【R18】鈴蘭の令嬢が羞恥に耐える話【本編完結】

仙冬可律

文字の大きさ
4 / 21

こんなにショックを受けるなんて知りません

カフェのあと、手芸用品店に行った。

「本当に、本当に退屈したら声をかけてくださいね。私、熱中したら時間を忘れてしまうので」

アルフレッド様は少し離れて店内を見ているから気にしなくていいとおっしゃいました。

私は刺繍糸を選んだり、珍しいハギレの詰め合わせを見つけたのでネリーにお土産にしようと思いました。

「あの人素敵ねえ」

女性の声に、視線の先を見ればやっぱりアルフレッド様がいました。男性がいるだけでも珍しいのに。

「恋人が買い物する間、待っててくれるなんて優しいのね」
「私なんて、婚約者は自分の行きたいところばかり。こういうところは友達と行けばいいだろうって」

そうですよね、と心の中で申し訳なく思いました。

アルフレッド様がこちらに歩いてきて、さっきの女性たちは気まずそうに離れました。

「エリーゼ、荷物持とうか?」
買い物かごを持ってくれようとします。
小さな籠で、重いものなんてないので
大丈夫だと断りました。

「アルフレッド様のものに何か刺繍をしてみてもいいですか?」

「いいの?」

「ハンカチとか、もし作れば使ってくださいますか?」

「もったいなくて使えないかも」

笑いながらアルフレッド様が後ろから覗き込む。
「どんな色がいいですか?イニシャルか、紋章か、あとは騎士へ贈る図案もありますよ」

「何でもいいよ、糸はこんなに種類があるんだね」

「お好きな色で刺繍入れますね。これはアルフレッド様の瞳の色に似ているのではないですか?」

小さな引き出しの並んだ棚にさまざまな色糸が納められている。

「色の名前も面白いんだね。青にもこんなに種類がある。でも、僕は緑がいいな、ほら、これ。」

彼が指したのは森の名前の緑色。

「エリーゼが恥ずかしい時の少し潤んだ時の目にそっくり。こっちは赤面した時の頬、噛み締めたあとの唇は、これかな。」

後ろから腰に回された腕に少しだけ力が込められる。
「僕が好きなのはエリーゼの色だよ」

そんなことを言われたら、また恥ずかしくなる。きっと赤くなっていると思って、両手で顔を覆った。

「出先で意地悪を言うのはやめてください」

「本当のことを言っただけなのに」

帰りの馬車では、アルフレッド様はからかってこなかった。

まだ早い時間なので、屋敷に寄っていきますか?と聞くと、

少し考えたあと
「今日は、やめておくよ」

と言われた。

少し残念だった。今後のことや卒業後のことについて話をするタイミングがなくて、なかなか二人で会うことも次はいつになるかわからない。
家に呼ぶなんてまだそういう関係ではないと思われたのか。

「エリーゼ、何か心配なことがあるの?」

「心配というか、その、アルフレッド様が気遣ってくださってるのはわかっていますし、大切にされて幸せなのですが」

じっと目を見て聞いてくれる。この人は優しい。
優しいけれど、いつも本当の気持ちを言ってくれない。

「ゆっくりでいいよ、続けて」


「……私との、これからの関係をどのように考えてらっしゃるのですか」

言ってしまった、これで彼の答えを聞いてしまったらもう戻れないかもしれない。重いって思われるだろうな

「え?ちょっと待って」

アルフレッド様の表情が固くなった

「……それは、エリーゼのことを僕がどういうつもりで恋人として考えているかってこと?エリーゼを不安にさせてた?

もしかして恋人って思ってるのは僕だけ?伝わってない?」

「いえ、恋人で幸せです。ごめんなさい、忘れてください。」

「待って、エリーゼ。ちょっと僕たちの認識にズレがあるみたい。このまま別れたら絶対ダメだ。」

馬車の中で手を握られる。

「やっぱり、屋敷にお邪魔するよ」


いつもの彼ではなく、怒っているように見えた。





感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

仮面王の花嫁

松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。 しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

閨から始まる拗らせ公爵の初恋

ボンボンP
恋愛
私、セシル・ルース・アロウイ伯爵令嬢は19歳で嫁ぐことになった。 何と相手は12歳年上の公爵様で再々婚の相手として⋯ 明日は結婚式なんだけど…夢の中で前世の私を見てしまった。 目が覚めても夢の中の前世は私の記憶としてしっかり残っていた。 流行りの転生というものなのか? でも私は乙女ゲームもライトノベルもほぼ接してこなかったのに! *マークは性表現があります ■マークは20年程前の過去話です side storyは本編 ■話の続きです。公爵家の話になります。 誤字が多くて、少し気になる箇所もあり現在少しずつ直しています。2025/7

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。