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もう一人の伯母
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「王女の降嫁の打診……!?」
扉の隙間から聞こえた声につい反応してしまった。
父と母が振り返ったことで、
しまった!と思ったが逃げ遅れた。
「クララ、来なさい」
顔を覆ってため息をついている父よりも、笑顔で手招きする母の方が怖いことをクララは経験的に知っている。
「まだ正式な話ではないので、くれぐれも他言しないように」
「お兄様と王女殿下が、ええっと、もしかしてお互いにそういう?」
「それはない。まだ他国との婚姻の可能性もあるからな。殿下もご自身の結婚については理解されている。」
第二王女殿下は貴族令息のエスコートに慣れたいそうだ。
確かに、外交で訪れた先で男性に全く慣れていないと思われるのも困る。
国内で数名の名前が上がり、そのなかにセドリックが居るらしい。
フィルも。
二人とも今まで女性関係で悪い噂もない。
というか、クララの相手しかしていない。
「なーんだ、つまらない」
そう言って自室に戻りかけた。
んん?
待って。
「父様、二人が王女殿下のエスコートをするということは、私のエスコートは出来ないわよね?
となると、カイル?
カイルも忙しいし、私ひとりで夜会に出てもいい?」
「行かなければいいだろう」
一蹴されたけれど
アルおじ様とカイルなら、比較的自由に過ごせる。
これは、チャンスだ。
「クララにも慣れが必要ですわ」
母様からも有難い後押しがあった。
その次の夜会では、エドガーと出席した。
見張りのようにじっと見られていてはクララは落ち着かない。楽しむどころではない。
エドガーが夜会に出ると人から質問責めに合う。
仕事のことはまだわかる。
科学や文学や芸術の専門家からも質問されるのだ。
歩く辞書のような扱いである。
隙をみて離れようとするけれど、エドガーは目で『ここにいろ』と圧力をかけてくる。
「あら、クララ久しぶり」
朗らかな声がかかった。
「アメリーおばさま!」
おしゃれなメガネをかけてウィンクしていたのは。
クララの母の姉、アメリーだ。
男爵家の生まれながら有名な才女で、子育てが終わった頃に文官に採用された。
まだまだ男性社会の王宮で、先駆者といえる。
後の働く女性のために色々な制度を整えてくれた。
おっとりとした母より活発なアメリーのほうがお転婆なクララの気持ちをわかってくれる気がしている。
憧れはエリーゼおばさま。アメリーおばさまは、友達のような感覚で一緒にイタズラをしかけるような間柄だった。
「エドガー様、お久しぶりです。しばらくクララをお借りしてもいいでしょうか」
「これは義姉上、お久しぶりです。そうですね、退屈しているようですし、よろしくお願いいたします。あと、フィルが女性文官の採用について、またお話を聞きたいと申しています。」
「いつでも歓迎するとお伝えください。
私の通った茨の道に、次の子が通る前に、しょーもない雑草の根っこを引きちぎり種も残らないくらい燃やし尽くすわよ!ホホホ!」
豪気な人である。
でも温かく野蛮ではない。
だからエドガーも信頼している。
ライラの実家であるノッテン家は、善良で努力家で少し考え方がシンプルだ。
だから、ライラはエドガーの心を掴んだしアメリーは前時代的な王宮にとって新しい風となった。
「クララ、お酒はのめないの?」
「まだ飲んだことないの。お父様がダメだって」
「ライラも弱いから無理はしないほうがいいわね。でも、練習はしたほうがいいから、来年辺り『私が』『うっかり』グラスを間違えて渡すわね!誰かと一緒のときじゃないと危ないから、お友達や男性からグラスを受け取ってはダメよ」
「伯母さま大好き~!」
「エドガーさまも過保護ねえ。ライラも免疫が無かったからあんなにすんなり言いくるめられていきなり結婚になったというのに自分の子が同じ目に遭ったらどうするのかしら……」
後半はクララに聞こえないように独り言である。
扉の隙間から聞こえた声につい反応してしまった。
父と母が振り返ったことで、
しまった!と思ったが逃げ遅れた。
「クララ、来なさい」
顔を覆ってため息をついている父よりも、笑顔で手招きする母の方が怖いことをクララは経験的に知っている。
「まだ正式な話ではないので、くれぐれも他言しないように」
「お兄様と王女殿下が、ええっと、もしかしてお互いにそういう?」
「それはない。まだ他国との婚姻の可能性もあるからな。殿下もご自身の結婚については理解されている。」
第二王女殿下は貴族令息のエスコートに慣れたいそうだ。
確かに、外交で訪れた先で男性に全く慣れていないと思われるのも困る。
国内で数名の名前が上がり、そのなかにセドリックが居るらしい。
フィルも。
二人とも今まで女性関係で悪い噂もない。
というか、クララの相手しかしていない。
「なーんだ、つまらない」
そう言って自室に戻りかけた。
んん?
待って。
「父様、二人が王女殿下のエスコートをするということは、私のエスコートは出来ないわよね?
となると、カイル?
カイルも忙しいし、私ひとりで夜会に出てもいい?」
「行かなければいいだろう」
一蹴されたけれど
アルおじ様とカイルなら、比較的自由に過ごせる。
これは、チャンスだ。
「クララにも慣れが必要ですわ」
母様からも有難い後押しがあった。
その次の夜会では、エドガーと出席した。
見張りのようにじっと見られていてはクララは落ち着かない。楽しむどころではない。
エドガーが夜会に出ると人から質問責めに合う。
仕事のことはまだわかる。
科学や文学や芸術の専門家からも質問されるのだ。
歩く辞書のような扱いである。
隙をみて離れようとするけれど、エドガーは目で『ここにいろ』と圧力をかけてくる。
「あら、クララ久しぶり」
朗らかな声がかかった。
「アメリーおばさま!」
おしゃれなメガネをかけてウィンクしていたのは。
クララの母の姉、アメリーだ。
男爵家の生まれながら有名な才女で、子育てが終わった頃に文官に採用された。
まだまだ男性社会の王宮で、先駆者といえる。
後の働く女性のために色々な制度を整えてくれた。
おっとりとした母より活発なアメリーのほうがお転婆なクララの気持ちをわかってくれる気がしている。
憧れはエリーゼおばさま。アメリーおばさまは、友達のような感覚で一緒にイタズラをしかけるような間柄だった。
「エドガー様、お久しぶりです。しばらくクララをお借りしてもいいでしょうか」
「これは義姉上、お久しぶりです。そうですね、退屈しているようですし、よろしくお願いいたします。あと、フィルが女性文官の採用について、またお話を聞きたいと申しています。」
「いつでも歓迎するとお伝えください。
私の通った茨の道に、次の子が通る前に、しょーもない雑草の根っこを引きちぎり種も残らないくらい燃やし尽くすわよ!ホホホ!」
豪気な人である。
でも温かく野蛮ではない。
だからエドガーも信頼している。
ライラの実家であるノッテン家は、善良で努力家で少し考え方がシンプルだ。
だから、ライラはエドガーの心を掴んだしアメリーは前時代的な王宮にとって新しい風となった。
「クララ、お酒はのめないの?」
「まだ飲んだことないの。お父様がダメだって」
「ライラも弱いから無理はしないほうがいいわね。でも、練習はしたほうがいいから、来年辺り『私が』『うっかり』グラスを間違えて渡すわね!誰かと一緒のときじゃないと危ないから、お友達や男性からグラスを受け取ってはダメよ」
「伯母さま大好き~!」
「エドガーさまも過保護ねえ。ライラも免疫が無かったからあんなにすんなり言いくるめられていきなり結婚になったというのに自分の子が同じ目に遭ったらどうするのかしら……」
後半はクララに聞こえないように独り言である。
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