蛇に噛まれるのはノーセンキューですし。

「だいたい、わたしってこういう話を以外の方法で解決したこと、ないですからね」

 悲しき美少女の性と言いますか、女心の問題で悩んでいる男性を見るとつい、こう……ムラムラっと来ちゃうのですよね。相談に乗るつもりが、気がつけば相手の男性に乗られていた――なんて笑い話にもならないことが何度あったことか……。
 ……わたし、よく同性に刺されませんでしたね。
 まあそれはともかくとして、義兄さん相手にムラムラすることもありませんし、当事者である義兄さん、ラヴィニエさんから相談されたわけでもありませんから、この件はノータッチでいきましょう。

「というか二人とも、わたしに相談してくれないんですよね……」

 まあ、本気でわたしに相談されても困っちゃうんですけど、それはそれです。理解はできるけれど納得したくない、ってやつです。

「義兄さんも義兄さんですよ。あんな現実逃避するくらいなら、わたしにちょっと愚痴るくらいすればいいのに。まったくもーっ」

 ぎくしゃくしている二人のうち、ラヴィニエさんはぱっと見た感じ、これまで通りにしています。毎日、ゴブさんたちに混ざって訓練したり、先生役になって剣の稽古をつけたりしています。でも、最近ちょくちょくやっていた義兄さんへの講義をやらなくなっていることに、わたしは気づいていますよ。
 顔を合わせたくないのか、合わせる顔がないのか……どっちにしろ、しばらくの冷却期間は必要でしょう。その後で頃合いを見て、強引にでも顔合わせさせれば、きっと仲直りするんじゃないですかね。知りませんけど。
 ――とまあそんなわけで、ラヴィニエさんがゴブさんたちを引き連れて河原で身体を動かしている間、義兄さんは洞窟前の広場で料理という名の現実逃避に勤しんでいるわけです。
 わざわざ水を汲んでくるもの大変なので河原でやればいいと思うんですけど、男の子って意地を張るためなら無駄な苦労を厭わないんですよね。よく、女のほうが感情的だって言いますけど、男も大概ですよ。

「有瓜、何か馬鹿なこと考えてるだろ」
「あ、分ります?」
「否定しろよな」
「わたし、嘘が吐けない清純派ですので」
「それを嘘と言うんだよ」
「あらまあ」
「……チッ」

 わたしが可愛さ全開で口元に手を当てて溜め息したら、義兄さんに舌打ち混じりの溜め息で返されました。
 あ、これはガチでオコな感じです。茶化すのはここまでにしておきましょう。
 わたしは咳払いで表情を作り直すと、洞窟前に設えられた厨房で忙しそうにしている義兄さんに改めて話しかけました。

「それで義兄さん、これは何を作っているんです?」
「……料理だ」
「へぇ、リョウリっていう名前の料理なんですね。初めて聞きました。どんな料理なんですか?」
「……燻製川魚の清蒸チンジョンっぽいのだよ。街まで行くのに保存食のひとつでもあったら便利だろ。それに、燻製が上手く作れれば冬の備えにも、たぶん、なるだろ。というわけで、練習で色々作っているから、その成果物を消化しているってわけだ」
「なるほどー」

 思ったより長い説明でしたけど、要するに川魚の燻製を蒸しているようです。
 義兄さんが前にしている竈は、煉瓦っぽい感じの平たい石をコの字型に積み上げて焚き火を囲っただけのものです。石灰か粘土かがあれば……と義兄さんはぼやいていましたが、それらしいものは今のところ見つかっていません。もっとも、義兄さんの知識も漫画やラノベのでしかないようなので、石灰や粘土が見つかったからといって上手くいくとは限らないわけですが。というか、正しい知識がないから、石灰も粘土も見つけられていないのでは?
 まあ、正しい知識なんて失敗を山ほどすれば自然と身についているものだ、って誰かが言っていましたし、義兄さんも自由に好き放題すればいいんじゃないかなと思います。竈のバージョンアップについては、義兄さんよりも大工ゴブさんのほうが張り切りそうですけど。
 義兄さんはこっちに来てから料理に目覚めたわけですが、そのために必要な調理器具やキッチン設備を作ることにまでは興味がまわらないみたいです。ローターでオナニーするのが好きだからといって、ローターを自作したいと思うようになるわけではない――みたいな話です。
 でもそこは、大工仕事に興味を持ったゴブさんに協力してもらって、作ってもらっているみたいです。一人用のシャワールームみたいな燻製用の箱も、義兄さんが幾つかアイデアを出しつつも、大工ゴブさんがぎこぎこと鋸を引いて、金鎚で釘をとてかんして作り上げたものです。
 地味に大工道具を手に入れるだけでも大変でしたっけ……。
 アンちゃんたち姉妹の生まれ育ったところでもあるには、余っている大工道具がなかったので、行商人のひとに頼んで用意してもらったのでした。代金も、戦士ゴブさんたちが狩りというか戦闘というかで狩ってくる魔獣(?)のお肉や毛皮が何匹分かしたので結構お高かったんですけど、注文してから届くまでのタイムラグがとにかくカルチャーショックでした。
 携帯スマホはおろか、手紙も宅配便もまともに存在していない世界って、こんなにのんびりしているんですね……日本も江戸時代とかはこんな感じだったんでしょうか?
 それだけの手間を掛けて手に入れた大工道具は、いまのところ苦労に見合った大活躍をしてくれています。燻製器具も主に義兄さんが活用していますけど、椅子とか机とかが普通に大助かりです。背負子も便利ですけど、あれに座って担がれていると、ついドナドナを口ずさんでしまうんですよね……。

「ん……なんかいい香りですね」

 義兄さんの料理を眺めつつぼんやりしていると、鼻腔をくすぐる美味しげな香りに意識を引き戻されました。

「この香り……にら? 大蒜にんにくの葉っぱ?」

 盛り蕎麦が入っていそうな四角い蒸籠から漏れてくる蒸気は、わりと刺激的な香りがしています。

「うん、それっぽいもの。清蒸は本来、葱、生姜、紹興酒でやるものなんだけど、どれも無いからな。それにメインの魚も鮮魚じゃなくて燻製だし、このくらい強い風味の香草と合わせたほうが香りのバランスが取れると思うんだよね」
「それ、いま考えましたよね。本当はありものを適当にぶち込んでいるだけですよね」
「……有瓜。言わぬが花って諺、知ってるか?」
「ものは言いようって諺なら知ってますよ。あ、言ったもん勝ち、っていうのも知ってますね」
「……食べたくないんだったら、そう言ってくれ。余計な嫌味はいまちょっと受け流すのも億劫だからさ」
「あっ、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんですけど、つい……その……ごめんなさい!」

 本当に、ついうっかりいつもの調子で言ってしまいました。わたし、なんだかんだと義兄さんには甘えが出ちゃうんでしょうね。一番覚えていないといけない諺は、親しき仲にも礼儀あり、でした。いくらわたしが美少女でも、甘えすぎればウザくなります。気をつけないといけませんね。まして、本当の血縁かぞくではないんですから。

「いや、いいよ……というかむしろ、俺のほうがごめんな。いまのは八つ当たりだった」

 少ししょんぼりしていたら、義兄さんのほうから謝られてしまいました。

「いえいえ、いまのはわたしが――ってこれ、お互いに謝り合う展開になるやつですかね?」
「だな。ってことで、その展開は省略な」
「はぁい」

 二人で少し、くすくす笑います。
 わたしと義兄さんの間にあるのは石積みの簡素な竈と、そこに載せられた鉄鍋。その鍋に水を張った上に、さらにどっかり載せられている真四角の蒸籠。
 蒸籠の蓋を通して上がる香り付きの湯気が、前後からの笑い声を受けて、タップダンスを踊るみたいに揺らめいています。
 ああ――こういうの、いいですね。

「そうえいば、ここ最近はずっと、義兄さんはラヴィニエさんと一緒でしたもんね」
「ん……?」

 気が緩んだせいか、込み上げてくる悪戯心を抑えられなくて、面倒な彼女が言いそうなことシリーズを口走っちゃいました。
 でも、言葉にしてみると、実際その通りでしたよねー、と思っちゃう自分がいます。

「義兄さんはもう少し、あれですよ。のんびりしたらいいんじゃないですかね。毎日勉強だ運動だーって頑張ってばかりだと出世しませんよ」
「しないのかよ……」
「しませんね。わたしの経験上、出世するのは頑張るのが嫌いなひとです。頑張らなくても稼げるようになるために頑張れるひとが、出生するひとです。なので、いま自分は頑張ることを頑張ってるなーと思ったら、その頑張りは将来にあんまし繋がらない頑張りなので、いったん頑張るの止めてリセットするのをお勧めしますね」
「……何気に酷い言いようだな。それ、俺がちゃんと頑張っていないみたいに聞こえるんだが」

 蒸気の帳越しに、義兄さんはじろりと睨んできます。

「そういうわけじゃなくてですね……ああ、例えばですね、料理に大蒜を入れるときに、大蒜を何百個もぶち込んだりしないじゃないですか。それと、毎日大蒜ばっかり食べたりしないじゃないですか。美味しい料理を作るのに必要だから大蒜を使うのであって、大量の大蒜を無理やり食べるために料理するのでは本末転倒ですよね。わたしが言いたいのは、そういうことですよ」

 言いたいことを伝えるのって難しいですね。この例えでちゃんと伝わったでしょうか?

「つまり、いまの俺は大蒜臭いから、匂いが抜けるまで大蒜を食うな――と」
「ええと……たぶん、そういうこと、です?」

 例え話って難しいですね。自分で言っていて、何を何に例えているのか分らなくなりました。なんでわたし、大蒜大量消費レシピの話をしているのでしょう?

「なんで疑問形なんだよ。もうちょっと考えてから話せよな……っと、そろそろいいか」

 義兄さんが苦笑しながら蒸籠の蓋を取りました。
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