6 / 9
6.
しおりを挟む
カトリーヌが目を覚ますと、隣には誰もいなかった。
もうベッドの半分は冷たくなっていて、夢だったのかと思うほど。
また、いなくなった。
「嘘つき!」
ベッドの上で膝をかかえてぼんやりしていた。
あんな人を待ってたなんて、信じられない。
……自分が。
よく考えれば好きじゃなかったかも。心が弱ってたんだ。昨日だって、結局何も言われてないし。
「……サイテー」
ドアが開いた。
「……悪かった」
「あ……」
ジオスが戻ってきた。
「昔、食堂で夜勤明けの奴のためにパンとスープが置いてあったのを思い出して。
どさくさに紛れていけるかなと思ってもらってきた」
「……ありがと」
聞かれていただろうから、気まずい。
「じゃあ、俺帰るわ。」
「えっ」
「……悪かったな。酔ってるところに調子にのった。ごめん。わかってるから」
「待って」
「あんたは罪悪感なんか持つな。
元気で」
するっと頬を撫でて、ジオスは出ていった。
あまりの素早さに、服をつかむことも出来なかった。
ジオスは、食事を取りに行ってくれていて
私は、
「サイテー」
って言ってて。
それを聞いたジオスは、表情を硬くして。
でも、このまま追いかけてもなんと言っていいかわからない。
好き、と言ってしまっていいのかわからない。
違う。
本当は、好きと言って欲しかった。私だけに優しい人でいて欲しかった。
そうしたら、安心して好きになれるのに。
なんて、自分勝手なんだろう。
膝をかかえて泣いた。
テーブルに置いたままの2つのスープが、冷えてしまっていた。
それでも。
戻れないし、始まってもいない。
二時間ほどたって、のろのろと食器を片付けようとした。
ベッドサイドの棚に白い容器が見えた。
あれ、こんなところに置いたっけ。
ハンドクリームの容器。
最後のを大事に使っていたから、引き出しに入れているはず。
手に取ると、新品だった。
また涙が溢れてくる。
なんで、こんなに自分勝手な女に優しくするのよ。
容器の側面にラベルがあって、文字が。
『君がひとりで泣いてませんように』
なに、これ。
テーブルの上にも容器が
『私の代わりにあの人を守って』
窓枠にも一つ
『頑張りすぎてない?』
三つの容器を手のひらに置いて、また泣いた。
これは、印刷されたラベルでジオスの手書きではない。それでも。
ハンドクリームはジオスが作ったものだ。少しずつ香りの配合や滑らかさが違う。
一年間、クリームを使う度にジオスを思い出していた。
守ってくれたのは手荒れだけじゃない。仕事に誇りをもてた。
「これ、売ってるのかな」
副団長が言ってた。ジオスは城下で働いてるって。
だったら。
泣いてる場合じゃない。
もうベッドの半分は冷たくなっていて、夢だったのかと思うほど。
また、いなくなった。
「嘘つき!」
ベッドの上で膝をかかえてぼんやりしていた。
あんな人を待ってたなんて、信じられない。
……自分が。
よく考えれば好きじゃなかったかも。心が弱ってたんだ。昨日だって、結局何も言われてないし。
「……サイテー」
ドアが開いた。
「……悪かった」
「あ……」
ジオスが戻ってきた。
「昔、食堂で夜勤明けの奴のためにパンとスープが置いてあったのを思い出して。
どさくさに紛れていけるかなと思ってもらってきた」
「……ありがと」
聞かれていただろうから、気まずい。
「じゃあ、俺帰るわ。」
「えっ」
「……悪かったな。酔ってるところに調子にのった。ごめん。わかってるから」
「待って」
「あんたは罪悪感なんか持つな。
元気で」
するっと頬を撫でて、ジオスは出ていった。
あまりの素早さに、服をつかむことも出来なかった。
ジオスは、食事を取りに行ってくれていて
私は、
「サイテー」
って言ってて。
それを聞いたジオスは、表情を硬くして。
でも、このまま追いかけてもなんと言っていいかわからない。
好き、と言ってしまっていいのかわからない。
違う。
本当は、好きと言って欲しかった。私だけに優しい人でいて欲しかった。
そうしたら、安心して好きになれるのに。
なんて、自分勝手なんだろう。
膝をかかえて泣いた。
テーブルに置いたままの2つのスープが、冷えてしまっていた。
それでも。
戻れないし、始まってもいない。
二時間ほどたって、のろのろと食器を片付けようとした。
ベッドサイドの棚に白い容器が見えた。
あれ、こんなところに置いたっけ。
ハンドクリームの容器。
最後のを大事に使っていたから、引き出しに入れているはず。
手に取ると、新品だった。
また涙が溢れてくる。
なんで、こんなに自分勝手な女に優しくするのよ。
容器の側面にラベルがあって、文字が。
『君がひとりで泣いてませんように』
なに、これ。
テーブルの上にも容器が
『私の代わりにあの人を守って』
窓枠にも一つ
『頑張りすぎてない?』
三つの容器を手のひらに置いて、また泣いた。
これは、印刷されたラベルでジオスの手書きではない。それでも。
ハンドクリームはジオスが作ったものだ。少しずつ香りの配合や滑らかさが違う。
一年間、クリームを使う度にジオスを思い出していた。
守ってくれたのは手荒れだけじゃない。仕事に誇りをもてた。
「これ、売ってるのかな」
副団長が言ってた。ジオスは城下で働いてるって。
だったら。
泣いてる場合じゃない。
1
あなたにおすすめの小説
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました
ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。
夫は婚約前から病弱だった。
王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に
私を指名した。
本当は私にはお慕いする人がいた。
だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって
彼は高嶺の花。
しかも王家からの打診を断る自由などなかった。
実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。
* 作り話です。
* 完結保証つき。
* R18
私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました
ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。
ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。
それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の
始まりでしかなかった。
【完結】 君を愛せないと言われたので「あーそーですか」とやり過ごしてみたら執着されたんですが!?
紬あおい
恋愛
誰が見ても家格の釣り合わない婚約者同士。
「君を愛せない」と宣言されたので、適当に「あーそーですか」とやり過ごしてみたら…?
眉目秀麗な筈のレリウスが、実は執着溺愛男子で、あまりのギャップに気持ちが追い付かない平凡なリリンス。
そんな2人が心を通わせ、無事に結婚出来るのか?
冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者
月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで……
誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
真面目な王子様と私の話
谷絵 ちぐり
恋愛
婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。
小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。
真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。
※Rシーンはあっさりです。
※別サイトにも掲載しています。
【完結】 初恋を終わらせたら、何故か攫われて溺愛されました
紬あおい
恋愛
姉の恋人に片思いをして10年目。
突然の婚約発表で、自分だけが知らなかった事実を突き付けられたサラーシュ。
悲しむ間もなく攫われて、溺愛されるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる