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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第110話 鎌鼬③
しおりを挟む中心に近づくにつれ、速くなる、全方向型防御魔法『台風目』。
オレも吹き飛ばすほどの威力。
これを食い破らない限り、オレの勝機はかなり少なくなる。
一度放つのに多大な魔力を使用するのであれば話は別だったが、疲れは見えない。
さらに、こいつの魔法レベルもかなり高い。
魔力探知で見てみた。こいつは近衛騎士の隊長よりもある。【魔導士】には遠く及ばないのは不幸中の幸いか。
こうなったら……。
オレは体の周りに大量に『晶弾』を生成しながら距離を詰めた。
鎌鼬の背後には、『晶装・槍』を4本生成し、矛先を鎌鼬に向ける。
『――『台風目』』
「――『魔法排除』」
一点集中型にした『魔法排除』で『台風目』に穴を開ける。
これは貫通型の魔法。つまり、開いたのは2か所。もちろん、その途中で鎌鼬も貫通する。
その隙間に『晶弾・龍』と『晶装・槍』を潜り込ませる。
鎌鼬との距離はほぼゼロ。
鎌鼬は防御が間に合わず、ほとんどの攻撃をその身に受けた。
『ぐっ……!』
背中には『風盾』を展開していた。
そう言えば、風の盾って普通、『風盾』だったよな?
呼び方が違うだけなのか、それとも別の効果が隠れているのか……。
属性特化型だから、呼び方が適当ってのもあるか……。
属性特化って、そういうところ面倒だよな。
術者がその魔法を認識していれば名称は適当でも発動できるんだし。
大抵の場合、心の奥底に常識として一般名称がこびり付いているせいで上手く発動できないらしいが。
それにしても、このコンボでこの程度のダメージか……。
これ以上穴を大きくしようとすれば、まず『台風目』を破れるかどうか怪しくなってくる。
この攻撃――『魔法排除』と『音砲』は波の攻撃だ。
前者は魔力に波を、後者は空気に波を起こす。
ゆえに、それらを大きく乱す風とは相性があまりよろしくない。
風は空気中の粒子の運動を活性化させることで起こる。
つまり、同じく粒子に運動を引き起こさせる波に対する最高の盾ということだ。
それに、『魔法排除』自体のダメージも少なかった。
これは純粋に、鎌鼬が物質の体だからだ。
『姑息な手を使いおって……。この俺の魔法に穴を開けるとは……』
何が姑息だ。これは命の奪い合い。勝者が勝者だ。
『――『竜巻拳』』
魔法の発動と同時に、鎌鼬の天に向けた右腕に風が纏わりつく。その風は次第に大きく、長くなり……。
――竜巻が生じた。
そして更に、
『――『飛撃』』
空いた左手の爪から『飛撃』を複数、竜巻に向けて飛ばし、竜巻がそれらを取り込む。
そして右腕を思いっきり振り下ろし――
「――『晶殻』!」
その前に、オレは『台風目』と同じ、全方向型防御魔法を展開した。
『台風目』との相違点は二つ。
その場に残り続けること。そして何より、硬いこと。
範囲はオレを中心に半径3メートルほど。
が、十分すぎる。少なくないダメージを受けてはいるが、耐えきれそうだ。
鎌鼬のいる方向の壁は若干怪しいと感じなくもないが、その場合は『晶盾』を生成すればいいだけだ。
威力だけで見れば、騎士団祭で【魔導士】の放った『竜巻』に匹敵するかそれ以上だろう。が、用途が違うからな……。
【魔導士】は足止め用として使用し、鎌鼬は攻撃用として使用している。
そして、風が止んだ。
だが、魔法は解除しない。すぐ向こうで待ち構えられている可能性が非常に高いからだ。
なら、どうすればいいのか。
鎌鼬が『晶殻』を破壊するならそれでよし。
だがおそらく、破壊はしてこず、オレが出てくるのを待つだろう。いや、そもそも文字通り殻にこもったオレに構わず、別の誰かを殺しに行くかもしれない。
あいつの目的はこの都市の崩壊。オレのような部外者に構う必要はないはずだ。
つまり、こうすればいい。
『晶殻』が格子状になるように、部分的に水晶を削る。『晶檻』だ。
昔は『晶殻』も『晶檻』だったんだけどな。
案の定、すぐ向こう側に鎌鼬《かまいたち》がいた。
唯一、誤算だったのは鎌鼬《かまいたち》が『晶殻』を破壊しようとしていたこと。
しかも、攻撃の発動寸前という悲劇!
『晶殻』よりも防御力の落ちた『晶檻』では……『晶殻』のままでも耐えきれなかっただろう。
魔法ごとオレを仕留めるつもりだったのか、チャージが必要な大技だ。
『――『竜巻槍』!!』
鎌鼬《かまいたち》の指先から、極細の竜巻が迫る。『晶檻』の隙間は狙わず、格子に当たっていたが、一瞬でもがれた。
幸い、横に跳び、避けることに成功した。間一髪だったが。
――だが、攻撃はそれで終わりではなかった。
鎌鼬が指を動かすのにつれ、『竜巻槍』もオレを追いかけるように動いたのだ。
極細であるから、すれすれでも避けられればこちらのものだが……。指先一つで動かされるのは面倒だ。
たったの1度でも角度が大きくなるだけでも、距離が離れるにつれ、動く量が増える。
つまり、距離を取るのは愚策。だがその分、避けるのが易しくなる。
この魔法自体が貫通攻撃のため、防御魔法も役に立つかどうか……。少なくとも、今のオレじゃ、紙切れも同然の扱いだろうな。
しかし、勝算はある。
追撃がこない。それはつまり、この魔法に集中力の大半を持っていかれているせいだ。
そして二つ目の根拠。チャージ型の魔法は威力こそ高いが、消費魔力が多い。イコール、維持魔力も多いということだ。
さらに三つ目。既に述べた二つと重なるが、見た感じ、この魔法に向ける集中力は半端じゃ無い。少しでも崩したら魔法は消える。
つまり、どうにかして攻撃を加えて集中力を乱させる必要があるが、勝手に消耗してくれている以上、すぐに解除させるのはもったいない。
……ということだ。
さて、この『竜巻槍』。射程はおおよそ15メートル弱。まだ伸ばすことはできるかもしれない。
おかげで、周辺の家が一部倒壊状態だ。多分、部屋の中の方が惨事だ。この貫通魔法のおかげでな。
こうして考えている間も避け続けているが、かすり傷が増えてきた。体力もそこそこ消費している。
このままだと消耗戦だな……。
集中力をいつ、乱させるかが問題だ。
…………チッ! 風が舞って鎌鼬の顔をフードが覆いやがった。これじゃあ見えないじゃないか!
ええい! やってやれ!!
横に振るわれた『竜巻槍』をしゃがんで避け、『晶弾・龍』を三方向から挟み込むように放つ。
もちろん、その程度じゃ魔法を消させるまではいかないだろう。だが、これならどうだ?
「――破っ!」
突如、『晶弾』がすべて爆発した。だが、破片は鎌鼬の横を通り過ぎる。
当たらない攻撃だ。攻撃と認識すれば、無意識に対処方法を考える。
だが、当たる攻撃を敢えて当てないことで、一瞬、混乱を生ませる。オレでも混乱するかもな。
そして、この爆発は目くらましの効果も兼ねている。だが、オレは攻撃はしない。
鎌鼬は水晶で視界が悪くなっている中、人影を捉えた。
だから、ラインの攻撃によって集中力を乱されたことで持続が困難になった魔法の目標をその人影に変更した。
この『竜巻槍』は自身の名前を冠した『鎌鼬』級の効果力を誇る。
単純な火力という点では『鎌鼬』に劣るが、汎用性の点では『竜巻槍』の方が上手だ。
集中力の乱れによって短くなった『竜巻槍』を人影に合わせる。
寸分狂わず、人影を横に両断した。抵抗は感じたが、無理やり通した。
人影の上半分が、ゴトッと崩れ落ちた。
勝った。だが、その感情は即座に水を掛けられる。
「――オレが死んだとでも思ったか?」
『!?』
視界が徐々に戻ってくる。
ラインが魔力を徐々に解除しているのだ。
そして、霧の向こうにはかすり傷しか負っていないライン――【水晶使い】が立っていた。
オレは、念に念を入れ、『晶人形』を生成し、攻撃させようとしたのだ。
もちろん、高確率で『晶人形』は為す術なく破壊されるだろうと予想していた。
だが、オレとしては『竜巻槍』さえ消すことができればよかったのだ。
「さあ、第二ラウンドといこうぜ!」
次はチャージさせない。
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