【完結】やり直し令嬢は義弟の復讐を回避したい

白雨 音

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本編


その日は馬車の調子が悪く、夜会の会場に着いたのは、かなり遅くなってからだった。
ルシアンと並び会場に入ると、軽やかな演奏が聞こえ、多くの人たちがダンスを楽しんでいた。
ルシアンとわたしの間に会話は無く、ルシアンは直ぐに知り合いに声を掛けに行った。中肉中背の男性、そしてコレットの姿がを見て、わたしは咄嗟に目を反らした。
自分でも理由は分からなかった。
ルシアンへの罪悪感なのか、想い合っていてもこれ以上の関係に発達しないであろう、コレットへの申し訳なさなのか…

わたしは息を吐き、ハワードを探した。
今夜ハワードが来る事は手紙で知っていたが、彼の姿を見付ける事は出来なかった。それに、アリアナの姿も無い…
わたしは何処か胸騒ぎを覚え、テラスを覗いて周り、それでも見つけられず、庭に降りていた。

高い笑い声が聞こえ、わたしは耳を澄ませ方向を辿った。

「あーあ、オフェリーが来なくて残念!」

自分の名にドキリとする。
ベンチに男女の姿があり、背後からではあるが、ハワードとアリアナだと分かった。
わたしは足音を忍ばせ、近付くと、樹の後ろから二人を観察した。

本当に、わたしが来ないのを残念に思ってくれていたら…
アリアナとの友情は継続出来る気がしたが、それは簡単に打ち破られた。

「オフェリーがいなきゃ、つまんないわ!このネックレス、見せたかったのに!」
「機会は幾らでもあるさ」
「そうね~、でも、ハワードの贈り物だなんて、オフェリーは気付かないでしょうね、あなたの瞳の色なのに!」
「彼女は鈍いからなー、言ってやらなきゃ分からないよ」
「私たちの事も、ちっとも気付かないしね!
いつも『ハワードは自分のもの』って顔して、ハワードに愛されてないってのに、笑っちゃうわ!」
「ああ、僕が愛してるのはアリアナだけさ、大体、オフェリーは真面目過ぎてつまんないよ」
「分かるわー、あの子、学校でも友達いなかったし、私以外友達いないんじゃないかなー」
「オフェリーは気が利かな過ぎなんだよ、男を褒めるって事を知らない、男心が分からないんだ。
それに比べて、アリアナは明るいし、可愛いし、良く気が付くし、ああ、婚約者が君なら良かったのになー」
「オフェリーって、センス悪過ぎでしょ?ドレスも化粧も悪趣味で、隣にいるハワードが恥を掻くのに!」
「まぁ、僕の洗練さが引き立つから許すさ」
「ハワードってば、優しいんだから~」

本当に、わたしは鈍いのね…
ハワードとアリアナが自分をこんな風に思っていたなんて、想像もしていなかった。
ハワードの事は好青年だと思っていた、だが、その優しさは上辺だけのものだったらしい。
わたしは学校時代、それなりに友達はいたが、アリアナ程一緒に過ごす友人はいなかった。それは卒業した今も同じだ。
アリアナの事は好きだったが、自分は好かれてはいなかった、それ処か、馬鹿にされていたと知り、ショックは大きかった。

こんなにも早くから、二人は愛し合っていたのね…
ハワードはわたしと婚約しなければ、アリアナと婚約していたのだろう。
お邪魔虫はわたしの方だった、きっと、母が無理を言って婚約をねじ込んだのだ…
全てが虚しくなり、わたしはその場を後にした。

会場に戻る気にもなれず、わたしは馬車の内でルシアンが来るのを待つ事にした。

盗み聞いた事は忘れてしまいたい。
聞くべきではなかった、知らなければ、笑っていられたのだ。
前回は、結婚式の三ヵ月前になっても、全く気付いていなかった。自分だけが夢の世界にいたみたいに、幸せだった。

だけど、きっと、いつかは気付く。

それを思えば、早く知っておいた方が傷は浅いかもしれない。
現に、ハワードとアリアナが想い合っている事自体は、然程ショックでは無かった。
わたしの胸を痛くするのは、ハワードとアリアナの本心だ。

「わたしは愛されない…!」

父には愛されず、母には愛されたくて機嫌を伺う、そんな人間だ。
婚約者も親友も、上辺だけだった。
わたしを真に愛してくれる人なんていない___!

「ふふ…あはは!」

今思えば、前回ルシアンがわたしを修道院に入れたのは、正しかった。
修道院での生活は厳しいものだったが、それでもわたしの心は穏やかでいられた。
修道院だけが、ありのままのわたしを優しく受け入れてくれたからだ。
だから、時間が戻っても、教会から離れられなかったのだろう。


「義姉上」

声を掛けられ、意識が戻った。
いつの間にか眠っていた様だ。

「水です」

差し出されたグラスを反射的に受け取ったが、それは今わたしが欲していたもので、喉を気持ち良く流れていった。
空になったグラスを白い手袋の手が攫って行き、代わりにハンカチを渡された。いつかと同じく、それは濡らされており、ひんやりとして気持ちが良かった。
ルシアンは何も聞かない、近くの従者にグラスを渡すと馬車に乗り、出発を促した。

「気持ちいい…
ルシアン、何故、分かるの?」

わたしが落ち込んでいるのが分かるみたいだ。

「義姉上は婚約者を探していましたけど、会えた様子は無く、会場に戻って来ませんでした。
義姉上の婚約者が義姉上の友人の令嬢を伴って戻って来たので、察しただけです」

「ふふ…」

思わず笑ってしまった。

「おかしいでしょう?ルシアンでも気付くのに、わたしは全く気付かなかったのよ?
婚約者と親友の事なのに、いいえ、親友でも無かったみたい…
わたしは凄く鈍いそうよ、それに、気遣いが出来なくて、男を喜ばせる手札を持っていなくて、その上、ドレスと化粧のセンスが悪いんですって」

「慰めが欲しいんですか?」

素っ気ない声に、わたしは恥ずかしくなった。

「ええ、きっと、そうね…」

誰かに否定して貰えなければ、自分を保てなくなってしまう。自分の存在事、消したくなってしまうから…

「義姉上は鈍いですよ、純粋過ぎる所為でしょう、それは人を傷つけるものでもありますが、人を救うものでもある。
義姉上のそういう所を好のましいという男もいるでしょう」

「シスターみたいな事を言うのね」

思った通りに言うと、ルシアンが顔を顰めたのが分かった。

「ドレスと化粧のセンスは悪いかしら?」
「僕は女性ではないので、センスなんか分かりませんよ」
「そうね、ありがとう、慰めになったわ」

ルシアンがわたしを横目でチラリと見た。

「婚約破棄したいのなら、手を貸しますよ」

手を貸す?
もしかすると、前回、ルシアンが独断で婚約破棄したのは、わたしへの復讐では無く、《わたしの為》だったのだろうか?
変に胸が熱くなってきた。

「ありがとう、お父様は何もおっしゃらないでしょうけど、お母様は反対するかもしれないわ…」

ハワードとの婚約は母の望みだった。
だが、結婚生活が破綻している母なら、わたしの立場も分かってくれるのでは?とも思う。
前回は父が亡くなった後だし、母は辺境の地に行かされた後で、状況は違っているので、婚約破棄は難しいかもしれない。

「少し、考えてみるわ…」

「ハワードを愛しているんですか?」

わたしは頭を振った。

「《結婚》に、未練があるのかもしれないわ…」

思い描いた結婚、彼との未来、それを突然、ぐしゃぐしゃにされた。
その事に未練はあるが、相手が『ハワードでなくてはいけない』とは思わない。

「婚約破棄をすれば、悪評は免れないわ、社交界での評判は落ち、良縁は望めなくなる…
年の離れた老人の後妻にされるかもしれない…」

ドブロイ伯爵とかね。
そうなれば、修道院に駆け込むけど…

「愛は無いが、裕福な暮らしが望みですか?
まるで、あなたの母親みたいですね」

その皮肉は的を得ていた。
『政略結婚の夫から愛されなかった妻』、まさしくわたしの母だ。
母は父の愛を欲していた、結婚当時の母は、それこそ父の気を惹こうとしていただろう、それが決定的に砕け散ったのは、ルシアンが引き取られて来た日だ。
父は自分が如何に他の女性を愛しているかを語り、その女性の忘れ形見である息子を跡取りにすると、恥ずかし気もなく宣言した。
目を爛々とさせる父に、母も思い知ったのだ、父にとって自分たちがどれだけ価値の無い人間かを。
以来、母は自棄になり、父の財産を使い、好きな物を手に入れ、自分の欲求を満たす事に専念した。

「僕なら、あなたの望みを叶えられます」

え?
目を上げたが、ルシアンは顔を背けており、綺麗な項が目に入っただけだった。

ガタガタ…
暗い夜の道を、揺れながら馬車が進む。

すっかり、落ち込んでいた気持ちは消えていた。

不思議な夜…

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