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フットサルに夢中になります♪
しおりを挟む部室に戻った5人は汗を拭いて着替え始めた。
「その内、シャワー室が欲しいですわね。相原財閥次期党首が汗臭いなんて論外ですわ」
「確かに亜紀ちゃんの言うとおりですの。でも実現は難しいの。どの部活もシャワー室なんてないの」
亜紀のぼやきに柚季が答える。そんな2人に理沙は「早く着替えないと風邪引くぞ」と言いながらベンチの前にホワイトボードを用意した。
着替えながら志保が理沙に質問する。
「理沙、何するの?」
「お前な……昨日一緒にルールを覚えながらポジションとか相談しただろ」
「あっ、そうだったね」
頭をかきながら志保が照れる。他の3人が着替え終わりベンチに座り始めた。
「いいですわよ。で、私はもちろんエースですよね」
優雅にベンチに座り、髪をかき上げながら亜紀が自信満々に理沙に聞いた。
そんな亜紀に理沙は苦笑するしかなかった。
「まあ、聞いてくれ。昨日、私と志保でみんなのポジションを考えてみたんだ」
ホワイトボードにそれぞれの名前を書いていく。
「ゴレイロ(ゴールキーパー)は舞さん、フィクソ(後衛)は志保、アラ(中盤)は柚季ちゃんと私、そしてピヴォ(前衛)は亜紀。一応、理由を簡単に挙げれば、舞さんはハンド部のGKだから当然。んで、サッカー経験者の志保が一番後ろからゲームを作るのと同時に守備の要になってもらう。柚季ちゃんの俊足を生かすには距離が必要だし、ゴール前で敵と張り合うのに亜紀の身体の強さや負けん気は重要だと思う。どうかな?」
みんなの顔色をうかがう理沙。誰1人、反対意見は出なかった。
「いいんじゃありませんか? 私が点を取りまくれば負ける事はないですし」
亜紀が自信満々でそう言うと舞が遠慮しがちに手を上げた。
「昨日、私も帰りにDVDを借りてフットサルの試合を見たんだけど、ゴレイロを含めてポジションが色々変わっていた気がするんだけど」
舞が亜紀とは正反対のように自信無さげに質問する。すると志保が元気よく立ち上がり、
「さすがは舞ちゃん。勉強家だね。私たちもネットで試合を見たんだけど、将来的には色んなポジションが出来ないといけないとは思う。でもまだ初心者だし、とりあえず1つのポジションを出来るようになってから他のポジションも出来るようにする。これが私と理沙が出した結論だよ」
と大きな声で舞に説明した。柚季が納得したように小さく頷いた。
「でも、とりあえず今は基礎をしっかりやろう。今のままじゃ試合にもならない」
「そうね。今のままじゃ練習試合なんてとても組めるレベルじゃないからね」
サッカー経験者の志保の考えを舞が肯定する。
「って訳で、明日から朝練を提案するのであります、部長」
志保が理沙に向かって敬礼しながらそう言った。舞も手を叩きながら
「うん、限られた時間で強くなるには少しでもボールに触る時間が多い方がいい」
と嬉しそうに志保に賛同する。
「えっ……」
「この人たちは脳みそまで筋肉で出来ているのですか?」
(ブルブルブル)
顔を青くした3人が朝練を否定する。しかし、そんな事はお構いなしに志保と舞は勝手に話を進めた。
「朝練か……いいね、志保ちゃん。私もまだまだゴールーキーパーじゃない、ゴレイロだっけ? 未熟だし、足技も磨きたいし、やろうか」
「うん、やろう。んじゃ、朝、授業前に1時間ぐらいやろうか」
「そだね。あっ、でも、これは自由参加にしよう。やりたい人だけ。嫌々練習しても怪我するのがオチだしね」
そう言って2人で盛り上がったあと、他の3人を見回した。
(ほっ、助かった)
理沙が心の底から安心する。亜紀と柚季も同じように大きなため息をついた。
だが、安心していた3人に志保が悪魔のように囁いた。
「舞ちゃんは元々ハンド部で運動神経が良いのはお墨付きだから、朝練までしたらフットサルのエースになっちゃうかもね」
明るく裏表の無いような声で志保がそう言ったが、理沙にはその言葉の裏が読めていた。
理沙は横に座っている亜紀の顔をチラ見する。すると、亜紀の表情が次第に曇っていくのが明らかに読み取れた。
(やばい、このままだと志保の術中にハマる)
しかし、理沙の口を開くタイミングを読んだかのように志保が邪魔をした。
「どんどん、上手くなって舞ちゃんがエースになっちゃったりして」
「言いすぎだよ、志保ちゃん。でも、今日から帰ったら自主練でリフティングもやるよ」
「本当に? リフティングはトラップとかも上手くなるしね。舞ちゃんほどの運動神経ならすぐ出来るようになる。もしかしてゴレイロからピヴォに転向もありえるかも」
3人をそっちのけで志保と舞が盛り上がる。理沙がもう1度亜紀をチラ見すると、明らかに対抗心から出てくる怒りが見える。肩を震わせ、少しずつ顔が赤くなっていた。
(あ~もう、こりゃ手遅れだ。まんまと志保の術中にはまった。志保は天然でこういう事がやれるから怖いんだよな)
ため息を1つ付き、亜紀の爆発を素直に待つと、その時はすぐにやってきた。
「何を言っているのです、志保さん。エースはこの私ですわ。このポジション、エースの座は誰にも渡しませんわ」
「え~、でも、舞さんが得点を取れるぐらい上手くなったらしょうがないでしょ」
「ふん、私も朝練に参加しますわ。もちろん、自主練もします。舞さんばっかり、良い格好させませんわ」
「やった~、亜紀ちゃんも朝練参加だね」
「もちろんですわ。柚季さんも参加しますわよね?」
そう言って亜紀は柚季に会話を振ると「僕は遠慮しておくの」と無表情のまま首を振り、朝練参加を拒否する。
しかし、亜紀はニヤリと笑って
「私のプライベート写真を3枚でどうですか? 中学時代、男子生徒が私を隠し撮りした写真を押収した物を3枚。レア物ですわよ」
そう言って携帯の画像を見せ、柚季の反応を待った。
「朝練、何時からですの?」
(折れるのが早すぎだよ、柚季ちゃん)
両手両膝を突いてがっくりうなだれる理沙の姿がそこにはあった。そんな理沙を見た志保は
「部員、全員が朝練をするのに部長が参加しないわけ、ないよね~」
と悪魔のような顔で理沙に迫ってくる。それに続き、他のメンバーも同じように迫ってきた。
「当然だよね。理沙ちゃんは部長だもんね」
「当たり前ですわ。私のライバルなのに参加しないなんてありえないですわ」
「朝練に参加しないと、隠し撮りの写真を校内新聞に貼り付けるの」
じりじり迫ってくる4人に対して後ずさりする理沙。
「分かった、分かったから~。朝練、私も参加する。すればいいんでしょ~」
昨日は志保の悲鳴が部室に鳴り響いたが、今日は理沙の悲鳴が鳴り響いた。
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