【完結】巻き戻りましたので、もれなく復讐致します!

白雨 音

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本章


「彼女の想いに感動して、つい、引き受けてしまったんだ」

ウイリアムの口元は緩んでいる。

これ…
もしかして、もう、エイプリルの手の中に落ちてる???

そんなの、駄目よ!!

わたしは衝動的に、ウイリアムの腕を掴み、足を止めさせた。

「ウイリアム様!そんな風に、軽々しく女子生徒の相談に乗ってはいけません!
女子生徒のほとんどは、ウイリアム様に心頭し、崇拝しているんですから!
特定の女子生徒を構っては、要らぬ嫉妬を買う事になります、
エイプリルの為にも忠告させて頂きます、
ウイリアム様は、二度と、オリヴィア様以外の女子生徒には声を掛けませんように!」

わたしは仁王立ちで、胸を張り、堂々と言い渡した。
真面目な話だというのに、ウイリアムはポカンとした顔をしていた。
そして、「ぷっ!」と吹き出した。

えええええーーー!??

「ご、ごめん、ごめん…ふふふ」

ウイリアムは謝りながらも、口元を手で覆い、肩を揺すって笑っている。

「ちょっと!失礼じゃありません?こっちは真面目に忠告しているというのに…」

「ああ、分かってるよ、だけど、ごめん…
君があまりに、王宮の教育係に似ていたから…ふふふ!」

王宮の教育係??
それって、つまり、堅苦しくて、融通の利かない、嫌われ者って事???

ショックで流石に黙ってしまったわ。
わたしが無言で歩き出すと、ウイリアムは何とか笑いを抑えて付いて来た。

「兎に角、わたしの事は心配しなくても大丈夫ですから」

「今日みたいな事があれば、心配して当然だと思うよ」

「今日の様な事は、もう起きませんわ」

紅茶のカップを倒したのは、わざとだもの。
オリヴィアが知れば、もっと酷い事になるだろうけど。

エイプリルの為にも、そろそろオリヴィアとは手を切った方が良さそうね…

小さな嫌がらせをして楽しんでいたけど、他の人にまで迷惑が掛かるとなれば、別だ。

「君は不思議な人だね、オリヴィアから叩かれても罵倒されても、泣きもせず、怯えてすらいなかった。
冷静で達観していて…まるで、隠遁の賢者みたいだ」

賢者は兎も角、隠遁って何よ!!
突っ込みはあったが、恐々ともなった。
良く見ているのね…
ウイリアムは案外、馬鹿じゃないのかしら?

ううん、馬鹿じゃないなら、前の時も今も、エイプリルを近付かせなかったわ!

わたしはウイリアムの事を、《やっぱり少し馬鹿》とする事にした。

「それなら、あなたは失礼な人だわ!」

「嫌われたかな?」

「嫌われないと思っているの?」

「もっと、僕の事を知れば、そんな気持ちも無くなるよ。
僕たちはきっと、友達になれる___そんな予感がする」

わたしは少しだけ、気が抜けた。
こんな風に言われてうれしい女性はいないだろう。

言われなくても、分かっているわよ…

わたしはエイプリルみたいに可愛くもないし、魅力的でもない。
平凡で冴えない、ただの伯爵令嬢だ。
《女性》として意識される事は無い。

元より、高望みなんてしていないわ。

《友達》になれる、そんな風に思って貰えただけでも、うれしい…
だが、勿論、反対の事を言った。

「光栄ですが、わたしは弁えた女性です。
第三王子様の《友達》など、とてもとても務まりませんわ。
もう、お会いする事もないでしょう、それでは、失礼致します、王子様」

わたしは恭しく礼を言い、保健室の扉を開けた。
ウイリアムは入って来なかったので、わたしは安堵し、手当をして貰った。

「言い過ぎたかな…」

少しだけ、後悔しながら。





手当を終え、教室に戻ると、丁度昼休憩が終わった処だった。
わたしは左の頬に布を貼っており、流石に目立つので、自然と周囲の視線を集めた。

「まぁ…怪我かしら?」
「彼女、どうしたのかしら…」
「そう言えば、今日はオリヴィア様とご一緒では無かったのね…」

そんな声がチラホラと聞こえる中、わたしはオリヴィアの席に向かった。

「オリヴィア様、カフェでは大変に失礼致しました、
全てはわたしの不手際にございます、どうか、お許し下さい」

深々と頭を下げる。
オリヴィアはまだ怒っているのか、無言だ。

「ルーシー、オリヴィア様に許して貰いたければ、黙って、役割をなさい。
あなたの働きが見事なら、オリヴィア様もその内、お許しになるでしょう」

ベリンダがツンと澄まして言い、わたしは「承知致しました」と答え、席に戻った。
マーベルからは、バサバサと机に用紙を置かれた。

わたしたちの様子に、わたしの怪我はオリヴィアの所為だと、クラス中に知れただろう。
皆の顔に同情の色が見えた。

わたしは差し詰め、悲劇の令嬢ね…

これまでは皆、わたしを《メイドの子》《妾の子》と蔑んできたのに、最近ではそんな事も無くなった。
わたしが酷い目に遭っていても、笑うでもなく、オリヴィアたちに批難の目を向けている。

オリヴィア憎し!といった処ね…

皆、口に出しては言わないが、オリヴィアを嫌っている。
《公爵令嬢》を振り翳し、傲慢に振る舞っているのだから、それも仕方は無い。

オリヴィア、あなたに味方はいるのかしらね?

わたしの頭には、ベリンダとマーベルしか浮かばなかった。
それでも、《公爵》の後ろ盾があれば、オリヴィアは無敵だ。

「でも、罪は償わせるわ…」

今度は、絶対に___!





その日、寮に帰ると、小さな箱が届いていた。
蓋を開けると、真っ赤なベリーが一つ乗った、小さなチョコケーキが四つ並んでいた。

「本当に、届けてくれたのね…」

半ば疑っていたが、ケーキは甘く、口の中で蕩け、わたしはそれを噛みしめた。


ケーキを届けさせ、怪我の心配をしてくれて、制服の弁償も代わってくれた。

クリスソール王国第三王子ウイリアム___

「悔しいけど…見直してあげるわ…」


◇◇


わたしは今日も遅くに寮を出て、ギリギリで教室に駆け込んだ。
『昨日の今日で!』という、ベリンダとマーベルの視線は無視して、フラフラと自分の机に着いた。

「遅いじゃないの!昨日、オリヴィア様から叱られたというのに、全く反省の色が見えないわね!
ルーシー、これでは、オリヴィア様に許して貰えなくてよ!」

「も、申し訳ありません…酷く、頬が痛んで…
何とか課題は終わらせましたが…あまり眠れなくて…」

わたしは疲弊した様に演技をした。

「全く!しっかりなさいよ!こんな事位で、大袈裟なんだから!」

オリヴィアが無言を貫いているからか、珍しくマーベルまでキツク言ってきた。
マーベルは一番下っ端で、使われる事もあるが、やはり、同類の様だ。
同情の余地無し!ね。

わたしが課題を差し出すと、マーベルはそれを捥ぎ取った。

この日、わたしは一日中、調子悪そうな演技をしていた。
それは、全て、この時の為だ___

放課後、教師がわたしとオリヴィアを呼び出した。
恐ろしい顔つきで、わたしたちの前に、提出した課題を二つ置いた。

「どちらも同じ筆跡です。
どちらがどちらに課題をやらせたの?
これまでも何回かあった様だけど、もう、見過ごせませんよ!」

オリヴィアは不機嫌そうな顔をで、わたしの足を蹴った。
わたしに言い訳をしろと言うのだ。

「違います、これは、その…わたしたち、筆跡が似ているんです…」

「あら、そう?だけど、間違っている箇所も、答えも全て同じよ?
そんなの、双子でも無理ではなくて?」

これも、想定内だ。
わたしはわざと答えを幾つか間違えて書き、それを同じ筆跡で丸写ししたのだ。
教師に気付かせる為に___

「申し訳ありません!わたしが、オリヴィア様に課題を見せて欲しいと、お願いしたんです!」

わたしは自分がやったと申し出た。
オリヴィアは『当然だ』という顔をしていたが、教師に分からない筈はなかった。

「ルーシー、嘘を言っては駄目よ、これはあなたの筆跡よ、
オリヴィアの筆跡はもっと細くて尖っているでしょう?
オリヴィア・バーレイ!不正は許しませんよ!課題は再提出なさい!
今回だけは見逃しますが、二度目はありませんからね!
他の教師たちにも伝えておきますからね!」

「違います!わたしなんです!わたしが悪いんです!
オリヴィア様を責めないで下さい!」

わたしはわっと泣き崩れて見せた。

「まぁ、ルーシー、可哀想に…
オリヴィア!こんなに怖がらせるなんて…あなたの態度は目に余りますよ!
公爵家にも報告させて頂きますからね!」

だが、こんな時にも、オリヴィアは余裕だった。
彼女は鼻で笑った。

「どうぞ、ご自由に、ですけど先生、この学院が公爵家から、どれ程の寄付を受けているか、ご存じありません?
先生の所為で、学院が潰れても良いのかしら?
分かったら、身の程を弁える事ね」

オリヴィアはサッと立ち上がると、教室を出て行った。

「先生!すみません!わたしの所為で…」

「いいのよ、ルーシー…あなたは大丈夫?
あまり酷い様なら、担任に相談した方がいいわ…」

相談したとしても、先の様な事を言われれば、何も対処は出来ないだろう。
わたしは頭を振った。

「わたしは大丈夫です…
わたしが逆らえば、わたしの家族まで、何をされるか分かりませんから…
先生も、この事は忘れて下さい…わたし、先生に何かあったら、申し訳ないわ!」

「ルーシー…力になれなくて、ごめんなさい…」

わたしは、誰にも何にも期待はしていない、期待しない。
前の時、わたしは嫌という程、学んだ。

ここまでしてくれたのだから、十分よ。


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