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第五話
騎士団の日常
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日々、鍛錬に鍛錬を重ね、ヴェロニカがクリストファーとして私設団入りしてから早くも一月が経過しようとしている頃。
「は…っ!」
ヴェロニカの振り下ろした軍用の長剣が目の前の敵の繰り出す技を武器ごと制圧し、弾かれた剣先が地面にめり込むのを審判役を務める黒髪の青年───第二王子付第一師団団長ディミトリアス=アッカーソンが認めるなり。
「……そこまで。勝者、クリストファー=リーデル」
抑揚の無い声と感情に乏しい表情の儘短く勝敗を告げる事で、長い第一試合目は終わりを迎えた。
突如として始まった『第三十三回第二王子付第一師団親善大会』という名の非公式のトーナメント戦。
ヴェロニカ達新団員も私設団入りをしてから一月が経過しようとしている今、更なる親交を深めましょうとの事で、腕っ節自慢の第一師団だからこその『拳と拳で語り合う』という発想なのだろう。
勿論、今大会開催のきっかけは師団一喧嘩早く気が短いと評判のオジサマ騎士グリズリー=オルグレン。
『よぉっしクリス!そろそろリベンジマッチと行こうじゃねぇかっ!!兵役試験の時は負けちまったが、今度こそ俺の真の力を見せてやる!!ダーッハハハハハハハ!!』
という、早朝の闘技場にて行われていた鍛錬中(素振り千回)にも関わらずヴェロニカへと持ち掛けた強引な手合わせの申請から、周りにいた師団の仲間達も『そりゃあ良い!』『やれやれー!』『トーナメント戦か?!久々だなー!!』などと乗っかり、そして毎回そんな風に鍛錬から脱線してトーナメント戦が始まるのだと親衛隊の一人から軽く説明を受け、闘いとあらば血湧き肉躍るタイプのヴェロニカも勿論嬉々としてそれを受け入れつつ今に至る。
「うあーっ!負けたぁー!はははっ、流石俺の親友だな!清々しい程の惨敗だ!」
その場へどかっと腰を下ろし、朗らかに笑うこの試合の敗者はデーヴィット=ブロワー。
「有難うごさいました!」
伯爵家のご子息という身分に在りながら、兵役試験の日に庶民のヴェロニカへ気さくに声を掛けてくれたりと何かと世話を焼いてくれる心優しき同僚であり、今では彼女の一番の友人だ。
「いやー、しかし何で俺は何回やっても君に勝てないんだ?!」
差し出されたヴェロニカの手を取り立ち上がるデイヴ。二人は休憩を取る為に控え室へ向かうと、初めて出会った兵役試験の日の様に壁へと凭れて談笑する。
「体格だってパワーだって俺の方が勝ってる筈なんだけどなぁ…」
女性の中でも背の高いヴェロニカより頭二つ分も身長が高く、男性の中でも高身長の部類に入るデイヴ。その大男から繰り出される斬撃は重く、大きな体からは想像も付かない程軽いフットワークは闘い慣れているヴェロニカでさえ苦戦を強いたものだが。
「背の高い人はリーチが長い分、どうしても大振りになる。だからそこを狙え!って散々父に教え込まれたんだよ」
ただ上には上が居ることを先日思い知らされたばかりだけどね!なんて自嘲気味に付け加えれば、オースティンとクリストファーの試合を思い出したデイヴが頭を抱え始めた。
「く…っ、俺は……俺は何故あの時……殿下だと気付けなかったんだ…!!」
(うわっ、また始まっちゃった!)
半月近く酒盛りにも参加せずに、ずっと彼は思い悩んでいたのだ。
主にオースティン=ローゼンクロイツ様が、我らが殿下が影武者を立て、一介の騎士の隊服を着込んでまで兵役試験の参加者をその目で見極め、剩え何も知らないヴェロニカ達や観客さえをも欺きつつ手合わせなどと言って剣技を披露するという、最大の余興を演じて見せた事について。
「あれ程までに麗しい殿下を…っ、見る者全てを虜にするあの美貌と溢れ出す気品に、俺は何故気付けなかった?!君に『ひと目見れば分かる』などと豪語しておきながら俺は…!」
ヴェロニカには理解出来ないが、何故かオースティンへ崇拝しきっている可哀想な少年、デイヴは余程あの時の事を悔やんでいるらしく、度々こんな風にスイッチが入っては『俺は殿下の騎士失格だ!』などと普段の彼からは想像も付かない程に自分を貶めては落ち込む、といった事を繰り返していた。
「俺は最低だ!こんな俺が殿下の騎士を名乗る事自体が烏滸がましくて赦せない…!」
反省をする事自体は良い事だと思いそっとしておいたヴェロニカも、一月余りもこの儘では流石に面倒───ではなく不憫に思い。
「でもさ、デイヴにも気付けない程殿下の変装がお上手だったって事じゃないの?それにもし仮に気付いたとしても、変装している主に気付かない振りしてあげるのも騎士の務めだと思うけどなぁ」
俯くデイヴを覗き込みながら、小豆色の短髪を幼い頃の義弟をあやす時の様にポンポンと撫でる。
(流石にこんな強引な理屈じゃ納得行かないかしら)
もっとゴワゴワしているものかと思っていたが意外にも柔らかいデイヴの髪をふわふわ弄んでいると、不意にその手をガシッと掴まれた。
「クリス、君は…」
「あ、やっぱりダメだった?」
「人を思いやれる素晴らしい男だ…!!」
「えっ?あ、ありがとう」
「そうだ!それこそが騎士の務めだ!気付かない優しさもあるよな?!クリス、君は天才だ!何て殿下思いの素晴らしい男なんだ!」
「う…っ、そこは否定させて頂けると嬉しいんだけど」
「やはり持つべきものは親友だ!クリス、愛してるぜ!!」
「ひ…ッ」
どうやら納得してくれたらしいデイヴだったが、またしてもヴェロニカに抱き着くという暴挙に出ようとしたのを。
「ハイ、そこ~。男同士愛を育むならもう少し人目を偲んでくれる?」
軽い調子で窘められて二人同時にその声の主へと目をやれば、そこには肩までの癖のある栗毛と垂れ目が女好きのする優男、フィリップ=オルグレン副団長がいつの間にか目の前で腕を組んで立っていた。
「す、すみません、副団長!」
慌てて謝罪の言葉を口にするデイヴに。
「ちょ…っ、デイヴ、否定しなさいよ?!お言葉葉ですが副団長!僕達、愛なんて育んでいません!」
慌てて盛大な勘違いをする上司へ否定をするヴェロニカ。
「ん~……あれ?君、殿下ともできてなかった?」
そんな二人の言葉など耳に入っていないフィリップが、マイペースにヴェロニカの顔をジロジロと眺めやりながらそんな事を言うものだから。
「で…ッ?!」
ヴェロニカは蒼白になって言葉を失った。デイヴはそれ以上に驚きながら『いつの間に?!』なんて突っ込んでいる。
「うん、やっぱりそうだ。わぁ、君凄いね~まだ入団して一月でしょ?入って直ぐに殿下とコイツと?あぁ、あとはあの辺で『デイヴ殺す!』とか言って殺気立ってる奴等と?」
「な、何のカウントですか、それ」
ニコニコと屈託のない笑みを浮かべながら指折り数える男の姿に嫌な予感しかしない。
「勿論、君が手玉に取った男の数だよ?クリストファー=リーデルくん」
フィリップの唇が紡ぐ挑発めいたその言葉に、予想はしていたが余りにも明け透けに物を言われ、憤りの所為か義弟でもないのに目眩と息苦しさを覚えた。
「……手玉になんて取ったつもりは有りません」
本来、此処で副団長である彼に逆らうのは賢明な判断とは言えないのだろう。クリストファー=リーデルとして此処に居る以上、目立たぬように生活する意外に選択肢は無い筈なのだから。
「君のその顔ならその気にさせるのなんて簡単だろうね~。ほら、男所帯だし?みんな女に飢えてるからねぇ」
「僕は男です」
苛立ちを隠さないヴェロニカは間髪入れずにそう言い切ると。
「ふ、フィリップ副団長!俺の親友、クリストファーはそんな男ではありません!」
「お前とは話してないよ、デーヴィット=ブロワー」
「…っ!!」
流石に見兼ねたのか、デイヴがヴェロニカを庇って口を挟むも直ぐ様冷徹な命令が下され、二の句を継げなくなる。
「あぁ、僕も君が女だったら真っ先に口説くんだけどね?正直、その顔すごーく好みだし。男にしとくの勿体無いくらい」
「………」
「でも男なんでしょ?そんななりしてても玉ついてんだもんね~。殿下もよく男なんか相手に出来るよね。君さ、もしかして何か凄い性技でも持ってんの?それとも……」
それでも此処で引き下がったら女が廃る。保身の為に言われっぱなしにさせただなんてお父様に知られたら『何で直ぐにぶちのめさなかったんだ?!信じられない!!常々殺られる前に殺れと言っているじゃないか?!言葉の暴力には死を持って償わせないと!!』なんて叱られるだろう。
思うが否や、ヴェロニカは腰に帯いた長剣を勢いに任せて抜刀する。
「へぇ……副団長に剣を向けて良いんだ?」
反射的に半歩下がった男の喉元へ───同じように半歩距離を詰めていたヴェロニカの剣先が突き付けられる。
フィリップに避けられる事は想定していた。これは端から脅しだ。此処で引いてくれれば良いのだが、そうも行かないであろう事は分かっている。
「生憎、名誉を傷付けられて黙っていられる程出来た人間ではありませんので」
吐き捨てる様にそう言うヴェロニカの姿に、フィリップは読めない笑みを浮かべるばかりで何を考えているのか全く分からない。拝命式の日に見掛けたくらいで話した事もなかったが、こんなにも底意地の悪い男だったとは。
「ふぅん。……じゃあ剣を抜いたからには僕に斬り殺される覚悟も出来てるって事だよね?」
言うが早いか、上体を後方へと反らしたフィリップがいつの間にか抜いていた短剣を振るってヴェロニカの剣先を弾く。
「デイヴ、下がって!」
上司相手に剣を抜いて良いのか、親友を助けるべきか逡巡していた後ろのデイヴを左手で短く制して、剣を構え直すヴェロニカ。
「許して下さいフィリップ様ぁ~!って殿下を誑かしたみたいに泣いて懇願するなら許してあげても良いよ?!あははははっ!!」
心底楽しいとでも言いたげに笑いながらもう一方の手に対となった短剣を構え、すぐ様距離を詰めて来る男の狂喜に当てられて怯みそうになる心を強引に奮い立たせる。
「は…っ、誰が泣いて懇願なんてするもんですか…!!」
正直に言えば気が狂った様に闘う人間は初めて見たし、そんな男が何故私設団入り出来るのかも不思議でならない。
優男な見た目とのあまりのギャップに驚きながらも動揺を気取られまいと、フィリップから休み無く繰り出される両刀に因る攻撃を、右へ左へ長剣で受けては必死で捌き続ける。
「く…っ!」
流石に第二王子付第一師団副団長の名は伊達ではない。
ヴェロニカは双刀を受けるばかりで攻撃に転じる機会を中々見出せない儘、闘技場控え室というギャラリーが多く自由に動けない空間の中───皆が固唾を呑んで見守る中、ある人物が視界に入る余裕があった自分自身に驚きつつも苦笑を浮かべるヴェロニカ。
地味な紺色の軍服集団の中で一際輝く、男の為に仕立てられた純白の衣裳。襟元から肩口、釦周りには金糸の刺繍で繊細に縁取られ、丸い飾釦にはこの国の紋章である正十字
が一つ一つ丁寧に彫られている。
煌びやかな其れ等は彼の美しさをより一層引き立て、そして確固たる地位を感じさせる様だった。
何でこんな所に居るんだろう、とか、自分の騎士同士が争っているんだから止めなさいよ!とか、疑問やら苦情やらが次から次へと脳裏に浮かぶのに。
「あれあれ?さっきから防御ばっかりで全然攻撃出来てないのに余所見なんてしてる余裕あるんだ?!あはははっ!───じゃあもう終わりにしようか?」
最後に残った思いはただ一つ。
(……殿下が見てる前で負けたくないわ)
自分をからかってばかりで女にだらしなくてどうしようもない男だが、情けない姿は見せられない───どうしてかそんな気持ちがヴェロニカの中で真っ先に浮かんだ。
何度対戦しても勝てない父に対する気持ちと同じように、悔しいけれど憧れて、その強さを焦がれて───なんて、自身の心の中で既にブライアンと同等に位置付けているだなんて信じられない。信じたくはないが、殿下の強さはヴェロニカの理想そのものだった。
「その澄まし顔を切り刻んでやったらどんな顔するのか、な…っ?!」
とにかく、殿下の目の前で不様な姿を晒したくは無い。
『───敵を仕留める為に、人間誰しも一瞬の隙が出来る。其れは此の一撃で敵を仕留められると言う、驕りだ』
父の教えを思い出しながら、ヴェロニカを仕留めるべく十字を描く様に襲い来る双刀を上体を後方へと撓らせて躱すと同時に───敵の顔面目掛けて持っていた剣を槍のように放れば、闘いの最中にまさか得物が飛んで来るとは思わないであろう男の、迫り来る其れを打ち落とさざるを得ないフィリップの視線が、そちらへ集中するのを見逃さなかったヴェロニカの爪先が地を蹴る。
「ぐふ…っ!!」
軸足に重心を置きながら勢い良く回した其れがフィリップの頬を見事に捉えるも、既に昏睡気味の男は其れでも反射的に剣を振るい、片方の剣先がヴェロニカの内股を掠めた。
「…っ!!」
だがヴェロニカの傷は致命傷ではない。脳を揺さぶられて反応が遅れるフィリップを認めるなり直ぐ様体制を整え、宙を舞う様にぐるりと回転したヴェロニカの二撃目が男を確実に仕留めるべく、再度頭部へと回し蹴りを見舞う刹那───。
「───そこまで」
こんな時でさえいやに吐息混じりの艶めいた声で制止が掛かったかと思えば、ヴェロニカの渾身の蹴りは間へ割って入った男の掌に因って意図も容易く軌道を逸らされてしまった。
(な…んで、今更…?!)
後少しで勝てる所だったのに。オースティン自らが態々止めた意味も分からない儘、ヴェロニカの心の中では非難の声が渦巻くも。
「さて、親善試合以外での私闘は禁じて居た筈だが……フィリップ=オルグレン副団長、これはどういう事か説明したまえ」
鷹揚な追及が静まり返った室内へと響いた。苛立ちこそ感じさせないが、何時もの笑みを消して淡々と状況を確認する男の姿に、彼が此の国の王位継承権を持つオースティン=ローゼンクロイツ第二王子である事を再認識させられる。
勝手に口を開こうものなら直ぐ様独房に収容させられてしまいそうな圧倒的な威圧感。
普段のヴェロニカならば楽しみを邪魔した不届き者へ、疾うに罵声の一つや二つを浴びせている所だったが、流石にそうしてしまう事が憚られる雰囲気が漂っていた、のだが。
(……って、何か偉そうに『説明したまえ』とか言ってるけど、貴方一部始終を見てたじゃないのよ?!)
フィリップと自身が闘う姿を興味深そうに眺めていたのを目撃しているヴェロニカの突っ込みは、辛うじて心の中だけに留めた時。
「……あ~あ、君の所為で僕まで怒られちゃうんだけど。どうしてくれるの?」
空気を読むという事を知らないのだろう、フィリップの恨みがましい呟きと共に非難めいた一瞥をくれられたヴェロニカは、納得行かずに思わず反論。
「貴方が先に喧嘩吹っ掛けて来たんでしょう?!」
更にしんと静まり返る室内。マズイ。今度こそマズイ、と。気付いたヴェロニカの蟀谷を冷や汗が伝った時。
「ぷ…ッ、くくくっ!あははははははっ!君ってほーんと怖いもの知らずだよね~!」
突然吹き出したフィリップに、訳が分からず呆気にとられるヴェロニカ。何が彼のツボに入ったのか分からない儘、いつの間にかすぐ側まで距離を詰めていたオースティンの嘆息が頭上へと降って来る。
「……まずは、フィリップ=オルグレン副団長。彼の処遇はディミトリアス=アッカーソン団長に一任する」
「はっ」
騒ぎを聞き付けたのか、ヴェロニカの気付かない内に闘技場でトーナメント戦の最中だった第一師団の全員が、控え室で二人の闘いを観戦していた様だった。
「あははは…あはっ、ははっ、……は、え?!ちょっと勘弁して下さいよ、殿下~!!団長ってばネチネチグチグチしつこいんですから!」
そして命じられて短く返事を返すに留めた黒髪の寡黙な青年、ディミトリアス=アッカーソン団長。彼は今日の大会の審判役であり、兵役試験の日にヴェロニカ達受験者達の案内役をし、殿下の傍らで警備を務めていた男でもある。
「そして此処で見ていた第一師団全員には連帯責任で……そうだな───今日から三日間の酒宴を禁じる」
(そ、そんなに軽い罰で良いの?!)
余りに軽微な罰則に驚き目を瞬くヴェロニカを他所に。
「うぉおおおおっ!!本気っすか?!殿下だって観戦してた癖にそりゃないっすよぉ~!!」
「殿下の鬼…!悪魔…!!三日も酒盛り出来ねぇなんて酷ぇ仕打ちだ~!!」
「殿下にゃ幾らでも女が寄って来るでしょうけど、俺たちには酒が恋人なんだぁあああああああっ!!今日から何を楽しみに生きて行けば良いんだぁあああああ!!」
たったの三日間の禁酒だというのに第一師団の面々の絶望振りといったら。
「何とでも言いたまえ。では、最後にクリストファー=リーデル。お前は入団して直ぐに騒ぎを起こした罰として───私が直々に躾けてやろう」
ずっと真面目な顔をしていた男が此処に来て漸く、何時もの様に薄く形の良い唇を色っぽく撓らせた。
大抵の女性ならば興奮の余りに卒倒してしまいそうな程に破壊力抜群の微笑みも、水宝玉を思わせる蒼く澄んだ瞳に嗜虐の色が垣間見えた事に気付いたヴェロニカは、何をされるのだろうという不安と微かな貞操の危機に別の意味で卒倒したかった。
***
「───早く其処に座りたまえ」
あれから、闘技場控え室を出て別棟の最奥にある部屋まで無言で連れて来られた。
正確に言えば手を引かれた訳でもないのだからヴェロニカが目の前を歩く男を追って、着いて来たと言うべきなのだろうが、『躾けてやろう』だなんて言われた上に無言の圧力を掛けられたのだから無理矢理連れて来られたも同然だろう。結果、有無を言わさぬ雰囲気に負けて今に至る訳だが。
一介の騎士が入室する事が憚られるくらい調度の良い家具類が並ぶ室内は、どう見ても王室御用達といった煌びやかな光を纏っていた。騎士専用のサロンも豪奢だったが其処とは比べものにならないくらい、細々しい飾り彫りの花が壁一面に咲き誇り、中央に位置する大きな寝台に掛かる純白のシーツは同じ色の糸で上品な刺繍が施され、天井から垂れ下がるカーテンは美しいドレープを描き、蒼い宝石が埋め込まれたサイドテーブルの上には可愛らしくも主張し過ぎない小さな花瓶が置いてある。
「………」
其処に座れと言われても、腰を掛ける所なんてベッドくらいしか見当たらず、ヴェロニカはせめてもの抗議を示すべく無言で立ち尽くす。
(大体……躾けてやるだなんて偉そうな事言ってくれちゃってたけど、黙って躾けられる謂れはないのよね!)
言われた当初は青ざめたものだが、遠く離れた此処へ連れて来られるまでに些か冷静になったヴェロニカ。
そもそも何故こんな部屋へ連れて来られたのだろうとか質問したい事は山程あるのだ。元々我慢強い方では無いヴェロニカは、兎に角腑に落ちない疑問を不躾ながら口にする事にした。
「何故───止めたんですか?」
何時から見ていたのかは分からないが、ヴェロニカが気付いた時には興味深そうに眺めていた。
止める機会ならいくらでもあった筈だ。何もあんな良い所で───と思ってしまうのは彼女が好戦的過ぎるが所以だろう。
だが流石のヴェロニカとて其処まで正直には口に出来ず、しかしそんな不満が彼女の表情にありありと浮かんでいたのだろう。オースティンは咎める事もせずに含み笑いを一つ。
「『もう少しで勝てたのに』とでも思ったのだろうが、残念ながら君ではアレに勝てない」
余りにハッキリと言い切られ、ヴェロニカはバカにされた様な気がして食ってかかる。
「どうしてそう思うんですか?」
どう考えてもヴェロニカの優勢だった。オースティンが止めなければ確実に仕留めていた、筈だ。
「そう睨むな。……そうだな、確かに剣の腕前としては君が勝るだろう。アレは男にしては非力だ。だが、フィリップは勝つ為には手段を選ばない男でもある。どんなに姑息な手だろうと、必ず任務を遂行させるだけの冷徹さを持っている───私は其処を気に入っているのだがね」
冷徹な臣下を語る男こそゾッとする様な笑みを湛えたかと思えば、其の水宝玉の美しい瞳に冷酷な色が浮かんでは直ぐに消える。
「其れに、由緒正しき第二王子付第一師団副団長が入団したばかりの少年に負かされたとあれば、師団の指揮に関わるだろう。噂が広まりでもしたら更に大事になる」
「…!」
正論過ぎて返す言葉も無かった。ただ試合が好きで、闘う事が好きで、売られた喧嘩を今まで通りに買って来ただけの彼女には思い至らなかった。
師団の指揮を、未来を守る為に、ヴェロニカを間違っても勝たせてしまう訳には行かなかったのだ。
そして第一師団内だけの非公式戦とはいえ、それがどんな形で民衆の耳に入るか分からない。最悪の顛末までを見据えるオースティンの立場からすれば当然の判断だったのだろう。
「僕は……僕には、考えが足りませんでした。申し訳ございません……」
納得させられるだけの理由を知ってしまえば、これ以上意地を張る訳にもいかないヴェロニカは素直に謝罪の言葉を口にする。
自分は子供だった。騎士団という団体に身を連ねたのだから常に全体を意識して行かなければならなかった。個人的な感情だけで禁じられている私闘を繰り広げたりは以ての外なのだ。
喧嘩を売られたからとはいえ、ちょっと、いやかなりムカついたからといって、今までの様に気侭に剣を振るってはいけなかった。
「君が謝る必要は無い。始めから見ていた訳では無いがアレが先に煽った事は分かっている。大方『其の綺麗な顔で何人の男を咥え込んで来たんだ』などと有りもしない暴言を吐いたのだろう。大勢の男達の前で辱めを受け辛かっただろう、クリストファー。フィリップには私からもキツく言って置く」
「く、くわ…?」
とんでもない表現が聞こえた様な気がして思わず目を瞬いてしまったが、確かに似たような事は言われた自覚はある。
「いや、直ぐには止めなかった私も悪いな。君の闘う姿が余りにも美しく、つい見蕩れてしまった───これで納得してくれただろう?クリストファー」
ヴェロニカは殿下に其処まで言わせてしまった自分を情けなく感じ始めていた。軽薄で好色で碌でもないだけの男だと思っていたが、本当は違うのかも知れない。
オースティン=ローゼンクロイツという男は師団の為に、延いては国の為に、常に最善を考える事の出来る人間なのだろう。
初対面で斬りかかって来たり卑猥な言葉を用いて口説いて来たりと最低な印象しか無かったが、初めて尊敬に値する人間なのかも知れない───などと、ヴェロニカが本格的にオースティンへの認識を改め始めていると。
「……納得してくれた様で何よりだ。ところで───君は何時も、斯うして男の誘いに簡単に応じているのか…?」
無駄に色気たっぷりの一瞥をくれられたかと思えば、先程までとは何処か雰囲気が変わった気がしてヴェロニカは思わず後退る。
「誘いに応じる……というか、殿下が躾だって言って連れて来たんじゃないですか」
何を寝惚けた事を言っているのだろう。そんな風に詰られても困ると突き放した物言いで返す彼女へと、オースティンは一歩ずつ確実に距離を詰めて行く。
「ほぅ、では君は甘んじて私からの仕置きを受ける気で来たのだと」
(そ、そりゃあそうなんだけど…)
禁じられていた私闘を繰り広げた事で叱責を受け、此処まで連れて来られたのだからある程度の覚悟はしていた。
気に入らない事を白黒つけたくて、ただ負けず嫌いの一心で殿下相手にあれだけ強気な態度でいられただけなのだ。
ヴェロニカの不満は既に解消され、今度はけじめとしてきちんと落とし前を付けるべきだろう。
「あ、の、それは…」
そう分かってはいるのに、此処で素直に頷いてしまうにはオースティンの表情が、雰囲気が、ヴェロニカを出入口へと向かわせるくらいに嗜虐的過ぎた。逃走準備だけは整えて置きたい。だがその本能が裏目に出た。
「ふ……そう意識されると期待に応えてやりたくなるな」
咄嗟にドアノブへと手を伸ばし掛けたヴェロニカの腕を掴んでは、押し倒す勢いで部屋の中心へと強引に誘導するオースティン。
「な、何も期待なんてしていませんしっ、お仕置きされるのを期待してるってどんな変態ですか?!」
「素直じゃないな、クリストファー。君だって心の底では私に奪われる事を望んでいたのだろう?」
「ちょっと待って!お仕置きから何時の間にそういう話しになったの?!」
両腕を掴まれ、後ろ向きに歩かされ、艶笑を浮かべる男の獰猛な視線で真正面から射抜かれ。こういう時にどうしたら良いかなんて分かる筈も無いヴェロニカは狼狽するばかりで、それでもどうにか別の方向へ話を逸らそうと必死に考え抜いて。
「って、本当に何も望んでなんかいませ…っ、ぅ、わ…っ?!」
考えが纏まる前に膝裏に何かがぶつかって上体が傾ぐ。沈み込んだ先は予期していた通りの場所で、解放された手を後ろへ着いて完全に寝転んでしまうのだけは避けたが、直ぐ様膝を割って入って来る男の慣れた動作に。
「…っ?!な、に…?!」
果実酒の香りを噎せ返るくらいに強く感じさせる、家族以外の異性との有り得ない距離感に驚愕に目を見開くヴェロニカ。
「ふ…っ、くく……随分とまぁ、色気の無い反応をしてくれる。何をされるのか本当に分からないのか?」
膝を掴んでいた手が無遠慮にも太腿へと這わされ、自分とは違う大きく骨張った男の指の動きに、他人の其の体温に、ヴェロニカの頭はパンク寸前だった。
「やだやだやだぁ…ッ!!」
もう目の前の男が王子だとか自身の仕える主だとかそんな事を気にする余裕もない儘、咄嗟に振り上げた手を掴まれ、オースティンの顔が迫って。
「ひぃいいいいいぃッ?!」
柔らかな感触が、唇が、ヴェロニカの掌へと躊躇なく押し当てられた。
「いやぁあああああぁっ!!何でっ?!どうして掌なんかに口付けてる訳?!」
「女みたいに可愛らしい悲鳴を上げるじゃないか」
「…っ、おおお、男です…!!男ですからっ!!男の掌なんかに口付けたりしないで下さい…!!」
「だが、どうせならばもう少し色気のある声が聞きたいものだ」
振り払おうにも相手の力が強くてどうする事も出来ずに、形振り構わず引いた脚で股の間に居座る男を蹴り飛ばそうにも足首を掴まれ、肩へと担ぎ上げられては、右手と左足の自由を奪われ完全に体制を崩されたヴェロニカにはもう為す術もなく。
「…っ、ゃ、だ…っ、嘘…?!何、する…ッ…本当に嫌です…!!僕は男だから…男ですから…ッ!!やめて…っ、止めて下さい…!!」
嗚咽混じりの懇願も虚しく膨ら脛から内股へ順々に落とされる唇。
「ゃ…っ」
もぞもぞと背筋を這い上がる得体の知れない感覚に戸惑うヴェロニカに気付いていながら、ちろりと覗く紅い舌先がフィリップとの私闘で傷付いた箇所を───衣服が裂けて白く滑らかな肌に刻まれた裂傷へと、剥き出しとなった其処をゆっくりと見せ付ける様に嘗め上げる。
「ぁ…ッ?!痛ッ、ァ、…ッ!!」
痛い。熱い。訳が分からない。固く尖らせた舌が傷口を抉り、鮮血を啜る様に水音を立てながら吸われ、攻め立てられ、痛くて苦しい筈なのに。
自身の脚を嘗める男の姿は酷く煽情的で、見下ろす水宝玉の瞳に少なからず熱が燈っている事に気付けば、目を逸らしたくとも逸らせずに、湧き上がる別の感覚がヴェロニカの声音に甘さを足していった。
「ゃ…ッ、ぁ…!殿下、痛い…!止めて…っ、嫌です…!!やだぁっ…ふ…っ、ぁ…!」
自分の唇から零れた声の甘さに驚く。
嫌だ。こんなの私の声じゃない。
否定したいのに上がる息さえ甘く淫らで、男を煽っている様にしか聞こえず。
「ん…っ、ふふ……存外、悦い声で啼くじゃないか。お前は痛くされて感じているのか…?」
ヴェロニカの太腿から糸を引いて離れる官能的な唇が紡ぐ意地悪な指摘。
「違…ッ!!こんな…!こんな事されて嫌なのに…っ、感じてなんかいません…!感じる筈ないです…っ」
嘲笑を浮かべる男の視線に晒され、直ぐ様否定の言葉を口にするも。
「感じていただろう?女の様に甲高い声をあげて、四肢をくねらせて、こんなにも息を乱して───あぁ、これでは躾にならないな」
愉悦の滲む声でそう詰って、ヴェロニカの唇の端から知れず伝う唾液を骨張った指で拭う男は、其れを当然の様に其の舌で嘗めとって見せた。
「…ッ、ぁ、ぁぁ…」
涎を垂らしてしまっていた事に気付かない程、もう否定出来ないくらいに翻弄された事を嫌でも自覚させられたヴェロニカの面が耐え難い羞恥に染まり───眦から涙が滲む。
「ふ…っ、くく……此の状況で泣き顔を見せるのは逆効果だ、クリストファー。世の中には女が泣き叫ぶ姿に悦楽を感じる男も存在するのだという事を、覚えて置いた方が良い」
王子らしくない表情で王子らしくない事を平然と言って退けながら、ヴェロニカの目元へと唇を寄せ───滲む涙を嘗め取ると、艶っぽい吐息を一つ落としてから其の身体を起こした。
「……あぁ、確認だけのつもりが思いの外熱くなってしまった」
ヴェロニカの上から不意に離れた重み。サイドテーブルの引き出しを開けては何かを探すオースティンの姿に、安堵するやら何処と無く拍子抜けするやらでぽかんと唇を開け放した儘男の横顔をぼうっと見詰めるヴェロニカの視線を感じとったのか。
「そんな顔をして……物足りないのならば素直にそう言えば良い。『麗しい殿下、私のオースティン様……貴方に抱かれたくて毎夜身体が疼くのです』と。君が望むのならば午後の公務を全てキャンセルしよう」
やや声色を変えて詩の一説でも読み上げる様にそんな事を言い出した上に、再度伸し掛って来ようとするオースティンに呆けていられなくなったヴェロニカは。
「け、結構です───っ!!……っていうか何ですかそれ?!そんな事間違っても言いませんし、そんな事の為にご公務をキャンセルしちゃダメですから!!」
信じられない!と目を剥いて男の腹部を足蹴にする。折角そういう気分でなくなったらしいのにまた迫られてはたまったもんじゃない。
「今朝方私宛に届いた無記名の恋文にそう書いてあったのだが、中々情熱的だろう?其の恋文の差出人がクリストファー、君だと言うのならば遠慮なくその身を差し出」
「間違っても送り付けたり致しませんので安心して下さい、殿下」
またしてもバカな事を言い出す男へ食い気味に、だが丁重に否定をして置けば、彼は渋々ベッドの端へと腰を下ろす。
「はぁ…君は本当につれないな。先程まではあんなにも可愛らしく『止めて殿下…でも止めないで!』などと求めていたものを」
「そ…っ、そんな事言ってませんよね?!」
「私にはそう聞こえた」
「───ッ!!」
最低!頬がかぁっと熱くなるのと同時に唐突に視界がぐるぐると回り、起きているのも辛いくらいの目眩に見舞われた。
「な……に……?」
掠れた声を絞り出すのが精一杯のヴェロニカが寝台へと身体を沈めれば。
「意識だけは妙にハッキリしているだろう。オルグレン副団長、アレの使う毒はそういう物らしくてな」
こんな状態に陥った理由を知っているらしいオースティンが身を乗り出し、動けない彼女の太腿の裂傷を指でつぅとなぞって確認する。ヴェロニカは其れだけの刺激で、先程までの事が鮮明に思い出されてビクリと身を震わせた。
「……っ、ゃ」
「動くな」
短い命令を下されると共にいつの間にか握られていた丸い硝子容器の蓋を外し、其の中身を掬うなり患部へと塗りたくられる。軟膏の様なとろりとした粘液はひやりと冷たく、動くなと言われたばかりなのにヴェロニカの身体は意思と反して大袈裟な程に跳ねた。
「化膿止めだ。応急処置はして置いたから一晩も休めばよくなるだろう」
「……?」
「もう忘れたのか?私が可愛い臣下の為に、あんなにも熱心に傷口から毒を吸い出してやったのを」
意味ありげに艶めいた一瞥をくれるものだから何を言われているのか直ぐには理解できずにいたが。
(え?じゃあさっきのアレは性的な嫌がらせでも躾でも何でも無い、ただの治療だったって事…?!っていうか毒?!あの性悪副団長ってば根っからの悪人なのね!手段を選ばないってこの事だったんだわ。……え、でもちょっと待って。毒を吸い出したって事は殿下だって危険なんじゃないの?!)
事実ともう一つの可能性に気付くや否や、オースティンの腕を掴むヴェロニカ。
「どうした?……感激の余りに口付けの一つでも贈る気になったのか?」
「で、ん…か……は、大、じょ……ぶ、…な……です、か…?」
絞り出した声が掠れて音にならないのがもどかしい。
「大丈夫?あぁ、私には有りと有らゆる毒への耐性があるので心配には及ばない」
だがそんなヴェロニカの心配を相変わらずの察しの良さで汲み取る男に今回ばかりは救われる。
「よ、か……った…」
オースティンはほっと息を吐く彼女の髪へと手を伸ばし。
「ふふ…君が私の心配とはな。可愛らしい所もあるじゃないか」
からかうように言いながら動物を愛でるみたいに珍しい白金の髪を撫でる。
(私だって……心配くらいするわよ)
どの程度の効果がある毒を使われたのか分からないが、普通は誰だって心配するだろう。其れに自分を助けた所為で第二王子が亡くなっただなんて笑えない、なんて恐ろしい想像をしながら、ヴェロニカはもう動く力も無くされるが儘に撫でられ続けていた。
(本当は良い人……なのかしら)
認めたくはないが、我等が殿下は物凄く女たらしで口説き癖があってそういう性癖なだけで、本質的には優しい人なのかも知れない。そうでなければこんなにも温かく優しい手つきで人の頭を撫でたりしないだろう。
応急処置、と言い切ってしまうには余りに卑猥な言葉で攻め立てられたりしたものだが。そして其れを応急処置だと言い切ってしまった男の腹黒さに気付けない程の睡魔が襲って来てしまったヴェロニカには、既に冷静な判断が出来なくなっていた。
「今日は此の儘此処で眠ると良い。……疲れただろう?」
吐息混じりの艶めいた其の声に、今は色気を感じるよりも眠気を誘われ、大人しく瞼を閉じる。
「……んか…あり…が、と……ざ…い、ます…」
助けてくれて。寝床を提供してくれて。優しくしてくれて。色々な感謝の気持ちが綯交ぜとなって、睡魔も相俟ってそう口にした彼女へ『君は純粋過ぎるな』そんな囁きが落ちた気がした。
ヴェロニカは大きな掌に頭を撫でられながら、故郷にいる父、ブライアンと、もう一人の青年をふと思い出す。
(そういえば家族じゃない男性に寝付くまで頭を撫でられるのは、殿下で二人目だわ…)
よく手合わせをしては幼いヴェロニカに負けていた、いや、負けてくれていたのかも知れない。優しくて筋肉バカな七つ年上の幼馴染───。
「……カール……」
寝言の様な呟きが意識せずに唇から零れると同時に、髪を撫でていた手がぴくりと動きを止める。其の事に気付かない儘、ヴェロニカは深い眠りについた。
「は…っ!」
ヴェロニカの振り下ろした軍用の長剣が目の前の敵の繰り出す技を武器ごと制圧し、弾かれた剣先が地面にめり込むのを審判役を務める黒髪の青年───第二王子付第一師団団長ディミトリアス=アッカーソンが認めるなり。
「……そこまで。勝者、クリストファー=リーデル」
抑揚の無い声と感情に乏しい表情の儘短く勝敗を告げる事で、長い第一試合目は終わりを迎えた。
突如として始まった『第三十三回第二王子付第一師団親善大会』という名の非公式のトーナメント戦。
ヴェロニカ達新団員も私設団入りをしてから一月が経過しようとしている今、更なる親交を深めましょうとの事で、腕っ節自慢の第一師団だからこその『拳と拳で語り合う』という発想なのだろう。
勿論、今大会開催のきっかけは師団一喧嘩早く気が短いと評判のオジサマ騎士グリズリー=オルグレン。
『よぉっしクリス!そろそろリベンジマッチと行こうじゃねぇかっ!!兵役試験の時は負けちまったが、今度こそ俺の真の力を見せてやる!!ダーッハハハハハハハ!!』
という、早朝の闘技場にて行われていた鍛錬中(素振り千回)にも関わらずヴェロニカへと持ち掛けた強引な手合わせの申請から、周りにいた師団の仲間達も『そりゃあ良い!』『やれやれー!』『トーナメント戦か?!久々だなー!!』などと乗っかり、そして毎回そんな風に鍛錬から脱線してトーナメント戦が始まるのだと親衛隊の一人から軽く説明を受け、闘いとあらば血湧き肉躍るタイプのヴェロニカも勿論嬉々としてそれを受け入れつつ今に至る。
「うあーっ!負けたぁー!はははっ、流石俺の親友だな!清々しい程の惨敗だ!」
その場へどかっと腰を下ろし、朗らかに笑うこの試合の敗者はデーヴィット=ブロワー。
「有難うごさいました!」
伯爵家のご子息という身分に在りながら、兵役試験の日に庶民のヴェロニカへ気さくに声を掛けてくれたりと何かと世話を焼いてくれる心優しき同僚であり、今では彼女の一番の友人だ。
「いやー、しかし何で俺は何回やっても君に勝てないんだ?!」
差し出されたヴェロニカの手を取り立ち上がるデイヴ。二人は休憩を取る為に控え室へ向かうと、初めて出会った兵役試験の日の様に壁へと凭れて談笑する。
「体格だってパワーだって俺の方が勝ってる筈なんだけどなぁ…」
女性の中でも背の高いヴェロニカより頭二つ分も身長が高く、男性の中でも高身長の部類に入るデイヴ。その大男から繰り出される斬撃は重く、大きな体からは想像も付かない程軽いフットワークは闘い慣れているヴェロニカでさえ苦戦を強いたものだが。
「背の高い人はリーチが長い分、どうしても大振りになる。だからそこを狙え!って散々父に教え込まれたんだよ」
ただ上には上が居ることを先日思い知らされたばかりだけどね!なんて自嘲気味に付け加えれば、オースティンとクリストファーの試合を思い出したデイヴが頭を抱え始めた。
「く…っ、俺は……俺は何故あの時……殿下だと気付けなかったんだ…!!」
(うわっ、また始まっちゃった!)
半月近く酒盛りにも参加せずに、ずっと彼は思い悩んでいたのだ。
主にオースティン=ローゼンクロイツ様が、我らが殿下が影武者を立て、一介の騎士の隊服を着込んでまで兵役試験の参加者をその目で見極め、剩え何も知らないヴェロニカ達や観客さえをも欺きつつ手合わせなどと言って剣技を披露するという、最大の余興を演じて見せた事について。
「あれ程までに麗しい殿下を…っ、見る者全てを虜にするあの美貌と溢れ出す気品に、俺は何故気付けなかった?!君に『ひと目見れば分かる』などと豪語しておきながら俺は…!」
ヴェロニカには理解出来ないが、何故かオースティンへ崇拝しきっている可哀想な少年、デイヴは余程あの時の事を悔やんでいるらしく、度々こんな風にスイッチが入っては『俺は殿下の騎士失格だ!』などと普段の彼からは想像も付かない程に自分を貶めては落ち込む、といった事を繰り返していた。
「俺は最低だ!こんな俺が殿下の騎士を名乗る事自体が烏滸がましくて赦せない…!」
反省をする事自体は良い事だと思いそっとしておいたヴェロニカも、一月余りもこの儘では流石に面倒───ではなく不憫に思い。
「でもさ、デイヴにも気付けない程殿下の変装がお上手だったって事じゃないの?それにもし仮に気付いたとしても、変装している主に気付かない振りしてあげるのも騎士の務めだと思うけどなぁ」
俯くデイヴを覗き込みながら、小豆色の短髪を幼い頃の義弟をあやす時の様にポンポンと撫でる。
(流石にこんな強引な理屈じゃ納得行かないかしら)
もっとゴワゴワしているものかと思っていたが意外にも柔らかいデイヴの髪をふわふわ弄んでいると、不意にその手をガシッと掴まれた。
「クリス、君は…」
「あ、やっぱりダメだった?」
「人を思いやれる素晴らしい男だ…!!」
「えっ?あ、ありがとう」
「そうだ!それこそが騎士の務めだ!気付かない優しさもあるよな?!クリス、君は天才だ!何て殿下思いの素晴らしい男なんだ!」
「う…っ、そこは否定させて頂けると嬉しいんだけど」
「やはり持つべきものは親友だ!クリス、愛してるぜ!!」
「ひ…ッ」
どうやら納得してくれたらしいデイヴだったが、またしてもヴェロニカに抱き着くという暴挙に出ようとしたのを。
「ハイ、そこ~。男同士愛を育むならもう少し人目を偲んでくれる?」
軽い調子で窘められて二人同時にその声の主へと目をやれば、そこには肩までの癖のある栗毛と垂れ目が女好きのする優男、フィリップ=オルグレン副団長がいつの間にか目の前で腕を組んで立っていた。
「す、すみません、副団長!」
慌てて謝罪の言葉を口にするデイヴに。
「ちょ…っ、デイヴ、否定しなさいよ?!お言葉葉ですが副団長!僕達、愛なんて育んでいません!」
慌てて盛大な勘違いをする上司へ否定をするヴェロニカ。
「ん~……あれ?君、殿下ともできてなかった?」
そんな二人の言葉など耳に入っていないフィリップが、マイペースにヴェロニカの顔をジロジロと眺めやりながらそんな事を言うものだから。
「で…ッ?!」
ヴェロニカは蒼白になって言葉を失った。デイヴはそれ以上に驚きながら『いつの間に?!』なんて突っ込んでいる。
「うん、やっぱりそうだ。わぁ、君凄いね~まだ入団して一月でしょ?入って直ぐに殿下とコイツと?あぁ、あとはあの辺で『デイヴ殺す!』とか言って殺気立ってる奴等と?」
「な、何のカウントですか、それ」
ニコニコと屈託のない笑みを浮かべながら指折り数える男の姿に嫌な予感しかしない。
「勿論、君が手玉に取った男の数だよ?クリストファー=リーデルくん」
フィリップの唇が紡ぐ挑発めいたその言葉に、予想はしていたが余りにも明け透けに物を言われ、憤りの所為か義弟でもないのに目眩と息苦しさを覚えた。
「……手玉になんて取ったつもりは有りません」
本来、此処で副団長である彼に逆らうのは賢明な判断とは言えないのだろう。クリストファー=リーデルとして此処に居る以上、目立たぬように生活する意外に選択肢は無い筈なのだから。
「君のその顔ならその気にさせるのなんて簡単だろうね~。ほら、男所帯だし?みんな女に飢えてるからねぇ」
「僕は男です」
苛立ちを隠さないヴェロニカは間髪入れずにそう言い切ると。
「ふ、フィリップ副団長!俺の親友、クリストファーはそんな男ではありません!」
「お前とは話してないよ、デーヴィット=ブロワー」
「…っ!!」
流石に見兼ねたのか、デイヴがヴェロニカを庇って口を挟むも直ぐ様冷徹な命令が下され、二の句を継げなくなる。
「あぁ、僕も君が女だったら真っ先に口説くんだけどね?正直、その顔すごーく好みだし。男にしとくの勿体無いくらい」
「………」
「でも男なんでしょ?そんななりしてても玉ついてんだもんね~。殿下もよく男なんか相手に出来るよね。君さ、もしかして何か凄い性技でも持ってんの?それとも……」
それでも此処で引き下がったら女が廃る。保身の為に言われっぱなしにさせただなんてお父様に知られたら『何で直ぐにぶちのめさなかったんだ?!信じられない!!常々殺られる前に殺れと言っているじゃないか?!言葉の暴力には死を持って償わせないと!!』なんて叱られるだろう。
思うが否や、ヴェロニカは腰に帯いた長剣を勢いに任せて抜刀する。
「へぇ……副団長に剣を向けて良いんだ?」
反射的に半歩下がった男の喉元へ───同じように半歩距離を詰めていたヴェロニカの剣先が突き付けられる。
フィリップに避けられる事は想定していた。これは端から脅しだ。此処で引いてくれれば良いのだが、そうも行かないであろう事は分かっている。
「生憎、名誉を傷付けられて黙っていられる程出来た人間ではありませんので」
吐き捨てる様にそう言うヴェロニカの姿に、フィリップは読めない笑みを浮かべるばかりで何を考えているのか全く分からない。拝命式の日に見掛けたくらいで話した事もなかったが、こんなにも底意地の悪い男だったとは。
「ふぅん。……じゃあ剣を抜いたからには僕に斬り殺される覚悟も出来てるって事だよね?」
言うが早いか、上体を後方へと反らしたフィリップがいつの間にか抜いていた短剣を振るってヴェロニカの剣先を弾く。
「デイヴ、下がって!」
上司相手に剣を抜いて良いのか、親友を助けるべきか逡巡していた後ろのデイヴを左手で短く制して、剣を構え直すヴェロニカ。
「許して下さいフィリップ様ぁ~!って殿下を誑かしたみたいに泣いて懇願するなら許してあげても良いよ?!あははははっ!!」
心底楽しいとでも言いたげに笑いながらもう一方の手に対となった短剣を構え、すぐ様距離を詰めて来る男の狂喜に当てられて怯みそうになる心を強引に奮い立たせる。
「は…っ、誰が泣いて懇願なんてするもんですか…!!」
正直に言えば気が狂った様に闘う人間は初めて見たし、そんな男が何故私設団入り出来るのかも不思議でならない。
優男な見た目とのあまりのギャップに驚きながらも動揺を気取られまいと、フィリップから休み無く繰り出される両刀に因る攻撃を、右へ左へ長剣で受けては必死で捌き続ける。
「く…っ!」
流石に第二王子付第一師団副団長の名は伊達ではない。
ヴェロニカは双刀を受けるばかりで攻撃に転じる機会を中々見出せない儘、闘技場控え室というギャラリーが多く自由に動けない空間の中───皆が固唾を呑んで見守る中、ある人物が視界に入る余裕があった自分自身に驚きつつも苦笑を浮かべるヴェロニカ。
地味な紺色の軍服集団の中で一際輝く、男の為に仕立てられた純白の衣裳。襟元から肩口、釦周りには金糸の刺繍で繊細に縁取られ、丸い飾釦にはこの国の紋章である正十字
が一つ一つ丁寧に彫られている。
煌びやかな其れ等は彼の美しさをより一層引き立て、そして確固たる地位を感じさせる様だった。
何でこんな所に居るんだろう、とか、自分の騎士同士が争っているんだから止めなさいよ!とか、疑問やら苦情やらが次から次へと脳裏に浮かぶのに。
「あれあれ?さっきから防御ばっかりで全然攻撃出来てないのに余所見なんてしてる余裕あるんだ?!あはははっ!───じゃあもう終わりにしようか?」
最後に残った思いはただ一つ。
(……殿下が見てる前で負けたくないわ)
自分をからかってばかりで女にだらしなくてどうしようもない男だが、情けない姿は見せられない───どうしてかそんな気持ちがヴェロニカの中で真っ先に浮かんだ。
何度対戦しても勝てない父に対する気持ちと同じように、悔しいけれど憧れて、その強さを焦がれて───なんて、自身の心の中で既にブライアンと同等に位置付けているだなんて信じられない。信じたくはないが、殿下の強さはヴェロニカの理想そのものだった。
「その澄まし顔を切り刻んでやったらどんな顔するのか、な…っ?!」
とにかく、殿下の目の前で不様な姿を晒したくは無い。
『───敵を仕留める為に、人間誰しも一瞬の隙が出来る。其れは此の一撃で敵を仕留められると言う、驕りだ』
父の教えを思い出しながら、ヴェロニカを仕留めるべく十字を描く様に襲い来る双刀を上体を後方へと撓らせて躱すと同時に───敵の顔面目掛けて持っていた剣を槍のように放れば、闘いの最中にまさか得物が飛んで来るとは思わないであろう男の、迫り来る其れを打ち落とさざるを得ないフィリップの視線が、そちらへ集中するのを見逃さなかったヴェロニカの爪先が地を蹴る。
「ぐふ…っ!!」
軸足に重心を置きながら勢い良く回した其れがフィリップの頬を見事に捉えるも、既に昏睡気味の男は其れでも反射的に剣を振るい、片方の剣先がヴェロニカの内股を掠めた。
「…っ!!」
だがヴェロニカの傷は致命傷ではない。脳を揺さぶられて反応が遅れるフィリップを認めるなり直ぐ様体制を整え、宙を舞う様にぐるりと回転したヴェロニカの二撃目が男を確実に仕留めるべく、再度頭部へと回し蹴りを見舞う刹那───。
「───そこまで」
こんな時でさえいやに吐息混じりの艶めいた声で制止が掛かったかと思えば、ヴェロニカの渾身の蹴りは間へ割って入った男の掌に因って意図も容易く軌道を逸らされてしまった。
(な…んで、今更…?!)
後少しで勝てる所だったのに。オースティン自らが態々止めた意味も分からない儘、ヴェロニカの心の中では非難の声が渦巻くも。
「さて、親善試合以外での私闘は禁じて居た筈だが……フィリップ=オルグレン副団長、これはどういう事か説明したまえ」
鷹揚な追及が静まり返った室内へと響いた。苛立ちこそ感じさせないが、何時もの笑みを消して淡々と状況を確認する男の姿に、彼が此の国の王位継承権を持つオースティン=ローゼンクロイツ第二王子である事を再認識させられる。
勝手に口を開こうものなら直ぐ様独房に収容させられてしまいそうな圧倒的な威圧感。
普段のヴェロニカならば楽しみを邪魔した不届き者へ、疾うに罵声の一つや二つを浴びせている所だったが、流石にそうしてしまう事が憚られる雰囲気が漂っていた、のだが。
(……って、何か偉そうに『説明したまえ』とか言ってるけど、貴方一部始終を見てたじゃないのよ?!)
フィリップと自身が闘う姿を興味深そうに眺めていたのを目撃しているヴェロニカの突っ込みは、辛うじて心の中だけに留めた時。
「……あ~あ、君の所為で僕まで怒られちゃうんだけど。どうしてくれるの?」
空気を読むという事を知らないのだろう、フィリップの恨みがましい呟きと共に非難めいた一瞥をくれられたヴェロニカは、納得行かずに思わず反論。
「貴方が先に喧嘩吹っ掛けて来たんでしょう?!」
更にしんと静まり返る室内。マズイ。今度こそマズイ、と。気付いたヴェロニカの蟀谷を冷や汗が伝った時。
「ぷ…ッ、くくくっ!あははははははっ!君ってほーんと怖いもの知らずだよね~!」
突然吹き出したフィリップに、訳が分からず呆気にとられるヴェロニカ。何が彼のツボに入ったのか分からない儘、いつの間にかすぐ側まで距離を詰めていたオースティンの嘆息が頭上へと降って来る。
「……まずは、フィリップ=オルグレン副団長。彼の処遇はディミトリアス=アッカーソン団長に一任する」
「はっ」
騒ぎを聞き付けたのか、ヴェロニカの気付かない内に闘技場でトーナメント戦の最中だった第一師団の全員が、控え室で二人の闘いを観戦していた様だった。
「あははは…あはっ、ははっ、……は、え?!ちょっと勘弁して下さいよ、殿下~!!団長ってばネチネチグチグチしつこいんですから!」
そして命じられて短く返事を返すに留めた黒髪の寡黙な青年、ディミトリアス=アッカーソン団長。彼は今日の大会の審判役であり、兵役試験の日にヴェロニカ達受験者達の案内役をし、殿下の傍らで警備を務めていた男でもある。
「そして此処で見ていた第一師団全員には連帯責任で……そうだな───今日から三日間の酒宴を禁じる」
(そ、そんなに軽い罰で良いの?!)
余りに軽微な罰則に驚き目を瞬くヴェロニカを他所に。
「うぉおおおおっ!!本気っすか?!殿下だって観戦してた癖にそりゃないっすよぉ~!!」
「殿下の鬼…!悪魔…!!三日も酒盛り出来ねぇなんて酷ぇ仕打ちだ~!!」
「殿下にゃ幾らでも女が寄って来るでしょうけど、俺たちには酒が恋人なんだぁあああああああっ!!今日から何を楽しみに生きて行けば良いんだぁあああああ!!」
たったの三日間の禁酒だというのに第一師団の面々の絶望振りといったら。
「何とでも言いたまえ。では、最後にクリストファー=リーデル。お前は入団して直ぐに騒ぎを起こした罰として───私が直々に躾けてやろう」
ずっと真面目な顔をしていた男が此処に来て漸く、何時もの様に薄く形の良い唇を色っぽく撓らせた。
大抵の女性ならば興奮の余りに卒倒してしまいそうな程に破壊力抜群の微笑みも、水宝玉を思わせる蒼く澄んだ瞳に嗜虐の色が垣間見えた事に気付いたヴェロニカは、何をされるのだろうという不安と微かな貞操の危機に別の意味で卒倒したかった。
***
「───早く其処に座りたまえ」
あれから、闘技場控え室を出て別棟の最奥にある部屋まで無言で連れて来られた。
正確に言えば手を引かれた訳でもないのだからヴェロニカが目の前を歩く男を追って、着いて来たと言うべきなのだろうが、『躾けてやろう』だなんて言われた上に無言の圧力を掛けられたのだから無理矢理連れて来られたも同然だろう。結果、有無を言わさぬ雰囲気に負けて今に至る訳だが。
一介の騎士が入室する事が憚られるくらい調度の良い家具類が並ぶ室内は、どう見ても王室御用達といった煌びやかな光を纏っていた。騎士専用のサロンも豪奢だったが其処とは比べものにならないくらい、細々しい飾り彫りの花が壁一面に咲き誇り、中央に位置する大きな寝台に掛かる純白のシーツは同じ色の糸で上品な刺繍が施され、天井から垂れ下がるカーテンは美しいドレープを描き、蒼い宝石が埋め込まれたサイドテーブルの上には可愛らしくも主張し過ぎない小さな花瓶が置いてある。
「………」
其処に座れと言われても、腰を掛ける所なんてベッドくらいしか見当たらず、ヴェロニカはせめてもの抗議を示すべく無言で立ち尽くす。
(大体……躾けてやるだなんて偉そうな事言ってくれちゃってたけど、黙って躾けられる謂れはないのよね!)
言われた当初は青ざめたものだが、遠く離れた此処へ連れて来られるまでに些か冷静になったヴェロニカ。
そもそも何故こんな部屋へ連れて来られたのだろうとか質問したい事は山程あるのだ。元々我慢強い方では無いヴェロニカは、兎に角腑に落ちない疑問を不躾ながら口にする事にした。
「何故───止めたんですか?」
何時から見ていたのかは分からないが、ヴェロニカが気付いた時には興味深そうに眺めていた。
止める機会ならいくらでもあった筈だ。何もあんな良い所で───と思ってしまうのは彼女が好戦的過ぎるが所以だろう。
だが流石のヴェロニカとて其処まで正直には口に出来ず、しかしそんな不満が彼女の表情にありありと浮かんでいたのだろう。オースティンは咎める事もせずに含み笑いを一つ。
「『もう少しで勝てたのに』とでも思ったのだろうが、残念ながら君ではアレに勝てない」
余りにハッキリと言い切られ、ヴェロニカはバカにされた様な気がして食ってかかる。
「どうしてそう思うんですか?」
どう考えてもヴェロニカの優勢だった。オースティンが止めなければ確実に仕留めていた、筈だ。
「そう睨むな。……そうだな、確かに剣の腕前としては君が勝るだろう。アレは男にしては非力だ。だが、フィリップは勝つ為には手段を選ばない男でもある。どんなに姑息な手だろうと、必ず任務を遂行させるだけの冷徹さを持っている───私は其処を気に入っているのだがね」
冷徹な臣下を語る男こそゾッとする様な笑みを湛えたかと思えば、其の水宝玉の美しい瞳に冷酷な色が浮かんでは直ぐに消える。
「其れに、由緒正しき第二王子付第一師団副団長が入団したばかりの少年に負かされたとあれば、師団の指揮に関わるだろう。噂が広まりでもしたら更に大事になる」
「…!」
正論過ぎて返す言葉も無かった。ただ試合が好きで、闘う事が好きで、売られた喧嘩を今まで通りに買って来ただけの彼女には思い至らなかった。
師団の指揮を、未来を守る為に、ヴェロニカを間違っても勝たせてしまう訳には行かなかったのだ。
そして第一師団内だけの非公式戦とはいえ、それがどんな形で民衆の耳に入るか分からない。最悪の顛末までを見据えるオースティンの立場からすれば当然の判断だったのだろう。
「僕は……僕には、考えが足りませんでした。申し訳ございません……」
納得させられるだけの理由を知ってしまえば、これ以上意地を張る訳にもいかないヴェロニカは素直に謝罪の言葉を口にする。
自分は子供だった。騎士団という団体に身を連ねたのだから常に全体を意識して行かなければならなかった。個人的な感情だけで禁じられている私闘を繰り広げたりは以ての外なのだ。
喧嘩を売られたからとはいえ、ちょっと、いやかなりムカついたからといって、今までの様に気侭に剣を振るってはいけなかった。
「君が謝る必要は無い。始めから見ていた訳では無いがアレが先に煽った事は分かっている。大方『其の綺麗な顔で何人の男を咥え込んで来たんだ』などと有りもしない暴言を吐いたのだろう。大勢の男達の前で辱めを受け辛かっただろう、クリストファー。フィリップには私からもキツく言って置く」
「く、くわ…?」
とんでもない表現が聞こえた様な気がして思わず目を瞬いてしまったが、確かに似たような事は言われた自覚はある。
「いや、直ぐには止めなかった私も悪いな。君の闘う姿が余りにも美しく、つい見蕩れてしまった───これで納得してくれただろう?クリストファー」
ヴェロニカは殿下に其処まで言わせてしまった自分を情けなく感じ始めていた。軽薄で好色で碌でもないだけの男だと思っていたが、本当は違うのかも知れない。
オースティン=ローゼンクロイツという男は師団の為に、延いては国の為に、常に最善を考える事の出来る人間なのだろう。
初対面で斬りかかって来たり卑猥な言葉を用いて口説いて来たりと最低な印象しか無かったが、初めて尊敬に値する人間なのかも知れない───などと、ヴェロニカが本格的にオースティンへの認識を改め始めていると。
「……納得してくれた様で何よりだ。ところで───君は何時も、斯うして男の誘いに簡単に応じているのか…?」
無駄に色気たっぷりの一瞥をくれられたかと思えば、先程までとは何処か雰囲気が変わった気がしてヴェロニカは思わず後退る。
「誘いに応じる……というか、殿下が躾だって言って連れて来たんじゃないですか」
何を寝惚けた事を言っているのだろう。そんな風に詰られても困ると突き放した物言いで返す彼女へと、オースティンは一歩ずつ確実に距離を詰めて行く。
「ほぅ、では君は甘んじて私からの仕置きを受ける気で来たのだと」
(そ、そりゃあそうなんだけど…)
禁じられていた私闘を繰り広げた事で叱責を受け、此処まで連れて来られたのだからある程度の覚悟はしていた。
気に入らない事を白黒つけたくて、ただ負けず嫌いの一心で殿下相手にあれだけ強気な態度でいられただけなのだ。
ヴェロニカの不満は既に解消され、今度はけじめとしてきちんと落とし前を付けるべきだろう。
「あ、の、それは…」
そう分かってはいるのに、此処で素直に頷いてしまうにはオースティンの表情が、雰囲気が、ヴェロニカを出入口へと向かわせるくらいに嗜虐的過ぎた。逃走準備だけは整えて置きたい。だがその本能が裏目に出た。
「ふ……そう意識されると期待に応えてやりたくなるな」
咄嗟にドアノブへと手を伸ばし掛けたヴェロニカの腕を掴んでは、押し倒す勢いで部屋の中心へと強引に誘導するオースティン。
「な、何も期待なんてしていませんしっ、お仕置きされるのを期待してるってどんな変態ですか?!」
「素直じゃないな、クリストファー。君だって心の底では私に奪われる事を望んでいたのだろう?」
「ちょっと待って!お仕置きから何時の間にそういう話しになったの?!」
両腕を掴まれ、後ろ向きに歩かされ、艶笑を浮かべる男の獰猛な視線で真正面から射抜かれ。こういう時にどうしたら良いかなんて分かる筈も無いヴェロニカは狼狽するばかりで、それでもどうにか別の方向へ話を逸らそうと必死に考え抜いて。
「って、本当に何も望んでなんかいませ…っ、ぅ、わ…っ?!」
考えが纏まる前に膝裏に何かがぶつかって上体が傾ぐ。沈み込んだ先は予期していた通りの場所で、解放された手を後ろへ着いて完全に寝転んでしまうのだけは避けたが、直ぐ様膝を割って入って来る男の慣れた動作に。
「…っ?!な、に…?!」
果実酒の香りを噎せ返るくらいに強く感じさせる、家族以外の異性との有り得ない距離感に驚愕に目を見開くヴェロニカ。
「ふ…っ、くく……随分とまぁ、色気の無い反応をしてくれる。何をされるのか本当に分からないのか?」
膝を掴んでいた手が無遠慮にも太腿へと這わされ、自分とは違う大きく骨張った男の指の動きに、他人の其の体温に、ヴェロニカの頭はパンク寸前だった。
「やだやだやだぁ…ッ!!」
もう目の前の男が王子だとか自身の仕える主だとかそんな事を気にする余裕もない儘、咄嗟に振り上げた手を掴まれ、オースティンの顔が迫って。
「ひぃいいいいいぃッ?!」
柔らかな感触が、唇が、ヴェロニカの掌へと躊躇なく押し当てられた。
「いやぁあああああぁっ!!何でっ?!どうして掌なんかに口付けてる訳?!」
「女みたいに可愛らしい悲鳴を上げるじゃないか」
「…っ、おおお、男です…!!男ですからっ!!男の掌なんかに口付けたりしないで下さい…!!」
「だが、どうせならばもう少し色気のある声が聞きたいものだ」
振り払おうにも相手の力が強くてどうする事も出来ずに、形振り構わず引いた脚で股の間に居座る男を蹴り飛ばそうにも足首を掴まれ、肩へと担ぎ上げられては、右手と左足の自由を奪われ完全に体制を崩されたヴェロニカにはもう為す術もなく。
「…っ、ゃ、だ…っ、嘘…?!何、する…ッ…本当に嫌です…!!僕は男だから…男ですから…ッ!!やめて…っ、止めて下さい…!!」
嗚咽混じりの懇願も虚しく膨ら脛から内股へ順々に落とされる唇。
「ゃ…っ」
もぞもぞと背筋を這い上がる得体の知れない感覚に戸惑うヴェロニカに気付いていながら、ちろりと覗く紅い舌先がフィリップとの私闘で傷付いた箇所を───衣服が裂けて白く滑らかな肌に刻まれた裂傷へと、剥き出しとなった其処をゆっくりと見せ付ける様に嘗め上げる。
「ぁ…ッ?!痛ッ、ァ、…ッ!!」
痛い。熱い。訳が分からない。固く尖らせた舌が傷口を抉り、鮮血を啜る様に水音を立てながら吸われ、攻め立てられ、痛くて苦しい筈なのに。
自身の脚を嘗める男の姿は酷く煽情的で、見下ろす水宝玉の瞳に少なからず熱が燈っている事に気付けば、目を逸らしたくとも逸らせずに、湧き上がる別の感覚がヴェロニカの声音に甘さを足していった。
「ゃ…ッ、ぁ…!殿下、痛い…!止めて…っ、嫌です…!!やだぁっ…ふ…っ、ぁ…!」
自分の唇から零れた声の甘さに驚く。
嫌だ。こんなの私の声じゃない。
否定したいのに上がる息さえ甘く淫らで、男を煽っている様にしか聞こえず。
「ん…っ、ふふ……存外、悦い声で啼くじゃないか。お前は痛くされて感じているのか…?」
ヴェロニカの太腿から糸を引いて離れる官能的な唇が紡ぐ意地悪な指摘。
「違…ッ!!こんな…!こんな事されて嫌なのに…っ、感じてなんかいません…!感じる筈ないです…っ」
嘲笑を浮かべる男の視線に晒され、直ぐ様否定の言葉を口にするも。
「感じていただろう?女の様に甲高い声をあげて、四肢をくねらせて、こんなにも息を乱して───あぁ、これでは躾にならないな」
愉悦の滲む声でそう詰って、ヴェロニカの唇の端から知れず伝う唾液を骨張った指で拭う男は、其れを当然の様に其の舌で嘗めとって見せた。
「…ッ、ぁ、ぁぁ…」
涎を垂らしてしまっていた事に気付かない程、もう否定出来ないくらいに翻弄された事を嫌でも自覚させられたヴェロニカの面が耐え難い羞恥に染まり───眦から涙が滲む。
「ふ…っ、くく……此の状況で泣き顔を見せるのは逆効果だ、クリストファー。世の中には女が泣き叫ぶ姿に悦楽を感じる男も存在するのだという事を、覚えて置いた方が良い」
王子らしくない表情で王子らしくない事を平然と言って退けながら、ヴェロニカの目元へと唇を寄せ───滲む涙を嘗め取ると、艶っぽい吐息を一つ落としてから其の身体を起こした。
「……あぁ、確認だけのつもりが思いの外熱くなってしまった」
ヴェロニカの上から不意に離れた重み。サイドテーブルの引き出しを開けては何かを探すオースティンの姿に、安堵するやら何処と無く拍子抜けするやらでぽかんと唇を開け放した儘男の横顔をぼうっと見詰めるヴェロニカの視線を感じとったのか。
「そんな顔をして……物足りないのならば素直にそう言えば良い。『麗しい殿下、私のオースティン様……貴方に抱かれたくて毎夜身体が疼くのです』と。君が望むのならば午後の公務を全てキャンセルしよう」
やや声色を変えて詩の一説でも読み上げる様にそんな事を言い出した上に、再度伸し掛って来ようとするオースティンに呆けていられなくなったヴェロニカは。
「け、結構です───っ!!……っていうか何ですかそれ?!そんな事間違っても言いませんし、そんな事の為にご公務をキャンセルしちゃダメですから!!」
信じられない!と目を剥いて男の腹部を足蹴にする。折角そういう気分でなくなったらしいのにまた迫られてはたまったもんじゃない。
「今朝方私宛に届いた無記名の恋文にそう書いてあったのだが、中々情熱的だろう?其の恋文の差出人がクリストファー、君だと言うのならば遠慮なくその身を差し出」
「間違っても送り付けたり致しませんので安心して下さい、殿下」
またしてもバカな事を言い出す男へ食い気味に、だが丁重に否定をして置けば、彼は渋々ベッドの端へと腰を下ろす。
「はぁ…君は本当につれないな。先程まではあんなにも可愛らしく『止めて殿下…でも止めないで!』などと求めていたものを」
「そ…っ、そんな事言ってませんよね?!」
「私にはそう聞こえた」
「───ッ!!」
最低!頬がかぁっと熱くなるのと同時に唐突に視界がぐるぐると回り、起きているのも辛いくらいの目眩に見舞われた。
「な……に……?」
掠れた声を絞り出すのが精一杯のヴェロニカが寝台へと身体を沈めれば。
「意識だけは妙にハッキリしているだろう。オルグレン副団長、アレの使う毒はそういう物らしくてな」
こんな状態に陥った理由を知っているらしいオースティンが身を乗り出し、動けない彼女の太腿の裂傷を指でつぅとなぞって確認する。ヴェロニカは其れだけの刺激で、先程までの事が鮮明に思い出されてビクリと身を震わせた。
「……っ、ゃ」
「動くな」
短い命令を下されると共にいつの間にか握られていた丸い硝子容器の蓋を外し、其の中身を掬うなり患部へと塗りたくられる。軟膏の様なとろりとした粘液はひやりと冷たく、動くなと言われたばかりなのにヴェロニカの身体は意思と反して大袈裟な程に跳ねた。
「化膿止めだ。応急処置はして置いたから一晩も休めばよくなるだろう」
「……?」
「もう忘れたのか?私が可愛い臣下の為に、あんなにも熱心に傷口から毒を吸い出してやったのを」
意味ありげに艶めいた一瞥をくれるものだから何を言われているのか直ぐには理解できずにいたが。
(え?じゃあさっきのアレは性的な嫌がらせでも躾でも何でも無い、ただの治療だったって事…?!っていうか毒?!あの性悪副団長ってば根っからの悪人なのね!手段を選ばないってこの事だったんだわ。……え、でもちょっと待って。毒を吸い出したって事は殿下だって危険なんじゃないの?!)
事実ともう一つの可能性に気付くや否や、オースティンの腕を掴むヴェロニカ。
「どうした?……感激の余りに口付けの一つでも贈る気になったのか?」
「で、ん…か……は、大、じょ……ぶ、…な……です、か…?」
絞り出した声が掠れて音にならないのがもどかしい。
「大丈夫?あぁ、私には有りと有らゆる毒への耐性があるので心配には及ばない」
だがそんなヴェロニカの心配を相変わらずの察しの良さで汲み取る男に今回ばかりは救われる。
「よ、か……った…」
オースティンはほっと息を吐く彼女の髪へと手を伸ばし。
「ふふ…君が私の心配とはな。可愛らしい所もあるじゃないか」
からかうように言いながら動物を愛でるみたいに珍しい白金の髪を撫でる。
(私だって……心配くらいするわよ)
どの程度の効果がある毒を使われたのか分からないが、普通は誰だって心配するだろう。其れに自分を助けた所為で第二王子が亡くなっただなんて笑えない、なんて恐ろしい想像をしながら、ヴェロニカはもう動く力も無くされるが儘に撫でられ続けていた。
(本当は良い人……なのかしら)
認めたくはないが、我等が殿下は物凄く女たらしで口説き癖があってそういう性癖なだけで、本質的には優しい人なのかも知れない。そうでなければこんなにも温かく優しい手つきで人の頭を撫でたりしないだろう。
応急処置、と言い切ってしまうには余りに卑猥な言葉で攻め立てられたりしたものだが。そして其れを応急処置だと言い切ってしまった男の腹黒さに気付けない程の睡魔が襲って来てしまったヴェロニカには、既に冷静な判断が出来なくなっていた。
「今日は此の儘此処で眠ると良い。……疲れただろう?」
吐息混じりの艶めいた其の声に、今は色気を感じるよりも眠気を誘われ、大人しく瞼を閉じる。
「……んか…あり…が、と……ざ…い、ます…」
助けてくれて。寝床を提供してくれて。優しくしてくれて。色々な感謝の気持ちが綯交ぜとなって、睡魔も相俟ってそう口にした彼女へ『君は純粋過ぎるな』そんな囁きが落ちた気がした。
ヴェロニカは大きな掌に頭を撫でられながら、故郷にいる父、ブライアンと、もう一人の青年をふと思い出す。
(そういえば家族じゃない男性に寝付くまで頭を撫でられるのは、殿下で二人目だわ…)
よく手合わせをしては幼いヴェロニカに負けていた、いや、負けてくれていたのかも知れない。優しくて筋肉バカな七つ年上の幼馴染───。
「……カール……」
寝言の様な呟きが意識せずに唇から零れると同時に、髪を撫でていた手がぴくりと動きを止める。其の事に気付かない儘、ヴェロニカは深い眠りについた。
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