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本編
14 オフェリー/アベラ
母は父の葬儀の手配や準備を家令に任せ、自分は何処かへ出かけて行った。
わたしは家令を手伝おうとしたが、「私たちにお任せ下さい」と断られてしまった。
仕方なく父の部屋へ行き、傍にいる事にした。
父からは愛されていなかったし、わたしも父を愛する事は止めてしまった。
ルシアンにした事は、この先も許せないだろう。
それでも、《愛》以外は、十分に与えて貰った、その恩がある___
「娘の務めだわ」
最後の…
◇
その夜、母の指示で、普段は使う事の無い食堂での晩餐となった。
わたしは喪に服す意味で黒いドレスだったが、母は全く意識しなかったのか、鮮やかなワインレッドのドレスを纏っていた。
その上、わたしを見て目を眇めた。
「オフェリー!こんな日に、何て地味な恰好をしているの!」
「お父様が亡くなった日だわ」
「ああ、そうね、まぁいいわ、それより紹介するわね、新しいあなたの婚約者よ」
母がわたしの向かいに座る、金髪の青年を促した。
「ローレンス=マイヤー男爵子息です、お初にお目に掛かります。
お噂通り、可愛らしいご令嬢ですね」
ローレンスは大きな笑みを見せた。
甘いマスクで、さぞ女性に人気があるだろう、彼からはそんな自信が伺えた。
「わたしの婚約者はルシアンです、彼以外には考えられません」
「オフェリー!勝手は許しませんよ!伯爵家に生まれたなら、主人に従いなさい!」
「ルシアンは伯爵であるお父様が決めた相手です」
「フン、亡くなったからには、私が主人よ」
「お父様はルシアンに家督を譲ると決めていたわ!遺言状にもそう書いてある筈よ!」
わたしは《遺言状》の存在を思い出した。
そうだわ!あの父が手を打っていないなんて思えない。
ルシアンも直ぐに片付くと言っていた、あれは、こういう事?
きっと、葬儀の後、遺言状が読まれる時、ルシアンは帰って来る___
わたしはその考えに希望を持ったが、母は大きく笑った。
「お馬鹿さんね、遺言状の内容ならとっくに知っているわよ、ええ、ちゃんと書かれていたわよ、
『家督はオフェリーの夫に譲る』とね、つまり、ルシアンは指名されていないのよ」
ああ、どうして、名を記してくれなかったの!?
父はこんなに早く自分が亡くなるとは思っていなかったのね…
それにしても、これではルシアンに不利だ___
わたしに出来る事は…
わたしは席を立ち、大きな声で宣言した。
「わたしは、この方とは結婚しません!」
「オフェリー!何て失礼なの!我儘は許しませんよ!あなたにはローレンスと結婚して貰います」
母の言葉を遮る様に、わたしは食堂の扉を音を立てて閉めた。
時間稼ぎにしかならないかもしれないけど…
ああ、ルシアン、どうか早く帰って来て!
ローレンスの事は気にも留めていなかった。
ハワードと一緒で、母に強引に結婚相手に決められ、連れて来られただけで、わたし自身に興味があるとは思わなかった。
わたしの夫になれば、伯爵になれる___その事を失念していた。
夜になり、寝支度を済ませた頃、扉が叩かれた。
「お疲れの様なので、ホットワインをお持ちしました」
メイドが気を遣ってくれたのだろうと、わたしは扉を開けた。だが、そこに立っていたのはローレンスで、わたしは小さく悲鳴を上げた。
ローレンスは気にする事なく、わたしの脇を通り部屋に入って来た。
「出て行って下さい!」
「毛を逆立てた猫みたいで可愛いね、怖がらなくても、これを飲んだら帰るよ」
ローレンスがテーブルにカップを二つ置く。
わたしは急いで上着を羽織った。
「飲んだら出て行くんですね?」
「私としては、未来の夫婦として仲を深めたいんだけどね」
ローレンスは自分の魅力を知っているのだろう、愛嬌たっぷりに笑う。
だけど、わたしには、たまに見れる心からの笑みの方が、何百倍も魅力的に思える。
「あなたと仲を深める気はありません、わたしには心に決めた人がいるんです」
「それは貴族的じゃないね、素敵だとは思うけど…ほら、飲んで」
わたしは早く出て行って貰おうと、一気にそれを飲み干した。
「わ~、凄いねぇ、良い飲みっぷり!私の分も飲んだら、帰ってあげる」
「直ぐに、帰って下さいね…」
カップに手を伸ばしたが、掴む事は出来なかった。
視界が揺れ、二重、三重に見える…揺れているのは、頭かもしれない。
ああ、駄目…
意識が遠く、力が入らない。
わたしは成す術もなく、その場に倒れたのだった。
目を覚ますと、明るく朝だと分かった。
わたしはいつも通り、ベッドに入っていた。だが、上着を羽織ったままで、昨夜の事が夢では無かった事を教えてくれた。
ローレンスが運んでくれたのだろうか?
ホットワインのアルコールが強く、酔ってしまったのか…?
ローレンスに謝らなくては…と思うも、気乗りがしなかった。
「オフェリー様、朝食をお持ちしました」
メイドがいつも通り、朝食を運んで来た。
「ありがとう」
「オフェリー様はお聞きになりましたか?
昨夜、館に盗人が入り、マイヤー男爵子息が鉢合わせて怪我をなさったそうですよ」
「まぁ、怪我は大丈夫なの?」
「たんこぶ程度と聞いています、一日、二日はベッドで寝ていないといけないとか。
でも、後頭部だから、うつ伏せ寝なんですよ、大変ですよねー」
あの後でそんな事になっていたとは思わなかった。
お見舞いは…控えておこう。変に期待させる訳にはいかない。
「使用人たちが来て、盗人は逃げて行ったそうなので、安心して下さい」
「そう、良かったわ」
わたしは朝食を終え、刺繍の道具を持ち、父の部屋へ向かった。
◆◆ アベラ ◆◆
アベラは夜、ローレンスの部屋を訪ねたが、部屋はもぬけの殻だった。
暫く待っていた所、使用人たちがローレンスを抱えて入って来た。
あまりに驚いた為、アベラは隠れもせずにローレンスに飛びついた。
「ローレンスはどうしたの!どうして気を失っているの!?誰が彼を傷つけたのか言いなさい!!」
アベラの剣幕に、使用人たちは困惑した様に顔を見合わせていた。
「それが、廊下に倒れていたんです」
「見つけた時にはもう…運んで来ましたが、主治医を呼びましょうか?」
「当然でしょう!さっさと呼びなさい!」
程なくして来た主治医が気付け薬を使い、ローレンスは意識を取り戻した。
「急に後頭部を殴られたんだよ!館の者がやったに決まってる!取り調べて下さい!」
「ええ、任せて頂戴、それで、あなたは何処にいて、何をしていてやられたの?」
詳しく経緯を聞こうとしたが、突然、ローレンスは口籠った。
「いや…勘違いかな?気を失って、その前後が思い出せない…」
「ローレンス、しっかり思い出して!あなたにこんな真似をするなんて、即刻追い出してやるわ!」
「ああ!盗人なんだよ、鉢合わせて…相手も驚いていたから、逃げたんじゃないかな」
話はそれで終わったが、ローレンスは思いの外深手で、二日間、ベッドで寝ている様にと主治医に言われた。
後頭部の怪我なので、うつ伏せになるしかなく、不便な生活を余儀なくされた。
アベラは気の毒なローレンスに付き、世話をする事にした。
「あの奥様が、あんなに甲斐甲斐しくなさるなんて、あたしゃ信じられませんよ」
「オフェリー様の婚約者にするって話だけど…」
「あれじゃ、奥様のお相手にしか見えませんね!」
「それにしても、旦那様が亡くなったばかりで…」
「あら、気付かない?あれはかなり長い付き合いよ…」
使用人たちの間で、そんな風に噂になっているとは知らず、アベラは『恋人の看病をする』という状況を楽しんでいた。
◆
葬儀の日、アベラは黒いドレスに着替え、正装をしたローレンスのエスコートで玄関に向かった。
階段を降りた所で、メイドに「皆様がホールでお待ちです」と言われ、二人はホールに入った。
ホールの真中に棺桶が置かれ、アベラは困惑した。
「どういう事なの!家令!葬儀の手配を忘れたんじゃないでしょうね!
人が集まるまで時間が無いのよ!」
脇に控えていた家令は無言で頭を下げている。
アベラが更に怒鳴り付けていると、扉が開き、オフェリーが入って来た。
「お母様?これは一体…」
オフェリーも棺桶を見て困惑している。
「知らないわよ!家令に任せていたんですから!
私の顔に泥を塗りたいなら、成功ね!だけど、今直ぐ、おまえは首よ!!」
「お集まりの様ですね、それでは、始めましょうか___」
そう言いながら入って来たのは、銀髪の美少年、ルシアンだった___
「ここで何をしているの!!」
アベラは思わず叫んだ。
それも仕方ないだろう、相手は自分が追い出した男なのだから。
ルシアンは今日が葬儀というのを知っているらしい、正装だ。屋敷の誰かと通じていたと気付き、アベラは舌打ちした。
裏切り者がいたなんて!
でも、大丈夫、あの遺言がある限り、ルシアンの好きには出来ないわ!
「オフェリーとの結婚は認めませんよ!オフェリーはローレンスと結婚し、家督はローレンスが継ぐのですからね!」
「ハハハハハ!!」
大きな笑い声と共に、棺桶の蓋が開き、男が起き上がった。
「___!!!」
アベラ、ローレンス、オフェリーは悲鳴を上げた。
騒然となる中、男はしっかりとした足取りで歩いて来た。
ガレオ=ダントリク伯爵、その人に間違いない…その意味に気付き、アベラは青くなった。
「おまえたちが私を亡き者にしようと企んでいたのは知っている。
死んだと思わせればボロを出すと一芝居打ったが、全く愚か過ぎて呆れたぞ、アベラ!」
「亡き者にしようなど…思っておりませんわ」
言い訳が通じるとは思えなかったが、それでも肯定する事は出来ない。
伯爵の暗殺未遂等、どう考えても極刑は免れない___
ローレンスもそれを察したのか、そろそろと後ろに下がり始めた。だが、当然、逃がす筈もなく、警備兵が入って来るとローレンスとアベラを拘束してしまった。
毒が混入された飲み物はルシアンが調べに出し、結果が届いていて、購入した店も押さえられていた。
「私を殺し、ルシアンを追い出し、自分の愛人をオフェリーと結婚させ、家督を継がせるか…
計画自体は面白いが、おまえたちでは役不足だったな。大体、私が何も手を打っていないと思うか?
ならば、教えてやろう。
ルシアンとオフェリーの婚姻はとっくに成立している、そして、既にルシアンはダントリク伯爵を継いでいるのだ!
おまえたちが何かした処で、ダントリク伯爵家を手に入れる事は出来んのだ!ハハハハ!!」
アベラは離縁を言い渡され、その上、法に従い刑罰を受ける事になった。
ローレンスも同じで、二人は連行されたのだった。
わたしは家令を手伝おうとしたが、「私たちにお任せ下さい」と断られてしまった。
仕方なく父の部屋へ行き、傍にいる事にした。
父からは愛されていなかったし、わたしも父を愛する事は止めてしまった。
ルシアンにした事は、この先も許せないだろう。
それでも、《愛》以外は、十分に与えて貰った、その恩がある___
「娘の務めだわ」
最後の…
◇
その夜、母の指示で、普段は使う事の無い食堂での晩餐となった。
わたしは喪に服す意味で黒いドレスだったが、母は全く意識しなかったのか、鮮やかなワインレッドのドレスを纏っていた。
その上、わたしを見て目を眇めた。
「オフェリー!こんな日に、何て地味な恰好をしているの!」
「お父様が亡くなった日だわ」
「ああ、そうね、まぁいいわ、それより紹介するわね、新しいあなたの婚約者よ」
母がわたしの向かいに座る、金髪の青年を促した。
「ローレンス=マイヤー男爵子息です、お初にお目に掛かります。
お噂通り、可愛らしいご令嬢ですね」
ローレンスは大きな笑みを見せた。
甘いマスクで、さぞ女性に人気があるだろう、彼からはそんな自信が伺えた。
「わたしの婚約者はルシアンです、彼以外には考えられません」
「オフェリー!勝手は許しませんよ!伯爵家に生まれたなら、主人に従いなさい!」
「ルシアンは伯爵であるお父様が決めた相手です」
「フン、亡くなったからには、私が主人よ」
「お父様はルシアンに家督を譲ると決めていたわ!遺言状にもそう書いてある筈よ!」
わたしは《遺言状》の存在を思い出した。
そうだわ!あの父が手を打っていないなんて思えない。
ルシアンも直ぐに片付くと言っていた、あれは、こういう事?
きっと、葬儀の後、遺言状が読まれる時、ルシアンは帰って来る___
わたしはその考えに希望を持ったが、母は大きく笑った。
「お馬鹿さんね、遺言状の内容ならとっくに知っているわよ、ええ、ちゃんと書かれていたわよ、
『家督はオフェリーの夫に譲る』とね、つまり、ルシアンは指名されていないのよ」
ああ、どうして、名を記してくれなかったの!?
父はこんなに早く自分が亡くなるとは思っていなかったのね…
それにしても、これではルシアンに不利だ___
わたしに出来る事は…
わたしは席を立ち、大きな声で宣言した。
「わたしは、この方とは結婚しません!」
「オフェリー!何て失礼なの!我儘は許しませんよ!あなたにはローレンスと結婚して貰います」
母の言葉を遮る様に、わたしは食堂の扉を音を立てて閉めた。
時間稼ぎにしかならないかもしれないけど…
ああ、ルシアン、どうか早く帰って来て!
ローレンスの事は気にも留めていなかった。
ハワードと一緒で、母に強引に結婚相手に決められ、連れて来られただけで、わたし自身に興味があるとは思わなかった。
わたしの夫になれば、伯爵になれる___その事を失念していた。
夜になり、寝支度を済ませた頃、扉が叩かれた。
「お疲れの様なので、ホットワインをお持ちしました」
メイドが気を遣ってくれたのだろうと、わたしは扉を開けた。だが、そこに立っていたのはローレンスで、わたしは小さく悲鳴を上げた。
ローレンスは気にする事なく、わたしの脇を通り部屋に入って来た。
「出て行って下さい!」
「毛を逆立てた猫みたいで可愛いね、怖がらなくても、これを飲んだら帰るよ」
ローレンスがテーブルにカップを二つ置く。
わたしは急いで上着を羽織った。
「飲んだら出て行くんですね?」
「私としては、未来の夫婦として仲を深めたいんだけどね」
ローレンスは自分の魅力を知っているのだろう、愛嬌たっぷりに笑う。
だけど、わたしには、たまに見れる心からの笑みの方が、何百倍も魅力的に思える。
「あなたと仲を深める気はありません、わたしには心に決めた人がいるんです」
「それは貴族的じゃないね、素敵だとは思うけど…ほら、飲んで」
わたしは早く出て行って貰おうと、一気にそれを飲み干した。
「わ~、凄いねぇ、良い飲みっぷり!私の分も飲んだら、帰ってあげる」
「直ぐに、帰って下さいね…」
カップに手を伸ばしたが、掴む事は出来なかった。
視界が揺れ、二重、三重に見える…揺れているのは、頭かもしれない。
ああ、駄目…
意識が遠く、力が入らない。
わたしは成す術もなく、その場に倒れたのだった。
目を覚ますと、明るく朝だと分かった。
わたしはいつも通り、ベッドに入っていた。だが、上着を羽織ったままで、昨夜の事が夢では無かった事を教えてくれた。
ローレンスが運んでくれたのだろうか?
ホットワインのアルコールが強く、酔ってしまったのか…?
ローレンスに謝らなくては…と思うも、気乗りがしなかった。
「オフェリー様、朝食をお持ちしました」
メイドがいつも通り、朝食を運んで来た。
「ありがとう」
「オフェリー様はお聞きになりましたか?
昨夜、館に盗人が入り、マイヤー男爵子息が鉢合わせて怪我をなさったそうですよ」
「まぁ、怪我は大丈夫なの?」
「たんこぶ程度と聞いています、一日、二日はベッドで寝ていないといけないとか。
でも、後頭部だから、うつ伏せ寝なんですよ、大変ですよねー」
あの後でそんな事になっていたとは思わなかった。
お見舞いは…控えておこう。変に期待させる訳にはいかない。
「使用人たちが来て、盗人は逃げて行ったそうなので、安心して下さい」
「そう、良かったわ」
わたしは朝食を終え、刺繍の道具を持ち、父の部屋へ向かった。
◆◆ アベラ ◆◆
アベラは夜、ローレンスの部屋を訪ねたが、部屋はもぬけの殻だった。
暫く待っていた所、使用人たちがローレンスを抱えて入って来た。
あまりに驚いた為、アベラは隠れもせずにローレンスに飛びついた。
「ローレンスはどうしたの!どうして気を失っているの!?誰が彼を傷つけたのか言いなさい!!」
アベラの剣幕に、使用人たちは困惑した様に顔を見合わせていた。
「それが、廊下に倒れていたんです」
「見つけた時にはもう…運んで来ましたが、主治医を呼びましょうか?」
「当然でしょう!さっさと呼びなさい!」
程なくして来た主治医が気付け薬を使い、ローレンスは意識を取り戻した。
「急に後頭部を殴られたんだよ!館の者がやったに決まってる!取り調べて下さい!」
「ええ、任せて頂戴、それで、あなたは何処にいて、何をしていてやられたの?」
詳しく経緯を聞こうとしたが、突然、ローレンスは口籠った。
「いや…勘違いかな?気を失って、その前後が思い出せない…」
「ローレンス、しっかり思い出して!あなたにこんな真似をするなんて、即刻追い出してやるわ!」
「ああ!盗人なんだよ、鉢合わせて…相手も驚いていたから、逃げたんじゃないかな」
話はそれで終わったが、ローレンスは思いの外深手で、二日間、ベッドで寝ている様にと主治医に言われた。
後頭部の怪我なので、うつ伏せになるしかなく、不便な生活を余儀なくされた。
アベラは気の毒なローレンスに付き、世話をする事にした。
「あの奥様が、あんなに甲斐甲斐しくなさるなんて、あたしゃ信じられませんよ」
「オフェリー様の婚約者にするって話だけど…」
「あれじゃ、奥様のお相手にしか見えませんね!」
「それにしても、旦那様が亡くなったばかりで…」
「あら、気付かない?あれはかなり長い付き合いよ…」
使用人たちの間で、そんな風に噂になっているとは知らず、アベラは『恋人の看病をする』という状況を楽しんでいた。
◆
葬儀の日、アベラは黒いドレスに着替え、正装をしたローレンスのエスコートで玄関に向かった。
階段を降りた所で、メイドに「皆様がホールでお待ちです」と言われ、二人はホールに入った。
ホールの真中に棺桶が置かれ、アベラは困惑した。
「どういう事なの!家令!葬儀の手配を忘れたんじゃないでしょうね!
人が集まるまで時間が無いのよ!」
脇に控えていた家令は無言で頭を下げている。
アベラが更に怒鳴り付けていると、扉が開き、オフェリーが入って来た。
「お母様?これは一体…」
オフェリーも棺桶を見て困惑している。
「知らないわよ!家令に任せていたんですから!
私の顔に泥を塗りたいなら、成功ね!だけど、今直ぐ、おまえは首よ!!」
「お集まりの様ですね、それでは、始めましょうか___」
そう言いながら入って来たのは、銀髪の美少年、ルシアンだった___
「ここで何をしているの!!」
アベラは思わず叫んだ。
それも仕方ないだろう、相手は自分が追い出した男なのだから。
ルシアンは今日が葬儀というのを知っているらしい、正装だ。屋敷の誰かと通じていたと気付き、アベラは舌打ちした。
裏切り者がいたなんて!
でも、大丈夫、あの遺言がある限り、ルシアンの好きには出来ないわ!
「オフェリーとの結婚は認めませんよ!オフェリーはローレンスと結婚し、家督はローレンスが継ぐのですからね!」
「ハハハハハ!!」
大きな笑い声と共に、棺桶の蓋が開き、男が起き上がった。
「___!!!」
アベラ、ローレンス、オフェリーは悲鳴を上げた。
騒然となる中、男はしっかりとした足取りで歩いて来た。
ガレオ=ダントリク伯爵、その人に間違いない…その意味に気付き、アベラは青くなった。
「おまえたちが私を亡き者にしようと企んでいたのは知っている。
死んだと思わせればボロを出すと一芝居打ったが、全く愚か過ぎて呆れたぞ、アベラ!」
「亡き者にしようなど…思っておりませんわ」
言い訳が通じるとは思えなかったが、それでも肯定する事は出来ない。
伯爵の暗殺未遂等、どう考えても極刑は免れない___
ローレンスもそれを察したのか、そろそろと後ろに下がり始めた。だが、当然、逃がす筈もなく、警備兵が入って来るとローレンスとアベラを拘束してしまった。
毒が混入された飲み物はルシアンが調べに出し、結果が届いていて、購入した店も押さえられていた。
「私を殺し、ルシアンを追い出し、自分の愛人をオフェリーと結婚させ、家督を継がせるか…
計画自体は面白いが、おまえたちでは役不足だったな。大体、私が何も手を打っていないと思うか?
ならば、教えてやろう。
ルシアンとオフェリーの婚姻はとっくに成立している、そして、既にルシアンはダントリク伯爵を継いでいるのだ!
おまえたちが何かした処で、ダントリク伯爵家を手に入れる事は出来んのだ!ハハハハ!!」
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