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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第109話 鎌鼬②
こいつは間違いなくやばい。
だが、増援を呼ぶわけにはいかない。こいつは魔法を使える。
それも、聞いたことのない風の魔法を。
オリジナル魔法の可能性が高い。つまり、風の属性特化型。
それか、魔法の研究で得たか。
ただ、詠唱を必要としている以上、その名前からなんとなく判断するしかない。
……さて、これで仕切り直しか。
『――『風砲』』
咄嗟に身を捻らせ、間一髪で避けた。
風属性の中級魔法……だよな? そのはずだ。
だがこれは……桁違いのスピードだ。
「――『晶拳』」
反撃とばかりに、『晶拳』を放つ。
『――『風砲』』
2つの魔法は互いに打ち消し合った。
オレの『晶拳』と『風砲』がイコールで結ばれるのかよ。普通の『風砲』は太刀打ちできなかったのに。
こいつはやばい。
戦場に立っても――【放浪者】や騎士団長らがいたとしても、都市を滅ぼすことはできるだろう。
どうするか……。
魔法の相性は良くも悪くもない。接近戦は相手の手札が見えないが……。
近衛騎士ですら一撃で仕留める方法をこいつが持っている以上、下手に手を出せない。
それに、ここは住宅街。規模の大きい魔法は使えない。
そのとき、『通話』が入った。
『【水晶使い】様、周辺住民の避難、完了しました』
『範囲は?』
『王城付近までです』
『そうか。よくやった!』
『通話』を切り、もう一度人斬りを見据える。
あの場所からほとんど動いていない。だが、せめてこいつは都市から追い出したい。
『……なあ、なぜそこまで一生懸命になる?』
「……どういうことだ?」
『住民を避難させていたようだが、お前に関係はないだろう? 俺がこの都市を襲っているのもそうだ。まあ、今日で終わりなんだが』
なるほど……たしかに、助ける義理はない。
「お前ら魔物連合は滅ぼす敵である。それだけだ」
そう。魔物連合が存在する限り、ゴース、ミル、ノヨ、ロイズ、リーインのような犠牲は絶えない。
『……俺たちが殺さずとも、別の要因で死んでいたかもしれない。いや、命ある者誰しもいつかは死ぬ』
「……何が言いたい?」
『仇討ちなど、無駄な足掻きだと言っている』
こいつの言っていることは正しい。
それに、リーインの仇は実質、取っている。
その仇を魔物連合という大きな枠組みに括り付けているのはオレ自身の身勝手だ。
「無駄じゃないかもしれないぞ?」
『いいや、無駄だ。勝利を手にするのは我らが魔物連合だ。結果を見ろ。無駄な足掻きとなる』
よっぽど自分に……自分たちの力に自信を持っているようだ。
「……降参しろと言いたいのか?」
『まさか。ただお前の戦う理由を聞きたかっただけだ』
「ああ、理由といえばもう一つ。…………楽しいから」
仇討ち云々以前に、オレは戦いを楽しんでいる。
「――『隕晶』」
上空に巨大な水晶の塊を出現させ、重力に任せて人斬りの上に落とす。
周辺の建築物に気を使う必要がないなら、本気を出せる。建築物は壊れるだろうけど。
壊れたら? 責任取らねえよ。
責任を追及されたら……未来のオレに丸投げだ。
『――『風盾』!!』
人斬りの上空に渦巻く風の盾が出現した。
だが、『隕晶』はかなりの質量だ。そのせいか、上空に注意が向いてしまうようだ。
その隙に接近し、居合斬りを放つ。『剛撃』と『重撃』を発動させている。
――ガキンッ……!
「な!?」
空いている左手の先と刀がぶつかり、硬質な音を立てる。
そして、その先……刀とぶつかっているところにあるのは――爪だった。
肘を捲り上げたため、肘まで見える。
その下は、毛皮で覆われていた。そして、人差し指の爪だけが異様に長い。他の爪は人より長いが、一般の獣と同じ長さだ。
「お前は……なんだ……?」
『重撃』の持つ吹き飛ばし効果が無効化――流された。
フードの下を見るため、『晶弾』を飛ばし、フードを外させた。
その下にあったのは、狐のような顔。
狐……長い爪……人斬り……。
オレの脳裏に、ある一体の妖怪が思い浮かんだ。
風とともに現れ、痛みを伴わない傷をつけさせる妖怪。
そう。その妖怪の名前は――
「……鎌鼬……」
『!? ……我も有名になったものだな』
「残念ながら、知っているのはオレだけ……」
……有名になったものだ? こいつは影で、この都市で動いてきた魔物だ。
それが有名に――表に出てくるはずがない。
ここから導き出される結論はただ一つ。
「――封印か!!」
封印前はさぞ派手に暴れまわっていたのだろう。
封印されるレベルだった。最低でも魔狼級はあると見るべきだろう。
いや、魔狼が最強級の可能性も……いや、脳がやられてたからな。物差しにならないな。
『そう、我は長い間封印されていた。だが、我らが盟主により復活を遂げた。この恩に報いるため! なにより、あの方の強さに惹かれた! だからここでお前を!』
そう言うと、『隕晶』が砕け散った。
防御するだけじゃないのかよ。
そして何よりだ。
こいつが認める強さってどんなだよ……。正直、今のオレでは連合盟主に勝ち目はないな。
神器の覚醒を待つべきだな。だが、そう長い時間待つことはできない。
落ち着いて焦る……。オレは何を言っているんだ? 焦っているな。落ち着け。
こいつに勝つにはどうする?
水晶は風魔法で砕かれる。攻撃はあの異様な爪で捌かれる。
打つ手なしか? ……まさか。
神器の覚醒には期待しない。捕らぬ狸の皮算用にはしない。
なにか、相手の意表を突くことができればもしかしたら……。
ただ、どうすればいいのか……。
『――『風砲』!』
思考中にも関わらず、魔法が飛んできた。
この程度、少し首を傾ければ――
『破!!』
――バンッ!!
顔の横を『風砲』が通った瞬間、『風砲』が爆発した。
その衝撃で、オレは横向きに吹き飛ばされた。
今の攻撃でオレは一つ、確信を得た。
こいつは、風の属性特化型だ。
放った魔法をコントロールできるのは、属性特化型の専売特許だ。
修練を積めば――属性特化型であれば――誰でもできるのだろうが、できる人は少ない。
少なくとも、オレ以外の人がやっているのを見るのは初めてだ。
鼓膜は……無事だな。
雨足も強くなってきた。今何時だろ?
『どうした、万策尽きたようだな』
こいつ、だんだんお喋りになってきたな。
「……本当に、そう見えるのか?」
『何……?』
「本当に、詰みの状況なのかって聞いてんだよ!」
その瞬間、オレは鎌鼬に向けて走り出し、攻撃を……すると見せかけ、跳んで背後に降り立つ。
そのまま後ろ蹴りを食らわせる。
『ぐっ……』
完全に迎え撃つ構えに入っていた鎌鼬は反応が遅れ、もろに攻撃を受け、吹き飛んでいった。
だが、空中で体勢を整え、着地。
入ったダメージは蹴りによる軽いもののみ。
だが、オレはちゃんと予測済みだ。
鎌鼬の着地に合わせ、『音砲』を放つ。
一点集中型ではなく、当てることを目的とした広範囲型だ。その分、威力は桁違いに落ちる。
だが、脳震盪を起こす最低ラインは残している。こいつが脳震盪を起こしてくれるかはわからないが。
だが、その心配は杞憂に終わった。
『……ッ!』
鎌鼬に、一瞬の隙が生まれる。
その隙に付け入り、距離を詰め、ハルバードを振り下ろ――
『――『台風目』』
鎌鼬を中心に突風が吹き荒れ、吹き飛ばされる。
オレの『晶弾』を吹き飛ばしたのと同じ技のはずだが……中心に近づくにつれ、風速が増す魔法なのか?
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