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王太子の婚約者選び
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しおりを挟む婚約者候補たちは、王宮の離宮にそれぞれ部屋を与えられ、5日を過ごす事となる。
メイドを使うのは自由で、部屋のテーブルの上にはベルが用意されている。
あたしは用意された部屋に入り、持って来たドレスを出し、クローゼットに掛けた。
本日の予定は、夜、顔合わせのパーティが開かれる、との事だ。
パーティまでは三時間程あり、そこまで念入りに着飾る気も無い
あたしにとっては、十分過ぎる時間だった。
メイドが時間を告げに来て、パーティ会場の広間へと向かった。
同じ様に着飾った令嬢たちが、大きな扉を潜り、広間へと入って行く。
あたしはふと、広間を通り過ぎた廊下の向こう…陰になっている場所に、
誰かが居るのに気付いた。
僅かに車輪が見え、車椅子を連想した。
ユベール?
あたしが広間の前で足を止めると、その車輪は見えなくなった。
心配して来てくれたのかしら?
そう考えると心が浮き立ったが、直ぐに去ってしまったのを思うと…
なにも、逃げなくてもいいのに…
気が抜け、あたしは広間の扉を通った。
婚約者候補に選ばれた令嬢は二十名だった。
その中には、クリスティナの姿もあり、お互いの目が合った時に、
それとなく合図を送ってみたが、あっさりと無視された。
クリスティナは本気でパトリックに恋をしているのだろうか?
あまり良い相手とも思えないのだが…
候補者は二列に並ばされ、待機していた。
暫くしてパトリックが姿を現し、あたしたちの前へ歩いて来ると、
その中央に立った。顎を少し上げるその態度には…やはり、傲慢さが見えた。
「選ばれし婚約者候補の皆、よく来てくれた。
これより5日後、婚約者を発表するまで、皆に等しくチャンスがある、
しっかり励むように___」
皆望んでここに来ていると思い込んでいるわね…
何を励めというのか…キレない努力かしら?
あたしは頭の奥で皮肉に思いながらも、笑みは絶やさなかった。
こういう場でどう振る舞うのか、小さい頃から教え込まれて来ている為、
身に沁み込んでいるのだ。
演奏が流れ出し、パトリックは一人の令嬢の手を取り、ホールの真ん中で踊り出した。
他に男性はいないので、残りの令嬢たちは、二人の姿を羨望の眼差しを持って眺めるのだった。
まるで、世界に、男はパトリックしかいないみたい!
この鳥肌の立つ状況に、あたしが腕を擦っていると、クリスティナが話掛けて来た。
「リゼットも受かったのね」
「クリスティナ、受かって良かったわね」
クリスティナは、急にその薄い青色の目を潤ませ、あたしを見てきた。
「私、パトリック様が好きなの!だから、お願い、協力して!リゼット」
「協力するのはいいけど、どうしたらいいの?」
「私と仲良くして~、パトリック様の前で~、私を褒めて欲しいのぉ!」
可愛らしく言うが、前のパーティでの時と変り過ぎだ。
だが、クリスティナが望むのなら、それも良いかもしれない。
「頑張ってみる」と答えると、クリスティナは満足したのか、笑みを見せた。
それは、何処か悪女にも見え、あたしはゾクリとした。
この部屋全体、悪い呪いにでも掛けられているんじゃないかしら!??
あたしは、早々に、ここへ来た事を後悔していた。
皆がパトリックとのダンスを待っているので、一人位居なくても分からないだろうと、あたしは料理の並ぶテーブルへ行き、食事をしていた。
流石に王宮ともあって、料理は豪華だ。
だけど、ワインはグノー家の領地のものが勝っているわね…
「君は踊らないのか?それとも、私を誘っているのか?」
突然声を掛けられ、あたしはワインを咽る所だった。
見ると、いつの間にかダンスを終えたパトリックが立っていた。
不敵な笑みを浮かべている処を見ると、あたしが誘っていると思っているのだろう。
気があると思われるなんて、迷惑だわ。
だが、礼儀上、あたしは慎ましく返した。
「失礼致しました、食事をしていませんでしたので、素晴らしいお料理に目を奪われておりました」
パトリックはあたしの顎を掴み、顔を上げさせた。
「ふん、面白い手法だな、だが、そんな事では私は手に入らぬぞ?」
パトリックは不敵な笑みを見せると、手を離し、背を向けた。
あたしは「ほっ」と息を吐き、ワインを飲んだ。
本当に、ぞっとするわ!
断りもなく触れるなんて、失礼よ!
何故、王太子は令嬢に勝手に触れて良いと思っているのかしら?
こっちにだって、選ぶ権利はあるわ!
ああ、どうせなら、放って置いてくれないかしら!
顔に出ていないといいけど!願いながら、わたしは自棄で、目に入った小さなケーキを一口に頬張った。
急に広間の空気が変った___
それに気付き、視線をやると、扉が開き、王が入って来た。
堂々とした歩み、その眼力…!
やはり威厳がある、パトリックなんかとはオーラが違うわ…
あたしはすっかり見惚れてしまっていた。
王は前に立つと、婚約者候補たちへ、挨拶と感謝を述べた。
去り際、王があたしを見て視線を止めた。
「そなた…リゼットか!随分会っていなかったが、大きくなったな…」
あたしはユベールを思い出し、『流石親子ね』と思ったのだった。
「イザベルと見間違えたよ、イザベルの小さい頃に良く似ている…」
「伯父様、あたしはもう14歳ですわ!」
「ははは、そうか、可愛らしい令嬢になったな、リゼット」
王は青色の目を細めて笑う、やはり、ユベールと重なった。
「イザベルやグノー家の事も聞きたいが、ここでは止めておこう。
婚約者が決まった後、話す事にしよう、いいかな?」
「はい!楽しみにしておりますわ!」
婚約者選びの数日よりも余程。
あたしは心の中で付け加え、とびきりの笑顔を向けた。
王は微笑み、頷くと、他の令嬢たちにも声を掛け、広間を立ち去った。
「あの方…縁続きでしたの?」
「それでは、パトリック様の従妹…」
「それで、パトリック様はお声掛けなさっていたのね…」
「では、本命はあの方では…」
令嬢たちが噂をし、あたしをチラチラと見る。
当のパトリックは驚愕の表情でいるので、その事を知らなかったのだろう。
誰も教えなかったのだろうか?呆れてしまう。
だが、従兄妹と分かったのだから、もう、声を掛けて来たりはしないだろう。
間違っても、『本命』にはしないで欲しい!
あたしは不穏な噂に顔を顰めた。
顔見せのパーティが終わり、部屋に戻りながら、クリスティナはずっと浮かれて話していた。
クリスティナはパトリックと踊る事が出来、話も出来たらしい。
あたしなんかに頼らなくても、彼女は十分上手くやっている。
「パトリック様は、あの令嬢たちの内から、私を選んで踊って下さったのよ~
私の事、気に入って下さったのかしら?ねぇ、リゼット、どうお思い?」
「どうかしら、分からないわ」
あたしは肩を竦めた。
「もう!パトリック様に相手にされなかったからって、怒らないでよ~」
全然、怒ってないし、寧ろ、近付いて欲しく無いんだけど。
クリスティナには言わない方が良いだろう。
「ちゃんと、パトリック様に私の事褒めてね、リゼット、お願いよ~」
ああ…頭の痛い事だらけね!
◇◇
二日目は、昼前から馬車で一時間掛け移動し、
王家の所有する湖畔にて、ピクニックが催された。
まずは、皆がパトリックと同じ馬車に乗りたがり、パトリックが二人を選んだ。
あたしは道中、選ばれなかったクリスティナを只管宥める事になってしまった。
湖畔に着き馬車を降りると、綺麗な湖が広がっていて、すっかり気分は良くなった。
やっぱり、心を和ますには、美しい景色と新鮮な空気よね!
湖畔に来る事が出来た事には素直に喜び、あたしは用意されていたテーブルに着き、早速サンドイッチを貪った。
「君は食べてばかりだな、見苦しいと思わないのか?」
突然やって来たパトリックに失礼な事を言われ、あたしはサンドイッチを喉に詰まらせる所だった。
他の令嬢たちはあたしを見てクスクスと笑う。
「健康な証拠ですわ!
こんなに美味しい物を、皆さんはお食べになりませんの?」
あたしはこれ見よがしにサンドイッチを頬張ってやった。
パトリックは顔を顰めた。
どうやら、大食いの令嬢は嫌いらしい…
良い事を知ったと、あたしは内心、ニヤリと笑った。
だが、パトリックはあたしの前から食べ物を奪ってしまった。
「君はもう十分食べただろう、皆が食べる分が無くなる!」
「十分用意されていると思いますけど?」
「生意気な娘だな、例え従妹でも、王太子に逆らうと容赦しないぞ!」
この人に、横暴さまであったとは!これは嫌な発見だった。
パトリックが王位を継げば、暴君になる事間違いなしだ。
王はどうして、こんな人を王太子にしたのかしら!
ユベールの方が一億倍は王太子に相応しいわ!
あたしは内心で舌を出し、席を立った。
「何処へ行く!」
「食後の散歩ですわ、食べてばかりでは健康に良くありませんものね」
あたしは煩い事を言われない内に…と、さっさと抜け出し、
近くの森林に避難した。
「あー!もう!最低最悪!!なんなのよ!あいつー!!」
「王太子だからって、人の食事にケチ付け無いでよね!!」
「サンドイッチ一つしか食べてないのにー!!」
「あんな事言って、絶対、あたしの分まで食べたかったんだわ!あの体格だもの!」
誰も居ない処まで来て、周囲を注意深く確認し、あたしは大声で罵ってやった。
よし!少しはすっきりした!
「それにしても、綺麗な森林だわ…」
白い樹皮の細い木立が綺麗で、緑も深く茂っている。
木立のお陰で影になり、涼しく過ごし易い。
「お兄様とフルールがいたら、飛び上がって喜びそう!
きっと、丸一日は帰って来ないわ!」
あたしはそれを想像し、楽しくなった。
奥へ向かって歩いていると、途中、木に生っている黒色の果実を見付けた。
この果実は良く知っている、グノー家の森でも良く実るからだ。
「これ、美味しいのよね!」
あたしは助走をつけ、思い切りジャンプし腕を伸ばした。
だが、果実に掠っただけで、届かなかった。
「ふふふ、こんな事で、諦めるリゼットではないわ!」
あたしはもう一度、今度は気合を込め、助走し、飛び上がる。
あたしの伸ばした手は、見事果実を掴んだ。
バサバサバサーー!!ブチ!!
「うわ~!取れたぁ!やったわーーー!!」
あたしはそれをスカートで擦ると、そのまま齧り付いた。
だが、良くない事をするものでは無く…
大きく口を開けた時、木に寄り掛かったユベールの姿が目に入った。
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