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しおりを挟む「ジェローム様!召し上がって下さい!」
「ジェローム様、こちらもどうぞ!」
「ジェローム様、このサンドイッチは私が…」
ファンダムの子たちがジェロームを囲み、自分の作った物を食べさせようと躍起になっている。
「皆さん、お一口ずつになさって下さいね、ジェローム様がお腹を壊されますわ!」
「お並びになって!」
ドロシアとジャネットが仕切っているので、大丈夫そうだ。
それに、ジェロームは優しいので、全員分食べてくれるだろう。
「パトリック、これ…
アラベラ様と姉に教えて貰って作ったお弁当なの…」
クララがバスケットを開け、パトリックに向けた。
パトリックの目は輝き、その頬はほんのりと赤い。
「クララが作ったの?美味しそうだね、食べていい?」
「うん、パトリックの好きな、ハムとチーズのサンドイッチもあるの…」
「僕の好きな物、覚えていてくれたの?」
「うん、忘れないわ…」
クララとパトリックは、すっかり二人の世界に入り、一緒にお弁当を食べている。
「なー、ドレイパー、俺の弁当は?」
ブランドンが催促するので、わたしは大きなバスケットを渡してあげた。
「はい!ブランドンには特大弁当よ!
ハンナとわたしで作ったのよ、感謝して食べなさい!」
「おお!サンキュー!お姉さんもマジ、感謝っす!」
ブランドンはバスケットを開け、「おお!すげー!」と目を輝かせた。
早速、肉厚のサンドイッチを掴み、齧りついている。
ボリュームを出す為、ブランドン用のサンドイッチのパンは、通常よりも厚切りにしているし、
具も大き目だ。普通だと食べ辛いと思うかもしれないが、
彼の頑丈な顎と歯があれば、楽勝だろう。
「美味い!これ、中身ハンバーグか!?こんなん、初めて食った!めっちゃ美味いじゃん!」
好評の様だ。
「考えたのはわたしだけど、ハンバーグを焼いたのはハンナよ」
「このハンバーグ、すげー肉厚で、マジ、美味いっす!お姉さん天才!」
「わたしの事も褒めなさいよ」
「おまえ、何したんだよ?」
「考えたって言ったでしょう、ハンバーグも、チーズを重ねたのも、わたしのアイデアよ!」
前世のハンバーガーが元だけどね!
「へー!やるじゃん!」
「ボリュームを増す為に、二人で色々工夫したんだから!」
「おお、サンキュー!けど、美味過ぎて、直ぐに無くなっちまうぜ」
わたしはハンナに向け、「やれやれ」と頭を振った。
ハンナはにこにこと笑っていた。
わたしとハンナは、ブランドンの見事な食べっぷりを前に、バスケットを開き、二人で食べた。
中身は、ブランドンの弁当とほぼ一緒で、余り物とも言える。
勿論、ボリュームは減らしているが。
「本当!ハンバーグ美味しい!」
「だろー!」
「アラベラ様のセンスは素晴らしいです、クリームコロッケをサンドイッチになさるなんて…」
「ふふふ、美味しいでしょう?」
「はい、とっても!それに、ソースもとても美味しい…」
「ニャー!」
黒猫が、『自分の事を忘れるな』とばかりに鳴き、
わたしの膝の上で、食べ物を強請った。
「ふふ、ごめんなさい、あなたもお腹が空いているわよね?
ハンバーグにする?コロッケにする?」
「ニャーニャー!」
どちらも欲しそうだ。
わたしがハンバーグのサンドイッチを少し千切り、皿に乗せ、フォークで崩してやると、
黒猫は瞬く間に、ペロリと平らげた。
「あなた、ブランドンと良い勝負ね!お腹を壊さない様にしてよ?」
「ニャー!」
大丈夫そうなので、わたしは更にサンドイッチを千切ってあげた。
食事の後、クララとパトリックは、二人で散歩に出た。
ブランドンとジェローム、ファンダムの子たちは、ボール遊びを始めた。
わたしはハンナを誘い、黒猫を連れて、近くを散策した。
「綺麗な所ね!」
「はい」
「ハンナの家は遠いの?」
「はい、王都からだと、馬車で二日は掛かります」
ハンナは妹が学園に入ると思い、三年前に伯爵家の侍女になり、
一年後、推薦を貰って、学園寮の侍女になったのだった。
最初は寮全般の侍女をしていたが、わたしの侍女が辞めていった為、
巡り巡って、ハンナに回って来たのだ。
「あなたにも、散々迷惑を掛けてきたわね、ハンナ」
「最初は恐ろしかったです、でも、アラベラ様は変わられました。
今では、アラベラ様以上の主人は考えられません。
アラベラ様の侍女になれて、幸せです___」
それは、心からの言葉だったのだろう、胸に沁みた。
「ありがとう、ハンナ、わたしも、あなたが侍女で良かったわ」
侍女でなければ、出会う事も無かった。
《悪役令嬢》であるわたしが、クララと友達になれたのも、奇跡だ。
ゲームでは、わたしはパトリックやブランドンと敵対関係にあるのだから。
できれば、もっと、一緒に居たかった…
「アラベラ様?どうかなさったのですか?」
「ううん、何でもないの!皆の所に戻って、ボール遊びに混ざりましょう!」
わたしはハンナの手を掴み、走り出す。
黒猫もピョンピョンと跳ね、付いて来た。
「わたしたちも混ぜて!」
「おー入れ入れ!」
皆で輪になって、ボールを投げ合った。
皆がボールに夢中になっているのを見計らい、わたしはこっそりと輪を抜け出した。
なるべく、体勢を低くして歩く。
黒猫には気付かれたらしく、いつの間にか、わたしの隣に並んでいた。
わたしは、「しっ」と、指を立てて見せる。
黒猫が騒ぐ訳ではない、仲間同士の印の様なものだ。
わたしは皆から離れた所で蹲り、魔力を集中させた。
皆に虹を見せてあげたい。
今日の天気は晴天で、雲もあまり見えない。
雨の降る確率は、きっと、0%ね!
雨が降らないなら、降らせばいいのよ!
「ああ、あなたは避けていてね、濡れるのは嫌いでしょう?」
わたしは黒猫に言い聞かせると、顔を上げ、両手を空に翳した。
「行くわよ!魔力全開!大噴水発射!!」
それは勢い良く空へと噴き上がり、弧を描いた。
皆がそれに気付き、騒ぎ出す。
「あ!あれを見て!」
「雨だわ!」
「雨です!」
「雨だって?」
「ああ!虹よ!!」
わたしは、もう一息!と魔力を込めた。
「おい!おまえだな!ドレイパー!」
ブランドンが気付き、ズカズカと歩いて来た。
相変らず、デリカシーの無い男だ。
「もう!気付かない振りしなさいよ!気が利かないわね!」
「馬鹿!気が利くから来てやったんだろ」
「どういう意味?」
「俺が代わってやるから、おまえも皆と虹を見て来いよ」
ブランドンが顎で指す。
後ろから、ハンナが迎えに来てくれていた。
「ありがとう…それじゃ、任せるわ、頑張ってね」
わたしが立ち上がると、黒猫がわたしの肩に乗ってきた。
「アラベラ様、綺麗な虹を見せて下さって、ありがとうございます」
「いいのよ、クララとパトリックは戻って来てた?」
「はい、二人で見ていました」
「それなら良かったわ、ハンナもいつか大切な人が出来たら、来るといいわ」
皆の所へ戻ると、皆が迎えてくれた。
「アラベラ様よ!」
「アラベラ様だわ!」
「アラベラ様!ありがとうございます!」
「虹を見せて下さるなんて、アラベラ様は凄いわ!」
「私たち、考えもしませんでしたもの!」
ファンダムの子たち、ドロシアとジャネット…
「お疲れ様、良い思い付きだね、君には驚かされるよ」
ジェロームからはウインク付きだ。
わたしも「どういたしまして」と、慣れないウインクを返した。
「アラベラ様!」
クララがわたしに抱き着いて来た。
黒猫は驚いたのか、わたしの頭に飛び乗った。
「クララ、虹は見れた?」
「はい!ありがとうございます!こんな事までして下さるなんて…感動して…」
「良かったわ、でも、あまり抱き着くと、パトリックに妬かれてしまうわ」
「僕は妬いたりしないよ!」
「あら、そう?それじゃ、もう少し抱き合っていようかしら?クララは抱き心地も良いし…」
「妬かないけど、やり過ぎだと忠告しておくよ!」
わたしとクララは顔を見合わせて笑った。
それから、皆と一緒に、ブランドンが作り出した虹を見た。
小さな虹
だけど、絶対に、忘れないわ…
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