【完結】《BL》殺るか、ヤられるか??悩める転生勇者、この雑用係は魔王の配下らしい!

白雨 音

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プロローグ

始まりの刻

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※攻めは出ません。


ガーラデュール大陸に残る最古の文献には【救世主伝】が記されており、魔王が世界を混沌に陥れた刻、救世主が現れ聖剣で闇を祓い、世界を清浄化した。聖剣は聖域ノヴァリスの崖から世界を見守り、魔王復活の際には再び救世主が現れ、聖剣を抜き世界を救うとある。
ここまでであれば、大人から子供まで、誰もが知る《物語》で終わるだろうが、実際に聖域ノヴァリスの崖も聖剣も存在している。
魔物や魔獣も存在し、大規模なスタンピードが起こる事もあり、「魔王の復活が近いのでは…」と囁かれている。
その為、伝説は現実味を帯び、誰もが一度は《救世主》を夢見る。そして、夢を夢で終わらせられずに拗らせた者たちが、「我こそは!」と聖域ノヴァリスの崖に立ち、聖剣を握る。そうして、夢破れて行く…

その場に、俺、アレクサンダー・ロシュも立っている。

「ここが、聖域ノヴァリスの崖か…」

強く吹く山間の風を受け、目を細めた。

辺境の町に生まれ、【聖剣物語】…子供用に書かれた救世主物語…に憧れ、同年代の子供たちと木の棒を持ち走り回っていた。
町には冒険者を目指す者、夢破れて帰って来た者も多く、労働の対価として剣や武術を習う事も出来た。
そして、十六歳の年、幼馴染三人で町を出て、国で一番の冒険者ギルドのある都市サバートを目指した。

冒険者ギルドに登録し、仕事をこなしつつ、腕を磨いてきた。
そして、二十一歳、冒険者Aランクに上がった事で、満を持して聖域ノヴァリスの崖に来たのだった。
聖剣を抜く…所謂【聖剣の儀】は、人生で一度きりという決まりはないが、やはり、それなりの実力や自信が無ければ、聖剣に対して失礼だと思ったのだ。

因みに、聖域ノヴァリスの崖は大陸の中心、山脈にあり、辿り着くのも容易ではない。
それでも、冒険者たちにはそれこそ《聖地》なので、訪れる者が途絶える事は無く、麓は大きな町になっていた。装備や食料、宿を取る事も出来るが、何れも高価な為、「冒険者を喰い者にしている」と評判は極めて悪い。

「アレク、やっぱり今日は止めた方がいいんじゃない?」

パーティメンバー、同郷幼馴染のジェイクが不安そうに言う。彼は少し気が弱く、周囲の言動に左右され易い所がある。
曇り空が広がり、薄灰色の雲に紛れて大きな黒い雲も流れて来ている。それが暗雲の様に感じるのか、この場には俺たちのパーティしか居なかった。

「はぁ?ここまで来ておいて、試さずに帰るとか、馬鹿かっ!?」

答えたのは短気、短絡思考でやや口の悪いマックス。彼も同じくパーティメンバー、同郷幼馴染だ。

「けどさ、誰も居ないし、きっと何かあるんだよ、縁起が悪いとか…」
「んな話聞いた事ねーよ!いいから、さっさと引こうぜ!一番は俺~!」

筋肉自慢で中々の巨体を揺らしながら、意気揚々と崖の先に向かったマックスは、「んんん~~~おおお~~~ぬぉぉぉぉ!!!」暫く唸り声を上げていたが、気付くと「ハァっ、ハァっ、ハ…」と荒い息に変わっていた。
そして、クルリと踵を返すと、「いあー、全然だったわー」と陽気に帰って来た。滅多に落ち込まない処がマックスの長所だ。

「ジェイク、どうすんだ?」
「僕は気分が乗らないから…」
「ヘイヘイ、じゃ、アレクな、やんだろ?」
「ああ、勿論、行って来る」

俺は目を閉じ息を整えてから、崖の先に向かった。
崖の先端には、古く錆びれた大剣が斜めに突き立っている。近付くと、それは全体が黒くデコボコとしており醜悪で、《聖剣》と呼ぶにはおこがましい様相だった。
伝説によると、役目を終えた剣が救世主の手から離れ、突き立ったとされている。気が遠くなる程の長い年月を経ていると考えれば、どんな姿であれ、この場に存在している事が奇跡だ。その事からも、「聖剣は神を宿している」、「究極の神力を持っている」というのが定説だった。
神を宿している、神力を持っているのなら、もう少し威光があっても良い気がするが…そんなものは感じなかった。
だが、これを抜けば、《救世主》だ___

どどどどど、心臓が騒ぎ出す。
聖剣を抜き、《救世主》になる事を夢見てきた。十五歳になると口に出す事も無くなったが、それでも、消せないからこそ、ここに立っている。

聖剣よ、俺を選んでくれ___!

俺は柄に手を伸ばした。
ギュっと握りしめると意外にも握り心地が良かった。
手に吸い付いて来るような不思議な感覚だ。
俺は空いていたもう片方の手を重ね、力を込めて引いた___

「!?」

瞬間、白い光が発光し、俺は眩しさに反射的に目を閉じた。
不意に浮かぶ、走馬灯…
だが、それは何故か、《ここでは無い世界》のものだった___


『嘘だろー!?最後の最後に、こんなヤツが出て来るとか…詐欺だ!!』
『あの魔王戦はなんだったんだ!』
『ああ…もう、余力なんか無いって…』

黒髪の青年が突っ伏した。
床に転がったコントローラー、画面には《ゲームオーバー》の文字。


ああ、そうだ、俺は…

この世界を知っていたんだ…


「すげー!やったな、アレク!!」

マックスの声で俺は我に返った。
俺の右手は高々と剣を掲げ、その先には、晴れ渡った青空が広がっていた。

《聖剣が抜かれた瞬間、空を覆う暗雲は全て消え去り、選ばれた勇者を祝福する___》
この場面も、俺は知っている。

「救世主アレクの誕生だー!!」

マックスが高々と声を上げ、宣言した。
これまでの俺はこの時を嬉しいだろうと想像していた、人生最高の瞬間だろうと。
だが、違っていた。
喜びは無く、ただただ、これから始まる長い魔王軍との闘いに、身が引き締まる思いだった。





聖剣を抜いた瞬間、あの光に包まれた時に、自分の前世が見えた。
どんな性格でどんな事をしていたのかは分からなかったが、夢中になっていた《ゲーム》の記憶だけが、妙に強く残っている。

その《ゲーム》の大筋は、田舎育ちの主人公が聖剣を抜き勇者となり、仲間たちを率いて魔王軍と闘い、世界を救うというものだ。
前世の自分は長い時間を掛け、魔王軍と闘い、魔王を倒し、心晴れやかにエンディングを待っていた。だが、そこに魔王軍四天王の一人が現れ、碌に反撃出来ないまま倒されてしまった。魔王との戦闘で、パーティは既に壊滅状態となっており、新たな敵を倒す余力等は残っていなかったのだ。
そいつが新たな魔王となり、世界は混沌の時代を迎える___バッドエンドだ。

『まさか、あいつが魔王軍の四天王の一人だなんて、思わないだろう!』

一緒に旅をしてきたパーティの雑用係が、実は魔王軍の四天王の一人だったのだ。
前世の俺はその事に全く気付いていなかった。
《ゲーム》では、雑用係を雇うか雇わないかを選択する事が出来た。雑用係を雇うと持ち物の容量が増え、移動も従来より速くなるが、給金という対価もあった為、深くは考えなかった。
『雇わない』という選択をするべきだったと後悔したものだ。

前世の《ゲーム》を思い出したのは、聖剣の力によるものだろうか?
記憶、知識を武器に、策を練り、最後の敵を倒して世界を救えという事か?

これは《ゲーム》ではない、やり直しは出来ない、失敗は許されない。

だが、やるしかない!

これは、勇者に選ばれた者の宿命だ___





陽が落ち、麓の町に戻るには遅くなった為、山道途中で野宿をする事にした。

「なぁ、ちょっとだけでいいからさー、触ってもいいか?」
「僕も触ってみたい…」

マックスとジェイクに請われ、俺は「いいよ」と聖剣を差し出した。
崖に突き立てられていた時とは違い、一点の錆びれも無い、神々しいまでの姿をしている。
ただ鞘が無い為、取り敢えず布を巻いていた。物が物なので、それなりの鞘を作ってやらないといけない。

「おお!これが聖剣かぁ!カッコイイー!!」
「僕にも持たせてよ」
「おまえに持てんのか~?」
「馬鹿にするな!これが…やっぱり、凄いな…普通の剣とは全然違う」
「おまえに剣の良さが分かんのか~?」
「マックスは一々煩いんだよ!」

ジェイクは魔法使いなので、剣を持つ事はほとんど無いが、十歳頃までは一緒に剣を習っていた。
ジェイクの魔法の才はかなり高く、筋肉自慢で格闘が得意なマックスと対戦しても勝算は十分にある。ただ、ジェイクは持久力の面が低く、マックスは桁外れて体力があるので、攻撃する際は一発で決めなくてはいけない。

「そうだぞ、マックスは煩い、ジェイクは剣でも筋が良かっただろう」
「そうだっけか?まー、いいや、俺寝るわ」

マックスは面倒になったのか、眠いだけなのか、毛布を被り地面で丸くなった。

「飽きれたヤツだな、けど、悪いヤツじゃない。
おまえとマックスが居てくれて良かった、これからも宜しくな、ジェイク」

「アレク、急にどうしたんだい?変だよ?」

「たまには感謝を伝えるのもいいだろう、俺たちも寝るか…」

俺は聖剣を受け取り、布を巻いた。そして、毛布を被り、樹を背にして座った。
目を閉じると衣擦れの音がし、ジェイクが毛布を被っているのが分かった。
そうして、夜が更ける。


気配がした。
神経を耳に集中させ、気配を辿りつつも、俺は目を閉じたままでいた。
このまま、何も起こらない事を念じていたが、それは叶わなかった。

「フ、フフ…救世主は僕だ!
悪いなアレク、ついでにマックスも、せめて楽に死なせるから恨まないでよ」

相手が呪文を唱え始め、俺はパッと体を起こした。

「止めるんだ、ジェイク!」

予想していなかったのだろう、ジェイクが驚き呪文が霧散した。
俺は即座に足払いをしジェイクを転倒させると、彼の手から零れ落ちた聖剣をかすめ取った。
ジェイクは地面に這い蹲り、ガタガタと震えている。自分に向けられた視線は、恐ろしいものでも見る様でいて、媚び諂う様なものだった。

「ア、アレク、起こしてごめんよ、今のは冗談だよ、君には分かるよね?僕たち幼馴染なんだからさ…」

一層気分が悪くなり、虚しさを覚えたが、今は目を瞑る事にした。

「ジェイク、俺たちに言いたい事があるなら言ってくれないか?俺はおまえの正直な気持ちを知りたいんだ」

ジェイクは「フッ」と笑い、立ち上がった。

「正直に打ち明けたら見逃してくれるんだ?流石救世主アレク様はお優しい事で」

嘲る様に笑うが、その目には憎しみが見えた。

「聞きたいなら言うけどさ、《聖剣の儀》の順番、マックスの次は僕だったよね?ジャンケンで決めてたよね?
なのに、なんでアレクが先にしちゃう訳?」

思い掛けない言い掛かりに、つい「止めようと言ったり、気分が乗らないって言ったのはおまえだろう?」と返していた。
やはりジェイクは気に入らなかった様で、顔を歪めた。

「皆で止めないなら意味無いよ、それに、気分が乗らないって言ってるんだから、遠慮してくれるのが友達だよね?
あの時順番通りにしていたら、抜いてたのは僕だよね?だから、《それ》、僕のでいいと思うんだ。
本音を言ったよ、僕に返してくれるよね、アレク」

俺はゆっくりと頭を横に振った。

「おまえに聖剣は渡せない」

「ああ、そう、僕には無理だって事?
君はいつも自分が《特別》だと思っているもんねぇ、アレク。
金髪碧眼で、しかも顔も良くて、田舎者の癖に貴族の息子と間違えられてたっけ、女の子たちは君しか見えていなかったよね?
君の周りにはいつも人が集まって、君はリーダーでいるのが当たり前…君は特別…」

低く呟き、沈黙が落ちた後、ジェイクはパッと顔を上げた。その目は見開き、ギラギラとしていた。

「だけどさー、本当は僕と同じだよね?同じ田舎者!僕は商家の息子だけど、君なんて土臭い農家の息子じゃないか!
君もマックスも、ただの筋肉馬鹿の癖に!魔法が使える僕こそ選ばれた人間じゃないか!」

魔力量が大きく、上級魔法が使える者はそう多くはいない。ジェイク程の魔法使いならば、王宮へ行けば高待遇で雇われるだろう。
それに比べて、剣士や戦士は母体が大きく、その上王宮では柵が多いので、才があっても重要な役に就く事は難しい。

「確かに、おまえは凄いよ、ジェイク。
だから、聖剣を持たなくても《救世主》になれる、共に力を合わせて世界を救おう」

「フン、君らはずっと僕を見下してきたじゃないか!これ以上、君の引き立て役にさせられるのは御免だよ!
僕こそが《救世主》になるんだ!」

ジェイクの手に赤い炎が浮かんだ。

「ジェイク、止めろ!死ぬぞ!」
「ハッ!死ぬのは君の方さ___」

ジェイクの火球は大きく膨らみ、俺を狙って投げられた。

「防御!!」

俺は必死に叫んだ。
パアアアアン!!!
それは俺の手前で弾かれて散った。
ジェイクは!?見ると、真っ青な顔をしていた。

「魔法が…なんで?」

「聖剣の力だ。
ジェイク、もう諦めてくれ、おまえを失いたくない。
俺たちパーティだろう、幼馴染で友達だ、不満があるなら言っていい、だから、やり直そう」

ジェイクを失う訳にはいかない。
彼の能力以上に、友達だからだ。
俺は《ゲーム》の事は考えない様にして、ジェイクに訴えた。

「殺そうとしたのに、友達だって?君のそういう所が昔から大嫌いだったんだよ!
僕を見縊った事を後々後悔するといいよ、精々、寝首を搔かれないようにね、救世主様」

ジェイクは夜の闇に紛れ、姿を消した。

俺は息を吐いた。
最悪の結末は免れたと思っていいだろうか?

《ゲーム》のシナリオでは、ジェイクが俺たちの寝ている間に聖剣を奪い、始末しようとして攻撃魔法を放つも、自分に撥ね返り死亡する。
聖剣を奪い、自分が《救世主》になるつもりでいた事しかシナリオには無く、ジェイクの心情は分からなかった。

分かっていても、同じだっただろう、ジェイクの考えは到底理解出来ない。
俺たちはパーティメンバーで、幼馴染で友達だが、いつの間にか誰よりも遠い人間になっていたらしい。
何度繰り返しても、自分にはジェイクを説得出来る気がしなかった。

ジェイクは俺を殺しに来るだろうか?
だが、その時は迷わずに命を奪う___

「勇者も辛いな…」

聖剣エフラジェンスに呟いた。

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