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第二章 〜水晶使いの成長〜
第17話 拳で語り合え!
しおりを挟む「──ねぇ、ねぇってば」
男とも女ともつかない中性的な声が聞こえてきた。
周りにはオレの他に誰もいなかったし、うるさいから聴力強化はオフにしてある。
よって、これはオレに話しかけている、と結論付けられる。
ただ、念の為、振り向くだけにしておこう。
──数年前、王都にある教会。
そこの最奥にある部屋。
そこには、錆びついた棒が七本刺さっていた。そして、その内の1本が淡い光を放っていた。
「きょ、教皇様! こ、ここ、これは一体?」
「はて……なんじゃろうか」
よく見ると、小刻みに震えている。
やがて落ち着き、光も消えた。
「一体、なんだったんでしょう」
「わからぬ。そもそも、これらがなぜここにあるのかも全く伝わっておらん。抜こうとしても、抜けないしの」
この直後、ある村で、一人の少年が目覚めた。
……え?
声をかけられた。だから、振り向いた。
途端、辺りが真っ暗になった。いや、この空間にオレだけが引きずり込まれたのだ。
そして目の前には、光る人魂がある。
「やっと繋がれたよ~。ようやく適合者を見つけたと思ったら、『道』が開かれてないんだもん。いや~、まいったまいった」
……なんだ……これは。
「偶然、一瞬だけ開いたから、ようやくやってこれたよ。や! はじめまして」
「あ……はい、はじめまして……?」
え~。なに、これ。まじでなんなんだ?
「いや~、人と話すの初めてだからな、緊張するな~。やっぱり、まだまだ不完全だな」
「不完全……? 何がだ?」
「あぁ、僕のことだよ。いや、僕たちの間だね」
何を言ってるんだ? 全然わからん……。
「そんなことより、お前は何なんだ?」
「う~ん、力、とでも言えばいいかな。ま、いずれわかるよ。おっと、もう時間が……。それじゃね、もうこうやって話すことはないから。ばいばい」
「ちょっ……! え……?」
元通りの光景が目の前に広がっていた。
オレが振り向く前の状態だ。
なんだったんだ、さっきの……。力、とか言ってたが、意味がわからん。
とりあえず、もう話すことはないって言ってたんだし、忘れよう。うん、それがいい。
まだ50分以上あるな。
暇だな~~。
その時、放送がかかった。
『あ、あー。私は校長のへパイル・ムースだ。さて、新入生諸君、合格おめでとう。2時より、服の採寸、クラス発表、寮の部屋割りなどを行う。それまで、親交を深めていたまえ。親交を深めるためには、何をしても構わん。以上だ』
放送が切れた。それと同時に、扉が全て閉められた。
外にいた係員の仕業だろうな。
放送の声の主の声質はおじいちゃんだったが、声には力強さを感じた。
何をしても……か。よくある展開だからな、目に見えてるよ。
「おらぁ!」
「おぉ!」
「あ゙ぁ!!」
ほらね、勝負が始まった。はぁ……。魔力探知と聴覚強化を発動させておこうか。
「……おい、あそこに一人で突っ立ってる奴がいるぞ。試してみようぜ」
「いいね」
はぁ……。
思いっきり聞こえてんだよ。
ま、聴覚だけを強化って器用な真似、今の状態でできるやつは少ないらしいしな。
ほぅ……。
やはり左右に別れて来るか。音で丸聞こえだけどな。
……ようやく真後ろまで来たか。
よし、来るな。身体強化を発動して2人の後ろに回り込む。魔法を使うまでもないな。
──瞬時に2人を吹き飛ばしてやった。
2人は、身体強化を発動させ、地面を強く蹴ってからこちらに向かってきていた。
確かに足音は出ないが、風切り音がした。姿勢がなってなかったな。
それに、そのスピードに乗りすぎていたのも、敗因か。
簡単に後ろが取れた。
あ……。吹き飛ばして、何人か巻き添えにしちゃった。
でも、こっちに戻って来たのはさっきの2人だけだ。
「いいネ! 俺はゴースだ」
「僕はミル」
ゴースは短く刈り揃えた赤髪で、クラスの人気者の顔だ。……どんな顔だ!
ミルは茶髪で、天パ。おっとりしていそうな顔つきだ。
親交を深めるのが目的だもんな。名前を名乗るのは当たり前か。
「オレはラインだ。よろしくな」
「「よろしく」」
ちゃんとしてるな、この2人。
「なぁ、真剣に、本気でやらないか?」
「オレは構わねぇぞ?」
「怪我しても恨みっこなし。」
ふむ……。
この2人が相手なら、
「2対1でいいぞ」
「え、いや……それは……」
「僕は構わない。言い出しっぺはライン」
ミルは話がわかるな! オレはそう言う奴好きだぞ。
「ミルがそう言うならしゃあねぇ。行くぞ、ライン!」
「どこからでも、どうぞ」
はっきり言って、負ける気がしない。
肉弾戦で負けなかった。それに、いざとなれば得意な魔法がある。
改めて魔力探知を発動させたが、2人とも魔法は使えないようだな。
「それじゃ、いくぞ? ライン」
「どこからでもどうぞ」
「ゴース、行こう!」
ミルが先頭、それに続く形でゴースか。
──それだけならよかった。
何人か、こっちを狙ってるんだよな。
オレは体育館の壁際に立ってるから、こっちを狙ってる奴は視線でなんとなくわかる。
軽く10人ほど……か。
オレだけならともかく、あの2人は襲われたらひとたまりもないだろう。
襲ってくるようなら、戦いながら『晶弾』で攻撃するか。
ミルがオレの横に回り込んで飛び膝蹴り、ゴースが右ストレート。
どちらもオレの顔を狙ってる。
2人して同じ箇所を狙うとは……。仲がいいのはわかったけど、よくないな。
しゃがんで2人の攻撃を避け、ミルの左足を掴んでぐるぐる回して、ゴースに向けて投げ捨てる。
「おわわわ!」
おー。2人して吹っ飛んでいった。
さて、後ろにいる奴らを始末しますか。オレがミルを投げ飛ばしたあと、後ろに回り込んでオレを攻撃しようとしてきた。
この数は……、少し利用させてもらおうかな。
どうせ、魔法は使えないと思っているんだろう。なになに……? 作戦会議か?
「魔法は初級の4つで、それに続いて私たちが攻撃する。行くわよ!」
小声で話してるとこすみません。丸聞こえです。
やれやれ。殺傷能力を低くした『晶棘』で迎え撃つか。
動き出したことだし、振り返ってもいいよな。
魔法に続いて……って聞こえたんだが、続けれてないぞ。
先に魔法を……いや、手の内はあまりさらさないほうがいいかな。避けるか。
オレも走り出し、必要最大限の動きで避けた。あえて、だ。
近接型は6人か。6人に向け、『晶棘』を放った。
「「うげ!」」
「「うぐ!」」
全て、腹を狙った。
男なら、股以外ならどこでもよかったが、全員女だったからな。顔はまずい。
まぁ、多少勢いをつけたから痛いかもな。何より、本来『晶棘』は刺突の魔法だ。
先を丸めただけだから、鍾乳石みたいになった。
さて、後ろの4人も一発くらわせとくか。『晶弾』でいいかな。
ほいっと。
少し速度を落として、威力は強めのデコピンだ!
「いてて……」
お、女戦士6人、立ち上がったか。後ろの魔術師たちは……起き上がれないはずがないな。
デコピンしただけのようなものだし。
ミルとゴースも起き上がったな。
「おいおい、ライン。お前、魔法も使えたのかよ」
「属性特化型だけどな」
「なるほど、これが自信の正体か。にしても、属性特化型にしても、才能あるんじゃないのか?」
ふっふっふ……。あ、女たちもこっちにやって来た。
「さっきはどーも。私はロイズ。よろしく、ライン」
「あぁ、こちらこそ、よろしく」
会話を聞かれていたか。
「あれ、他の8人は? 一緒に戦ってただろ」
「いや、ラインを狙ってたから共闘した。と言うより、共闘させられた」
あらら。そりゃ、2対8じゃあな。
「で、そっちは?」
「私はノヨです。よ、よろしく」
「あぁ、よろしく」
どちらも金髪だな。
ただ、ロイズは長髪だが、ノヨは肩まで。瞳は、ロイズが黒で、ノヨが青。
「ライン、そっちの2人も紹介してほしい」
「ああ、そうだな。こっちがゴース、んでこっちがミルだ。ついさっき、戦いを挑まれてな」
「ゴースだ、よろしくな」
「ミルだ、よろしく」
「「よろしく~」」
思いがけず親交が深まったな。誰かとは同じクラスになれるだろう。4クラスあるんだ。
あれ、オレ抜きでなんかコソコソ話してる。聞いてやろうと思ったら、急にこちらを向いて、
「「覚悟!!」」
と言って襲われた。
「お前一人だけ無傷ってのは、後味悪いからな」
「僕たち4人なら、勝てるんじゃないかってローズが……」
「お腹の痛み、思い知らせてやる!!」
「右に同意」
え~。それが勝負だろうがよ。いや、それならこれも仕返しで勝負か。
なら、反撃オーケー?
無傷で乗り切った。今回は水晶も使ったからな。少し危なかったけど。
オレはほぼ毎日、修行をしてたからな。さすがに、風邪をひいた時はやらなかったけど。
アミリスさんがウイルスを殺してくれるけど、体力が削られるから、2、3日は安静にする必要があるからな。
それに、知り合ったばかりだからチームワークもなってなかったしな。
ちなみに、ロイズはオレの一撃で腹を下しており、トイレに直行したのは余談である。
ロイズが戻ってきた時にはすでに時刻は13時56分。
──そして、14時になった。
「──ふぅ~~。これで少しは『道』が広がったかな? あとは、覚醒さえしてくれたら、完全に……。ふふ」
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