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ごかん
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朝食の匂いに感化されて、高校生にもなって朝一番に母の顔を思い浮かべてしまった。
遮光カーテンの隙間から漏れる日差しに煩わしさを感じた俺は、溶けたバターのいい香りに鼻孔をくすぐられながらも寝返りを打って、窓に背を向けた。
だけどエンドレスに鳴き続ける蝉の声が俺の脳内を侵していくから、否応にも頭が冴えていく。
俺は起き上がると、重い足取りでベッドの向かいにあるカーテンを開けた。
「眩しっ……」
反射的に目を眇めてしまう。
でもなんだか胸の真ん中から全身へ血液が運ばれていくような感覚がして、今日もまた朝が来たんだななんて、そんな馬鹿みたいなことを思ったりした。
窓越しに広がる空は雲ひとつなくて、とても青々として見えた――。
グレーのスラックスを穿いて、スクールシャツに袖を通す。左胸にある大きなポケットには、校章のワッペンが飾られ、肩章と袖口のカフスには、黒の太いラインが一本入っている。
俺は暑苦しくならないように、襟元のボタンを適当にニ・三個くらい外して、緩めておいた簡易ネクタイを留めた。サイドの髪を取って結んで、ハーフアップに。これでヘアセットも完了。
粗方身支度を済ませ、俺が一階に下りると、食卓には父が座っていた。
紺のスエット姿ということは、そっか。今日は休日なのか。
「おはよう。父さん早いね」
背中越しに声を掛けると、父は読んでいた新聞から目を放して微笑んだ。線のような目がさらに細くなる。
「ああ壮馬おはよう。今日は仕事が休みだから、お前と朝食を食べようと思って待ってたんだ」
「別にいいのに。疲れてんだから、寝てりゃあいいじゃん」
「壮馬~。目玉焼きとスクランブルエッグ、どっちがいい?」
フライパンと卵を持った母が、キッチンからひょっこり顔を出してこちらを見ている。
「目玉焼き。飲み物は自分で取るからいいよ」
「りょーかい」
テーブルの上には、白いランチマットが敷かれている。
右上に、空っぽのガラスコップ。真ん中に、こんがりきつね色の焼き目がついた厚切りトースト。そしていつも通り、両脇にはカトラリーがセットされていた。
トーストの表面に乗せられたバターは原型を留めておらず、いい具合に溶けていて美味しそうだ。
「壮馬~。ミネストローネとクラムチャウダー、どっちがいい?」
今度はおたまを持って、同じようにひょっこり。表情も全く一緒だから、なんかウケた。
「んー~~ミネストローネぇ……?」
「りょーかい」
「ねぇ父さ――……あ」
振り返ってみると、視界に入ったテーブルには、いつの間にかアイスティーが注がれていた。
父のラインナップは、スクランブルエッグ、ポタージュスープ、牛乳だ。俺もポタージュスープが良かったな、なんて思いつつ椅子へと腰掛けると、母が目玉焼きとスープを乗せたトレーを持ってやって来た。
「はいどうぞ。時間大丈夫?」
「うん、全然余裕。いただきますっ」
目玉焼きには、ベーコンと櫛形にカットされたトマト、茹でたブロッコリーが添えられている。
ちなみにスクランブルエッグだと、炒めたウインナーとトマト、きのこのソテーになるのだ。母のこだわりなのだろうか。
俺は父との会話を楽しみながら朝食を平らげ、母からもらった弁当をスクールバッグに詰めて玄関を出た。
「じゃあ、いってきます!」
遮光カーテンの隙間から漏れる日差しに煩わしさを感じた俺は、溶けたバターのいい香りに鼻孔をくすぐられながらも寝返りを打って、窓に背を向けた。
だけどエンドレスに鳴き続ける蝉の声が俺の脳内を侵していくから、否応にも頭が冴えていく。
俺は起き上がると、重い足取りでベッドの向かいにあるカーテンを開けた。
「眩しっ……」
反射的に目を眇めてしまう。
でもなんだか胸の真ん中から全身へ血液が運ばれていくような感覚がして、今日もまた朝が来たんだななんて、そんな馬鹿みたいなことを思ったりした。
窓越しに広がる空は雲ひとつなくて、とても青々として見えた――。
グレーのスラックスを穿いて、スクールシャツに袖を通す。左胸にある大きなポケットには、校章のワッペンが飾られ、肩章と袖口のカフスには、黒の太いラインが一本入っている。
俺は暑苦しくならないように、襟元のボタンを適当にニ・三個くらい外して、緩めておいた簡易ネクタイを留めた。サイドの髪を取って結んで、ハーフアップに。これでヘアセットも完了。
粗方身支度を済ませ、俺が一階に下りると、食卓には父が座っていた。
紺のスエット姿ということは、そっか。今日は休日なのか。
「おはよう。父さん早いね」
背中越しに声を掛けると、父は読んでいた新聞から目を放して微笑んだ。線のような目がさらに細くなる。
「ああ壮馬おはよう。今日は仕事が休みだから、お前と朝食を食べようと思って待ってたんだ」
「別にいいのに。疲れてんだから、寝てりゃあいいじゃん」
「壮馬~。目玉焼きとスクランブルエッグ、どっちがいい?」
フライパンと卵を持った母が、キッチンからひょっこり顔を出してこちらを見ている。
「目玉焼き。飲み物は自分で取るからいいよ」
「りょーかい」
テーブルの上には、白いランチマットが敷かれている。
右上に、空っぽのガラスコップ。真ん中に、こんがりきつね色の焼き目がついた厚切りトースト。そしていつも通り、両脇にはカトラリーがセットされていた。
トーストの表面に乗せられたバターは原型を留めておらず、いい具合に溶けていて美味しそうだ。
「壮馬~。ミネストローネとクラムチャウダー、どっちがいい?」
今度はおたまを持って、同じようにひょっこり。表情も全く一緒だから、なんかウケた。
「んー~~ミネストローネぇ……?」
「りょーかい」
「ねぇ父さ――……あ」
振り返ってみると、視界に入ったテーブルには、いつの間にかアイスティーが注がれていた。
父のラインナップは、スクランブルエッグ、ポタージュスープ、牛乳だ。俺もポタージュスープが良かったな、なんて思いつつ椅子へと腰掛けると、母が目玉焼きとスープを乗せたトレーを持ってやって来た。
「はいどうぞ。時間大丈夫?」
「うん、全然余裕。いただきますっ」
目玉焼きには、ベーコンと櫛形にカットされたトマト、茹でたブロッコリーが添えられている。
ちなみにスクランブルエッグだと、炒めたウインナーとトマト、きのこのソテーになるのだ。母のこだわりなのだろうか。
俺は父との会話を楽しみながら朝食を平らげ、母からもらった弁当をスクールバッグに詰めて玄関を出た。
「じゃあ、いってきます!」
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