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第1話 婚約…はき…?
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「マリア嬢、あなたとの婚約を破棄させていただきたい」
土曜日の夕暮れ時。
ナイズリー侯爵邸の応接間にて、入室するなりご嫡男のロラン様にそう告げられた。
「……婚約……はき……?」
ロラン様はその琥珀色の瞳で刺すような視線で私を見てくるけれど、告げられた言葉の意味を飲み込むことができずにいる。
そもそも婚約はきって……何だったかしら……? はき……。
「あの……」
「質問は受け付けていない。あなたには身に覚えが無いとは言わせない」
「? は、はあ」
質問を受け付けていないのなら、どうしようかしら……。
そもそもロラン様とは、三年前の私が十六歳の頃に、両家の親同士の判断で婚約を結んだのだ。
男爵家の次女である私が、侯爵家のご嫡男のロラン様と婚約を結ぶことが決まった時は、それはもう驚いたし同時に重圧感も持った。
というのも、幼き頃から特別な教育を施されたことがない私に次期侯爵夫人が務まるのかと、日々不安に駆られたからだ。
けれど、それを乗り越えるためにも、次期侯爵夫人としての立ち振る舞いや知識を身につけるべく、これまで家庭教師をつけてもらって毎日励んできた。
その甲斐もあり、最近ではようやく自信も付いてきたところだったのだけれど、……まさかロラン様から婚約はきを告げられるなんて……。
けれど、婚約はきって、……本当に何のことだったかしら……。思い出そうとすると何故か酷い眩暈がして思考が働かないのよね……。
「ロラン様」
「何だ」
「その、とてもお恥ずかしいのですが……」
「罪を認めるのか。そうであれば罪を認めたと書類をしたためた上で、情状酌量の余地を与えないこともない」
「情状酌量の余地ですか?」
情状酌量の余地といえば、自分の罪を軽くしてくれることだけれど、……それにしても、どうして私は情状酌量の余地の意味は分かるのに、「婚約はき」は思い至れないのかしら……。
ともかく、意味も分からないまま承諾をするわけにもいかないわ。
「罪と言われましても、私には何のことかさっぱり分からないのです」
「何、分からないだと……⁉︎」
今にも食ってかかりそうな勢いで立ち上がって詰め寄ったロラン様に、両肩を掴まれた。
「い、痛いです、ロラン様」
「すまない」
ロラン様は慌てて私を掴んでいる肩から、手を離した。
普段はとても冷静な方だから、このような行動はこれまで一度も無かったので、呆気に取られてしまった。
「い、いえ……」
私が痛いと訴えたら動揺はしたようだけれど、……だからと言って不当に私を追求したことについて、このまま何も言わないというわけにはいかないわ。
そうよ、これまではただ理不尽に追求されてばかりだったけれど、こちらからも何かを持ちかけるべきだわ。
そうね、まずはロラン様の追求の真意を知るべきね。
「ロラン様は、私が何かロラン様に対して裏切るようなことを行ったのだと、そうお考えになられているのですか?」
「無論そうだが、……まさか自覚が無かったのか⁉︎」
「自覚も何も、私には全く身に覚えのないことです。ロラン様の勘違いなのではないのでしょうか」
ロラン様の瞳の奥の冷気が、少しだけ和らいだように見える。
それから小さく咳払いをすると、私に対して正面のソファにかけ直した。
「……冷静になって、話し合う必要があるな」
私は最初から冷静だったのに、そちらが一方的に激怒しはじめたのですけどね……!
土曜日の夕暮れ時。
ナイズリー侯爵邸の応接間にて、入室するなりご嫡男のロラン様にそう告げられた。
「……婚約……はき……?」
ロラン様はその琥珀色の瞳で刺すような視線で私を見てくるけれど、告げられた言葉の意味を飲み込むことができずにいる。
そもそも婚約はきって……何だったかしら……? はき……。
「あの……」
「質問は受け付けていない。あなたには身に覚えが無いとは言わせない」
「? は、はあ」
質問を受け付けていないのなら、どうしようかしら……。
そもそもロラン様とは、三年前の私が十六歳の頃に、両家の親同士の判断で婚約を結んだのだ。
男爵家の次女である私が、侯爵家のご嫡男のロラン様と婚約を結ぶことが決まった時は、それはもう驚いたし同時に重圧感も持った。
というのも、幼き頃から特別な教育を施されたことがない私に次期侯爵夫人が務まるのかと、日々不安に駆られたからだ。
けれど、それを乗り越えるためにも、次期侯爵夫人としての立ち振る舞いや知識を身につけるべく、これまで家庭教師をつけてもらって毎日励んできた。
その甲斐もあり、最近ではようやく自信も付いてきたところだったのだけれど、……まさかロラン様から婚約はきを告げられるなんて……。
けれど、婚約はきって、……本当に何のことだったかしら……。思い出そうとすると何故か酷い眩暈がして思考が働かないのよね……。
「ロラン様」
「何だ」
「その、とてもお恥ずかしいのですが……」
「罪を認めるのか。そうであれば罪を認めたと書類をしたためた上で、情状酌量の余地を与えないこともない」
「情状酌量の余地ですか?」
情状酌量の余地といえば、自分の罪を軽くしてくれることだけれど、……それにしても、どうして私は情状酌量の余地の意味は分かるのに、「婚約はき」は思い至れないのかしら……。
ともかく、意味も分からないまま承諾をするわけにもいかないわ。
「罪と言われましても、私には何のことかさっぱり分からないのです」
「何、分からないだと……⁉︎」
今にも食ってかかりそうな勢いで立ち上がって詰め寄ったロラン様に、両肩を掴まれた。
「い、痛いです、ロラン様」
「すまない」
ロラン様は慌てて私を掴んでいる肩から、手を離した。
普段はとても冷静な方だから、このような行動はこれまで一度も無かったので、呆気に取られてしまった。
「い、いえ……」
私が痛いと訴えたら動揺はしたようだけれど、……だからと言って不当に私を追求したことについて、このまま何も言わないというわけにはいかないわ。
そうよ、これまではただ理不尽に追求されてばかりだったけれど、こちらからも何かを持ちかけるべきだわ。
そうね、まずはロラン様の追求の真意を知るべきね。
「ロラン様は、私が何かロラン様に対して裏切るようなことを行ったのだと、そうお考えになられているのですか?」
「無論そうだが、……まさか自覚が無かったのか⁉︎」
「自覚も何も、私には全く身に覚えのないことです。ロラン様の勘違いなのではないのでしょうか」
ロラン様の瞳の奥の冷気が、少しだけ和らいだように見える。
それから小さく咳払いをすると、私に対して正面のソファにかけ直した。
「……冷静になって、話し合う必要があるな」
私は最初から冷静だったのに、そちらが一方的に激怒しはじめたのですけどね……!
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