つかわしめ戦記ゆめ語り

悠日里

文字の大きさ
15 / 28
第一章 導かれて☽第三夜 使わしめの伝承

心配性の陰陽師さま

 着衣を整え終えた様子の睡蓮に、昂は心の底から安心したような顔で胸を撫で下ろした。そして腑に落ちないながらも使わしめたちに訊く。

「取りあえず、お前たちが大御神と呼ぶ太陽の化身を復活させれば、俺と睡蓮は元の場所に帰れるって話でいいか?」

 頷く狛以外の三人。しかし昂は眉根を寄せた。

「でもそのためには、須佐神ってやつを倒さないといけないんだろ?」
「いや」

 黙って話を聞いていた狛が答える。

「須佐神の力を封じても、討つことはない。須佐神は大御神の弟君で、元は大御神と同様、俺たちの主君でもある。倒すべき者は、須佐神によって生み出された怨霊だけだ」
「は? 怨霊だけ?」
「えっ、怨霊を……倒すのですか?」

 どうやら昂と睡蓮は、危惧している部分が違うようだ。
 今度は睡蓮が眉根を寄せて狛に訊くと、次は太秦が答えた。また睡蓮の頭を撫でに来る。

「そうだな、少し言い回しが違ったな。陽の巫女には、我らと力を合わせまがを封じた後、浄化を願いたい。陽の巫女、お前にはそれが出来るはずだ。あとわかっているとは思うが怨霊は元々罪のない者ばかりだ。怖がる必要はない」
「はい」

 睡蓮は静かに返事をすると、瞳を揺らして両の手のひらを見つめた。

「我らと力を合わせてって、まさか睡蓮も連れ出すのか?」

「当然だ」と薄ら笑いを浮かべて答える太秦に、昂は憤然ふんぜんとした。

「そんなの危険だ! 狛、お前さっき外へ出るなって言ったじゃないかっ」
「それはお前たちだけでってことだ」
「なっ。と言うか、そもそもさ……。須佐神を倒さずに、お前たちが目指すものは達成出来るのか?」

 やや皮肉めいてはいるが、涼しく答える狛に、昂は僅かに冷静さを取り戻したようだ。

「ああ。なぜならここまで伝承の通りに進んでいるからな。須佐神も美月の廉潔れんけつさにお気付きになられたら、きっとお変わりになるだろう。第一、須佐神を殺めるのはこの倭の滅亡に値する。だから和睦わぼくを願う」
「ならっ、睡蓮の力を奪いにっていうのは、具体的にどんなことをしてくるんだ!? 一緒に連れて行くと言うくらいだから、睡蓮自体には危害が及ぶわけではないんだろ!?」
「ああ、身の危険は俺たちが全力で護るからな。それに美月だって生身ではない。俺たちの神気を融合する」
「お前たちの神気を融合……?」

 昂はいぶかしげになる。

「ああ、そうだ。それから美月の……陽の巫女の力は身を穢されてしまうと奪われるんだ。だから必ず阻止すると約束しよう」
「怪我ですか。とても怖いですが、絶対に頑張ることを誓います!」

 睡蓮のずれた発言に、昂はガクッと脱力した。

「睡蓮、穢しにだ。くそ、なんでこんなことに……。なあ狛、その穢すというのは一体なんだよ? 力を封じるような呪いでも掛けられるという意味か?」

「呪いですか⁉」と戦慄するその睡蓮から受け取った帯を、狛はシュルシュルと腰に巻き付けて締め直しながら答えた。

「いや、呪詛じゅそではない。ただ純潔じゅんけつを失うからな……。気分の良いものではないだろう。しかも陽の巫女としての能力は失われてしまい、大御神の再降臨は――」
「待て待て待て」

 昂は慌てて睡蓮の両耳をふさぎに行った。
 睡蓮の耳を押さえながら昂は狛に顔を向けると、遠慮がちに訊いた。

「え、えっと……じゅ、純潔?」
「ああ、睡蓮の純潔が奪われる。それがなんだ?」
「な……っ、そんなの絶対に許せるかぁぁ! とととと言うかなんでその……睡蓮の、その、じじじ事情をお前なんかが知っているんだ! いやもちろんこの睡蓮が、あんなことやそんなことをしているわけがないだろうけど……」

 あからさまに取り乱す昂を、白狐と黒狐は「すぐ赤面するー」とケラケラ笑った。
 もごもごと口籠る昂に、狛は面倒そうに答えた。

「陽の巫女というのは、身も心も純真無垢でないと選ばれないそうだ。そういうものなんだろう、諦めろ。しかし先程も言ったが、美月の加護があれば俺たちは強くなる。神気が格段に上がるんだ」
「だからと言って……! 俺は……お前たちの言う伝承ってやつも、いまいち信用出来ない……」
「お前の身に起きたことだけでも十分証明にならないか? いつまでもごちゃごちゃと煩い。付いて来たのはお前だ。いい加減、腹をくくれ!」

 前にも後ろにも進めない状況であるのは明白だ。狛に諭されて、昂は懊悩おうのうしつつも口を開いた。

「信じて……いいんだな?」
「ああ。そう言ってる」

 まとまったようだ。
 昂は捻っていた腰を元に戻して睡蓮に向き直った。だがなぜかそこに睡蓮の姿はない。睡蓮の耳を押さえていたはずの手だけが、虚しく宙に浮いていた。

「はいはーい。劇団してるところ悪いんだけど、もう近くまで来てるよ?」
「ま、その隙に巫女さまゲット出来たから良かったけどな。そんなわけで~――」

 少し離れた場所で、いつの間にか睡蓮を挟んで立っていた二人。
 白狐はそのまま睡蓮を後ろから抱きしめると、胸元に顔をうずめた。黒狐はその場で膝をつき、睡蓮の狩衣の裾をたくし上げ、あらわになった腰へと顔を寄せる。同時に口づけをした。

「「チュートリアルは任せて!」」

 すると三人は一瞬にして、光輝に包まれたのだった。
感想 10

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黒騎士団の娼婦

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

異世界転移って?とりあえず設定を教えて下さい

ゆみ
恋愛
凛花はトラックに轢かれた記憶も階段から落ちた記憶もない。それなのに気が付いたらよくある異世界に転がっていた。 取り敢えずは言葉も通じる様だし周りの人達に助けられながら自分の立ち位置を把握しようと試みるものの、凛花を拾ってくれたイケメン騎士はどう考えてもこの異世界での攻略対象者…。しかもヒロインは凛花よりも先に既にこの世界に転生しているようだった。ヒロインを中心に回っていたこのストーリーに凛花の出番はないはずなのにイケメン騎士と王女、王太子までもが次々に目の前に現れ、記憶とだんだん噛み合わなくなってくる展開に翻弄される凛花。この先の展開は一体どうなるの?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?