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吾輩は傭兵である 1-7

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 魔法陣の上に乗り、転移した先は長閑な風景が広がるどこにでもある村だった。
 ちょっとだけ吾輩の生まれ故郷に似ていてホッとする。

「おい、そこのガキ!」
「?」

 いきなり後ろから怒鳴られた。
 振り返るとそこにはいかにもガラの悪い男がいた。
 背丈は高く、筋骨隆々で見るからに強いと分かるが……何だこの男は。

「オークが出没するのに森に行こうとするとはいい度胸じゃねぇか! 親はどこにいる!!」
「ふぇぇぇ!!」
「泣いても許さねぇぞ!オラ、家はどこだ!!」
「びぇぇぇぇん!!」

 あれは注意しているのだろうか、それとも泣かせたいのか、顔と言動が怖くて子供が余計に泣いていますよ。
 周りを見ると何人かの大人が子供に近寄ってあやしているが、泣き止む気配はない。

「うぇぇぇえん!!」
「どちらにしろ村人に話を聞く必要もありますし、泣かせたまま移動しましょう」
「鬼!」
「鬼畜!」
「泣かせたままだと印象悪いっす!」
「ほら、飴ちゃんあげるから泣き止もう?」
「ぐす」

 子供が嫌いなのだろうか、泣かせたまま発言する受付君に冒険者たちが盛大にブーイングし、比較的柔らかい雰囲気を持つ女性冒険者が子供に飴を差し出している。

「ありがとうお姉さん……」
「良い子ねぇ」

 泣き止ませたお姉さまの手腕にみながホッしたのが分かった。
 子供を片腕に乗せたいかついおっさん、無限の包容力であやすお姉さま、傍から見ると夫婦です。

 その後、子供は無事に両親のもとに届けられ、見た目と違って人道的という評価を受けたことにより、村長や村人から好意的な視線を向けられ少しくすぐったい。
 村長から話を聞くのは受付君。

 思うのだが、なぜレイドクエストのたびに受付が一緒に来るのだろうか。
 戦力も過剰気味だし、ギルドの方針がいまだ謎です。

「オークの集落ここから西に行ったところにある森の中らしいです、少し歩きますが、皆さんなるべく気配を消しての行動でお願いします。休憩は必要ですか?」
「とんかつ食べたい、早く行こう」
「森の奥深くという訳でもないんですね」
「焼肉も捨てがたい」
「カレーもいい」

 一部の参加者が料理名ばかり呟いているのはなぜだろうか。
 黙々と山道を歩いてやっと目的地に着くことが出来た。
 
 そこは木で作られた簡易的な柵で囲まれており、入り口らしき場所には見張り役のオークがいる。

「……唐辛子炒め」
「チャーシュー」
「私は肉野菜炒め」
「生姜焼き」
「味噌煮込み」
「豚汁」

 真面目にやれよと思いつつ、先輩たちを見たら目がマジだった。
 魔物を肉としか見ていないだと?

「味噌なんてどこで手に入れるんだよ」
「商業ギルド」
「どうします? 先制攻撃しますか?」
「待て、様子がおかしい」

 リーダーと呼ばれた男が前に出た。
 武器は槍で盾と鎧を装備している。ベテラン冒険者といった感じだ。
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