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グレンは悪い男

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グレンが近くにいることはなんとなく気付いていた。
アランから見えない角度でこちらを見て口角を上げたから。
アランが飲み物を取りに行ってくれている間にグレンが寄ってきた。
逃げたかったけれど、アランが戻ってくるから遠くにはいけない。

「やあ、奇遇だね」

そういってグラスを渡そうとしてくる

絶対に偶然なわけがない。
「いま飲み物を頼んでいるので結構です」

「やだなあ、そんなに警戒しなくても。フランツから聞いてたよりも良い男じゃないか。良かったな」

「ええ、ですからご心配なく」

「いかにもリッキー家、みたいな武骨さもないし優しそうじゃないか。でも良い身体してそうだな」

グレンは頭の悪い人間ではない。むしろ良すぎて人を馬鹿にしていると周りには思われている。
こういう下世話な言い方をするときは策略だ。幼い頃からわかっていたけれど、カッとなった。
「まだ体を知らないのか」
「知ってるわけないでしょう」
「ダンスしていたらわかるだろ。腕だって文官の俺よりしっかりしてる。」
腕を見せられたので、ついアランと比べてしまう。
「それはそうでしょうけど」
「俺なんかは相手を支えるのに必死だよ。近づいたほうが支えやすいけど、それも相手に失礼だからスピードの早い密着しない曲でごまかすしかない。

アラン殿なら姿勢がぶれないからお前を支えてもビクともしないだろうけど、本当はもたれるくらい寄りかかってもらったほうが男は楽なんだ」

「そうなんですか?」

アランは確かにいつも腰に手をおいて背中を支えてくれている。
力を込めすぎていないけれど、絶対に揺らぐことはない。
確かにグレンの腕よりもしっかりしている。

そんなことを考えて、はしたないと思ってしまった。比べるなんて。
アランに失礼だ。

「初めまして」

アランが戻ってきた。
「ミランダ嬢、遅くなってすみません。こちらは?」

「従兄弟のグレンです」

「どうも、グレン・シューゼルです。ミラからアラン殿の話は聞いています」

アランの体が少し揺れた。
「先日もうちの図書室に本を探しにきて、結婚に向けて心の準備をしているらしく」

「アラン様、もうすぐ曲が始まります。行きましょう」

グラスを一気に流し込んで誘った。

「では、グレン殿、また。失礼」

グレンはニヤニヤしていた。

ダンスを始めたものの、ミラは恥ずかしさで赤くなっていた。グレンがもっとバラす前に離れたかった。それでもこんな風にダンスを誘ったことはない。

しかも、顔をみられたくないからいつもより近くに寄ってしまった。
アランの肘より上に手を添えている。
でも、このほうが男性は楽なのよね……?
アランの腕もミランダの背中に添えている。

「ミランダ嬢、彼と何かありましたか」

「何もないです。彼は悪戯が好きなのでいつもあんな風に話しかけてきて困らせるだけです。気にしないでください」

そのあとアランは唇を引き結んで黙ってしまった。

帰りの馬車で、アランがミランダの手を握った。
「正直に教えてください。あなたは先程のグレン殿のことをどう思っているのですか」

ミランダは

「は?」

と珍しく思考が停止して声に出してしまった。




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