妖精姫は想われたい~兄たちが過保護すぎて困ります

仙桜可律

文字の大きさ
16 / 27

神殿

しおりを挟む
セドリックは神殿に来ていた。儀式の打ち合わせのためだ。
神殿には神官や聖女見習いが生活を共にしている。

セドリックは自分では特に信心深いとは思っていなかった。それでも信仰に身を捧げている彼らを見て尊敬していた。彼らに恥じないような儀式にしたいと思い、自分なりに作法を学んで祈りを捧げている。
騎士として剣を振るうことに誇りはある。
しかし儀式のときは神話の再現のように見せるために舞う。
剣を使わずに済むのならそれに越したことはない。
自分の鍛練は欠かさないけれど、強さを誇るだけの騎士たちに混ざることが面倒になった。

強くあることと強く見えることは違う。
女性から人気があることも。結果的に多くの人から支持されるのは、正しいからだろう。しかし、支持されることを目的にするのは正しいとは限らない。

セドリックは単純な思考回路だと思う。
従兄弟のセグラー兄弟からは脳筋とか単細胞と言われている。
恋愛は複雑なので苦手だ。
それでも、妹の恋はわかりやすかった。幼い頃から妹がずっと懐いていたのはルーベンスだから。
変な男と付き合うよりは安心できる。
二人とも想い合っているのは明らかなのになぜさっさと婚約しないのだろう。
セドリックは神殿の天井を眺めた。
結婚の誓いを神殿ですることも認められている。
若い男女が神殿で話していた。
その初々しい感じと、ルーベンスの様子は違う。
ルーベンスは考えてから行動する。口が先に動くセグラー兄弟や、体を動かすしかない自分とは違う。
軽はずみなことはしない分、弱音も吐かない。
見た目より、ずっと強くてしなやかな蔓のような男だ。

その夜、ルーベンスを訪ねた。

「セドリック……」

顔を見るなり苦い顔。

そんなに圧力をかけているつもりはないのに。
「ルー、お前クララのことが好きだろう」

ここにセグラー兄弟がいたらセドリックの口を押さえただろう。

「……好きだけど」

「そうか、なら良かった」
「えっ、帰るの?それだけ?」

「二人の気持ちがわかればそのうち、なるようになる。わからないのに待つのは癪だっただけだ」

「セドリックは、いつもそうだよね。信じてくれる。それなのにいつも、僕は勇気がなくてごめん」

「そうか?私は多分、そうなるようになるもんだと思っているだけだ。」

「クララは元気?」

「元気だ」

「そっか。会いに行くよ。」

「ああ。うちにも来てくれ」

「エドガー様が怒らないかな」

「多分お前なら大丈夫」

……

「だと思う」

珍しくセドリックが言い直した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...