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第28話:宴
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やがて料理が女達の手によって配膳され、次から次へと運ばれる料理にあちこちで歓声が上がる。
出された料理は酒の肴に合うものを中心に用意された。
主賓の前にも当然料理は用意されたが、料理が二人分に対し、用意されたカトラリーは一組だけだった。
「さぁ口を開けて」
穏やかに微笑みながらレイアの口元にスプーンを差し出す。
「ひ、一口だけだからな!」
怒涛の一日だっただけに空腹だった、出されたクッキーもリリアにあげていたので紅茶以外何も口にしていない。
質素なスープが胃にしみ込んでゆく。
「美味しい」
「さぁもう一口」
「うぅ」
危険と隣り合わせの中で硬いパンをまずいワインで流し込むのが日常、ゆっくりと食事をとるなんてここ数年覚えがない。
目の前に並んだ料理は温かく、疲労が酷いレイアにはとても有難い料理だった。
何より、誰かと食事をとるのが嬉しい、自分に向けられる優しさに心の奥が温かくなるのをレイアは感じていた。
大人しく口を開くレイアを優し気に見つめるギルバート、しかし腹の中では「わざとこぼして舐めとるとかしたら怒られるだろうか」などと不届きな事を考えていた。
R指定な思考へ傾きつつあるギルバートと絆されかけているレイアの二人を見つめていたら、にやにやしている刀鬼に気付き膝の上から威嚇された。
「一等席で膝抱っこだけでもあれなのに、その上食べさせてもらうとか、斬新な拷問だなぁ刀鬼さんよぉ」
「開き直ると楽になれるよ~」
止めたら睨まれるだろうから絶対に止めない。
むしろやり返せと言ってみる。友人の幸せのための犠牲になれと暗に笑顔を返せば、やってやらぁとヤケになったレイアが吠えた――瞬間、ギルバートの綺麗な顔が崩れたのは言うまでもない。
今のなし!と首を振るが聞き入れてはもらえなかった。
顔を朱に染め、気絶しそうになりながらも震える手でレイアがギルバートに食べさせている。
どこからどう見てもただのバカップルだ。
むしろ暴走して口移しとか始めないだけ良しとしよう。
「貴女に食べさせていただく料理はどんな美食にも勝りますね」
ふふ、と笑い幸せそうに頬に口づけを落とす。
レイアはすでに瀕死だ。
しかしギルバートがこの上なく幸せそうなので何も問題はない。
妹のリリアといえばテーブルの間を走り回り、お酌をしたり酒を配ったりと忙しそうに働いている。
(下僕体質なのかな、あの子。まぁ――姉の傍に来ないのは、多分おばあちゃん辺りが忠告してくれたのかな)
リリアが姉の傍にいけばレイアの気も自然とそちらに逸れてしまう、今のデロデロ状態のギルバートがそれを許してくれるとは到底思えない。
高貴な種族とは知識では知っていたが、伴侶への執着の強さと嫉妬深さまでは知らなかった。
料理を食べながらうーんと一人首を傾げる。
(仕方がないとは言え、料理が質素だなぁ、お祝いの宴だからもうちょっと盛り上げたい、二人の婚姻と未来が明るいものだと印象付けるためにも)
こっそり黒曜に何か出来る事はないか尋ねてみた。
「肉の丸焼きとかどうか」
「それいいね」
「魔物の肉だが世界が違うからまぁ良いだろう、五つほど出すから焼くのは任せる」
一つ頷いて現れた何かの魔物の肉を火力を最小イメージにして焼いてみたものの、やっぱり多少焦げた部分が出来てしまった。
そのまま豪快に机の上に落とせば、歓声を通り越して咆哮が上がる。普段肉など食べれない層もおり、宴はカオスだった。
ちらりと視線を映せば、レイアが恥を忍んで肉を食べたいとギルバートに強請っている。
食欲が羞恥に勝利したようだ。
「結婚披露宴では持ってるの全部出してもいいかな、これ」
酒と肉をありったけ振舞い、下層にも行き届くようにすれば懐柔は容易いだろう。
滅ぼすのは容易いがかといって魔物だけで国を動かすのも無理がある。
肉と酒に盛り上がる魔物達を見つめながら、どんな国にするのが一番彼らのためになるか考えを巡らせた。
……一応、レイアがギルバートだけを思って過ごせるように、リリアの待遇も憂いのないようにはしておかねばなるまい。
基本教会に仕える身分だったのだから、このままここに入れておくのもありかもしれない。
国母となった姉の幸せを祈る妹、聖女の称号でも与えておけば世間は納得するだろう。
聖女の資質など欠片も持っていないとしても。
出された料理は酒の肴に合うものを中心に用意された。
主賓の前にも当然料理は用意されたが、料理が二人分に対し、用意されたカトラリーは一組だけだった。
「さぁ口を開けて」
穏やかに微笑みながらレイアの口元にスプーンを差し出す。
「ひ、一口だけだからな!」
怒涛の一日だっただけに空腹だった、出されたクッキーもリリアにあげていたので紅茶以外何も口にしていない。
質素なスープが胃にしみ込んでゆく。
「美味しい」
「さぁもう一口」
「うぅ」
危険と隣り合わせの中で硬いパンをまずいワインで流し込むのが日常、ゆっくりと食事をとるなんてここ数年覚えがない。
目の前に並んだ料理は温かく、疲労が酷いレイアにはとても有難い料理だった。
何より、誰かと食事をとるのが嬉しい、自分に向けられる優しさに心の奥が温かくなるのをレイアは感じていた。
大人しく口を開くレイアを優し気に見つめるギルバート、しかし腹の中では「わざとこぼして舐めとるとかしたら怒られるだろうか」などと不届きな事を考えていた。
R指定な思考へ傾きつつあるギルバートと絆されかけているレイアの二人を見つめていたら、にやにやしている刀鬼に気付き膝の上から威嚇された。
「一等席で膝抱っこだけでもあれなのに、その上食べさせてもらうとか、斬新な拷問だなぁ刀鬼さんよぉ」
「開き直ると楽になれるよ~」
止めたら睨まれるだろうから絶対に止めない。
むしろやり返せと言ってみる。友人の幸せのための犠牲になれと暗に笑顔を返せば、やってやらぁとヤケになったレイアが吠えた――瞬間、ギルバートの綺麗な顔が崩れたのは言うまでもない。
今のなし!と首を振るが聞き入れてはもらえなかった。
顔を朱に染め、気絶しそうになりながらも震える手でレイアがギルバートに食べさせている。
どこからどう見てもただのバカップルだ。
むしろ暴走して口移しとか始めないだけ良しとしよう。
「貴女に食べさせていただく料理はどんな美食にも勝りますね」
ふふ、と笑い幸せそうに頬に口づけを落とす。
レイアはすでに瀕死だ。
しかしギルバートがこの上なく幸せそうなので何も問題はない。
妹のリリアといえばテーブルの間を走り回り、お酌をしたり酒を配ったりと忙しそうに働いている。
(下僕体質なのかな、あの子。まぁ――姉の傍に来ないのは、多分おばあちゃん辺りが忠告してくれたのかな)
リリアが姉の傍にいけばレイアの気も自然とそちらに逸れてしまう、今のデロデロ状態のギルバートがそれを許してくれるとは到底思えない。
高貴な種族とは知識では知っていたが、伴侶への執着の強さと嫉妬深さまでは知らなかった。
料理を食べながらうーんと一人首を傾げる。
(仕方がないとは言え、料理が質素だなぁ、お祝いの宴だからもうちょっと盛り上げたい、二人の婚姻と未来が明るいものだと印象付けるためにも)
こっそり黒曜に何か出来る事はないか尋ねてみた。
「肉の丸焼きとかどうか」
「それいいね」
「魔物の肉だが世界が違うからまぁ良いだろう、五つほど出すから焼くのは任せる」
一つ頷いて現れた何かの魔物の肉を火力を最小イメージにして焼いてみたものの、やっぱり多少焦げた部分が出来てしまった。
そのまま豪快に机の上に落とせば、歓声を通り越して咆哮が上がる。普段肉など食べれない層もおり、宴はカオスだった。
ちらりと視線を映せば、レイアが恥を忍んで肉を食べたいとギルバートに強請っている。
食欲が羞恥に勝利したようだ。
「結婚披露宴では持ってるの全部出してもいいかな、これ」
酒と肉をありったけ振舞い、下層にも行き届くようにすれば懐柔は容易いだろう。
滅ぼすのは容易いがかといって魔物だけで国を動かすのも無理がある。
肉と酒に盛り上がる魔物達を見つめながら、どんな国にするのが一番彼らのためになるか考えを巡らせた。
……一応、レイアがギルバートだけを思って過ごせるように、リリアの待遇も憂いのないようにはしておかねばなるまい。
基本教会に仕える身分だったのだから、このままここに入れておくのもありかもしれない。
国母となった姉の幸せを祈る妹、聖女の称号でも与えておけば世間は納得するだろう。
聖女の資質など欠片も持っていないとしても。
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