つかわしめ戦記ゆめ語り

悠日里

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第一章 導かれて☽第五夜 高鳴り

なきさわの湯

「どうかされたのですか?」

 昂をぽかんと見上げていた難聴系美少女の睡蓮は、不思議そうに小首を傾げた。

「ど、どうかされたのかって……。いやだって、いつの間にか襦袢なんかに着替えているし……」
「そうですね。昂くんがこちらに入られた瞬間お姿が変わったので、私もとても驚きました」
「え?」

「メタモルフォーゼです!」と瞳を輝かせる睡蓮に、今度は昂が頭に疑問符を乗せる。
 だが自分の着衣に視線を移してみれば、その理由はすぐに判明した。昂は思わずって叫んでしまう。

「なんで勝手に⁉」
「ふふっ。昂くんとお揃いなんて久しぶりです」

 睡蓮は子どものような顔で笑った。
 しかしその無邪気な声が反響するのは、泣沢ノ泉の一帯だけであって――。

「おおおおおおお揃いとか、い、言うなよ……」

 昂は動揺を見せまいと、手で顔を覆ってみたり、視線を逸らしてみたりした。でも睡蓮が心配そうに顔を覗き込むと、昂はもっと平静さを失った。指の間から覗く昂の眼球が、睡蓮の身体をなぞる。

「こ、こら。かかか、屈まないっ」
「昂くん……。もしかして、お寒いのですか?」
「さ、寒いなんてそんなことあるか。だ、だってさ、ここ結構暑いだろう? あ、暑いよな⁉」
「暑い……そうですね。立派なお風呂ですものね……」

 睡蓮の口から発せられた“お風呂”というワードが、昂の頭の中を悪戯に響いていく。この状況下に加え、年相応に成長プロセスを辿っている昂にとって、今の一言は追撃に等しいと言える。昂は目を回しながら、くらくらと身体を揺らした。
 なんとか昂は上体を起こして復帰すると、辺りを見渡しながら腕を広げた。

「はは、睡蓮ったら何を勘違いしているんだ。こ、ここは、おふ、お風呂じゃないぞ? い、泉だぞ~?」

 そんな風に昂が、懸命に理性を保って睡蓮へ訴え掛けた時。
 なんの前触れもなく、二人の身体が重なった。

「へ……? す、睡蓮⁉」

 突然自分のふところに飛び込んできた睡蓮を、昂は咄嗟に抱き留める。
 大胆とも思える行為だが、睡蓮は単によろめいた拍子に身を預けただけのよう。
 とは言え胸元に顔をうずめたまま動かない睡蓮に、昂はひどく困惑した。まあ密着が出来ているのだから、本心は嬉しくないはずがないのだろうけれど。

「ど、どうした睡蓮。疲れ――……」

 昂は何かを察したようで、ドギマギしていた表情を正した。
 そして「ごめん」と一言断ると、遠慮気味に抱いていた手を肩から腕に向かって滑らせる。

「身体が冷たい」

 名前を呼んでみても、睡蓮はぐったりとしているだけで返事をしない。
 昂は睡蓮を抱きかかえると、すぐに泉へ向かった。昂は躊躇ためらいもせずに泉の中へと入る。

「本当に温泉みたいだな。……よし」

 体感的には、泉質に問題がないようだ。
 昂は慎重に腰を屈めて、睡蓮の体勢に配慮しつつ足先から泉に触れさせる。

「睡蓮、熱くないか? ……うん、そうか」

 頷く睡蓮を見て、昂は額に玉のような汗を掻きつつも胸を撫で下ろすことが出来た。
 睡蓮を抱きかかえたまま泉に浸かると、腕の中で眠る彼女の頭を撫で、慈しむように髪を梳いていく。
 それから昂は、泉に浸かっていない肩の部分にも掬った湯を丁寧に掛けてやった。耳当たりの良い音がせせらぎ、泉には波紋が広がる。
 肌に張り付く長襦袢が次第に泉へと溶け込んで、十分に水分を含んでいった。
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