【完結】王城司書がチャラい作家と出会った話

仙冬可律

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夜の店内で起こったこと

その日は残業で、すっかり遅くなってしまった。
絶対甘いもの食べたい……

知的な女性として後輩から憧れられるシアも、空腹の前では野生だった。
表には出さないけれど。


図書館が閉館してからの業務は翌日に持ち越せるものもあるので、大抵は定時に帰れるはずだった。それなのに、今日は急に王城の資料室から保管用の書類が届けられたのである。
これは明日に持ち越せない秘密文書も含んでいる。

図書館の地下には、それこそ王城のあらゆる部署からの書類が保管されている。資料室で一定期間保管されたあと処分するものと保管するものに分けられる。

夜に立ち寄るのは初めてだったけれど、匂いにつられた。

「いらっしゃいませ、あら、シアさん。お疲れ様です」

昼と同じようにアメリアさんの笑顔にほっとする。

「一人なんだけど、いいかしら」

「もちろんですよ。お食事、ですよね」

ちらっと店内を見て、アメリアさんが案内してくれる。お酒を楽しんでいる席とは逆の席をさりげなくすすめてくれた。

「もしお腹すいてらっしゃるなら、すぐにこちらの単品ならお出しできますよ。」

おつまみのメニューを広げてくれる。

チーズの盛り合わせ、クラッカー、サラミ、果物盛り合わせ、チョコ

「チョコ?」

「洋酒に合うらしいので、夜だけ単品でお出ししてるんです。少し苦めなんですが」

「チョコと、クラッカーと、ポテト、とりあえずお願いします」

変な頼み方かしら、と思ったけどアメリアさんはにこっと笑ってくれた。

疲れて何が食べたいのかもわからない。

すぐに注文した品がきた。
可愛い小皿にのっている。
「あと、これハーブティーです。目の疲れに良いそうですよ」

ティーカップに薄い金色が光っている。

「ありがとうございます」

口に含むと、さっぱりとした香りが鼻に抜ける。お腹が温まったら食欲が戻ってきた。クラッカーとチョコをつまむ。

ピザとビールを注文した。
なんだか周りを見ていたらお酒が飲みたくなったから。

アメリアさんは席の間をくるくると移動している。いつも笑顔で感じ良くて、もし自分が男性だったらああいう奥さんが家にいてくれたら嬉しいんだろうなあ。
そんなことを思う。

アメリアさんを見ていたから、同じように彼女を目で追っている視線に気がついた。
異端過ぎてオブジェかと思った。黒いローブで端の席に座っている。前髪も長いので顔が半分しか見えていない。
塔の魔術師、フレデリック。生ける伝説のような彼は、あまりの魔力の多さとあまりの協調性の少なさから魔術師団に属さずに研究職についている。
政治的利用を企む者にうんざりして塔に引きこもっていると聞いた。
そんな彼が、人々に混じって食事をしているなんて。

食事なのかどうかわからないが、お酒ではなさそうだ。お茶のようなものを時折口に運んでいる。アメリアさんを目で追っている。
え、何あれ。
もしかして。

視線が合った。
こちらが見ているんだから、もちろん向こうも気づくだろう。魔術師なら余計に。

軽く会釈をされた。
あわてて返す。
まさか私を知っているとは思わなかったけれど、魔術師なら図書館を利用するのかもしれない。

置かれたピザの湯気で、考えは散った。
口にいれるとチーズが伸びる。具もだけど、皮の端っこの香ばしいのも好き。でもランチには、口や手が油っぽくなるのが嫌でなかなか頼めない。
夜だから誰も見てないから、大きな口を開けても平気……

「シアちゃーん」
アートさんが寄ってきた。店のドアを開けて一直線に前まで走り寄ってきた。

「なんともない?大丈夫?」

たった今、ピザが喉に詰まりそうになってます。

ビールで流しこんだ。

「何ですかいきなり」
「だって、その」
アートがフレデリックの方をチラッと見る。
フレデリックは、
ものすごく嫌そうな顔をしていた。

あの人、表情筋動くんだ

とても珍しいものを見てしまった。
「なにもされてない?」
「なにも。知り合いでもないですし。」
「話しかけられたりとかは」
「ないです」
「触られたりとか」
「ないです」
「髪の毛盗まれたり」
「ないです」
「会話を盗聴されてるかもしれない」
「私は、一人でピザ食べてたので、独り言も言ってませんから盗聴されてても害はないです。アメリアさんと少し話したくらいです」
  
「人を危険物みたいに言うな」

黒い影が喋った。フレデリックだ。
思ったより背が高いらしく、少し首を下げてアートに何かを囁いていた。そのまま帰るらしく、店の出口の方に行った。
知り合いだったのか、とアートを見れば
こちらも見たことのない苦い顔をしていた。
「アートさん?どうかしたんですか?」

「いやいや、なんでもないよ。アメリアちゃん、僕にもビール」

向かいに座ってピザを一切れ奪われた。

そのあといつものように軽い調子でアートさんは喋っていたけれど違和感は拭えずに、それでも酔いもあってどこかふわふわした夜が更けていった。

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