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本編
12 アリアナ/オフェリー
◆◆ アリアナ ◆◆
トンプソン男爵家のテラスには、テーブルにケーキスタンドが用意され、茶会が始まるのを今か今かと待っている。
テーブルに着いたアリアナは、紅茶を一口飲むと、息を吐いた。
「ああ、退屈ね…」
アリアナは開かれる事の無い茶会だと知っている。
だが、小さな綻びで全てが露見する事もある為、演じているのだ。
「疑われたら面倒だもん」
茶会の時間が過ぎるまで待ち、部屋に引き上げようとした時だ、思わぬ来訪者があった。
ダントリク伯爵代理の代理と名乗り、トンプソン男爵、男爵夫人、そしてアリアナを呼び付けた。
オフェリーを襲い、ハワードが口止めを条件に結婚を迫る___この計画で、アリアナが表に出る事は無い。
故に、ダントリク伯爵家の者が来るとすれば、《茶会》の件だろう。だが、それならば、伯爵代理の代理が来る程の事ではない。
アリアナは嫌な予感がした。
まさか、失敗したの??あの計画では失敗の仕様も無いというのに…
「アリアナ嬢はベラミー伯爵子息ハワード様と結託し、オフェリー様を暴漢に襲わせようとされました。
雇われた者たちから、雇主がアリアナ嬢である事は聞いております。
ハワード様から詳細を伺っておりますので、余計な言い訳はなさらぬ様に___」
ハワード!!
あいつが私を売ったのね!?
ハワードは両親から厳しく金の管理をされていた為、アリアナが金を出し、賊を雇う事になったのだが、それが間違いだった!
まさか、賊が前金を受け取っておいて、裏切るとは思わなかった。
いや、違う!最初から、全て気付かれていたのだ___!!
アリアナは愕然となった。
「慰謝料ですが…」
見せられた額に、母は悲鳴を上げ、父はガクリと肩を落とした。
「男爵家では払えないという事でしたら、ご提案があります。
アリアナ嬢を勘当、領地からの追放、僻地にて労働従事、以後、ダントリク伯爵家の者との接触を禁ずる。
この条件を飲んで頂けるのであれば、慰謝料は免除、口止めも致しますが、いかがでしょう?」
アリアナアはカッとなり、叫んだ。
「嫌よ!私は何もしていないわ!全てハワードがやった事よ!
それに、オフェリーは無事なんでしょう?それって、何も無かったのと同じじゃない!これじゃ、罰が重過ぎるわ!」
「それでは、男爵家は慰謝料を払うという事ですね、勿論、口止めは致しません。
広く今回の事が知られれば、アリアナ嬢は批難されるでしょう、家から出られなくなるかもしれませんが、仕方ありませんね。
男爵家は名を落とし、社交界にも出られなくなりますが、没落は決定ではありません。
男爵が上手く乗り切るのを祈ります___」
「お、お待ち下さい!条件は全て飲みます、ダントリク伯爵の意のままに…」
「お父様!私がどうなってもいいの!?」
「自業自得だ!ここまで愚かだったとは…甘やかし過ぎたな…」
「アリアナ、言う通りになさい、私たちだけの事じゃないのよ、兄弟がどうなるか考え無かったの?」
「私、そんなに酷い事してないじゃない!オフェリーは親友なのよ!オフェリーに言えば…」
「接触は禁止されています、それでは、速やかにご用意下さい」
「用意?」
「手ぶらで僻地に行きたいのでしたら、止めませんが」
アリアナがあまりに騒ぐので、布で口を塞がれた。
彼女は荷物の様に荷馬車に放り込まれ、男爵家を出されたのだった。
◇◇ オフェリー ◇◇
昼近くになり、トンプソン男爵家から茶会中止の連絡が来た。
アリアナに会う事を懸念していたし、父の意向に反する為、中止になり安堵した。
だが、中止の理由が『遠方の親戚の家で手伝いをする事になり、出発した』というので驚いた。
「急なのね…親戚の方が急病なのかしら?」
喜んでしまって悪い気がした。
わたしはアリアナに応援の手紙と刺繍入りのハンカチを送った。
それから一月が経った頃、社交界で『ハワードが家を出て遠くへ行った』と噂になった。
アリアナの事もあり、『二人は駆け落ちしたのではないか?』という噂もあった。
そこまで愛し合っていたのね…
ハワードに復縁を迫られた事があったので、少し不思議に思ったが、男女の仲というのはそういうものかもしれないと納得した。
「オフェリー、どうしたんですか?」
手袋の手に、そっと腕を引かれた。耳元に息が掛かり、「はっ」としてしまう。
パーティや人がいる処では、ルシアンは《良き婚約者》を頑張って演じている。
その優し気な瞳と笑みに、誤解してしまいそうになる程だ。
「ハワード様とアリアナの噂を聞いたの」
ルシアンの目がスッと細くなり、周囲の気温が下がった様に感じられた。
「それで、あなたはどう思ったんです?」
前回、二人は結婚するという話を、他でもないルシアンから聞かされた。
それを考えるなら、駆け落ちをしたとも思えるが…
「少し不可解かしら?
愛し合っていたら一緒になると思うけど、どうして、駆け落ちなのかしら?駆け落ちしなくても結婚は出来るでしょう?
それに、ハワード様もアリアナも、駆け落ちにロマンスを感じるタイプでは無いと思うの」
「ふぅん、中々鋭いですね…
ダントリク伯爵家との付き合いを禁じられた事もあり、周辺の貴族たちとは交流が難しいでしょうから、遠方へ行ったのではありませんか?
やり直すには、自分たちを知らない場所に行くのが良いでしょう」
《やり直し》
前回のルシアンは、わたしにその機会を与えてくれたのだろうか?
復讐であれば、ドブロイ伯爵に嫁がせるのが正解だ。
誰も自分を知らない、そんな場所でやり直せと…
自分を反省し、改めても、後悔は消えなかったけど…
「彼等の事は、心配しなくても大丈夫ですよ」
ルシアンがそっと、頬にキスをした。
「!!」
《不意打ち》の提案はわたしからだったのに、いつでもわたしの方が《不意打ち》されている。
わたしは悔し紛れ…照れ隠し?で、背伸びをし、ルシアンの顎にキスをした。
「!?」
ルシアンが青灰色の瞳を丸くし、真っ赤になった。
ふふっ、成功だ!
わたしは「踊りましょう!」とルシアンの手を引いた。
もし、ルシアンがわたしを許してくれるなら、わたしを嫌いでなければ…
触れられなくても構わない、抱かれなくても構わない。
ただ、一緒にいて、愛してくれるなら、それだけでいい。
二人が本物になれたら、どんなに良いだろう。
今は、夢の終わりが来ない事を、只管に願っている
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