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前日譚
最終話
しおりを挟むミゲルはヴァイオレットの部屋へ行き、床に散らばった人形の破片を搔き集めた。
メイドに見せ、「直せない?」と聞くと、「難しいですね…」と難色を見せた。
「僕がやるから、教えてくれる?」
ミゲルは人形の残骸を持ち、自分の部屋へ戻った。
メイドに教えて貰いながら、丁寧に、少しずつ縫い合わせていった。
その後、ロバートが調べた所、使用人の何人かが、チャーリーとマイルズの会話を聞いていて、
彼等がハッピーを切り裂いた事が裏付けられた。
ヴァイオレットに箒で追い回された仕返しだった。
ヴァイオレットは幸い軽傷で済んだが、アイリスから「喧嘩はしてはいけない」
「暴力を奮ってはいけない」等々、厳しく説教をされた。
罰として、一週間、部屋から出る事を許されなかった。
ミゲルが部屋を訪ねた時も、ヴァイオレットは塞いでいて、何も話そうとはしなかった。
ミゲルは何とか、ハッピーを繋ぎ合わせた。
酷い出来だったので、ヴァイオレットが喜ぶとは思えなかった。
「こんなんじゃ、逆に悲しむよね…」
ミゲルは何とか出来ないかと頭を悩ませていた所、
メイドが「服を着せるのはいかがですか?」と助言してくれた。
「服なんて、僕に作れるかな…」
裁縫などした事がなく、ハッピーの縫い合わせも酷いものだ。
ミゲルは不安だったが、メイドは「簡単な作り方があります」と、それを教えてくれた。
ミゲルはヴァイオレットの目の色に合わせ、紫色の生地の服を探し、
ハサミで必要な大きさを切り取った。
二つに折り、真ん中に、ハッピーの頭が通る程度の穴を開ける。
頭を通して、人形の体に合わせて型を取り、切って縫い合わせる…
「出来た!」
意外にも、上手く出来、ミゲルは喜びの声を上げた。
だが、少し、寂しい気がし、ミゲルは机の引き出しを漁った。
ミゲルは以前より、贈り物を貰った際には、リボンを取っておく習性があった。
綺麗で捨てるのが勿体なかったからだ。
その中から、黄色の太いリボンを選んだ。
ハッピーの首に巻き、リボン結びをした。
「うん!これなら、喜んでくれるよね!」
夜になり、ミゲルはこっそりと、ヴァイオレットの部屋に忍び込んだ。
ヴァイオレットは体を丸めて眠っていた。
ミゲルはヴァイオレットの傍に、ハッピーを入れた。
「おやすみ、ヴィー」
ヴァイオレットの頭にキスをし、ミゲルは部屋を出た。
翌朝、ヴァイオレットが着替えもせずに、ミゲルの部屋に駆け込んで来た。
その手にはハッピーが握られている。
「ミゲルがやってくれたんでしょう!?」
「うん、どうかな?裁縫は初めてなんだけど…」
気に入ってくれたか不安だったが、そんな心配は必要なかった。
ヴァイオレットはミゲルに抱き着き、「ありがとう!」とお礼を言った。
それから、声をあげて泣き出した。
ミゲルはその震える体を、そっと撫でた。
護ってあげたい…
ミゲルの内に、強い思いが沸き上がっていた。
◇◇
程なくして、ミゲルは剣術や武術を習い始めた。
すると、ヴァイオレットが「ミゲルだけ狡い!」と言い出し、
両親も「護身術は必要ね」と了承した為、一緒に習う事になった。
ミゲルにとっては、あまり喜ばしくはない…
「ヴィーは、僕が護ってあげるよ!」
「嫌よ!弟に護られるなんて!ミゲルはわたしに護られていたらいいの!
わたしはお姉さんだもの!」
ヴァイオレットは寄りにも寄って、ミゲルを護る気でいる。
ミゲルは自分がか弱い《弟》としてしか見られていない事を思い知った。
ガッカリしたが、『いいよ、絶対にヴィーより強くなるから!』と心に決め、
鍛錬に励んだのだった。
◇◇
ミゲルは十五歳になると、自分の進む道を決め、ロバートとアイリスに話した。
「王都の王立貴族学院を受験させて下さい」
王都にある王立貴族学院は、名門中の名門で、入学希望者は数知れない。
ロバートとアイリスも流石に驚いていた。
「王立貴族学院か…難しいが、やってみなさい。家庭教師に話しておこう」
「ありがとうございます」
ロバートは承諾してくれたが、アイリスは不安そうだった。
「でも、王都は遠いし、まだ十五歳なのよ?」
「アイリス、十五歳は子供ではないよ、それに、ミゲルが望んで決めた事だ。
私たちはそれを手助けする、最初にそう決めただろう?
大丈夫だよ、ミゲルは軽率ではない、王都でも十分にやっていけるさ」
「もっと、世話を焼かせて欲しかったわ…
でも、そうね、ミゲルが決めた事だもの、私たちは応援するわ」
「ミゲル、学院を出た先は、考えているのかい?」
「伯爵家を継ぐ為に必要な事は学んでおきたいと思っています。
勿論、義姉さんの相手次第ですが」
以前より、ロバートとアイリスから、もし、ヴァイオレットが伯爵家を出て嫁ぐ事になったら、
オークス伯爵家を継いで欲しいと言われていた。
ヴァイオレットの子が継ぐ事も出来るが、ミゲルに継いで欲しいと言う。
ミゲルの事を本当の息子の様に思っている事、
そして、これまでミゲルを見てきて、高く評価していたからだった。
「ありがとう、だが、おまえにやりたい事があるなら、遠慮しなくていいんだぞ。
私はまだまだ、長生きするつもりだからね」
「そうよ、我慢せずに、好きな事をしてね、ミゲル。
この家を出ても、あなたはずっと、私たちの息子よ___」
ロバートとアイリスの想いに、ミゲルは胸を熱くし、頷いた。
「ありがとう、お義父さん、お義母さん」
ヴァイオレットには当分の間、内緒にしていた為、知られた時には大いに文句を言われた。
「王都に行くなんて、わたし聞いてないわ!どうして話してくれなかったの!?」
「話そうとは思っていたんだけど…中々言い出せなくて…ごめんね?」
それは嘘だ。
なるべく、知られたくなかった。
出来れば、受験が終わるまで何も知らないでいて欲しかった。
強く引き止められたら、決意が挫けそうだったからだ。
「そうじゃないでしょう!それって、真っ先にわたしに話すべき事じゃない!
わたしが反対するとでも思ったの?わたし、反対なんかしないわ!
知ってたら、わたしも王都の学校にしたのに!」
ヴァイオレットは去年から、領地内にある貴族女子学校に通っている。
これも、内緒にしていた理由の一つだ。
ヴァイオレットが「自分も王都に行く!」等と言い出すのは、容易に想像出来た。
「義姉さん、ごめんね?」
「ミゲルは、いつも、そうやって謝れば済むと思ってるんだから!
ミゲルなんか、大嫌い!!」
ヴァイオレットは踵を返して行ってしまった。
「大嫌いかぁ…」
『僕は好きなのに』
ミゲルは一人呟いた。
王都の学校に入る事を考えたのは、自分の力を試したいとか、
伯爵を継ぐ為に最高の教育を受けたいとか、王都を見ておきたいとか、
様々に理由はあったが、一番は、ヴァイオレットの存在だ。
これまで、ヴァイオレットに《男》として認めて貰おうと、剣術や武術の腕を磨き、勉強も頑張った。
身長以外は、何を取っても、ヴァイオレットに負けない自信はある。
だが、十五歳になっても、ヴァイオレットはミゲルを《弟》としか見ていない。
このままでは、ずっと《弟》のままだ。
ヴァイオレットから離れ、もっと立派になるしかない___
勿論、その間に、ヴァイオレットが結婚してしまうかもしれないという不安はある。
だが、このままでいては何れ、ヴァイオレットは他の男と結婚してしまうだろう。
ミゲルは賭けに出るしかなかった。
「待っていてくれないかな…」
ミゲルは無意識に呟いてしまい、そんな自分を嘲笑った。
ヴァイオレットが待っていてくれなくても、やるしかない。
自分には、こうするより他、望みは無いのだから___
◇◇
王都、王立貴族学院の入学が決まり、
ミゲルが王都へ立つ日、オークス伯爵家の者たち皆が見送ってくれた。
「ミゲル、しっかりやりなさい、おまえなら大丈夫だよ」
「体に気を付けてね、困った事があったら、何でも知らせるのよ!」
ロバートとアイリスと挨拶を交わした後、後ろで黙っていたヴァイオレットが進み出た。
まだ拗ねているのか、赤い唇を尖らせ、恨みがましい目で見てくる。
「義姉さん、強いからって、喧嘩なんかしちゃ駄目だよ?」
「しないわよ!」
「庭師のジョンを棒で叩いて追い回したのは、先月じゃなかった?」
「あれは!メイドに悪さをしたからよ…喧嘩じゃなくて、成敗だわ!」
ああ、先が思いやられる…
「義姉さん、僕は心配だよ…」
「煩いわね!いいから、さっさと行きなさいよ!」
ヴァイオレットがミゲルの背を押し、馬車に追い立てた。
そして、背に隠していたものを、ミゲルに突き付けた。
それは、古いうさぎの人形…ハッピーだ。
「お守りよ!王都なんて遠い所に行ったら、わたしは護ってあげられないから、
わたしの代わりよ」
ヴァイオレットが大事にしていた人形だ。
チャーリーとマイルズにナイフで切り裂かれた時には、酷く怒り、ずっと落ち込んでいた。
ミゲルが繕い、服を作った。
それを受け取ったヴァイオレットは、喜び、大泣きしていた…
そう、あの時から、僕は…
君を護ると決めたんだ。
君の傍にいて、君を愛し続けると…
「ありがとう、行ってくるね!」
ミゲルはハッピーを受け取り、ヴァイオレットの頬にキスを残し、馬車に乗り込んだ。
これ位、いいよね?
少しでも長く、僕を覚えていてね…ヴァイオレット
◇◇◇
時は流れ…
ミゲルは二十歳。
この6月に、優秀な成績を持ち、王立貴族学院を卒業した。
周囲の者たちは惜しみ、ミゲルを王都に引き止めようとしたが、
ミゲルの想いは既に、懐かしい地に飛んでいた。
「ヴァイオレットは驚くかな?」
この四年間、ミゲルは一度もオークス伯爵家には戻っていない。
身長も伸び、身体つきも逞しくなった。
毎月の様にロバート、アイリスに手紙を書き、それとなく探っていたが、
ヴァイオレットが結婚したという話も、縁談が上がったという話も聞いていない。
まだ、自分にも望みがあると思いたい___
「ヴァイオレットは、僕を男として見てくれるかな?」
ミゲルは古いうさぎの人形に聞く。
『きみならだいじょうぶさ』
そんな声が聞こえた気がした。
◇◇
「ただいま___」
懐かしい、オークス伯爵家の館に足を踏み入れる。
煌めく紫色の瞳と出会った。
ミゲルはその美しさに息を飲んだ。
彼女は、艶のある黒髪を靡かせ、床を蹴り、迷いもなく、ミゲルに抱き着いた。
「ミゲル!おかえりなさい!!」
ああ、僕はやっぱり、君が好きだ
《完》
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