【完結】《BL》殺るか、ヤられるか??悩める転生勇者、この雑用係は魔王の配下らしい!

白雨 音

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本編

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俺は十六歳の年、冒険者を目指し、幼馴染のマックスとジェイクと共に、故郷の田舎町を出た。
国で一番の冒険者ギルドのある都市サバートまでは、馬車を乗り継いでも一月は掛かる。俺たちに余分な資金など無く、主には徒歩、時に商いの荷馬車に乗せて貰いながら向かっていた。
長い道中では様々な事が起こる、賊に襲われる事もあれば、大雨で足止めされる事もある、落石事故等々、危険と隣り合わせだ。
この日、俺たちは商いの馬車に乗せて貰っていたが、山道を通っていた時、岩場に車輪が隙間に嵌り、動かなくなってしまった。

「よっしゃー!ここは俺に任せとけ!」

力自慢のマックスが意気揚々と出て行く。
俺も手伝う事にして荷馬車を降りたが、その時、遠くで悲鳴の様なものが聞こえてきた。

「アレク!向こうから聞こえたよ!」

俺は剣を掴み、ジェイクが指す方に走った。

「ギャアアア!!」
「うわああ!誰か、助けてくれーーー!!」

下の道で大型の荷馬車が横転しているのが見えた。どうやら狼か何か…野獣に襲われているらしい、俺は斜面を滑り降り、黒い毛並みの獣に斬りかかった。

バシュ!!

刃が野獣の体を裂き、黒い血が飛び散った。

魔獣か___!!

故郷では狩りも珍しくなく、十歳を過ぎれば大人たちに付いて行き手伝いをするのが普通だった為、野獣を前にしても怯みはしなかった。
だが、魔獣を相手にした事は無い。
姿形は野獣に似ているが、恐らく体力や治癒力は段違いだ。そう値踏みする側から、黒い靄が傷口を覆い、塞がれていく。その目は赤く光り、大きく裂けた口は笑っている様にも見えた。

「ジェイク!魔獣だ!補助魔法を頼む!」
「わ、わかった!」

ジェイクが斜面の上から呪文を唱え始め、俺は神経を集中させ、剣を振り上げ、魔獣の頭上に降ろした。
ブシャーーーー!!
魔獣の体は見事に真っ二つに割れ、地面に倒れた。
魔獣は他に二頭、人間を喰らっていたがこちらに気付き集まって来た。

「アレク!またせたな!!」

声と共に、大きな岩が飛んで来て魔獣を襲った。魔獣が「ギャン」と吠え岩の下敷きになった。
力自慢のマックスは相手が魔獣だろうと攻撃方法は同じらしい。深く考えていない処がマックスの強みだろう。
一頭が足止めされている間に、もう一頭が飛び掛かって来る。俺は走り込み、魔獣の腹を裂いた。
「グオオオオー!!」
苦しいのか怒りなのか、魔獣が雄叫びを上げ、俺に噛みつこうとした所を一刀両断にした。
ブシャーーーー!!派手に黒い血飛沫を上げ、地面に落ちた。

「アレク、お疲れさん!こっちも終わったぞ!」

隣ではマックスが岩で魔獣をガンガンと殴りつけていた。魔獣は見事にミンチになっている。

「マックス!そんな事してたら、素材が駄目になるだろう!」

ジェイクが文句を言いながら斜面を降りてきた。
魔獣の素材は金になる為、討伐した者が持ち帰る事を許されている。
ジェイクは素材採取に興味があり勉強しているので、この場は彼に任せ、俺は馬車の方へ向かった。

大型の馬車は横転し、周囲には魔獣に食い散らされた人間の遺体が幾つもあった。
上質の装いの者が二、三人、他の者たちは質素な布切れの様な服を着ており、手足に鎖が付けられているのを見ると、恐らく奴隷商の馬車だろう。
ふと、横転した馬車の陰からこちらを見ている者に気付いた。生存者がいた様だ___

「もう出て来ても大丈夫ですよ」

声を掛けると、陰がもぞもぞと動いた。そして、出てきたのは十歳位の少年だった。
黒いうねりのある髪、黒い肌…黒人種だ。話には聞いていたが、目にするのは初めてで、『本当に黒いんだな』と感動していた。
だが、少年は酷く痩せており、骨と皮に見えたし、足には鎖が付けられていた。
こんな小さな子供が…
奴隷として生きてきたのか、それとも奴隷商に売られたのか、買われたのか…考えると怒りが沸いてきた。

「もう、大丈夫だよ、おいで」

俺は膝を折り、少年に向けて手を差し出した。
少年はもじもじとしながら俺の方に来たが、手を取ろうとはしなかった。警戒しているのか、それとも意図が分かっていないのか…
俺の町では子供もそれなりにいて、面倒を見る事もあったので扱いには慣れているが、ここまで遠慮がちな子供は初めてだった。
俺は可哀想に想い、「もう、大丈夫」と少年を抱き締めた。
少年は驚いた様に体をビクリとさせたが、害が無いと分かったのか、力を抜いた。

領地外の山道等では、生存者がいない場合、馬車の荷は見つけた者に権利が移る。
生き残りの少年は、馬車の持ち主でも無ければ縁がある訳でもない為、魔獣を討伐した俺たちの物だ。俺たちは意図せず、十分…いや、十二分の資金が出来たのだった。
恨みを買わない様に、乗せて来て貰った商人にも幾らか渡しておいた。そんな事もあり、彼等は上機嫌で次の町まで乗せて行ってくれた。

少年の事だが、彼は記憶を失くしていた為、奴隷商の事もだが、出生等も全く分からなかった。
その為、孤児院に入れるか、里子として引き取って貰うかだが…黒人種の為、何処へ行っても苦労する事は目に見えた。最悪、奴隷に逆戻りだ。
何としてもそれだけは避けたいと商人たちに相談した処、技術職に就くのが良いだろうという事になり、商人の紹介で大工の下働きになる事に決まった。それから、最低限の教養も必要だという事で、学校にも入れる事になった。
紹介料や授業料、準備費等は、奴隷商の残した遺産を使った。そして、町に少年の口座を作り、纏まった金を入れたのだった。
一応、生存者である彼にも権利はある、後々恨みを買わない為でもあった。

記憶が無く、名も無い為、俺たちで少年の名を考えた。

「マックスジュニアでどうだ!」
「無いよ、そんなの可哀想だよ」
「失礼だな!良い名だろ!それに何より、強そうじゃん!」
「神の加護を受ける意味で、セオドラとか、セオはどう?」
「まーなー、で、アレクは何かねーのか?」

俺は「うーーーん」と唸る。
困った、何も思いつかない。こういった事は昔から苦手だ、大体、センスが無い、詩的な人間に任せて欲しい。

「名は体を表すと言うから、見て感じたものはどう?」

ジェイクの助言で俺は少年を見た。
全身が黒い、やせっぽち、骨と皮…《干物》とか?駄目か…
うねうねとした腰の強そうなくせ毛、顔立ちは平凡だが、宝石の様に黒い瞳は綺麗だ。
じっと見ていると少年は伸び切った髪を掴み、顔を隠して俯いた。シャイなのかな?
黒人種でシャイとなれば、生きていくのも大変だろう、そう考えるとジェイクが言った『神の加護を受ける』というのは良い。
その方向性で考えていて、それが浮かんだ。

「デイ・スター」

光を放つ昼間の星、太陽…そんな意味だ。
いつも希望が共にある様に…昼間でも堂々と生きていける様に…
良い名を思い付いた気でいたが、マックスとジェイクには大不評だった。

「おまえ、ホント、センスねーな!」
「ん~、ちょっと恥ずかしいよ、それは…」

悪かったな!と思いながらも、反論出来る気がせず、黙っておいた。

「マックスジュニアもちょっとねー」
「いいじゃねーか!俺の様に強くなれるぞ!」

二人が言い合いを始めた所で、俺が口を挟んだ。

「自分の名だ、本人に決めさせよう、
マックスジュニア、セオドラ、デイ・スター、おまえはどう呼ばれたい?」

そっと髪のカーテンが開き、子犬の様な綺麗な目が俺を見た。

「デイ・スター」

小さな唇から、小さく呟かれた名は、想像していなかったもので、俺の胸は高鳴った。



あれから、7年か…

ディーはあの頃の面影が無い程、立派な青年に育った。

身長、抜かされたし…と、チラリと目だけで隣を見る。
ディーの歓迎会という事もあり、彼は六人掛けのテーブルの真中に座らされ、酒の入ったグラスを揺らしていた。
ポリシーなのかこんな時にもフードを被っている。あまり飲んでいないし、あまり食べてもいない。
身体つきはローブで分からないが、太ってはいないだろう。これで、マックスの様に筋肉隆々だったら、何か、嫌だ。
俺の勝てる処って、何処だ?
いや、あるよ!剣の腕とか、格闘とかなら絶対に上だ!!俺は自信を取り戻し、自分自身で納得しながら酒を飲んだ。

「いやー!祝い酒は美味いなー!おまえら、遠慮しないで飲めよー!」

ディーの逆隣、盛り上げ役のマックスが、豪快に笑いながら、酒を浴びる様に飲んでいる。
ドーンは一番離れた席で大人しくしているが、酒豪なので実はかなり飲んでいる。
ロリーは酒よりも食事、クリスタルは酒好きだ。酔ったクリスタルが隣のロリーに「あ~ん」と料理を口に運んでいた。
いつも通りの風景だ、皆マイペース人間の為、ディーが入っても変わりは見えなかった。

程なくお開きとなり、皆で酒場を出た。
マックスが先頭を行き、続いてドーン、それからロリーとクリスタル、そしてフードを被ったディーが続く。
後ろから皆をぼんやりと眺めていると、ディーが突然足を止めた。
『なんだ?』と思いながら、俺の足も止まった。ディーは下ろした手に拳を握り、勢い良くこちらを振り返った。

「!?」

流石に驚くだろう、思わず上半身を反らした。だが、少し酔っていた様で、頭がクラリとした。
気持ち悪…
目を閉じて揺れが収まるのを待とうとしたが、それよりも早く俺の体を支えた腕があった。

「す、すみません、出過ぎた真似を…あの、私がこんな事を言うのは、大変おこがましいのですが…
アレク様は少し酔われているのではないかと…」

目を開くと至近距離にディーの顔があり、何故だか不思議な感じがした。
つまり、かなり酔っているという事だが、この時の自分は全く気付いていなかった。
酒の所為でもう一人の人格が出てきたらしく、フードから垂れた癖のある黒髪を掴み、引っ張った。


『なまいきだぞぉ!おれはぁ、酔ってなんかないからなー!
おれはぁ、おまえとちがって、おとな、だからー、お酒くらいへーきなんだよっ』

翌朝目が覚め、思い出せる最後の記憶が、ソレだった。
ディーがどんな顔をしたか、何と言ったか、全く記憶に無いが、酒豪のドーンと素面だったロリーが言うには、俺はかなり面倒くさい人間になっていて、ディーに支えられ、宥められながら拠点に戻って来たらしい。

「最悪だ…」

立派に育った事を喜ぶでもなく、いちゃもんを付けるなんて…正しく、精神年齢の低さを露呈させただけだ。
だが、あんな事を思っていた訳ではない、確かに身長を抜かれて少々悔しさはあったが、ムキになる程ではない。
あの時の俺は無性に苛立っていた、それはあいつ本人に対してではない、《雑用係》を雇った事に対してだ___

「ああ…やっぱり、雑用係なんて、雇うんじゃなかった…」

そうすれば、余計な恥を掻く事も無かったのだ。
二日酔いでズキズキと痛む頭を押さえつつ、俺は嘆いたのだった。

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