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3-4. ★
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「あれ、衛士?」
スマホの向こうが急に黙ったせいで、俺は不安になって呼びかけた。案に相違して、すぐに返事があった。
『凪さん……いまのはもう、俺的には告白OKの返事なんすけど』
「は? え、どこが? 何が?」
『おまえで勃起する、とか……そんなの告白じゃないっすか……』
「……は?」
一瞬、衛士なりの冗談かなと思ったのだけど、声音が本気だった。だから、俺も本気で自分が告白したような気になりかけたけど――
「――って、勃起するのが告白だったら、俺は何遍おまえに告白してることになるんだよ!?」
『四回くらい?』
「そんなにしてっ……してたか?」
『してるっすよ。凪さん、俺に勃起しまくりじゃないっすか』
「言い方! それだと、俺がおまえを見るたび常時勃起させてるみたいだろ!」
『してないんすか?』
「してねぇよ!」
『俺はしてるっすよ。凪さんのこと考えると、だいたいフル勃起っす。もちろん、いまも』
「要らねぇよ、その情報。とくに最後の!」
『そんなこと言って、凪さんだって勃ってるんじゃないっすか?』
「ねぇよ!」
『なんで勃ってないんすか!?』
「え、ここでキレるか!? おかしくねぇか?」
『おかしくないっす! この流れで勃起してない凪さんのほうが――あ、あぁ……はいはい』
「……なんだよ、急に納得した感じになって」
『凪さん、恥ずかしいんで隠してるんすね。隠れ勃起とか、凪さんマジむっつり凪さん……ふふっ♥』
「は、はぁッ!? 意味分かんねぇよ?」
『いいです、いいです。言わなくても、俺、ちゃんと分かってますから』
「いや、なんも分かってねぇからな!?」
『はいはい……っ、んっ……ぁ……♥』
「え、え……?」
ここまで、ぽんぽんぽんっとドッジボールの勢いで投げ合っていた言葉を、俺は思わず取り落としてしまった。けど、だって、ほんの一秒前まで普通に――内容的には普通じゃなかったかもしれないけど、口調としては普通に話していた相手がいきなり「ぁ……♥」とかエロっぽい鼻声を出してきたのだから、仕方ないだろう!?
「な、なんだよ……いきなり変な声出しやがって……」
『んっ……だって、凪さんがあんまり勃起勃起言うから、なんか……んぁ♥』
「はぁッ!?」
ちょっと衛士が何を言っているのか分から――いや、分かったけれど、分かるのを脳が拒否したがっている!
「お、おまっ、おまえ……い、いま、い、弄って……」
『――はい、弄ってるっすよ』
「あ、スマホを弄ってるっすよ、だろ――」
『ちんぽ弄ってるっす』
「……」
『凪さんの声を聞いてギンギンに勃起したちんぽを、凪さんとスマホで話ながら弄ってるっす』
「そこまで詳細に言わんでいい!」
『あははっ……あっはぁ♥』
「笑いながらちんこ弄るんじゃねぇよ……!」
『だって……っ、ぁ……だって、凪さんが……』
「俺のせいかよ!?」
『凪さんが、俺とのことを真剣に考えてくれてるって聞けたから、もうっ、っ……嬉しいんすっ……うぁ……♥』
スマホの向こうで、衛士が臆面もなく喘いでいる。
「お、おい……衛士? おまえ、マジで扱いてんじゃ……ねぇ、よ……なぁ?」
『あっ、んぁ♥ ど……どっちだと、お、おぉ♥ お、おぉ……思いますっ、っ、んんぅッ♥』
「いや、ガチで扱いてるにしても感じすぎじゃねぇか!?」
『だって凪さんがっ、あぁ! っ、っ……凪さんが聞いてくれてるって思うぅ……とっ、お、おぉ……ッ♥』
「俺のせいかよ!?」
さっきも同じことを言ったけれど、何度でも言おう。
――俺のせいかよ!?
『ふっ、くっ……ん……んぁ……あ、あっ……ッ』
「お、おい……衛士。せめて、なんか喋れよ。無言で扱くなよ!」
『だっ、てぇ……気持ち、ぃ……ッ……凪さん、もっと、声ぇ……聞かせて……っはぁ♥』
「えぇ……」
熱に浮かされたような声で強請られても、何を喋れというのか?
『なんでもいいんですっ、っ、んぁ……凪さんがっ、お、俺のため、に……喋ってくれてるだけ――あぁッ♥』
「おい、まだ何も喋ってないのにッ!?」
『っ、んぁ……ヤバかっ、たぁ……ッ……』
「早すぎだろ。っつか、おまえ、そんな早漏だったか?」
『ひぃ――』
いきなり裏返った悲鳴を上げる衛士。
「うおっ、なんだ!?」
『い、いま、そんな言葉責めしちゃ、駄目っ、すぅ……ッ!!』
「言葉責めッ!?」
予想外の単語に、鸚鵡返ししかできない。
というか、衛士はマゾだったのか!?
「おまえって責めるほうが好きなのかと思ってたけど、そうでもなかったのか?」
『んっ……どっちも、好きっす、よ……というか、ぁ……す、好きなひとにされたらっ、あぁッ♥』
早漏と言われて射精しかける変態かと思いきや、今度は好きと言っただけで切なさに声を震わせている。
衛士は、純情と変態の狭間で震える仔猫だった。
「……って、なんだよ、それ」
『え、なんすか……?』
「おまえは雨に濡れた捨て猫かよ、って一人ボケツッコミだ。気にすんな」
『……にゃーん』
「……は?」
いや……は?
『え、えと……捨て猫だったら、凪さんに拾ってもらえるかな、と……』
衛士の声はごにょごにょと尻切れトンボになる。その声だけで、スマホの向こうで衛士がいまどんな顔をしているのか、ありありと想像できた。
「衛士……」
『あぁ! 何も言わないでくださいっすぅ! いまのはなかったなぁ、と俺も思ってんすからッ!!』
「顔真っ赤だな、くくっ」
『えっ……見えてんすか?』
「見えなくても分かるっつの。そんなことより、ほら、もっかいニャーンって鳴いてみてくれよ。そしたら、拾ってやるかもしれないぞぉ」
『ええぇ……』
衛士が息を呑んでいる。
自分でも、らしくないことを言っているのは分かっている。でも、衛士の恥ずかしがっている顔を想像した途端、腹の奥から妙なぞくぞくが込み上げてきて、抑えられなかった。
『凪さん、あのときと同じ感じ……ッ♥』
衛士にも俺のぞくぞくがうつったみたいで、言葉尻が上擦ったように跳ね上げる。
「んなこといいから、鳴けよ――あぁ、もちろん、ちんぽ扱きながら、な」
『ふぁッ♥ あっ……やっ、それはちょっと、さすがに恥ずかしいと――』
「じゃあ捨てる」
『あっ』
「嫌なら、ほら。早く」
『う、ぅ……っ……にゃ、ぁ……にゃあ……ん、んっ……♥』
「あははっ、本当に言ったし! 吐息エロいし……あっはは!」
やばい、何かすごく楽しい。
耳に当てたスマホ越しだからか、衛士が俺の耳に直接吐息を吹きかけているみたいで、背筋のぞくぞくが止まらない。心臓が大きく脈打って、全身に血がぎゅんぎゅん巡っている音で鼓膜を内側から乱打されている感じだ。
『うぅ……凪さん、じつは飲んでました……?』
「え、いや。素面だけど?」
『じゃあ、あれは酔ってたからじゃなくて、本性が出てただけだったん――』
「おい、手が止まってるぞ」
『ひゃいッ!?』
お喋りを始めようとする駄目な猫を叱ってやると、そいつも分かってくれたようで、すぐに無駄鳴きするのを止めて、鋭い呼吸音を聞かせてくれるようになる。
『はっ……あ、んっ……んふぁ……凪さん……凪さ、んっ……ん、んッ』
「……俺の名前言いながら扱くの、そんなにいいのか?」
『はい……ッ』
「ははっ、エロいな……っつか、可愛いな」
『あふぁッ♥』
可愛いな、と言った瞬間、衛士は驚いた猫のような甲高い声で鳴く。耳に当てているスマホから聞こえるその声に、俺の全身を巡る血が一気にそこへと流れ込んでいく。
「んっ……やらしい声出しやがって。おかげで、んっ……俺まで、っ、んぁ……」
『え……凪さん? 凪さんも、俺がちんぽ弄る声聞いて、硬くしちゃったんすか……?』
「――ああ、そうだよ。嬉しいか?」
普段ならとてもではないが言えない言葉が、するりと出てくる。
言うのが恥ずかしいという気持ちより、衛士を恥ずかしがらせたい、衛士を興奮させたい――そっちの気持ちが先に立つ。
『うぁ……凪さんに、そんな、こと……いっ、言われ、たらっ、あ、あぁ! あっ、っ……ひゅっ……ッ♥』
衛士の息遣いが速まっていく。鼻息の荒さは、ちんぽを握って上下する衛士の右手が回転数を上げていっていることを如実に物語っている。
「ん、んぅ……衛士、鼻息すげぇぞ……ふ、ふふっ、っ……ッ……!」
『あぁ、凪さん……んんッ! 凪さんも、扱いて――あ、あぁ! あっ、んはッ♥』
「おいおい、俺と一緒に扱いているってだけで、もうイきそうなのかよ! くっ、ふふ……んっ、ははッ!」
快感と興奮で、気がつけば笑っていた。笑いながら、ちんぽを扱いていた。
「あっ、ふっ……な、んだっ、これ……ははっ、っ……うぁッ♥」
『凪さんっ、んっ……んぁ♥ あっ、ぁ、凪さっ、あっ、ぁッ♥』
スマホを通じて、俺と衛士の喘ぎが入り混じる。
衛士の俺を呼ぶ声が、スマホで蓋をした耳の中でぐるぐると消えずに残って、俺の理性をどろどろにしていく――と思ったら、どろどろになっているのは先走り塗れになっていたちんぽのほうで、扱く速度が上がるのに合わせて、ぐしゅぐしゅと卑猥な音を大きくしていっていた。
「くっ、ぅ……衛士っ、っ……く、うっはッ! んっ、っ……ッ!」
『凪さんっ、あぁ! あっ、んあぁ、ぁ……ッ! 俺っ、っ、あッ♥』
「衛士、イくのか? 俺も――んくッ! んっ、うッ!」
『一緒にっ、い……イってほしっ、いぁッ♥ あぁッ♥』
「じゃあ、カウントなっ……んっ……じゅう、きゅ、う……はっ、ち……な、なっ……」
俺は扱く手をいよいよ激しくさせながら無心でカウントダウンしていく。でも、自分のカウントが耳に入ってこなくて、合っているのか分からない。でも、そんなこと考えられる余裕がない!
「ごっ、よん、さっ……っ、ん……にっ、ぃ……!」
『あぁ! 凪さんっ、んぁあ! 凪さん、凪さんんッ!!』
衛士が俺の名前を苦しげに捲し立てる声で、耳が犯されている。溶けた理性が溢れ出そうなちんぽがヤバくて限界もう堪らなくて――
「いっ、ち……んんぉッ!! んんぅ――ッ!!」
『あッ♥ あっ、あっああぁ――ッ……♥♥』
俺の野太い呻きを追いかけて、スマホの向こうで衛士が高く嘶いた。
それから数十秒後――。
俺はカーペットをウェットティッシュでとんとん叩いていた。
「くそっ、染みになりそうだ……!」
『ちゃんとティッシュ用意しとかないからぁ。凪さんはおっちょこちょいっすね、ははは』
通話が繋がったままのスマホで、俺にカーペットの染みを作らせてくれた張本人があっけらかんとした声音で笑っていやがる。
「笑うな! っつか、誰のせいでこうなったと思ってんだ!?」
『え、俺のせいっすか?』
「他に誰がいるよ!?」
演技でなく驚いたらしい声に、むしろ俺が驚きだ。
『凪さん……俺、べつに凪さんにオナニーしろとか言ってないっすよね?』
「……え? あれ?」
『というかそもそも、どうやったらオナニーするの強制できるんすか。催眠術っすか?』
「う……あっ! でも、おまえがニャーンとか言わなければ!」
『凪さん……そんなにツボだったっすか、猫が』
「あっ……!」
からかいを含んだ衛士の言葉に、顔が一気に茹で上がった。
「ち、違うぞ。べっ、べつにおまえの猫真似に萌えたわけじゃねぇからな!」
『えっ……あはは! 凪さん、そのツンデレ、テンプレ過ぎっ……あははっ!』
「わっ、笑うな!」
『無理っす、あはは』
「くぅ……!」
いまは何を言っても藪蛇になりそうで、歯軋りしかできない。
『――ふぅ……凪さん』
しばらくして笑いを収めた衛士が、声音を改める。
「なんだ?」
『いまのテレフォン連れオナは、告白の返事ってことでいいんすかね?』
「……は?」
『い、いや、ほら。ちょっと二人とも本気でオナったせいで、いま微妙になっちゃってますけど、さっきそういう感じの話、してたじゃないっすか! だから、そういう感じの話の流れでイったってことは、もう告白OKの返事だったーってことっすよね!?』
衛士は早口で捲し立ててくる。本人は冗談めかしたつもりなのかもしれないけれど、残念、本気が滲み出ている。
「違う。返事じゃねぇよ」
だから、俺も本気で答えた。
『え……ぁ……はは、そうっすよね……ははっ』
落胆を隠しきれない愛想笑い。でも、最後まで聞いてほしい。俺はまだ言い終わっていないのだから。
「大事な話だから、電話で済し崩し的にっていうのは趣味じゃねぇんだ。だから、手間かけるけど、時間取ってくれないか。そのときに、ちゃんと返事するから」
『――あ……じゃあ、今度の金曜、凪さんちに行ってもいいっすか?』
「おう」
『はい……よろしくお願いします』
「うん」
『じゃあ、ええと……おやすみなさい』
「おう、おやすみ」
『カーペットの染み、落ちるといいっすね』
「うっせ」
最後に二人して少し笑って、通話を終えた。
「ふぅ……金曜日、か」
通話終了の画面を見ながら、俺は少しの溜め息。
「ちゃんと言えるかな……ごめんなさいって」
呟いた言葉は、音もなく消えていくだけだった。
スマホの向こうが急に黙ったせいで、俺は不安になって呼びかけた。案に相違して、すぐに返事があった。
『凪さん……いまのはもう、俺的には告白OKの返事なんすけど』
「は? え、どこが? 何が?」
『おまえで勃起する、とか……そんなの告白じゃないっすか……』
「……は?」
一瞬、衛士なりの冗談かなと思ったのだけど、声音が本気だった。だから、俺も本気で自分が告白したような気になりかけたけど――
「――って、勃起するのが告白だったら、俺は何遍おまえに告白してることになるんだよ!?」
『四回くらい?』
「そんなにしてっ……してたか?」
『してるっすよ。凪さん、俺に勃起しまくりじゃないっすか』
「言い方! それだと、俺がおまえを見るたび常時勃起させてるみたいだろ!」
『してないんすか?』
「してねぇよ!」
『俺はしてるっすよ。凪さんのこと考えると、だいたいフル勃起っす。もちろん、いまも』
「要らねぇよ、その情報。とくに最後の!」
『そんなこと言って、凪さんだって勃ってるんじゃないっすか?』
「ねぇよ!」
『なんで勃ってないんすか!?』
「え、ここでキレるか!? おかしくねぇか?」
『おかしくないっす! この流れで勃起してない凪さんのほうが――あ、あぁ……はいはい』
「……なんだよ、急に納得した感じになって」
『凪さん、恥ずかしいんで隠してるんすね。隠れ勃起とか、凪さんマジむっつり凪さん……ふふっ♥』
「は、はぁッ!? 意味分かんねぇよ?」
『いいです、いいです。言わなくても、俺、ちゃんと分かってますから』
「いや、なんも分かってねぇからな!?」
『はいはい……っ、んっ……ぁ……♥』
「え、え……?」
ここまで、ぽんぽんぽんっとドッジボールの勢いで投げ合っていた言葉を、俺は思わず取り落としてしまった。けど、だって、ほんの一秒前まで普通に――内容的には普通じゃなかったかもしれないけど、口調としては普通に話していた相手がいきなり「ぁ……♥」とかエロっぽい鼻声を出してきたのだから、仕方ないだろう!?
「な、なんだよ……いきなり変な声出しやがって……」
『んっ……だって、凪さんがあんまり勃起勃起言うから、なんか……んぁ♥』
「はぁッ!?」
ちょっと衛士が何を言っているのか分から――いや、分かったけれど、分かるのを脳が拒否したがっている!
「お、おまっ、おまえ……い、いま、い、弄って……」
『――はい、弄ってるっすよ』
「あ、スマホを弄ってるっすよ、だろ――」
『ちんぽ弄ってるっす』
「……」
『凪さんの声を聞いてギンギンに勃起したちんぽを、凪さんとスマホで話ながら弄ってるっす』
「そこまで詳細に言わんでいい!」
『あははっ……あっはぁ♥』
「笑いながらちんこ弄るんじゃねぇよ……!」
『だって……っ、ぁ……だって、凪さんが……』
「俺のせいかよ!?」
『凪さんが、俺とのことを真剣に考えてくれてるって聞けたから、もうっ、っ……嬉しいんすっ……うぁ……♥』
スマホの向こうで、衛士が臆面もなく喘いでいる。
「お、おい……衛士? おまえ、マジで扱いてんじゃ……ねぇ、よ……なぁ?」
『あっ、んぁ♥ ど……どっちだと、お、おぉ♥ お、おぉ……思いますっ、っ、んんぅッ♥』
「いや、ガチで扱いてるにしても感じすぎじゃねぇか!?」
『だって凪さんがっ、あぁ! っ、っ……凪さんが聞いてくれてるって思うぅ……とっ、お、おぉ……ッ♥』
「俺のせいかよ!?」
さっきも同じことを言ったけれど、何度でも言おう。
――俺のせいかよ!?
『ふっ、くっ……ん……んぁ……あ、あっ……ッ』
「お、おい……衛士。せめて、なんか喋れよ。無言で扱くなよ!」
『だっ、てぇ……気持ち、ぃ……ッ……凪さん、もっと、声ぇ……聞かせて……っはぁ♥』
「えぇ……」
熱に浮かされたような声で強請られても、何を喋れというのか?
『なんでもいいんですっ、っ、んぁ……凪さんがっ、お、俺のため、に……喋ってくれてるだけ――あぁッ♥』
「おい、まだ何も喋ってないのにッ!?」
『っ、んぁ……ヤバかっ、たぁ……ッ……』
「早すぎだろ。っつか、おまえ、そんな早漏だったか?」
『ひぃ――』
いきなり裏返った悲鳴を上げる衛士。
「うおっ、なんだ!?」
『い、いま、そんな言葉責めしちゃ、駄目っ、すぅ……ッ!!』
「言葉責めッ!?」
予想外の単語に、鸚鵡返ししかできない。
というか、衛士はマゾだったのか!?
「おまえって責めるほうが好きなのかと思ってたけど、そうでもなかったのか?」
『んっ……どっちも、好きっす、よ……というか、ぁ……す、好きなひとにされたらっ、あぁッ♥』
早漏と言われて射精しかける変態かと思いきや、今度は好きと言っただけで切なさに声を震わせている。
衛士は、純情と変態の狭間で震える仔猫だった。
「……って、なんだよ、それ」
『え、なんすか……?』
「おまえは雨に濡れた捨て猫かよ、って一人ボケツッコミだ。気にすんな」
『……にゃーん』
「……は?」
いや……は?
『え、えと……捨て猫だったら、凪さんに拾ってもらえるかな、と……』
衛士の声はごにょごにょと尻切れトンボになる。その声だけで、スマホの向こうで衛士がいまどんな顔をしているのか、ありありと想像できた。
「衛士……」
『あぁ! 何も言わないでくださいっすぅ! いまのはなかったなぁ、と俺も思ってんすからッ!!』
「顔真っ赤だな、くくっ」
『えっ……見えてんすか?』
「見えなくても分かるっつの。そんなことより、ほら、もっかいニャーンって鳴いてみてくれよ。そしたら、拾ってやるかもしれないぞぉ」
『ええぇ……』
衛士が息を呑んでいる。
自分でも、らしくないことを言っているのは分かっている。でも、衛士の恥ずかしがっている顔を想像した途端、腹の奥から妙なぞくぞくが込み上げてきて、抑えられなかった。
『凪さん、あのときと同じ感じ……ッ♥』
衛士にも俺のぞくぞくがうつったみたいで、言葉尻が上擦ったように跳ね上げる。
「んなこといいから、鳴けよ――あぁ、もちろん、ちんぽ扱きながら、な」
『ふぁッ♥ あっ……やっ、それはちょっと、さすがに恥ずかしいと――』
「じゃあ捨てる」
『あっ』
「嫌なら、ほら。早く」
『う、ぅ……っ……にゃ、ぁ……にゃあ……ん、んっ……♥』
「あははっ、本当に言ったし! 吐息エロいし……あっはは!」
やばい、何かすごく楽しい。
耳に当てたスマホ越しだからか、衛士が俺の耳に直接吐息を吹きかけているみたいで、背筋のぞくぞくが止まらない。心臓が大きく脈打って、全身に血がぎゅんぎゅん巡っている音で鼓膜を内側から乱打されている感じだ。
『うぅ……凪さん、じつは飲んでました……?』
「え、いや。素面だけど?」
『じゃあ、あれは酔ってたからじゃなくて、本性が出てただけだったん――』
「おい、手が止まってるぞ」
『ひゃいッ!?』
お喋りを始めようとする駄目な猫を叱ってやると、そいつも分かってくれたようで、すぐに無駄鳴きするのを止めて、鋭い呼吸音を聞かせてくれるようになる。
『はっ……あ、んっ……んふぁ……凪さん……凪さ、んっ……ん、んッ』
「……俺の名前言いながら扱くの、そんなにいいのか?」
『はい……ッ』
「ははっ、エロいな……っつか、可愛いな」
『あふぁッ♥』
可愛いな、と言った瞬間、衛士は驚いた猫のような甲高い声で鳴く。耳に当てているスマホから聞こえるその声に、俺の全身を巡る血が一気にそこへと流れ込んでいく。
「んっ……やらしい声出しやがって。おかげで、んっ……俺まで、っ、んぁ……」
『え……凪さん? 凪さんも、俺がちんぽ弄る声聞いて、硬くしちゃったんすか……?』
「――ああ、そうだよ。嬉しいか?」
普段ならとてもではないが言えない言葉が、するりと出てくる。
言うのが恥ずかしいという気持ちより、衛士を恥ずかしがらせたい、衛士を興奮させたい――そっちの気持ちが先に立つ。
『うぁ……凪さんに、そんな、こと……いっ、言われ、たらっ、あ、あぁ! あっ、っ……ひゅっ……ッ♥』
衛士の息遣いが速まっていく。鼻息の荒さは、ちんぽを握って上下する衛士の右手が回転数を上げていっていることを如実に物語っている。
「ん、んぅ……衛士、鼻息すげぇぞ……ふ、ふふっ、っ……ッ……!」
『あぁ、凪さん……んんッ! 凪さんも、扱いて――あ、あぁ! あっ、んはッ♥』
「おいおい、俺と一緒に扱いているってだけで、もうイきそうなのかよ! くっ、ふふ……んっ、ははッ!」
快感と興奮で、気がつけば笑っていた。笑いながら、ちんぽを扱いていた。
「あっ、ふっ……な、んだっ、これ……ははっ、っ……うぁッ♥」
『凪さんっ、んっ……んぁ♥ あっ、ぁ、凪さっ、あっ、ぁッ♥』
スマホを通じて、俺と衛士の喘ぎが入り混じる。
衛士の俺を呼ぶ声が、スマホで蓋をした耳の中でぐるぐると消えずに残って、俺の理性をどろどろにしていく――と思ったら、どろどろになっているのは先走り塗れになっていたちんぽのほうで、扱く速度が上がるのに合わせて、ぐしゅぐしゅと卑猥な音を大きくしていっていた。
「くっ、ぅ……衛士っ、っ……く、うっはッ! んっ、っ……ッ!」
『凪さんっ、あぁ! あっ、んあぁ、ぁ……ッ! 俺っ、っ、あッ♥』
「衛士、イくのか? 俺も――んくッ! んっ、うッ!」
『一緒にっ、い……イってほしっ、いぁッ♥ あぁッ♥』
「じゃあ、カウントなっ……んっ……じゅう、きゅ、う……はっ、ち……な、なっ……」
俺は扱く手をいよいよ激しくさせながら無心でカウントダウンしていく。でも、自分のカウントが耳に入ってこなくて、合っているのか分からない。でも、そんなこと考えられる余裕がない!
「ごっ、よん、さっ……っ、ん……にっ、ぃ……!」
『あぁ! 凪さんっ、んぁあ! 凪さん、凪さんんッ!!』
衛士が俺の名前を苦しげに捲し立てる声で、耳が犯されている。溶けた理性が溢れ出そうなちんぽがヤバくて限界もう堪らなくて――
「いっ、ち……んんぉッ!! んんぅ――ッ!!」
『あッ♥ あっ、あっああぁ――ッ……♥♥』
俺の野太い呻きを追いかけて、スマホの向こうで衛士が高く嘶いた。
それから数十秒後――。
俺はカーペットをウェットティッシュでとんとん叩いていた。
「くそっ、染みになりそうだ……!」
『ちゃんとティッシュ用意しとかないからぁ。凪さんはおっちょこちょいっすね、ははは』
通話が繋がったままのスマホで、俺にカーペットの染みを作らせてくれた張本人があっけらかんとした声音で笑っていやがる。
「笑うな! っつか、誰のせいでこうなったと思ってんだ!?」
『え、俺のせいっすか?』
「他に誰がいるよ!?」
演技でなく驚いたらしい声に、むしろ俺が驚きだ。
『凪さん……俺、べつに凪さんにオナニーしろとか言ってないっすよね?』
「……え? あれ?」
『というかそもそも、どうやったらオナニーするの強制できるんすか。催眠術っすか?』
「う……あっ! でも、おまえがニャーンとか言わなければ!」
『凪さん……そんなにツボだったっすか、猫が』
「あっ……!」
からかいを含んだ衛士の言葉に、顔が一気に茹で上がった。
「ち、違うぞ。べっ、べつにおまえの猫真似に萌えたわけじゃねぇからな!」
『えっ……あはは! 凪さん、そのツンデレ、テンプレ過ぎっ……あははっ!』
「わっ、笑うな!」
『無理っす、あはは』
「くぅ……!」
いまは何を言っても藪蛇になりそうで、歯軋りしかできない。
『――ふぅ……凪さん』
しばらくして笑いを収めた衛士が、声音を改める。
「なんだ?」
『いまのテレフォン連れオナは、告白の返事ってことでいいんすかね?』
「……は?」
『い、いや、ほら。ちょっと二人とも本気でオナったせいで、いま微妙になっちゃってますけど、さっきそういう感じの話、してたじゃないっすか! だから、そういう感じの話の流れでイったってことは、もう告白OKの返事だったーってことっすよね!?』
衛士は早口で捲し立ててくる。本人は冗談めかしたつもりなのかもしれないけれど、残念、本気が滲み出ている。
「違う。返事じゃねぇよ」
だから、俺も本気で答えた。
『え……ぁ……はは、そうっすよね……ははっ』
落胆を隠しきれない愛想笑い。でも、最後まで聞いてほしい。俺はまだ言い終わっていないのだから。
「大事な話だから、電話で済し崩し的にっていうのは趣味じゃねぇんだ。だから、手間かけるけど、時間取ってくれないか。そのときに、ちゃんと返事するから」
『――あ……じゃあ、今度の金曜、凪さんちに行ってもいいっすか?』
「おう」
『はい……よろしくお願いします』
「うん」
『じゃあ、ええと……おやすみなさい』
「おう、おやすみ」
『カーペットの染み、落ちるといいっすね』
「うっせ」
最後に二人して少し笑って、通話を終えた。
「ふぅ……金曜日、か」
通話終了の画面を見ながら、俺は少しの溜め息。
「ちゃんと言えるかな……ごめんなさいって」
呟いた言葉は、音もなく消えていくだけだった。
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風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談?本気?二人の結末は?
美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
箱入りオメガの受難
おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。
元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。
ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰?
不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。
現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
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