虐めていた義妹に今さら好きだったなんて言えません

仙桜可律

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ダッフリー領

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 リズは一度ダッフリー領に帰ることになった。
 エリオットが仕事中にため息をつくので周囲も気を使っている。

「もう会えないわけではなく婚約したんだろ。両親と過ごす期間も大事じゃないか」

「わかってる、わかってるけど」

 ダッフリー男爵夫妻が王都にやってきて、リズと感動的な再会をした。男爵にもリズのことを頼まれた。

「良いところを見せようとして、リズリー嬢がダッフリー領に戻りたいというのを許したんだろ」
「余裕のある婚約者だと思われたくて」

 殿下とアランが聞こえるように話している。
 エリオットは今までに恋愛話もなく、二人がどこかの令嬢の話をしていても、興味がなかった。つまらない話をせずに仕事しろと吐き捨てるように言っていたくらいだ。

「地味な意趣返しをしてないで仕事しろ」

 と言いつつ、エリオットの手がすすまない。
 婚約はした。
 同じ屋敷に住んでいる。リズが一旦領地に戻っても良いと思ったのはリズが望んでいたのと、アランが言ったように余裕を見せたいのと、何よりも。
 うっかり気を抜いたら襲ってしまいそうだからだ。

 婚約期間にそうなっても咎められることはないが、できれば避けたい。リズも心の準備が必要だろうから。

 抱擁と挨拶程度のキスはしているがそれは家族のするようなもので。
 エリオットが、理性で押さえている。
 それなのにリズが頬を赤らめたり震えたりするから、エリオットは闘っている。常に。

「リズが可愛すぎて怖い」
「俺はお前の変わりようが怖い。この間の夜会でも……」

 そんなに大きな規模の夜会ではなかった。それでもエリオット達が参加すると聞きつけて参加者が待ち構えていた。

 エリオットのことを狙っていた令嬢たちも来ていた。
 男爵令嬢だなんて、エリオット様と釣り合うわけがない。

 現れた二人を見て、皆が黙った。
 エリオットとリズリーの色は似ている。紺色に銀の刺繍のドレスは夜空のようだった。
 編み上げられた髪には真珠とダイヤモンドが揺れる。
 小さな顔と細い首、華奢な体を支えるようにエリオットが腕を添えている。
 エリオットも紺色で揃えている。
 まるで良くできた一対の神像のような神々しさだった。
 何よりもリズリーを見るエリオットが蕩けそうな笑顔だったから。

 二人で顔を見合わせて頷いたり、小さく笑ったり。

「なんかもう、美しすぎて」
「羨ましいとか悔しいを通り越して、ずっと見ていたい」

 感嘆の囁きがあちこちから聞こえた。

 リズリーをお茶会に招待したいという貴族も多かった。
 フィオナと一緒に幾つかは参加したらしい。
 リズリーは得意ではないが、将来のために頑張ると言っているらしい。

「だけどこんなにリズと離れたくないとは思わなかった」

「あのエリオットが、まさかこうなるとはね」

「リズリー嬢にちゃんと言ってるのか」
「言うわけないでしょう、カッコ悪い」

「カッコ悪いところを見せたって良いじゃないか」

そう言われたが。

リズからはいつも恐れと尊敬の、混じった目を向けられてきた。

「エリオット様にできない事なんてないんでしょうね」

そんな風に言われたこともある。
「そうでもない。リズの前ではいつも余裕がなくて……子供っぽいと笑われそうだが、離れたくない。ダッフリー領まで送ってもいいだろうか」

そういうと、真っ赤になって頷く。ダッフリー夫妻にも申し訳ないが馬車を別にしてもらった。
代わりに途中の宿では親子水入らずで過ごせるように手配した。
馬車の中から町並みを見るのも珍しく、リズの説明を聞いていた。
リズはエリオットの知らないことを教えられるのが嬉しいようだった。
エリオットも新鮮だった。
街の人々の暮らしを見ることが少なかったから。

子供の頃のリズは恥ずかしがりだったが、ダッフリー領の人々とも親しくしているんだろう。途中の街でも店員に気軽に話しかけていた。

エリオットもリズリーも軽装だが、エリオットのほうが街の人に威圧感を与えるようだった。

美しすぎるので皆が見とれている。

夜はリズは夫妻と過ごすので、護衛たちと一緒に街の酒場に行ってみた。なかなか面白かった。
ダッフリー領に到着したら領民が手を振っている。

夫妻もリズも好かれている。

こんなにも好かれているリズを王都に閉じ込めて高位貴族の付き合いをさせて、それだけで良いんだろうか。

リズは、それで辛くないかと少しだけ思ってしまった


バルコニーで酒を飲んでいたらリズがやってきた。

「エリオット様、ここはなにもなくて退屈でしょう」

「自然が豊かで、野菜の味が濃い。星をこんなに見たのは初めてだ。のんびりと酒を飲むのも。良いところだ。リズはここが好きだろう」

「はい。大好きです。温泉もあるんですよ」

「リズは王都の暮らしが辛くなればいつでもここに来ると良い。」

「大丈夫です!私、頑張りますから」

エリオットはリズを抱き締めた。
「頑張って欲しいわけじゃない。リズはそのままでいい。慣れないことも多いだろうけど、私がもう、リズなしで生きていく想像ができない」

「エリオットさま」

「だから、もう離してやれない。すまない」

強く力を込めてしまって、リズが身じろぎしたので、体を少しだけ離してそっと覗くと

リズが涙目で見上げてきた

「すまない、苦しかったか」

「そうじゃなくて、エリオット様、大好きです」

エリオットは身を屈めて、リズにキスをした。
家族ではなく、蕩けるような恋人の瞳で。

精一杯応じようとするリズに理性を試されながら、とどまった。

    
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